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その三 理不尽な悪意

 そうしてアタシとよろずは、毎日のように会うようになった。


 よろずの家に行ったり、アタシの家によろずを招いたりもした。

 また、お互いの家に泊まったりもした。

 二人とも家族がいないから、誰も咎める人はいなかった。


 よろずの家は、森の少し奥にある簡素で小さな家だった。

 それでも思ったよりは綺麗で、よろずは結構まめに掃除してるみたいだった。

 少し近場に川もあるので、生活には割と便利そうだった。


 アタシは毎日が楽しくて楽しくてしょうがなかった。



 

 そんなある日……。


 アタシがよろずに会いに行こうと家を出ると、ちょうど近所のおばさんが尋ねて来た。

 おばさんは少し大きめな体型で背に籠を背負って、いつものように、アタシに食料を分けに来てくれた。


「あら、小雨ちゃん。どこか出かけるのかい?」


 おばさんは、人の良さそうな笑顔でそう言った。


「あっ、おばさん! いつもありがとう。うん、ちょっと友(・)達(・)のところに……」


 アタシが少し照れくさそうにそう言うと、おばさんはにっこりと笑った。


「あら~。友達できたのね! 良かったじゃないか!」


 アタシもにっこりと笑い返した。


「それで、どこに住んでる子なんだい?」


「え、えと……海の方の森の少し奥に……」


 アタシがモゴモゴとそう答えると、おばさんは少し心配そうな顔をした。


「森? 最近森には、盗賊なんかが出るらしいから、気をつけるんだよ?」


「う、うん……わかった」


 アタシも少し不安になりながら、うなずいた。



 

 アタシはいつもよりやや早足で森を抜け、海岸へ下りた。

 少し向こうによろずがしゃがみ込んで、砂浜をいじっているのを見つけて、アタシは駆け寄った。


「よろず!」


 アタシの声によろずはパッと顔を上げると、嬉しそうに笑って立ち上がった。


「来たか、小雨! 今日は確かオレの家に行く予定だったな」


「うん!」


 アタシはよろずの声を聞いてほっとし、盗賊のことなんかすっかり忘れてしまっていた。



 

 アタシとよろずは二人並んで、彼の家へと森の中を話しながら歩いていた。


「そういえば、さっき砂浜でなにしてたの?」


「あぁ、貝殻探してたんだ。あの砂浜には綺麗な貝殻がいっぱいあんだよ。たまに貝殻以外のおもしれぇもんも、流れ着いてたりするけどな!」


「へぇ~」


「っあ! そういえばさっき砂浜で……」


 そう言って、よろずが懐をまさぐり出したときだった……。



 

 ——ガサガサ



 

「なんだ?」


 怪しい音に、よろずとアタシはその場で固まった。

 よろずは辺りに目を凝らした。


 ——すると


 茂みを掻き分けて、一人の汚い身なりの男が目の前に現れた。

 アタシはそのとき、やっと盗賊の話を思い出していた。


「なんだ、ガキ二人か」


 男は、アタシたちを見下すような口調で、そうつぶやいた。

 よろずはアタシを庇うように後ろへやると、警戒して刀に手をやった。

 男はゆっくりとアタシたちに近づいてきた。


「まぁ、ちょうどいい。むしゃくしゃしてたところだ。おめぇらを斬らせてもらおうか」


 男は邪悪な笑みを浮かべて、腰の刀をスラリと抜いた。


「小雨、下がってろ」


「えっ?」


 よろずは自分には長過ぎる刀をサッと抜いた。

 それとほぼ同時に、男はよろずに斬りかかってきた。



 

 ——ギィイン



 

 よろずはなんとか、それを刀で受け止めた。


「よろず!」


 アタシはそう叫びながらも、見守ることしかできなかった。


「へ、ガキのくせにやるじゃねぇか。それでこそ斬り甲斐があるってもんだ!」


 男は声を張り上げて刀にグッと力を込めた。

 よろずは耐え切れず、男の刀から逃れるためにザッと後ろへ引いた。

 男は間髪入れずによろずに斬りかかった。


 激しい斬り合いが続いた。

 よろずは長過ぎるはずの刀を、驚くほど器用に使いこなしていた。

 しかしいくら刀を使いこなせても、相手は大人の男。

 どう見ても不利だ。


 よろずの刀が僅かに男の腕をかすめた。

 男の腕からじわりと血が染み出た。


「——っ! こんのクソガキがぁ!」


 男はそれにいきりたって、激しく刀を振り回した。

 その刀がよろずの横腹を斬りつけた。


「っ!」


 よろずが痛みに怯んだ瞬間、男は彼を思い切り蹴飛ばした。


「よろず!」


 アタシは怖くてどうしようもできずに、悲鳴を上げた。

 よろずは痛みに耐えながら必死に起き上がろうともがいたが、男に足で踏みつけられてしまった。

 男はニヤニヤと笑いながら足を離すと、よろずに刀を突きつけた。

 よろずはそれでも、ギッと男を睨みつけた。

 その目は憎悪に溢れていた。


「フン、気丈なガキだ。さぁ、どっから斬りつけてやろうか……?」


 アタシは震える足をなんとか動かし、男に突進していった。


「やめてぇ!」


 しかし、アタシはまるで小石のように、いとも簡単にその男の足に蹴り飛ばされた。


「——小雨っ! なにしてんだ! さっさと逃げっ——うっ!」


 よろずの叫び声は、男の蹴りによって呻き声に変わった。

 

「うるせぇぞ! そうか、お前もいるんだったな。まぁいい。コイツを目の前で切り刻んだ後、お前をやってやろう」


 そう言いながらニヤニヤと笑っている男に、アタシは堪らなく憎しみを覚えた。


 ——空を黒い雲が覆い出した。

 ゴロゴロと遠くから雷が鳴り出す。

 

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