その二 連れの交代
「ところで桜在」
光我は薄っすらと笑みを浮かべたまま、口を開いた。
「コイツにはもう殺らせたのか?」
光我の質問に桜在はさらりと答えた。
「あぁ、当たり前だ」
「へぇそうかい……おめぇの手も、もう汚れちまったんだな」
光我はそう言って、一瞬邪悪な表情を垣間見せた。
「…………」
よろずは無言で光我から視線を逸らした。
「桜在、俺たちはそいつに仲良く自己紹介をするためだけに、お前たちを待っていたわけじゃない」
そこで初めて、座朗が口を開いた。
そして、笠をさらに深く被るようにして右手をそえると、こう切り出した。
「お前にはこれから俺と一緒に、アイツのところへ行ってもらう。アイツが呼んでるぞ。それに俺はこの女を、奴に引き渡さなきゃならん」
桜在は地面に横たわっている女を見ると、少し間を置いてこう尋ねた。
「その女は『憑かれ人』なのか……。次にその女に憑いているアヤカシを憑依させるのは誰だ?」
座朗は相変わらず笠に手をやったまま答えた。
「この女に憑いているアヤカシの能力にもよるが、おそらく火丸かキサジだろう……。だが奴は気まぐれだから、どこにいるのかわからんからな。また姿を現さぬかもしれん」
「そうか……ならばよろずは当分先だな」
桜在はそうつぶやくと、よろずに向き直った。
「そういうことだ。よろず、これから少しの間、お前は光我と共に行動してもらう」
「はぁ?」
よろずと光我は同時に気の抜けた声を上げた。
「どういうことだ! 桜在さん?」
「オイ、んなことひとつも聞いてねぇぞ? 座朗!」
二人はそれぞれの相手に詰め寄った。
しかし座朗は鼻で笑ってこう言った。
「フン、お前らに拒否権などない。せいぜい仲良くするんだな」
「チッ、勝手なこと言いやがって……」
光我は顔をしかめて舌打ちした。
「ったく、冗談じゃねぇ」
よろずもぼそっと悪態をついた。
「まぁ、そう言わず聞け」
桜在はなだめるようにそう言いながら、懐に手を入れてまさぐった。
「お前たちには、やってもらうことがある」
桜在は二人の目の前で、ジャラリと古い鍵束を持ち上げた。
「なんだ? それは俺も聞いてないぞ。こんなガキ二人になにをやらせる気だ?」
座朗は訝しげにその鍵束を見つめた。
「大したことではない。これからお前たちには、天無城へ行ってもらう」
「天無城……?」
よろずは鍵束を見つめたまま首を傾げた。
「天無城っていやぁ、あの砂漠のどっかにあるっていう、もう使われてない古い城のことだろ? なんでそんなところに……?」
光我も口元に手をやって、考え込むようにつぶやいた。
桜在は話を続けた。
「その城のどこかに蔵がある。この鍵のどれかで、その蔵を開けられるはずだ。その蔵にある書物の中から、『この世界のはじまり』に関して書き記されたものを、捜し出して来い」
「桜在、コイツらに歴史の勉強でもさせる気か?」
座朗は、なんのためにそんなことをさせるのか、意味がわからないと言わんばかりにそう言った。
「座朗の言う通りだ。一体なんのために……」
光我も納得いかない様子だ。
「……それを、お前たちで見つけ出すのだ」
桜在は静かにただそう答えた。
「……桜在さん、あんた本当に変わった人だな」
よろずは桜在の言葉をしっかりと噛みしめるように、そうつぶやいた。
「どうもお前の考えていることは理解できんが……まぁいいだろう。新入りもいることだし、ガキ二人で憑かれ人やアヤカシを探すよりは、その方がいいかもしれんな」
座朗は理解できないまま、桜在に同意した。
「フン、まぁいいか。なかなか同い年の奴とっていう機会もねぇからな」
光我はそう言うと、桜在の手から鍵束をヒョイと掴み取った。
「用が済めば夜助をそっちへ寄越す。まぁ、天無城へ行くならば、俺たちの方が早く片付くだろうがな……」
桜在がそう言うと、座朗は彼の方へ向き直った。
「そろそろ行くぞ。空模様が怪しいからな……」
よろずと光我は顔を見合わせた。
「じゃあ、オレたちも行くか? まぁこれもなにかの縁ってことで、よろしく頼むぜ! よろず」
光我は鍵束をジャラつかせながら、ニッと歯を見せて笑った。
「あぁ、よろしくな」
よろずは仕方なく光我と共に、天無城へ向かうことにした。
(なんだかコイツは苦手だなぁ……)
よろずはこっそりと溜息をついた。




