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ロイヴェリクの本懐  作者: ゆーとぴあ
第一章 外街編
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9/22

第9話 襲撃

 ジョエルの宣言を聞いてから一週間後のこと。

 今日も今日とて路地裏広場で勉強である。


 今の時間は昼近くで、太陽の明るい日差しが建物を越えて、広場にも入り込み始めていた。

 ルトリシアは暖かい日差しに眠気を誘われたのか、ベンチ近くの芝生の上に寝転び、うとうとと船を漕いでいた。


 アリサは俺が用意した計算問題に「むむむ」と首をひねっている。

 俺はというと、ジョエルとかいうおっさんのあの宣言が気になって考えていた。


『この街の意思であった俺を無理矢理退けたことは、もちろん覚えているだろうな! ロイヴェリクの女!』


『今に見ていろ、魔女め。グレームお前もな……。最後に笑うのは私だ!』


 ジョエルは、自分がこの街の意思であったと言っていた。

 意味がわからなかった俺は、近所のおばさんなどに話を聞いた。


 わかったのは、ジョエルはザックの父親であり、彼は十年前まではこの街の代表だったらしい。民衆から富を搾り取ろうとする屑だったらしく、市民からは相当不評を買っていたようだ。


 しかし、俺の母さんと父さんが街に来たことでジョエルは失墜したとのことだ。

 ここでも父さんの名前が出てきた。


 それからも『内街との戦い』とやらで大変だったようだが、今は母さんの為政で一時的に平和になったらしい。

 おばさん達が『平和になると余計なことを考えるやつが出てくる』と言っていた。


 まああんな性格のやつが、街の大変な状況に対して有効な手段を取れるとは思えない。指導者としては全く向いてないだろう。


 だから戦争が終わって平和になってから奴は顔を出してきたということか。


 まるで自分が街のトップに返り咲こうとしているかのようなあの台詞。

 もし本気でしようとしているのならば、中々危険人物だな。


 とにかく、何かを企んでいるのは確かだ。


「ちょっ、な、なに!? い、犬っ!? ちょっ、砂をかけるのはやめなさいって! ちょっ、の、野良犬がっ、アリサ~!」


 ルトリシアはいつの間にかいた野良犬に、砂を掛けられていた。突然起こされたルトリシアは涙目でアリサに助けを求めるが、アリサは呆れた表情で首を振った。


「どう見ても、からかわれてる」

「ええ!? ホントに、って、うっ、いや、ちょっ、まっ、っ~!!」

「はっはっはっ」


 ワンコは息を荒げて立ち上がりルトリシアに乗っかろうとする。

 なんかちょっと楽しそ――じゃなくて、そろそろ止めさせるか。


「おーい、わんころ~そろそろ――」

「おい、例のガキってのはこいつらか?」

「ええ、黒髪のガキに金髪二人。揃ってます」

「なんだ。タイミングがいいじゃないか」


 気づいたときには、広場の入り口の前に、フードを被った三人の男がいた。

 真ん中の男に付き従うように、両側に男がついている。


 それを見て俺は息を潜めた。

 男たちはどう見ても怪しかった。顔を隠していて、手袋もしている。


 背中には剣が見えた。皮の軽装を着けていて、かなり物騒な見た目だ。


 男たちがこんな所に来る理由……俺たち目当てしかない。


「おい、ガキども。ついてこい。痛めつけられたくなかったらな」


 男は乱暴な口調で言い放った。

 やっぱり俺たち目当てか。


 普通の子どもだったら、大人が威嚇してくるという恐怖で従ってもおかしくない。

 事実、ルトリシアとアリサは怯えている。

 だが残念。ここにいるのは普通の子どもではないんだなぁ。


「いやです」


 俺は一先ず時間を稼ぐためにそう言った。


「あ?」


 額に青筋を浮かべる真ん中の男。周りの男たちも苛立ったように眉を顰める。


「逆らえると思ってんのか?」

「ええ。あなたたちこそ、情報収集は十分でしたか?」


 男は首を傾げた。訝しんだ表情で仲間を見るが、仲間も同じく首を傾げている。


 俺たちを狙って襲うくらいだ。俺がロイヴェリク家の長男だということは知っているはずで、その上でこのタイミングを狙ったのだろう。


 男たちの視線が外れたタイミングで、背中に回した手から光魔法で空中に文字を書く。


『逃げるぞ。『光爆フラッシュ』を使う』

「……!」


 ルトリシアが息を飲んだのがわかった。しかし、躊躇している場合ではない。


「僕はロイヴェリク家の息子です。僕に手を出すことがどういうことかわかっているのでしょうか」

「当たり前だろ、クソガキが。じゃなきゃ、こんな陰気くさいところになんか来るかよ」

「では――」

「あーあー、やめだやめ。お前の考えてることはわかってんだ」


 男が俺の後方に目線をやる。


「どうせ逃げようとしてるんだろ? ったくよお。ガキはこれだから――」

「ルトリシアっ! アリサっ!」

「っ、ええ!」

「んっ!」

「『光爆フラッシュ』っ!」


 二人が顔を隠したのを背で感じながら、魔法を発動させる。

 『光爆フラッシュ』は強い光を放つ魔法で、強い魔法ではないが、不意打ちで敵の視界を奪うのにはもってこいだ。


「うぉっ!」


 男達が眩しさで顔を腕で塞いだ。

 視界が光に染まる中、顔を上げたアリサも魔法を発動させる。


「ん!」


 アリサが発動したのは初級魔法の『火球』。しかし初級とはいえ、何度も練習した技だ。

 火球は男に真っ直ぐに向かっていく。


「ちっ!」


 センターの男がアリサの火球を剣で受け止め、切り払った。


「むっ」


 不満そうなアリサだが、時間稼ぎにはなった。


「『風斬』!」


 男が剣を振った隙を狙って、男の足に風の刃を飛ばす。飛んでいった『風斬』は男の足を薄く切る。


「ぐっ、ガキのくせにっ! おい、お前らっ!!」


 男は痛みに顔をしかめると、二人の男に指示を出す。

 二人の男が前に出てくるが、先ほどとは違いその様子に油断は見られない。

 ちっ、様子見に時間を掛けすぎたか。


 身体強化を使えば、俺だけならそれなりの速度で逃げられる。しかし、二人はまだそこまでではない。

 慌てた表情の二人を見る。縋るように俺を見てくる。


 このままだと不味いな。上手く切り抜ける方法は……。

 俺一人で二人倒すか? いや、相手の技量がわからない。博打で死ぬのはごめんだ。


 俺は頭を回すが考えている内にも男たちは迫ってくる。


 仕方ない。やるか。


 俺は身体強化を使う。肉体に力が張るのを感じながら、思い出す。

 前世で散々やった動きを繰り返すだけ――。


 近づいてきた男がナイフを振りかぶった。

 俺はナイフをスレスレで避けると、男の内側に入る。


 男の驚く顔に向けて、軽く飛び、足を振った。


「ふっ!」


 足は高速で弧を描いて男の顎に当たる。

 ザッと軽く擦ったような音の後、一瞬の空白。


「がっ……」


 男はうめき声を漏らすと、橫に倒れた。

 一人目は終わり。


 俺は少し後ろにいた二人目の男に顔を向ける。

 そのまま身体強化をした足で飛び出し、男に近づく。


「な!? 何だこいつは、はやっ――」


 男が辛うじて振ってきた剣を肘で逸らす。

 男は革の装備をしているため、俺は拳に土魔法で硬質な石を纏わせた。

 そのまま、男の腹に拳を突っ込む。


「まずっ……が、は」


 男は白目を向いて声を漏らす。

 駄目押しでもう一発。


「『風爆』」


 腹にめり込んだ拳の先から風を爆発させる。

 男の身体が弾かれたように数メートル吹っ飛んだ。

 そのまま建物の壁に当たり、動かなくなる。


「よし」


 身体の動きは忘れていないようだ。

 今は魔法もあるから、かなり動きが良い。

 今の動きを採点していると、男が叫んだ。


「は、はぁ!? このっ、は? 何が、起きて」


 狼狽している男を見る。

 俺は首を傾げる。


「対人に慣れてないのか? よくそれで襲おうと思ったな」


 正直、思ったよりも弱い。

 暗殺を生業にしてそうな雰囲気だったから、警戒してしまったが、杞憂だったな。


「ちぃっ!」


 男は盛大に舌打ちをすると、焦った表情で何かの魔法を唱える。

 聞いたことのない詠唱だった。


 男の詠唱が終わると、男の身体が水に落ちるように地面に沈んだ。

 消えた? いや、あの動きは……。


 俺は男が消えた地面を見る。

 暗い影の部分が水面のように揺らいでいる。


 ふむ。逃げたか? いや――。


「バカがっ! これは知らなかったようだな!」


 後ろから声がした。振り返ると、男が急にルトリシアの後ろから浮上した。

 そのままルトリシアに手を伸ばす。


 ルトリシアは逃れようとするが、間に合わない。

 キモい戦術使いやがって。


 ここからでは普通の魔法では間に合わない。

 俺は一つ手札を切ることにする。

 オリジナル魔法――。


「『座標光』」


 俺が手を伸ばすと、直線上に俺の目にのみ見える光が現われた。

 その光の線は男の身体の橫まで伸びている。

 ルトリシアに男の手が届く前に俺は唱える。


「『炎槍ファイアランス』」


 中級魔法の『炎槍』を発動すると、炎でできた大きな槍が男の真横に出現した。


「なっ!」

「くたばれ」


 俺はそのまま『炎槍』を射出した。

 『炎槍』は炎を散らしながら男に向かうが、ぶつかる直前で男はナイフを間に差し込んだ。


「ぐっ!」


 男はナイフで『炎槍』を受け止めるが、勢いに押されて足で地面を擦りながら後ろへ滑る。

 器用だな。だが――。


「終わりだ。「『鋭石弾』」」


 ようやく止まった男の顔の橫に拳大の石を生成する。


「ちょ、まっ」


 そのまま弾丸のような速度で射出し、男の顎に当てた。

 男は首をぐらりと曲げ、白目をむいて倒れた。


「ふう……」


 どうにかなったな。

 俺は倒れた男達を見る。

 こいつらは何だったんだ?


 男たちを眺めていると、ローブの端から剣が見えた。

 よく見ると、剣の柄に模様が入っている。


 俺がもう少し近くで確認しようとしたそのときだった。


「クルト~、ここですか~?」


 母さんの声が聞こえてきた。なぜ母さんがここに?

 そう考えたとき、すでに昼をかなり過ぎていることに気づいた。昼飯の時間になっても広場に来ない俺たちに気づいた母さんが様子を見に来たのか。


「クルトー、返事をしてくださいー」


 のんびりとした声が聞こえる。


「母さん! こっち!」


 声を張ると、少しして路地から母さんが顔を出した。

 俺達の背後で倒れている男たちを見て目を細める。


「あらあら……何かありましたね?」

「えっと……なんか急に襲われて」


 経緯を話すと、母さんは頷いた。


「よくやりましたね。クルト。誇らしいです」


 母さんは俺の頭を撫でると、二人の方を見た。


「二人とも、大丈夫でしたか?」

「う、うん。クルトが倒してくれたから」

「ん。大丈夫だった」

「ならいいですが。何かあったらすぐに言ってくださいね」


 二人は頷いた。


 二人を無事に守れたのは良かった。

 もし、相手が強くて負けていたかと思うと少しヒヤッとする。


「えっと……ダフネ婆とお父さんを呼んだ方がいいかしら?」


 ルトリシアが倒れた男達を見てそう言った。


「その方が良さそうね。死なれるのも面倒だし、頼んでもいいかしら」


 俺が倒れた男の方を見ると、母さんがいつの間にか男の側にいた。

 脈を測ったり、様子を見たりしているが死んでないようだ。


 死なないように攻撃したとはいえ、早く治療を受けさせた方が良さそうだな。

 こいつらが何だったのかも知る必要がありそうだ。


 ルトリシアが二人を呼びに行って、しばらくするとダフネ婆とリカルドが来た。


「あんたたち、また無茶してっ! 怪我は無かったかい!」


 ダフネ婆が怒った様子で声を掛けてきた。


「ったく、あんたがついておきながら何やってんだい!」

「いたっ。す、すいません」


 俺はダフネ婆から頭にげんこつをもらう。なぜ……俺が倒したのに……。

 俺が痛みに頭を押さえていると、母さんが口を開いた。


「ダフネ、敵はクルトが倒しましたし、怪我が無かったことを喜ぶべきでは?」

「あんたねぇ……。はあ、まあそういうことにしておこうかね……」


 母さんの落ち着いた声にダフネ婆さんは呆れたようにため息をついた。

 離れたところでは、リカルドがルトリシアを抱きしめている。


「大丈夫だったかい? 怪我はない?」

「うん……大丈夫」


 涙目でリカルドに答えるルトリシア。

 危険な目に遭わせちゃったな。反省だ。


 ルトリシアが落ち着くと、リカルドが俺たちの方に来る。

 ルトリシアの父であり、自警団団長のリカルド。

 優男風のイケメンで、相変わらず父親とは思えないほど若く見える。


「クルト、彼らのことを教えてもらっていいかい?」

「えっと、それがですね……」


 俺は男たちの出現から発言内容、動きなど細かく伝える。


「……うん。確かに子どもたちを狙った犯行だろうね。しかし、誰が何のために……」


 リカルドは聞いた話から推測しているようだった。考え込んだ表情でリーダー格の男の服を探る。


「何か残っていないだろうか……っと、これは……」


 リカルドが取り出した短剣には何かのマークが掘られていた。母さんがリカルドの後ろから顔を覗かせる。


「あら、やっぱり。久しぶりですね。その紋章」

「……私はその頃はいなかったのですが、話によれば全員殺したはずでは?」

「残党がいたのか、それとも模倣犯か。どちらにせよ、面倒になってきましたね」


 母さんが憂鬱そうに手の平を頬に当てる。


「あんたたちっ! 探偵ごっこしてないでこいつらをさっさと運ぶよ!」

「おっと、すみません」


 ダフネ婆さんが声を張ると、リカルドが慌ててダフネの元に向かった。

 母さんはそのまま男のことをじっと見ていたが、少しすると顔を上げて俺たちの方に来た。

 そして近くでしゃがみ、俺たちに目線を合わせる。


「あんまり危ないことはしちゃだめよ。まだ二人は初級魔法くらいしか使えないのでしょう?」

「う、うん。ごめんなさい」

「はい……。ごめんなさい」

「……ごめんなさい」


 謝る俺たちに母さんは頷く。


「わかってるならいいのよ」


 母さんは俺の頭を撫でた。


「でも、やっぱり『彼』の息子ね。よくやったわ」


 母さんは立ち上がると、笑みを浮かべた。


「少し過ぎてしまったけどお昼にしましょうか。みんな、うちで食べるかしら?」

「はいはいっ! 行きます!」

「いく」


 思いのほかこの世界は物騒なのかもしれない。

 今回は二人を守れたが、場合によっては危なかった。

 力を付けないとな。


「なにぼーっとしてるのよ。行くわよ」


 ルトリシアが俺の手を引っ張る。


「っ、ああ」


 ルトリシアにつられて歩き出すと、後ろから「ちょ、代表っ! 一人くらい持ってくださいよ!」とリカルドの声が聞こえたが、まあ聞かなかったことにしよう。

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