その一 光我と座朗
あれから数日が経っていた。
よろずと桜在は、草木がうっそうと生い茂る森の中を歩いていた。
しばらく行くと、小さな岩山のある大きな開けた場所に出た。
二人がそのまま歩いて行くと、不意に岩山の上の方から声がした。
「よう、桜在! そいつか? 新入りってのは」
二人が岩山を見上げると、その上から一人の少年が飛び降りてきた。
続いて一人の女を抱えた男も。
少年とその男は同時に立ち上がった。
少年はよろずとほとんど歳が変わらないようだったが、だいぶ背が高い。
大きな凛々しい瞳で、紺の着物を着流しており、腰には刀と——海刃とはまた違った、大きな鎖鎌が巻きつけてあった。
もちろん、首元には紫檀色の襟巻がだらりと巻きつけてあり、穴を開けた左耳には、金の輪っかの耳飾りがついていた。
もう一人の男は、とても怪しい姿をしていた。
背丈は桜在ほどではないが、かなりの長身で、頭には深く笠を被り、例の襟巻を口元を隠すように巻いていた。
着物の上には、上半身を隠すように外套をまとい、腰には刀、背には身の丈ほどもある大太刀を背負っていた。
笠の隙間から窺える顔は、左目にかけて大きな長い切り傷の跡がある。
その男が縛り上げて肩に担いでいた中年の女は、今は地面に転がされていた。
その女は意識がないようだった。
「なんだ、オレと同い年って聞いたが、やけにちっせえな?」
少年はよろずを見て平然とそう言った。
悪気はないようだ。
「…………」
よろずは口元を引きつらせ、チラリと桜在を盗み見た。
(ったく、桜在さんと並んでると、余計目立っちまうじゃねぇかよ。 なんでよりによって、こんなでかい奴と……嫌がらせか? コノヤロー!)
よろずの心中を知ってか知らずか、桜在もチラリと彼に目をやった。
よろずは目が合ってしまい、慌てて向き直った。
「ま、とにかく自己紹介だ。オレは光我、こっちは座朗。よろしくな!」
光我はおおざっぱに自己紹介を済ませた。
「オレはよろずだ」
よろずは素っ気なくそれに応えた。
「へぇ……『よろず』か。おもしれー名だな……」
光我は意味あり気にニヤリと笑った。
一方その頃、小雨たちはここ数日曖昧な情報を頼りに旅を続けていた。
そして今は、周りを田畑に囲まれた細い小道を歩いていた。
「すみませ~ん!」
かずみは、田んぼで作業をしている一人の老婆に声をかけた。
老婆は手を止めて顔を上げ、快く応じてくれた。
「なにか用かね?」
「最近この辺りを、紫檀色の襟巻をした人が通りませんでしたか?」
かずみに代わって来華が尋ねた。
「あぁ、それならついさっき見たよ。小柄な男の子と背の高い男の二人組でね。あっちの森に入ってったよ」
老婆が小雨たちからして左手にある、自分のいる田んぼを挟んだ森を指差すと、みんなは一瞬にして目の色が変わった。
「つ、ついさっきって、どのくらい前だ?」
海刃が思わず身を乗り出して尋ねると、老婆は少し狼狽えながら答えた。
「ど、どのくらいって、本当についさっきだよ。数分ぐらい前だったと思うが……?」
「本当か!」
かずみは声を高ぶらせた。
「近いぞ!」
海刃も拳をグッと力強く握りしめた。
「お婆さん! その人たちは、そこの道を行ったんですか?」
小雨は珍しく大きな声で、勢い勇んでそう尋ねた。
「あ、あぁ。そうだよ」
老婆は田んぼの前の細道を見てうなずいた。
そこは深い森へ続いている。
「ありがとう! お婆さん!」
小雨の一言でみんなお礼もそこそこに、その道へと大急ぎで駆け出した。
「ちょ、ちょっと待ちなよ! その森には恐ろしいアヤカシが出るって噂があるんだよ! やめときなって!」
老婆は必死に止めたが、
「ご忠告ありがとうございます! でも、私たちには、やらなきゃならないことがあるんです! だから、行かなくちゃ……」
とかずみの言葉だけが老婆に返り、みんなはあっという間に暗い森へ引き込まれていった。
「はて……そのやらなきゃならないことっていうのは、命より大切なことなのかねぇ……」
老婆は不安げにそうつぶやき、みんなを見送った。




