その六 かずみと海刃
その日アタシは、よろずと一人の少年が、刀の稽古でやり合ってるのを座って見物していた。
アタシの思った通り、いや、それ以上によろずはこの道場の中でもかなり強かった。
道場に通い出して、それはますます伸びていた。
この道場は、主に退治屋を育てる場所で、基本は剣術。
それがある程度できるようになったら、個人それぞれに適応した武器を使わせてもらえるようになる。
寮生でなくとも、お金がなくて貧しい子であれば、道場に入って力をつけ、寮生と同じく退治屋として働けるようになったら、そのとき稼いだお金で、少しずつお金を納められるようになっている。
そうこうしているうちに、よろずは早くも相手の少年の木刀を払い除け、自分の木刀を突き付けて勝負をつけていた。
「っくそぉ、お前やるなぁ」
少年は座り込んだままよろずを見上げた。
よろずは軽く笑って木刀を下ろした。
少年はよいしょと立ち上がり、よろずを見つめた。
「お前強いよなぁ。可愛い顔してんのによぉ」
少年の言葉に、アタシは思わずあっと小さく声を上げていた。
予想通り、よろずは顔を引きつらせ、赤くなりながら怒鳴っていた。
「——っな? てめぇ、ぶった斬るぞ!」
しかし少年は、きょとんとしてこう言った。
「えっ? 木刀で?」
「…………」
(ぁあぁ、どうしよぉ!)
アタシは、あの少年が地雷を踏んでしまったのがわかり、そわそわと見守っていた。
「えっ? どうかし——ヒイィイィイ!」
「よろず!」
少年の悲鳴にアタシは慌てて立ち上がりかけたが、隣に誰かが座ったのに気づいて横を見た。
そこには一人の少女が腰掛けて、よろずとその少年を眺めていた。
「アイツ強いな!」
少女はアタシに話しかけてきた。
「へっ? うぅ、うん!」
アタシはよろずを止めに行くのは諦めて、座り直した。
(わぁ、よろず以外の子に話しかけられるの、初めてだよ!)
「いっつもアイツといるけど、友達なのか?」
「う、うん! よろずっていうんだよ!」
アタシは緊張気味に答えた。
「へぇ、変わった名前だな。今、よろずに木刀で突き回されてる奴は海刃っていうんだ。私の幼馴染で、あっ、そういえば、私はかずみっていうんだ。よろしくな!」
かずみはそう言って、アタシに手を差し伸べてきた。
(わぁ、これって友達……?)
アタシは嬉しくって、かずみの手をギュッと握って自己紹介をした。
「よ、よろしく! アタシは小雨だよ!」
よろずと海刃が走り回っているのを他所に、アタシたちはお互いににっこりと微笑んだ。
「わわ、悪かったって! もう許してえぇ~」
こうして、アタシたちは四人になった。
それから約四年が経った。
よろずは商店街の中の小さな甘味処で一人、椅子に腰かけ、みたらし団子食べながらお茶をすすっていた。
よろずは相変わらず大きな瞳で、背が昔より伸びただけでそんなに変わってはいなかった。
それでもちょっとは頼もしくなっていた。
「よろず~!」
海刃がよろずを見つけて走って来た。
「おぅ、海刃」
よろずは団子を手に持ったまま、海刃を見上げた。
海刃はよろずと比べたら、だいぶ背が高くなったように見えた。
「お、美味そうなもん食べてんな!」
海刃はそう言うと、もう一本皿に乗っているみたらし団子に手を伸ばした。
よろずはすかさずピシャリと手を払うと、すっと手の平を海刃に差し出した。
「金」
「ケッ、なんだよ。一本くらい、いいじゃんか」
海刃は渋々財布を取り出し、よろずに金を渡すと団子にかじりついた。
「っるせぇ! オレは貧乏なんだよ!」
「はいはい」
立ったまま、海刃はあっという間に団子を食べ終わると、よろずに向き直った。
「って、こんなことしに来たわけじゃなかった。オイ、そろそろ集合時間だろ?」
よろずは団子を飲み込むと、慌てて立ち上がった。
「いけねー。そうだったな!」
二人は商店街を早足で歩き出した。
よろずはふと海刃の視線に気づき、彼を見返した。
「ん? どうかしたか?」
「いや~、お前背伸びてねぇなぁと思ってよ」
たちまち、よろずの表情が険しくなった。
「ぁあん? これでも伸びてんだよ! 小雨よりかは随分高いぞ!」
海刃は相変わらず空気が読めない(いや、わざとかもしれない)ようで、さらりとこう言った。
「そうかぁ? まぁ小雨は一番ちっせぇから。おれから見たら、お前、だいぶおれと差があるように見えるぅ——!」
海刃の言葉が終わらないうちに、彼のみぞおちに、よろずの強烈な拳の一撃が加わった。
背丈は海刃の方が上だとしても、相変わらずよろずの方が武力には長けていたし、人間関係という立場からも何故かよろずの方が上だった……。
「またやってんのか! お前ら」
そのとき、ちょうどアタシとかずみが二人に出くわした。
「おぅ、小雨、かずみ!」
よろずは海刃を放ってアタシたちに歩み寄った。
よろずはかずみより少し高いくらいの背丈だったけど、アタシとかずみの背にはだいぶ差があったので、アタシから見たらよろずはかなり大きくなったように見えた。
「な、なに話してたの?」
アタシは腹を押さえる海刃を見ながら、よろずに尋ねた。
「なんでもねぇ」
よろずはさらりとそれを受け流した。
「うっ、腹が……」
「そんなことより、次の仕事の打ち合わせだ!」
かずみは海刃を無視して元気にそう言った。
「…………」
海刃は誰にも相手にされず、独りで苦笑いをしていた。
アタシたちはこうして、毎日楽しく退治屋の仕事をしていた。
アタシはただ、こんな毎日が幸せだった。
でも、それもそう長くは続かなかった……。




