↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/37

その四 雨女

「許さない……」


 アタシは思わずそうつぶやいていた。


「なに?」


 男はアタシをじろりと睨んだ。


 ——ゴロゴロゴロ


 辺りが雷で一瞬明るくなった。

 その後で、ものすごい音と一緒に、近くの木立に雷が落ちた。

 激しい雨が降り出した。


「なんで、アタシたちが、殺されなきゃならないの……」


 アタシは次第に我を忘れていった。


「オレに会ったのが、お前らの運の尽きだ」


 男は薄ら笑いを浮かべながら、アタシたちが苦しむのを面白がるように言った。

 アタシはキッと顔を上げて怒鳴った。


「ふざけないで!」


 雨は一層激しさを増した。


「……小雨?」


 よろずはアタシの異変に気づいて、刀を突きつけられたままアタシを見つめた。

 男は不意に刀を引っ込め、


「うるせぇな。すぐにお前も黙らせてやるから、待ってろ!」


 と叫んで、よろずに向かって刀を振り下ろした。

 よろずはなんとか避けたが、横腹の傷の痛みに呻き声を上げた。


 アタシは雨乞いをするように、両手を広げて空を見上げた。


「!」


 男は手を止めて、不審そうにアタシを見た。

 少し雨が和らいだ。


「オイ、お前なにして……」


 男がアタシに近づいてきた。

 しかし、アタシが広げていた両手を祈るように、自分の胸元にギュッと強く押し当てた瞬間——



 

「ぎゃあぁあぁあ!」



 

 鋭い悲鳴が響き渡った。


 アタシが胸に手をやった瞬間、空から降る雨は何千何万もの無数の水の刃と化し、容赦なく男の身体に降り注いだのだった。



 

 ——血の雨が降った。



 

 男の身体はどさりとその場へ倒れ込んだ。

 よろずは驚いて固まったまま、ただその光景に、目を見開いていた。


「小雨……おめぇ……」


 よろずが掠れ声でそう言うのも、アタシの耳には入らず、アタシはその場にへたり込んだ。


(殺ってしまった……殺ってしまったんだ……)


 よろずはふらりと立ち上がって、我を忘れてへたり込んだままのアタシを、なんとか背負い上げた。

 そして、横腹の傷の痛みに耐えながら、森の中をアタシを背負ったまま、足を引きずるようにして歩き出した。


 よろずはとても苦しそうだった。

 横腹から血が滴り落ちて、歩いた後に点々と血が滲んだけど、すぐに雨が消し去ってしまった。



 

 なんとか自分の家に辿り着くと、よろずは家に一歩足を踏み入れた途端、ばったりとその場に倒れ込んだ。


「!」


 その衝撃でアタシはやっと我に返った。


「よろず!」


 アタシは急いでよろずの上から下りて抱き起こしたが、彼は目を瞑ったまま動かない。

 アタシは、できる限りの傷の手当てをして、日が変わってもよろずの看病をし続けた。


 雨はまだ降り続いていた。



 

 ——次の日の朝。


「……小雨」


 よろずはぼんやりと目を開け、アタシを呼んだ。


「よろず! 良かった……目覚めて……」


 アタシはよろずの顔を覗き込んで安心した。

 よろずはゆっくりと上半身を起こした。


「だめだよ! まだ寝てなくちゃ! お吸い物とか作ったから持ってくるね」


 アタシがそう言って背を向けたとき、よろずはアタシの着物の裾をグッと掴んだ。


「ど、どうしたの?」


 アタシはなにを聞かれるかわかるようで、よろずに背を向けたまま立ち止まった。


 昨日から雨はやまない。


「お前……雨女って本当だったんだな……?」


 よろずは静かに、アタシにそう問いかけた。


「…………」


 アタシは黙ったまま固まった。


「……オイ、小雨?」


 よろずはアタシの着物の裾を掴んだまま、声をかけた。


「……っご、ごめんね、よろず……っごめん!」


 アタシは耐え切れなくなって、そう叫ぶと、よろずの手を払い除け、雨の降りしきる外へと飛び出した。


「小雨!」


 よろずはアタシを追おうとしたけど、傷の痛みに呻き声を上げてうずくまった。

 それでもアタシは振り返りもせず、めちゃくちゃに走り続けた。


 雨に濡れ、跳ねた泥にまみれながら、走って走って走り続けた。


 気がつくと、初めてよろずと出逢った、海を見渡せる崖に辿り着いていた。

 アタシはその崖の上に、がっくりと座り込んだ。

 そして誰もいないのをいいことに、アタシは独り、声を上げて泣きじゃくった……。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。