その一 対面
よろずと光我は、あれから長い道のりを歩いて、ちょうど夜助の伝言通り、二週間が過ぎた今日の正午近く、もうすぐ黒竜山のふもとへと到着しようしていた。
「アイツら、もう着いてんだろうな」
光我は急ぐ様子もなく、歩きながらつぶやく。
よろずはチラリと光我に視線を向けた。
「もうすぐ、おめぇともお別れだな」
すると、光我はニヤッと笑ってよろずを見た。
「なんだぁ? 寂しいってか?」
「誰が寂しいかよ! でも、ただ、最初はおめぇみてぇな奴となんて、冗談じゃねぇと思ったけどよ……結構楽しかったぞ」
よろずはつっけんどんにそう言うと、パッと光我から顔を背けた。
「っ……!」
光我はこういうときになんと言うべきなのかわからず、顔を赤くして口をパクパクとさせている。
そして、なんとかぎこちなく言葉を返した。
「オ、オレも案外楽しかったけどよ……お、おめぇ、んなこと言ってっと余計可愛いってバカにされんぞ? チビ!」
よろずはぐるりと光我に顔を向けると、強烈な拳を一撃腹に食らわせた。
「ってめぇ、最後の最後までふざけたこと言いやがって!」
光我も腹を押さえながら怒鳴る。
「いって! てめぇこそ相変わらず乱暴な奴だな!」
こうして二人は、最後の最後まで喧嘩をしながら歩いていた。
正午を少し過ぎた頃には、黒竜山のふもとがすぐ近くに見えてきた。
黒竜山を越えるには、この大きく険しい一本道しかないので、迷うことはない。
二人は黒竜山のふもとにある、大きな一つの岩の近くで足を止めた。
「待っていたぞ」
岩の陰から桜在と、続いて座朗が現れる。
桜在はよろずを見下ろして、早速問いかけた。
「書物は見つかったか?」
「ああ、ここにあるぞ」
よろずは自分の懐から書物を取り出して、桜在に手渡した。
「ご苦労だった。……他に、なにか気づいたことはあるか?」
桜在は彼を見つめて、謎めいたことを尋ねてくる。
「? 他に気づいたことって、なんだ?」
首を傾げる彼を見て、桜在は僅かに視線を落とす。
「いや、わからなかったのならいい……」
座朗は相変わらず笠に手をやると、低い声でこう言った。
「そろそろお別れだ、桜在」
桜在は座朗に目を向けてうなずく。
「ああ」
光我とよろずの視線がぶつかる。
光我は目を泳がせて頭を掻くと、ぎこちなく口を開いた。
「……じゃあな、よろず」
よろずは僅かに微笑んで別れを告げた。
「ああ、またな、光我」
そうして、四人がそれぞれ背を向けたときだった——
「やっと追いついたぞ、お前ら!」
かずみの力強い声と共に、小雨たちが木立の中から姿を現した。
よろずはグッと奥歯を噛みしめる。
「お前ら……」
光我は困惑した表情を浮かべ、顔をしかめた。
「……っなんで、てめぇがここに……」
影利は厳しい表情で弟を見つめている。
来華は桜在をギロリと睨みつけた。
「やっと見つけた……」
「…………」
桜在は表情ひとつ変えることなく、彼女に顔を向けた。
小雨が真っ直ぐと、よろずと視線を合わせる。
かずみと海刃も同じだった。
よろずは無表情で三人を見つめ返す。
海刃が口を開いた。
「今度は、お前に負けるわけにはいかねぇな」
小雨たちは、それぞれが追い求めていた相手と向かい合った。
光我は引きつった顔でニヤリと笑う。
「てめぇが、今更オレになんの用があるってんだ?」
影利は落ち着いたまま口を開く。
「お前こそ、何故急にいなくなったんだ?」
光我はフンと鼻で笑って、吐き捨てる。
「てめぇには関係ねぇ!」
影利は刀に手をやりながら、じっと彼を見据えた。
「それなら口を割らせてやる」
光我も鎖鎌を手に持って叫んだ。
「オレはもう、てめぇの弟なんかじゃねぇんだよぉ!」
海刃は、小雨とかずみを振り返ると口を開いた。
「お前らは向こうで、大人しくしていてくれ」
「なに言ってんだ! なんで私たちだけ——」
かずみが必死にそう言うのを、海刃が遮る。
「頼む。おれにやらせてくれ……」
小雨はそれでも、居ても立ってもいられない様子だ。
「っでも!」
今度はかずみがそれを遮った。
「海刃に任せよう」
「かずみ……」
かずみは真っ直ぐと彼の背を見ている。
「アイツがあそこまで言うんだ。アイツにもアイツなりの意地があるんだろ……。それに、お前ももうわかってんだろ? 話し合いだけじゃ済まないってな」




