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その二 向けられた刃

「なんで里を出たんだ?」


 海刃の問いに、よろずは冷たく笑って答える。


「小雨にも言ったけどな、おめぇらには関係ねぇ」


「……もう、戻る気はねぇのか?」


 唇を噛みしめる彼に、よろずは相変わらず冷たい笑みを浮かべたまま、さらりと言って退けた。


「ああ、少しも」


 海刃が鎖鎌に手を伸ばす。


「なら、力尽くで連れ戻してやる」


 よろずも腰の刀に手をやった。


「おめぇにできんのかよ?」



 

 来華は激しい憎悪の色を浮かべて、桜在を睨みつけていた。

 そんな彼女を見て桜在がつぶやく。


「復讐か……」


 来華は背にある二本の刀に手を伸ばした。


「あんただけは許さない……」




 

 全員は一斉に、それぞれの武器を手に身構えた。

 そして、それぞれの相手に勢いよく向かっていった。



 

 ——悲しい戦いが始まった……。



 

 光我は鎖鎌を振り回しながら、影利に向かっていった。


 ——ギィイィン!


 鋭い金属の擦れ合う音。

 影利は上手く、光我の二つの鎖鎌を刀で払い除ける。

 光我は素早く彼の刀から逃れ、後ろへ飛び退いた。

 そしてまた互いにぶつかり合う。

 

 お互い一歩も引かず、互角の戦いが続いた。


「くそ!」


 光我はなかなか攻撃が当らないことを歯がゆく感じ、悪態をついて、勢いよく鎌を影利に放った。

 しかしそれも簡単に払われ、距離を詰められた光我は、腹を強く拳で突かれた。


「っぐ!」


 呻き声を上げ、腹を押さえつつ影利から退く。


「お前、どうやってその武器を扱えるようになったんだ?」


 光我は息を切らしながら答える。


「どうだっていいだろ……」


「昔は、剣術もまともにできなかったのにな……」


 彼の言葉に光我はキッと顔を上げ、再び鎖鎌を振り回しながら向かっていく。


「いつまでも、兄貴面してんじゃねぇ!」


 影利は怯むことなくひらりと鎌を避け、彼の目の前で素早く刀を振った。


 その刃が僅かに光我の顔を掠め、彼の頬からじわりと血が流れ出た。

 影利が真っ直ぐと、光我に刀を突きつける。

 光我は目を見開いたまま固まっていた。


(なんで敵わねぇんだ……。やっぱり、このままのオレじゃダメなのか……?)


 影利は刀を突きつけたまま、悲しげに弟の名を呼んだ。


「光我……」


 二人が向き合って立っている姿は、悲しいほどよく似ていた。

 誰が見ても兄(・)弟(・)だとわかるほどに……。


 光我はガックリと膝をついた。


「なんで……なんでだよ……おめぇがオレを追いかけて来たら、オレがここにいる意味がねぇじゃねぇか……」


 光我は両手で頭を抱え込み、震えながらぶつぶつとなにやらつぶやいている。


「どういうことだ?」


 影利が刀を下ろし、眉を潜めた。


 そのとき、大きな岩に背をもたれて、傍観していた座朗が口を開いた。


「何故力を使わんのだ……。そのままのお前では、なにもできまい。自分の力を知れ。そのままのお前は、ただ無様で無力なだけだ……」


 光我は僅かにその言葉に反応を示す。

 すると、彼の周りを怪しげな風が、ヒュンヒュンと音を立てながら取り巻き始めたのだ。


 影利ははっとして一歩退いた。

 光我がゆらりと立ち上がって、顔を上げる。

 その顔は恐ろしい獣のような形相になっていた。

 目は鋭く、怪しげに赤くギラリと光る。

 光我はニィッと不気味に笑った。


「……オレは夜代に入ってすぐ、この鎌(・)鼬(・)の力を手に入れた……。だからコイツ(この鎖鎌)はオレにしか扱えねぇんだ!」


 そう言い終わると、光我は風をも切り裂くように勢いよく影利へと突っ込んでいった。


 座朗はそれを見て、フッと冷酷な笑みを浮かべる。


「……そうだ。それでいい……」


 影利はなんとか鎖鎌を食い止めた。

 しかし、光我を取り巻く風が、影利の身体を鋭く切り刻む。


「っ!」


 影利は傷だらけになりながら、慌てて風から逃れた。

 思っていたより色んな箇所を切られており、傷は深い。

 切られたときに痛みはないが、傷は深く、それに気づいたときに激しい痛みが襲ってくる。


「目を覚ませ! 光我!」


 影利の必死な叫びは、完全に彼の耳には届いていない。

 光我は容赦なく影利に向かっていく。


「うあ!」


 影利は風につけられた傷の痛みに、呻き声を上げた。

 彼の腕に光我の鎖鎌が巻きつき、影利はそのまま強く引き寄せられる。

 光我は影利の胸座を掴み、冷たく笑った。


「オレなんかをのこのこ追いかけて来るから、こうなんだよ。オレなんか忘れて、一人で幸せに暮らしてりゃあ良かったのによ?」


 しかし影利はしっかりと弟の手首を掴み、その目を見て苦しげに口を開いた。


「お前は——俺の——弟だ……。唯一の家族——なんだ。お前がいないと、意味がない——」


 光我の顔から冷たい笑いが消え、その顔が歪む。

 座朗は笠を僅かに持ち上げて声をかけた。


「どうした……。さっさと殺れ」


 光我はギュッと鎌を握りしめて振り上げた。

 しかし、それを中々振り下ろそうとはしない……。


「できんのか……」


 座朗が追い打ちをかける。

 光我は固く目を閉じ、ついにその鎌を力一杯振り下ろした。



 

「——っ」



 

 しかし、光我の鎌は影利から大きく逸れ、地面に突き刺さっていた。

 光我は影利を掴んでいた手を放した。

 影利は茫然としたまま地面に膝をつく。


「——ほんと、なんで、オレなんかのところに来たんだよぉ!」


 光我は両手で顔を覆うようにして、空に向かってわめいた。

 彼は元の姿に戻っていた。


「……光——」


 影利が弟に呼びかけようとしたとき、再び座朗の声がした。


「やはりお前は甘すぎる」


 その声は、冷酷さ以外なにも感じられない。

 光我が座朗の方へ顔を向けたときには、既に彼が刀を抜いて自分に斬りかかろうとする瞬間だった。



 

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