第10話 失敗
「失敗しただと……?」
街の人が住まなくなった古い地区にある隠された地下室で、ジョエル・ゴルダンはある用紙を見て肩を震わせていた。
「ふざけるな! こんな結果ではあの方にどう説明すればいいというのだ!!」
ジョエルが喚き散らす先には一人のフードを深く被った男がいた。
腰に目立たない短剣を下げているが、抜く様子はない。
一見弱そうだ。しかし、ジョエルは相手がこんな風貌であっても侮れないことを知っていた。
しかし――今は別だ。失敗の責任は私には無く、やつらにあるのだから。
ジョエルの言葉を聞いた男は呆れたように肩を竦めた。
「我々としても遺憾ですね。彼らは特殊な魔法が使えた優秀な同志だった。ここで失った代償は大きいですよ、ジョエル」
「な、そ、それはお前たちの責任だろう。私の知ったことではない」
ジョエルは焦ったように首を横に振る。
フードの男はそれを見て、落ち着いた声でジョエルを諭した。
「それは通用しないのですよ、ジョエル。あなたには計画のための情報を集める義務がある。そして私たちは貴方の情報を元に力を貸している。今回はイレギュラーが起きたようですが、調べてみればそれすらも想定できたこと。もちろん、今回の件は報告させていただきますし、これが続くようなら……」
暗にほのめかすような口調で言う男にジョエルは冷や汗をかく。
ことの重要性を見誤っていた。なぜ今の今までで甘く見ていたのか。あの男が私に協力するのにも、もちろん旨みがあるからと思っていた。そしてそこには私が欠かせないと。
しかし、これでは私の立場が――。
ジョエルは自分が失敗したことに気づき、焦りを感じていた。
「わ、わかっている。しかし、私だけで行うにも限界がある。どうにか力を貸してもらえないだろうか」
下手に出たジョエルに、フードの男は隠れた口元をにやりと歪ませた。
「もちろんです。同志ジョエル。我々も失敗することは望んでいません……ですが、これ以上下手な犠牲を出すのも良くありません。なので、一つ提案があるのです」
「な、なんだ?」
「こんな作戦はどうでしょう?」
男は自ら持ってきた作戦をジョエルに話す。
作戦を聞き終わったとき、ジョエルは喜色を浮かべて納得した。
「それは素晴らしいアイデアだ! それに私好みでもある」
「でしょう? この方法で素早く貴方にはトップに立って頂き、我々と同盟を結ぶのです」
「良い! 良いぞ! こんな方法があったとは!」
ジョエルは興奮したように言った。
この方法ならすぐにあの女を下し、私が頂点に立つことができる。私好みの政治を使った方法でだ!
そんなジョエルの様子を見て、フードの男は嬉しそうに頷く。
「ええ、ええ。同士ジョエルならわかってくれると思っていました。では、この作戦でいきましょう」
「ああ、だがそれなりに人数が必要になるな」
「それはお任せください。こちらで用意しましょう」
「素晴らしい。貴様は本当に使えるな」
「ありがとうございます。では、後日使いのものを寄越しますので」
フードの男は一礼すると、先に地下室から出て行く。
ジョエルはそれを横目で見送ると、渡された作戦に関する書類を見つめる。
「これなら……全てが上手くいくぞ……!」
期待を膨らませるジョエルは、用紙の下部を見る。
そこには魔法『契約』のサインを記すための枠があり、その部分は未だ白紙のままだった。サインに関しての条件も用紙には記載されていて、ジョエルは注意深く読む。
「契約魔法で互いの条件の履行を確約すること……か。まあいいだろう。今回はあやつらの提案だ。失敗しても、私の責任は軽い。それにしても、あの男の支援には感謝が絶えんな」
そう言いながらもジョエルはにやつきを抑えられなかった。
「はははっ、最後には私に全て持って行かれるともしらず、馬鹿共が私に富を持ってくる。これほど面白いこともないな!」
ジョエルはギラギラした目で笑う。
そうだ。私は選ばれた者なのだ。この街を治めていた王だったのに、ロイヴェリクのせいで……!
思考が移るにつれ、ジョエルの顔に苛立ちが浮かぶ。
「私が全てを手に入れた後には……あの女も、ラルフのゴミも私が全て使い潰してやる。くくくっ、はははははっ」
ジョエルの脳内では既に街を治め、人々に傅かれている光景が浮かんでいた。




