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第27話 生命の雷光

ノルグとの戦いを終えたあと、“地上へ繋がる上層への道”を探しながら歩き続けていた。


 悠翔は廊下を歩きながら、ふと考えていた。

「……リステアの実、もう使い果たしたんだよな。今は回復手段がない、か……」

先ほど覚えた新しいスキルが頭をよぎる。

治癒にも似た効果があると感じてはいたが、果たしてどこまで自分を癒せるのか。

もし大怪我をしたら——それで足りるのだろうか。

そんな思考を巡らせている時だった。

「……ん?」

前方の闇の奥から、耳障りな音がかすかに響いてきた。

——カサカサ、カサカサ。

最初は小さな音に思えたが、次第に壁を這うように大きく、近くなってくる。

同時に、ぞわりと肌を刺すような無数の気配。

悠翔は背筋に冷たいものを感じ、思わず身構えた。

「なんだこれ……虫か?」

通路の先から、黒い“波”のようなものが蠢きながら押し寄せてくるのが見えた。

逃げ場はない。振り返ったところで、背後もただの狭い通路。

「……後ろに行っても意味ねぇな……」

心臓が早鐘を打つ。だが、腹は決まった。

「……こうなりゃ、やるしかねぇか。」

悠翔は雷を纏い、

一歩を踏み出した。

次の瞬間、通路全体が轟音と閃光に包まれた。

——掌から迸る雷光が前方を薙ぎ払い、先頭の虫どもを一瞬で弾け飛ばす。

だが、それで終わりではなかった。

奥から奥から、黒い群れが壁を埋め尽くす勢いで湧き出してくる。

「おいおい……数、多すぎだろ!」

雷を纏った体が閃光と共に疾走する。

殴りつけた拳からは雷の槍が貫通し、斬り払った腕からは風刃が迸る。

焦げた匂いと羽音が入り混じり、通路は戦場と化した。

全身を駆け巡る雷撃がさらに強さを増す。

結界のように広がった雷が虫の動きを鈍らせ、その一瞬に跳び込み、斬り裂き、砕き、焼き払う。

焼け焦げた群れは断末魔のような音を上げながら、光に呑まれて霧散していった。

通路に残ったのは、無数の焦げ跡と、鼻を刺す煙の匂いだけ。

悠翔は膝に手をつき、肩で息をした。

「……ふぅ……なんとかなった……けど、また出てきたら正直やばいな……」

腕や脚は小刻みに震え、指先はまだ雷の余韻で痺れていた。

目を閉じれば、あの“カサカサ”という羽音がまだ耳に残っているようだ。


——その時だった。


胸の奥が、ドクンと脈動した。


体の奥を熱が駆け巡り、重かった四肢がわずかに軽くなる。


「……っ」


傷の痛みが少し引き、魔力の巡りが滑らかになっていく感覚。


どうやら、またレベルが上がったらしい。


悠翔は小さく息を吐き、壁に背を預けた。


「……そういや、ノルグ戦のあと見てなかったな」


ふと呟き、視線を前へ向ける。


「——ステータスオープン」


淡い青白い光が空中に広がり、半透明のウィンドウが静かに浮かび上がった。


有馬悠翔

職業 雷装導師

レベル 95

スキル

《雷壁》

《生命の雷光》

《雷界歩》

《雷穿》

《雷刃》

《雷撃放・震域》

《雷臨纏身》

《風歩》《風刃乱舞》《疾風斬翔》

《竜王眼》


そこに表示された内容を見て、悠翔の目がわずかに見開かれる。


「……おいおい、結構上がってんじゃねぇか」


思わず苦笑が漏れる


悠翔は立ち上がり、煙の残る通路を睨む。

悠翔はふぅと深く息を吐いた。ここは通路のど真ん中。

瓦礫の上に腰を下ろし、マジックバッグから水筒を取り出して喉を潤す。

冷たい水が喉を伝うたびに、疲れた体に染みわたっていくようだった。

「……っぷはぁ……あれ?」

飲み干したはずなのに、水筒は重さをほとんど失っていない。

不思議に思い、蓋を開けて覗き込むと、さっきと同じだけの水が入っている。

「……いや、待てよ……」


逡巡しつつも、結局は好奇心が勝った。

水筒を逆さまにすると、水は途切れることなく流れ出し続ける。

床に小さな川を作りながらも減る気配は一向にない。

「……マジかよ!無限水筒!? よっしゃ、これで水問題は解決だ!」

思わず立ち上がり、勝ち誇ったように叫んだ瞬間——。

――ジャラ……ジャララ……。

耳の奥に、不気味な残響が響いた。

鎖を引きずるような音。それは遠くから、確実にこちらへ近づいてくる。

空気が重くなり、背筋に冷たいものが走った。

「……なんだ、今の音……」

手に掴んでいた水筒をマジックバックの中に収納する。

通路の闇の向こうから姿を現したのは、無数の錆びた鎖に絡め取られた巨体。

その中身は骸骨のようでもあり、黒い瘴気の塊のようでもある。

一歩進むたびに鎖が擦れ、ジャラジャラと不気味な残響が反響した 。

悠翔は思わず身構えた。

——次の瞬間、十数本の鎖が一斉に放たれる。

「竜王眼!」悠翔の瞳が雷光にきらめき、鎖の軌道を見切る。

必死に身を捻り、腕を捌き、紙一重でかわす。

しかし鎖の数は途切れない。かわしても、次の瞬間には別の方向から伸びてくる。

前に出ようとしても、壁のように鎖が行く手を遮った。

「くっ……ちょこまかしやがって!」

雷を纏った拳を握り、鎖の隙を抜けて巨体へ肉薄。

渾身の拳を叩き込む——!

ゴンッッ!!

手応えはあった。だが、拳に返ってきたのは鎖越しの硬い衝撃と、鈍い痛み。

「いってぇぇっ……! 嘘だろ……効いてねぇじゃんか!」

拳を振るうたび、骨の髄まで響く痛みに顔を歪める。

対してゴーレムは、錆びた鎖を震わせるたびに低く唸るような音を響かせた。

悠翔は距離を取り、次の鎖の雨に備えて身構える。

鎖の渦、その真っただ中で、抜け出せぬ苦戦が始まっていた——

悠翔は、押し寄せる鎖の嵐を竜王眼で必死に見切りながら回避していた。

金属同士が擦れ合うキィンキィンという耳障りな音と、鉄の匂いが鼻を突く。

「くそっ……動きが……!」

拳で殴れば反動で手が痺れ、蹴りを入れても鎖に絡め取られる。

雷撃を放っても、鎖が導線となり拡散してしまい、大した効果を与えられなかった。

次々に試す。

《風刃乱舞》で鎖を切り裂こうとするも、切れた端がまた絡みついてくる。

《雷迅脚》で踏み込むが、鎖の網に阻まれて決定打に届かない。

「ちっ……マジで厄介だな!」

息が荒くなり、額から汗が滴る。鎖が一本かすっただけで皮膚が裂け、焼けるような痛みが走った。

それでも——諦めない。

悠翔は拳を握り直し、再び雷光を纏った。

「次はこれだ……!」

彼は《顕竜・雷穿》を発動。

雷を槍の形に収束させ、突き出す。

青白い光が一直線に鎖の束を貫いた。

ズガァァンッッ!!

雷槍は鎖を伝い、内部の瘴気の核へと直撃。

ゴーレム全体がビリビリと痙攣し、鎖が一瞬弛緩する。

「……効いてる!これだ!!」

好機を逃さず、

一気に踏み込み、雷を纏った拳を何度も叩き込む。

バチバチと迸る電撃が鎖の隙間から侵入し、黒い瘴気を焦がす。

ゴーレムが耳障りな金属音を轟かせ、鎖を振り乱した。

だが悠翔は退かない。

「おらぁぁぁっ!!!」

最後の一撃を胸部に突き立てた瞬間、内部の瘴気が破裂するように爆ぜた。

鎖は力なく崩れ落ち、金属片がカランカランと床に転がる。

悠翔は肩で息をしながら、その場に膝をついた。

手の甲に痺れが残っている。

それでも、確かな手応えに満ちた笑みが口元に浮かんだ。

「……よし……やった……!」

重苦しい鎖の音が止み、通路には再び静寂が戻ってきた。

鎖に裂かれた腕や脇腹からは血がにじみ、全身に鈍痛が広がっている。

「……リステアの実は、もうねぇし……」

マジックバッグを探るも空虚。焦燥が喉を焼いた。

だが、その時——。

胸の奥で、雷竜の意志がトクン、と脈打つ。

脳裏にひらめく名があった。

——《生命の雷光》。

「……治せってことか……? 俺に……」

悠翔は両手を傷にかざし、意を決して竜気と魔力を練り合わせた。

次の瞬間、掌から淡い雷光がじんわりと溢れ出す。

それは攻撃の雷ではなく、温もりを帯びた柔らかな光だった。

ビリビリ……と細やかな電流が体を流れる。

痛みが消え、裂けた皮膚が塞がっていく。

内臓を締め付けていた重苦しささえも、和らいでいく。

「……っ……すげぇ……! 本当に……癒えていく……」

驚愕と感動が混ざった声が漏れた。

雷はただ破壊するものではない。命をつなぐものでもある。

その事実が、悠翔の心に深く刻み込まれる。

——そして。

ドクン、と胸が大きく鳴った。

体を満たす力が、さらに膨れ上がっていった。

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