第95話「真摯な贖罪は小豆カステラで」
月曜日なので第95話。
気持ちよく寝ているところに急に硬い水晶玉をごちんとやられたお市ちゃんの泣き声をどこか遠くに感じながら、私は転がった妙な水晶玉……レベル鑑定魔道具をじっと見ている。
これはなんだろう。
レベルアップが起こる事は間違いない事実だけど、それがどういったものなのかはいまいち確証が得られていない。
土御門様の気の可視化の術やイナリちゃんの言う事実から見るに、レベルアップした人間の周囲には気、つまりは魔力が濃厚に纏わりつく傾向がある。
おそらくそれは、体内の何処かに魔力を発生、もしくは溜め込む器官があってそこから漏れ出ているものなのかもしれない。
だとすると、この水晶玉はそれを感知し、なんらかの法則によって「アラビア文字」で表示する機能を持っている、ということになるのだろうか。
「アラビア文字」である。
戦国時代にアラビア文字はほぼ存在しない。
それを表示する、というのはどういうことなのだろう。
不思議な迷宮から出た不思議アイテムなのだから、そういう事もあるのかもしれない。
だけど、なぜ今この時に出るものがアラビア文字なのか。
何らかの作為を感じずにはいられない。
違う。それはどうでもいい。考察すべきはそこじゃない。
この事態になって、土御門様や涼風様などの陰陽師の術を知った。
また、迷宮鉄などの謎素材のおかげで、物質に術を刻んで発動させる技術が「復活」した。
復活。そう復活だ。イナリちゃんの言からも、安倍晴明が残した文書などからも、これは過去においても使えていた技術なのだ。
陰陽術は魔法のような不思議な効果を発揮する。
それを術師以外にも容易に行使できるようにするのがこの技術だ。
おかげで魔導冷蔵庫や魔導コンロが完成している。
それらは迷宮鉄の板に特定の術を法則に沿って刻み込み、そこに魔力を流すことで発動する。
流し込む魔力の量によっていまいち制御が安定しないのだけど、これは研究課題だ。
そのへんが不器用な私は触らせてもらえないのが難点なのだけど。
対して、この水晶玉はどうか。
ごく単純な水晶玉で、稼働していない時は唯の透明な水晶玉だ。
術が刻まれている痕跡がない。
しかし接触した人の魔力に反応して数字を出力しているように見える。
このことからわかるのは何か。
「直接素材に術を刻まずに術を発動する技術がある」と言えないだろうか。
観測できた現象は法則を知ることで再現できるはずだ。
現にイナリちゃんの術をお市ちゃんは使っている。
彼女がイナリちゃんの説明を理解しているわけではないだろう。幼女同士通じ合うものがあるのかもしれない。
ともかく、イナリちゃんの術は再現が可能なのだ。
方法がわからないだけで。
つまり、この水晶玉を調べる事で私たちが知らない魔道具の作成が可能になるかもしれない!
「おい帰蝶!いきなり寝てるお市を殴るやつがあるか!聞いてんのか帰蝶!」
「あ、ああごめんね!ごめんなさいお市ちゃん!つい興奮しちゃって!」
うえええんと乳母に抱きついてわんわん泣いてるお市ちゃんに謝りながらも私は考察をやめられない。
知らない魔道具よりも、解析して作成したいものがある。
ポーションだ。
あれは織田軍、というか魔物との戦いにおいて生命線だ。
既存の薬草なんかゴミクズにするほどの即効性がある。
それなりにドロップするけど、できれば自前で大量生産したい。
魔物の脅威はまだまだ未知なのだ。
さっき信長が言ってた。
迷宮15層には将鬼が普通にうろついてるって。
将鬼が最上の魔物なわけがないのだ。
以前、桶狭間に現れた将鬼を有力国人領主に例えた事がある。
ならば、大名クラスの魔物がいてもおかしくない。
将軍クラス、天皇クラス、ともかく日本の社会階級に沿って魔物の進化を考えた場合、備えすぎるということは無いはずだ。
今まで、便利な不思議薬としてしか認識していなかったけど、ポーションを再現できないか研究する必要がある。
お医者さんでいいんだろうか。多分魔力が関わってるので土御門様たち魔導研究所の管轄だろうか。
いやでも、日本の術師がお薬つくったりするイメージがあんまりないんだよね。
錬金術師とか森の魔女とか、そういった人がいないもんだろうか。
そういや外国の神様が信徒を派遣するとか言ってたけど、その中に都合良く錬金術師が混じってたりは……するわけないか。
この時代の錬金術師は中東が先進地なんだっけ。
いやあ無理があるなあ。どうせむこうも魔物でしっちゃかめっちゃかだろうし……
尾張周辺でいっぱいいっぱいな現状、外国まで船を出すことは不可能だ。
冷蔵庫ができたのでだいぶ航海はしやすくなるんだろうけども、それだけじゃあね。
あ、風が起こせるなら帆船の推進力も行けるかな?
ちなみに、レベル鑑定魔道具をお市ちゃんが泣いてる横でぐーすかと寝ているイナリちゃんに当てたら「あとのせサクサク」と表示された。カップ麺か。
良くわからないけどこれではイナリちゃんのレベルを測ることはできないらしい。
「んで、結局これは何なんだ帰蝶?」
「多分だけど、レベルを数値化するものだね」
「レベルを……?」
「レベルアップって何度も繰り返して段々と強くなるものじゃない?その繰り返した回数を表示しているのかも。もしくは持ってる魔力を測定しているのかな」
「あー、熱田に来たばかりの頃浜で幅跳びしてたのもそれを見たかったからだったか?」
「そうそう!これがあればその数字がわかるよ。迷宮の2層とか拡大部分に入る目安にできるかも!」
「となると、俺が124で、帰蝶が38、と」
「他にも良くみないと高いのか低いのか全然わかんないね」
「そもそもこの数字か?これを読めるようにならなきゃ使いもんにならん」
「結構簡単だし、覚えたら計算も便利だから後で表を作るよ」
「そうか、頼む」
早速使う方向で考え始める私たちにおさきが疑問の声を出した。
「あの、姫様?本当にれべるの数字なのでしょうか?」
「うん?どうしてそう思うのおさき?」
「この玉によると、私は57……でしたか?だいたい姫様の1.5倍くらいです。それはまあ納得できるんですが、三郎様の約半分、と考えるとどうもしっくりこないのです」
「あー、まあそうだよね。これはちょっと考える必要があるんだけど」
「何かわかるのか帰蝶」
「ちょっと前、レベルアップするとよく使う能力が強化されるんじゃ、って話したじゃない?」
「ああ、言ってたな。まだ良くわからん事だらけだそうだが」
「詳しくはもっと沢山の人を調べないとわかんないけどね。レベルアップで向上する能力が人それぞれ違うのかもね。ただ、レベルアップするたびに肉体的に一定程度までは共通で強くなる、とか?」
「なんだか分かるようなわからないような……?」
「そういう意味では、レベルが高いからってみんなが強くて魔物を素手で殴り殺せるノッブみたいになるとは限らないんじゃないかな。ほら、私は38レベルだけど知的で可憐な美少女なわけで、そんなに力持ちになってるわけじゃないし」
「知的……?」
「可憐な美少女……?」
「何だい何か言いたいことがあるなら聞こうじゃないか」
「むにゃむにゃ……きちょーはお間抜けに磨きがかかった気がするのじゃ……すぴー」
起きてるだろイナリちゃん!
「おねえさまは市をぶつのでいじわるになってしまったのです!」
いつの間にか泣き止んで乳母の胸の中から私を睨むお市ちゃんの追撃である。
ゴメンて。
「あずきカステラを作ってくれるまでゆるしません!」
ぷいっとそっぽを向く。
イナリちゃんの立派なおしっぽがピクリとはねた。完全に起きてるなコイツ。
とりあえず、お市ちゃんをなだめるために小豆カステラを作る羽目になった私であった。悲しみ。
なんやかんやで良くお菓子作りをする帰蝶ちゃんです。
というわけで今回はここまで。
また次回をお楽しみに。




