第96話「名付けに期待できない夫婦」
水曜日なので第96話。
お話を一時中断して備蓄していた小豆カステラを放出してお茶をすする私たち。
流石にイチから作ってる暇はないのでこれで勘弁してもらった。
後日お市ちゃんとお友達のために作ることは約束させられたけど。
お市ちゃんのお友達……女子大学寮生の中には家族で熱田に移住してきた人も居て、彼女らの妹がお市ちゃんの遊び相手になっているのだ。
そのうち女子大学寮に入学して織田家の姫の側近になったりする意図もあるのだろう。
どちらにせよ壊滅状態だった熱田が賑わいを取り戻す一助になってるので大変結構なことだ。
子供の声が消えた街なんてゾッとしないよね。
迷宮とかいう不思議と危険の塊が直ぐ側にあるけど、この街が彼女らの故郷となってくれたら良いな、と思う。
ひと心地付いた私たちは話を続ける。
「んで、こいつはどう使えばいい?迷宮の入口とかに置いて信者どものレベルを調べるのか?」
「とにかく最初はそう使ったほうが良いんじゃないかな。迷宮の探索と資源集めを進めないとね。迷宮入口というか、イナリ教のドロップ品買取窓口にこれ置いて、定期的なレベル鑑定を義務付けるとか。傾向が見えたら奥に行く許可証を発行するの。あー、先に兵士のレベル鑑定をして傾向を掴んでも良いかもしれない」
「最初ってことは他にも何かあるのか?」
「あるよ。これ不思議な道具だよね。これって魔導冷蔵庫とか魔導コンロとかと同じようなもんじゃない?」
「そうか?」
「魔力を流すと不思議なことが起こるってことは同じなの。多分触った時にその人がだしてる魔力に反応してるんだと思う。ただ魔導コンロとかと違って何も刻まれてないじゃない。これを研究したいんだよね」
「それは……どういう意味があるんだ?」
「今のところ、魔導コンロも魔導冷蔵庫も迷宮鉄に術刻まないと動かないじゃない。
今はまだ据え置きのものだから良いけど、例えば鎧とか武器とか、必ず迷宮鉄使わないと駄目ってなると問題起こりそうじゃない?」
「なるほど、今すぐではないがそのうち必要になりそうだな」
「それに、こうした基礎研究を重ねることでそのうちポーションを迷宮頼りにせずに私たちが大量生産できるようになるかも」
「そんな事、できるのか?」
「わかんないけど。少なくともそういう物が有る以上、やり方さえ分かれば作れないことは無いはずだよ。だって完成形があることはわかってるんだもの」
そう、現物が有るなら調べて、模倣してしまえば良いのだ。
奇しくも日本人は古代からそういった模倣が上手い民族として知られている。
それまで概念がなかったものだって取り入れて独自のものにしてしまう謎の包容力と言うか、吸収力があるのだ。
前世の私が生きてた時代は遅れを取っていたが、もともとが東洋のちっぽけな国だ。世界に比べて遅れを取ることなんていつものことだ。
そういう意味では私はこの国に住んでる人達を信用していた。
そしてそれは、このへんてこなファンタジーになった戦国時代でも変わらない。
土御門様みたいな変態的な求道者がお貴族様にもいるのだ。
市井の人々からだってそりゃオタク気質な求道者が現れるに違いない。
だから、私たちは彼らが世に出る手伝いをすればよい。
そのためのナーロッパづくりなんだ。
そんな事を尾張の大名、織田信長と侍女や幼女の前で語った。
「なるほど。土御門様みたいな求道者か……いや、あんなのがたくさんいても困るが」
「うっ、それはそうだけど。でもそういった人達も受け入れて色々調べさせないと、魔物との戦いを制する事はできないと思うし……何より、魔物の後は他家とまた戦しないといけないかも。その時圧倒的に有利になってないと」
「……その時俺達以外の大名家が残っていれば、の話だが」
「でも、魔物追討使さまとしては、可能な限り助けようと思ってるんでしょ?」
「当然、と言いたいが、俺達には限界がある。少なくとも俺達と敵対しないと同盟なり交わさんとならんが」
「その時に高い技術力が無いとね」
「ああ。そういう事だな。わかった帰蝶。これに関してもお前の思うとおりやってみろ。織田家の魔導研究所担当奉行に任命しとく。やるこたぁこれまでと変わらんだろうが、今の外からやいやい言うだけの立場よりはマシだろ」
「……謹んで、拝命します。見ててねノッブ、すっごい魔道具つくっちゃうんだから!」
「ああ、期待してる」
というわけで、魔導研究所担当奉行なる役職が付いた私である。
これまでは織田家正室、イナリ様の巫女、マムシの娘などなどいろいろな肩書があったけどもう一つ増えた形だ。
早速土御門様にもこのレベル鑑定魔道具を見てもらおうと呼び出しをかけようとした時、犬千代くんが軍土がやってきたと伝えに来た。
彼は普段は信長の小姓だからね。
昔のアニメによくある何故かヒーローの周りをうろつく少年枠ではないのだ。
うん?その文脈だと私はヒーローもので言うトラブルを持ち込むヒロイン枠か?
いやいや違う。私は謎の知的美少女と見せかけたフレンドリーお姉さん枠でラスボスを倒す時に重大なヒントを与えたりする役目なはずだ。
あれ、それだと途中で離脱して訳わからん遺跡でクソ長い刀を持った敵に刺し殺されたりしないか?
ああ、あれはRPGだからジャンル違いだ。こっちは信◯の野望系シミュレーションだからね。
ええと、何の話だっけ。
そうそう、犬千代くんが軍土がやってきたと言ったのでせっかくだからレベル鑑定魔道具を触らせてみよう、ということになったのだった。
軍土たち飛騨山鍛冶衆は魔境と化した飛騨からやってきた謎の鍛冶集団で、やたらと強い。
最近は迷宮にこもって鍛冶素材を集めては武具の生産に邁進している。
彼らの打つ刀や槍はとても丈夫で、大鬼討伐も容易になったのだ。
これまで尾張に居た刀鍛冶達が歯噛みしているらしいので、そのうち弟子入りなどで技術供与をお願いしたほうが良いかもしれない。
そんな軍土たち飛騨山鍛冶衆の目標は童子切信長を打ち直して、草那芸之大刀に匹敵、いや超えるレベルの神刀とすることなのだとか。
何言ってるかわかんない?
安心してほしい、私もわからない。
ともかく、その一環としていずれできる神刀の使い手と定めている信長に適合した形を知るため、信長用の太刀を打たせてほしいと言ってきたらしい。
現在のところ、信長の膂力に耐えうる刀が無いため、素手で戦うほうがマシな状態だった信長はこれを快諾したのだそうな。
信長の身を守る武器ができるのは喜ばしいよね。
今日は、その試作第1号ができたので持ってきたという軍土。
そしてえっちらおっちらと私の倍近い長さがある包みを持ってきた軍土は、それを私たちの前に置いた。
ゴトン、と鈍い音が響く。
「三河童子も真っ二つにできるもの、という想定で作った。並の人間にゃ持ち上げることなんざできねえが、旦那なら使えるだろう」
「見せてみろ」
黙って包みを解く軍土。
現れたのは、全長2.5m、幅30cmほどある片刃の直刀だった。持ち手が長い。
黒い剣士さんじゃなくて、ツンツン金髪の一般兵士が使ってた方に近い。
信長はそれを見て、ニヤリとしている。
男の子だからね、でっかい刀に興奮する気持ちは理解できる。
犬千代くんは廊下に控えてるけど、「かっけー!すげー!」と小学生男子ムーブしてるし。ちょっと男子―!静かにしてくださーい。
「……銘は」
「試作だ。銘なんぞ入れねえよ」
「そうか。いやそれじゃあこいつに悪い。そうだな……名無し丸でどうだ?」
「……本気で言ってんのか旦那?」
「良い名だろう?」
あかん。史実の信長もネーミングセンス最悪だったがこっちもそうなのか。
いや同一人物だししょうがないか。
ここは私が超絶かっこいいイカしたオサレネーミングを……
「あの、ノッブ?私は別の名が良いかな、と。そうですね……」
うーん、そうだね、えーと金髪のツンツン頭のアイツが使ってた奴に似てるから……
「クラウド丸、なんてどうでしょう?」
「余計にひどくなった」
「それは無いな帰蝶」
あれえ?
もしかして……私もネーミングセンス……無さすぎ……?
奇妙丸(仮)くん、覚悟を決めておくと良いよ。
というわけで今回はここまで。
次回をお楽しみに。




