第13話 来客
母さんが代表を下ろされてから少し経った。
その間、安全のためしばらく家の中で待機が続いていたが、その間に外はとても寒くなってきていた。
数日前に母さんの許可が下りたので、またアリサとルトリシアと集まるようになっていた。
今日も路地裏広場に三人で集まっている。
昨日、偶々一人で広場にいた俺のところにザックが何故か一人で来て、「どうだ? 俺の家の方が今は上だぞ!」みたいなことを言ってきたが、意味がわからなかったので「よかったじゃん!」って笑顔で言ったら悔しそうな顔をして逃げてった。
わけわからん。
まあそれはどうでもいいんだ。
母さんは未だに頻繁に外に出かけていて、何か動いているっぽい。
ジョエルが投票を行おうとしていた時も何もしなかったし、何か考えがあるっぽいが……。
早く日本に帰りたいし、こんなことで時間を潰している暇はないのだが。
と思いつつも、現状は日々修練を重ねている。
仕方ないけど、変化を待たざるを得ないときってあるよね。
諦めて広場で二人の勉強を見ていると、ルトリシアが俺のポケットに入っていたものに気づいた。
「なにそれ? 手紙?」
「ああ、これか?」
ポケットから紙を取り出して、広げる。
「なんか、ジョエルが悪巧みをしているみたいなんだよな」
広げた紙には、今朝メモをした内容が載っている。
朝、母さんの机の上にあった用紙の内容を軽くメモったのだ。
ルトリシアが紙を覗いてくる。
「ええと、ジョエルに、内街の……きぞく、とのないつうのうたがいあり? どういう意味かしら」
「まあ、簡単に言えば、ジョエルが悪い人たちと悪いことを考えていますってことだ。うちまちってのはわからんが」
「ジョエルってあのときのおじさんでしょ? ザックのお父さんの」
「だな」
そう。誰かに似ているかと思ったら、ジョエルはザックの父親だったのだ。
道理でそっくりなわけだよ。
「ふーん、悪そうな顔してるものね」
ルトリシアから辛辣な言葉な言葉が出た。まあ、そうなんだけれども。
「たぶん、ジョエルの家に何か証拠があると思うんだよなぁ」
内街というのは、壁の向こうの街らしい。そこと悪巧みをしているという今回の内容。
ジョエルの邸宅に、その証拠がある気がする。
家に無くても、何かヒントさえ見つかれば、母さんの代表復帰に役立ちそうなのだが。
俺がそう考えているのを二人に伝えると、二人は首をかしげた。
「よくわかんないけど、クルトのお母さんに聞いてみれば?」
「ん」
「うーん、なるほどな」
まあ確かに相談した方がいいか。
勝手に忍び込んでいいが、何かあったときに怖い。
とはいえ、この間襲われた事件があったばかりだ。
何事も確認を取るに越したことはないな。
犯罪の打診を親にするってのも、ちょっと凄いが。
それからはみんなで俺の家に移動して、庭の訓練場で軽い運動と魔法の練習を終えた。
汗ばんだ身体を拭いて家に入ると、暖かさにホッとする。少し前に母さんも帰ってきたため、部屋を暖めておいてくれたらしい。
「あ~~、中は暖かいわね~」
ルトリシアが暖炉近くのカーペットに座り込む。
暖炉には火が灯っているが、木材を燃やしているわけではなく、母さんが作った魔法の炎だ。
暖かい熱が部屋に広がっているが、苦しさは無い。炭素を燃やしているわけでは無いのだろうか。
暖炉近くで温まりながらそんなことを考えていると、ルトリシアが口を開いた。
「クルト、今日はどうするのかしら?」
「あ~、どうしようかな」
運動したばかりで机に向かって勉強する気分でもない。二人を見ると、暖炉の目の前で伸びている。
母さんは昼前なので料理中だ。
みんながこんな状態なので、とりあえず屋内でできることをするか。
「とりあえず、書斎にでも行くか」
「書斎なんてあるの?」
ルトリシアが目を丸くしている。
「ああ。いつもみんなに配ってる課題は書斎の本を参考にしてるんだよ」
「そうだったんだ」
ルトリシアが少しそわそわし始めたのに気づいた。
「今から行くか?」
「いいの!?」
「ああ、別にいいぞ。アリサはどうする?」
アリサにそう聞くと、首を振った。
「疲れた」
アリサは疲れたらしい。ぐでーっとしている。
暖炉前に居続けるようだったので、ルトリシアと居間を出る。
書斎の前に着き、俺が扉に付いていた南京錠を鍵で開ける。
扉を開くと、ルトリシアが感嘆の声を上げた。
「すごーい! こんなに本があるのね!」
興奮するルトリシアに続いて中に入ると、広い空間が俺達を迎えた。
こうして改めて見ると、書斎の広さがよくわかる。
無駄に広い我が家だが、実はその三分の一くらいを書斎が埋めている。
本が詰まった本棚が扱いやすい間隔を開けながらも、たくさん並んでいて、真ん中に申し訳程度に大きめの机と椅子が一つずつある。
まるで小さい図書館みたいな様相だ。
「物語の本もいっぱいあるじゃない! こんなにあるなんて最高ね!」
ルトリシアは本棚を見上げて感動を抑えきれない様子だ。
「この量はすごいよな」
以前から使用している書斎だが、何度見ても圧巻の量だ。
俺が改めて大量の本を見回していると、キョロキョロと動き回っていたルトリシアが動きを止めた。
「この棚はなに?」
俺は近づいてその棚を見ると納得する。
「ああ、それか。俺もよくわからないんだよ」
この世界で主に使われている言語は一通り学んだため、大体の本は読めるはずなのだが、それでも読めない本は目の前の本棚に集めてある。
そのほとんどがタイトルに中身も理解できず、謎のままだ。
しかし、一冊だけ読めるものがあるのが最近わかった。
ルトリシアはその話を聞いて首を傾げた。
「その本だけ読めるってこと? どういうこと?」
「これなんだけどな」
俺が一冊本棚から抜き取ると、ルトリシアに渡す。
「この名前は……な、なに? 読めないわ」
「古い文字みたいなんだけどな。ええと、『根源』への接続と――**の分化による使い魔の作成、だ。掠れて読めないところがあるから全部はわからないが」
「ふーん、根源って何かしら。それに使い魔?」
「使い魔って言うのは、魔女によって作られる邪悪な魔物らしいよ。使い魔は魔女によって使役され、市民に災いを招く……とか」
「なんだか危なそうな感じね」
「だな。使い魔についてのと、よくわからないが『根源』ってのに接続する方法が書かれてる」
「よくわからないわね」
ルトリシアはそうは言うが興味は隠せないようで、表紙をじっと見つめている。
「後で一緒に読んで見るか」
「う、うん!」
「とりあえず、そろそろアリサも呼んで――」
「クルトー! お客さんです! 出てもらえませんかー!」
暖炉で伸びている二人を呼んでこようとしたところで、昼飯を作っているはずの母さんの大きな声が聞こえた。
「こんな昼前にお客さん?」
俺とルトリシアは首を傾げた。




