↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/5

第三話 権力者たちと、金華の札束マウンティング

 神鳴(カミナリ)と御子柴烈風(ミコシバ レップウ)の圧倒的な勝利から数日、金華(ジンホァ)の御殿は文字通り聖徳太子の一万円札の山で埋め尽くされていた。「じい、歩くスペースがないぞ。太子の角が足の裏に刺さって痛いのじゃ。やはり不労所得というのは、増えすぎると少しばかり邪魔になるものじゃな」「贅沢な悩みを言わないでください、姫様! これだけの額があれば、江戸の街が丸ごといくつか買えてしまいますよ!……おや、スマホに、江戸競馬統括委員会から緊急の呼び出し状が届いておりますぞ」じいが画面を示しながら顔を青くした。そこには「度重なる不当な大金賭博、および競馬界の秩序を乱す行為について、最高幹部会への出頭を命ず」と、いかめしい文字で書かれていた。「ふん、お堅いおじさんたちが、わらわの自由時間を邪魔しにきたか。面倒じゃが、放っておいて二度と競馬場に入れなくなると、可愛いお馬さんのコレクションが増やせぬ。じい、ポルシェを呼べ」「は、はい! しかし出頭するのに愛馬で行かれるのですか?」「違うわ。ポルシェを連れていくのではない、ポルシェを全熱交換機付きの超豪華特注馬車に繋いで、わらわは中で寝ていくのじゃ!」数時間後、競馬統括委員会の本部の前に、冷房が完璧に効いた室温ニ十四度のカプセル型馬車が横付けされた。そこから、絹の着物をだらしなく崩し、コーラの缶を持った金華が、あくびをしながら現れた。「お待たせ、おじさんたち。わらわの睡眠時間を奪った罪は重いぞ」



 本部の最上階、重厚な黒塗りの大広間。そこには、江戸の競馬界を裏で牛耳る五人の最高幹部。通称:五大血統老が、恐ろしい威圧感を放ちながら円卓に座っていた。「座れ、小娘。お前が最近、おつり用の豊臣秀吉の千円札や織田信長の五千円札を市場に溢れさせ、オッズの神聖なるシステムをハッキングしている金華だな」中央に座る髭の長い老人が、ドスの利いた声で言い放った。「お前がやっていることは競馬ではない。ただの金の暴力だ。我が国が何百年もかけて築き上げてきたギャンブル産業の伝統、そして神聖なる血統のドラマを、見た目が可愛いというだけの理由で踏みにじりおって」「そう思考する。お前のせいで、伝統ある血統の馬たちの価値が暴落しかけているのだ。これは重大な規約違反であり、最悪の場合、馬主資格の剥奪もあり得る」横の幹部が横文字を交えながら冷酷に告げる。大広間の空気は重く、並の馬主なら恐怖で膝をつくレベルであった。しかし、金華はふはっと鼻で笑うと、近くにあった高級な漆塗りの机に、自堕落に両足を投げ出した。「伝統?血統のドラマ?……笑わせるな。お主たちが守りたいのは、伝統などという綺麗な言葉ではなく、己の既得権益と、自分たちの思い通りに動く古臭いシステムだけではないか」「な、何だと……!? 無礼者!」「働くとは他人の夢を叶えること。わらわは己の不労所得と自由時間のためにここにいる。お主たちお堅い大人のつまらぬ夢に、なぜわらわが付き合わねばならぬのだ?」金華の目が、冷酷な捕食者のように鋭く光った。「わらわを剥奪するだと? やってみるがよい。ただし、わらわを敵に回すということがどういうことか、その安っぽい頭に叩き込んでやるわ。じい、あれ(・・)をやれ」



「は、はい! 姫様のご命令通りに!」



 じいが懐から、最新鋭の純金製電子端末を掲げ、ボタンを一つ押した。その瞬間、最高幹部たちの端末が一斉に、耳を劈くような警告音を鳴らし始めた。「な、なんだ!?我が統括委員会のメイン口座の残高が……増えている!?いや、これは……」「我が五大財閥の株が、一瞬にして買い占められていく……!?バカな、これほどの資金力が一時に動くはずが……」幹部たちが血相を変えて立ち上がる。画面に表示されていたのは、天文学的な桁数の聖徳太子の一万円札が、彼らの全資産を上から文字通り圧殺していくリアルタイムのグラフであった。「お主たちの言うギャンブル産業のシステムなど、わらわの資産の数パーセントを動かすだけで、いつでもストップ高にできるし、いつでも暴落させられる。……ほれ、現在のレートを見よ」がたがたと震え出した大人たちを、金華は極上のポテチを齧りながら、ゴミを見るような冷たい目で見下ろした。「血統だの伝統だの、そんな見えないものにしがみついて何になる? 可愛さ=速さだという現実が、見えない愚か者ども。わらわの愛する馬たちの美しさの前には、お主たちの積み上げてきた歴史など、ただの紙屑に過ぎぬのじゃ」最高幹部たちは、その圧倒的なマネーパワーの前に、言葉を失ってガタガタと震え出した。血統だの伝統だのという概念が、金華の圧倒的な不労所得という現実の前に、完全に粉砕された瞬間であった。「わらわはただ、可愛いお馬さんが走るのを見て、ゴロゴロしたいだけなのじゃ。それを邪魔するというなら、この江戸の競馬界ごと、丸ごと札束で買い叩いて、わらわのプライベートな庭園にしてやってもよいのだぞ?」金華は足を下ろすと、幹部たちの顔を一人一人見据えた。彼らはもはや、反論する気力すら残っていなかった。「話は終わりじゃ。二度とわらわの自由時間を邪魔するなよ……じい、帰るぞ。部屋の太子を少し片付けねば、本当に寝返りが打てん」「は、はい! 姫様、お見事でございました!」静まり返る大広間を後にし、金華は再び、ニ十四度に保たれた極上の馬車へと乗り込んだ。既存の権力すら札束でマウンティングし、ひれ伏せさせたニート姫。彼女の道楽は、いよいよ誰にも止められない領域へと突入していく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。