前編 亡者の導き
「いやぁ、夜の内に雨がやんでよかったなぁ!」
海刃は歩きながら、不自然なほど元気に声を張り上げた。
五人は柳の里を後にし、先へと道を進んでいた。
「ほ、本当だね!」
小雨も無理に笑顔を取り繕う。
三人はあえて、昨日の話について触れなかった。
「にしても人気がないなぁ。本当に奴らはこの道を行ったの?」
来華は辺りを見回した。
「聞いた話ではこっちのはずだ」
影利は淡々とそう答えた。
他愛のない話をしながら一行は長い間歩いた末、とある山のふもと近くの森まで辿り着いていた。
辺りは夕暮れのように薄暗い。
「ちょっと待て」
不意に影利が一歩前に進み出て、みんなを制した。
「なんだ?」
海刃が首を傾げる。
「?」
小雨とかずみも、不思議そうに顔を見合わせた。
来華だけはなにかを察したように、じっと辺りに目を凝らした。
影利は刀の柄にそっと手を触れた。
——ガサ ガサ ガサ
なにかが茂みを掻き分けるような音がする。
影利以外もはっとして、それぞれの武器に手をやった。
——ガサッ
「なに?」
小雨は茂みから出て来た物に驚いて声を上げた。
そこには薄汚い格好をして、白髪をボサボサに伸ばした老婆が立っていた。
「……どうしたんですか~?」
かずみは老婆に警戒しながら呼びかけた。
なにか変だ……。
老婆はゆっくりと顔を上げた。
「な、なんだぁ! コイツ?」
海刃は度肝を抜かれて一歩退いた。
老婆には、眼球がなかった。
そこにはポッカリと、二つの穴が開いているだけだった。
「アヤカシか?」
影利は刀に手をやったまま、異様な老婆の姿を見据えた。
すると、老婆はよろりと向きを変えると、おぼつかない足取りで歩き出した。
影利は少し考えるように口元に手をやると、その後を歩き出した。
「えっ! 行くの?」
小雨はキョロキョロとみんなを見回した後、影利に続いた。
他の者もその後に続く。
不意に薄暗い森を抜けた。
そこで老婆は急に固まってしまった。
「?」
みんなも立ち止まり、老婆を見つめた。
すると、突然老婆の身体が異常に震え出し、次の瞬間——
「うわぁ! な、なんだ?」
みんなは口々に声を上げた。
老婆の頭が爆発したように、飛び散ってしまったのだ。
後にはどさりと、頭のない身体だけがその場にくずおれた。
「一体、なにが起きたっていうの?」
来華は青ざめた顔で、残された老婆の身体を見つめた。
「ね、ねぇ、なんか村みたいなのがあるよ?」
小雨は戸惑いながらも前方を指差した。
「本当だ。コイツに気を取られて気づかなかったなぁ」
かずみはポカンと口を開けた。
「もしかすると、この老婆が俺たちを導いたのかもしれない……。単なる推測だが……」
影利が考え込むように、再び口元に手をやってつぶやくと、みんなは無言で老婆に目を向けた。
かずみが最初に一歩踏み出した。
「小さな村だな。それに全く人の気配がないぞ?」
かずみは先頭に立って歩きながらそうつぶやいた。
少しずつ村に近づいて行く。
「っな、なに? これ?」
小雨が悲鳴に近い声で叫んだ。
血の海だ……。
「どうなってんだよ?」
海刃は血相を変えて走り出した。
かずみも息を呑んで、闇雲に周りの家の戸を開けだした。
「誰か! オイ、生きてる奴はいねーのかよ!」
海刃は一軒残らず家を確認し、大声を張り上げた。
確認するのにそう時間は必要なかった。
村には十数軒しか家がないからだ。
小雨は青ざめて立ちすくんでいる。
「無駄だ。誰も生きてはいない。言っただろう……奴らはそういう奴だ」
影利は悔しげに顔をしかめた。
「なんのこと?」
かずみは動揺しながら震える声で問いかけた。
「アイツらだ……」
来華は憎々しげに眉を吊り上げた。
すると、
「違う!」
と小雨が感情的に声を上げた。
せっかくの雨上がりの空が、また雲に覆われ始めた。
「小雨……」
かずみが小雨に声をかけようとすると、
「なにが違うってのよ」
と来華が怒りを露わにしながら、そうつぶやいた。
「よろずはっ……こんなことしない!」
小雨は頭を両手で抱え込んでそう叫んだ。
「気の毒だけど、これが真実なんだよ。どんなに否定しても、もうあんたの信じてる、その『よろず』とかいう奴は自分の手で人を——」
来華の冷静な反論を遮り、小雨は必死にただただ否定を繰り返した。
「違う! 違うよ! そんなわけない……こんなの——」
「ギャーギャーうるさいんだよ! いい加減真実を受け入れなよ! あたしの言うことが嘘ってんなら、この目の前の光景はなに? 往生際が悪いんだよ!」
今度は来華がそう怒鳴って、小雨の言葉を遮った。
「ちょっ、お前! そんな言い方ないだろ?」
かずみは来華に食ってかかった。
「うっさいなぁ。いつまでも受け入れないから、現実を教えてあげてんでしょ?」
来華も負けじと言い返す。
「お前、感じ悪いよ!」
かずみは来華を睨みつける。
「あんた——」
来華の言葉は違う声に遮られた。
「やめろって!」
海刃がたまりかねて制したのだ。
「喧嘩なんかしたって仕方ねーだろ!」
それでもなおかつ口を開こうとする来華とかずみを、今度は影利が制した。
「いい加減にしろ! 死人の目の前で……」
「…………」
二人はやっと口を閉ざした。
「とりあえす、野宿できる場所を探そう……」
影利は静かにそう言うと、村の外へと歩き出した。
みんなも黙って後に続いた。
かずみは未だ、頭を抱え込み震えている小雨を、しっかりと支えて歩いた……。




