第94話「ぶよぶよのスライムからわいたカチカチのお宝」
木曜日なので第94話。
信長が帰ってきたのは、冷やした瓜を全部食べてお市ちゃんとイナリちゃんがお昼寝に入った後しばらくたった頃だった。
1週間(戦国時代ではほぼ使われてない概念なんだけどね)にわたる長期迷宮探索から無事帰った信長はひとっ風呂浴びた後私に会いにやってきた。
ひとっ風呂。
そう、お風呂である。
実は最近熱田の織田屋敷にお風呂を設置した。
戦国時代で主流な蒸し風呂では無いよ!
きちんとお湯を良い感じに沸かして肩まで疲れる檜風呂である!
いや本当に檜かどうかは知らんけど、とにかく木の香る湯船なのだ。
いやあ概念から説明するのが大変だった。
なんでわざわざそんな事、といろんな人に言われたけど、実際にお風呂ができた今では風呂無しの生活には戻れない体にしてやったのだ。
温かい湯に浸かる快楽を知ったらねえ。
それは、そうもなる。
うん?水を貯めるのが重労働だし燃料もどうすんだって?
うふふふふ!ナーロッパを舐めてはいけないよチミィ!
お屋敷の下働きの皆様もかっちりイナリ教に入信して暇を見つけては迷宮に入ってレベルアップしているのだ。
すぐそこで天真爛漫で愛らしさを振りまきつつたまに神様っぽいカリスマを醸し出すイナリちゃんにお屋敷の人々はかなり前からメロメロなのだ。
そりゃイナリ教ができたら入信くらいするに決まってる。
下男たちはもともと私についてきた美濃の下級武士やお城に奉公に出るほどの上級農民な人達なので戦になれば足軽雑兵として戦場に出てた人らだ。
迷宮で子鬼を倒すことで姫様(私の事だよ当然わかるよね)やイナリちゃんのためになる上に小遣い稼ぎもできるってんでそりゃもう張り切ってレベルアップしたものさ。
そしたら、お風呂に水くみなんざ楽勝になるってものよ。
川からでっかい瓶に水汲んで抱えてやってくるなんて朝飯前なわけで。
そういう訳でお風呂の水くみ問題はあっさり解決。
最大のネックは燃料だった。
戦国時代……というか史実の昭和くらいまでは全国の山という山は燃料になる木もすぐ切り倒されて禿山だらけだったって知ってるかね?
人は火を使って煮炊きしないと生きられない。
水だって安全な水は限られるからね。
燃料は貴重で、それはこの戦国時代もおんなじ。
じゃあ、どうしたか。
便利なものがあるじゃない。
あれを使えば燃料コストはほぼ無視していくらでも煮炊きできるんだ。
そう、陰陽術ならね。
土御門様を訪ねて熱田を訪れた陰陽師がいたのだ。
手紙を送った相手がやってきたのだ。
彼は越中に住んでたのだけど、飛騨から山越えしてきた魔物に住処を追われ、一向宗の中で肩身の狭い思いをしながらほそぼそと暮らしていたそうだが、ニンジャが土御門様と私の添え状を携えて現れたので、渡りに船と這々の体で尾張までやってきたそうな。
彼の波乱万丈の逃避行はまた別の機会にするとして……
彼が陰陽五行のうち、火の術に習熟した陰陽師だったのが転機であった。
陰陽五行ってのは木火土金水の、ざっくり言えば魔法属性のようなもんである。
土御門様はいわばオールラウンダーだけど、彼は火に特化している家だったのだ。
そして彼は「ほそぼそとした火を長時間ともし続ける」という術を知っていた。
もちろん最初は涼風様の術と同じく長時間の詠唱の割にしょぼすぎる火が短時間付くものでしか無かったけども……
レベルアップした土御門様の手により、「即火が付いて魔力を注ぐ限り発火し続ける術」に変貌を遂げた。
その術を知った私が、魔導冷蔵庫の応用で迷宮鉄の板に彫らせて魔力式コンロを開発させたのは言うまでもない。
それを使って煮炊きができるなら風呂だってできるよなぁ!というわけで、燃料問題も解決したのでついにお風呂が戦国時代に爆誕したのである。
今は魔導冷蔵庫に並んで織田軍に普及するために魔力式コンロの増産中である。
これで遠征中もあったかいご飯が食べられるよ!
そんなこんなでお風呂から上がってさっぱりした信長がやってきた。
相変わらず廊下をドスドスと大きな足音を立てて歩くのでイナリちゃんもお市ちゃんも起きてしまったが、私としては些末なことである。
しばらく会いたくて会えなくて震えるしかなかった夫に会えるのは幼女のお昼寝妨害よりも重大なことである。
決して隠してた小豆カステラを食べられたことを恨みに思っているわけではない。
断じてそうではない。
「おう帰蝶!戻ったぞ!」
「おかえりノッブ!無事で良かった…!」
ホカホカの信長は茶筅髷も結わずに下ろし髪である。
まだ髪が濡れてるけど、ドライヤーもないのでしょうがない。
「あ、風と火の術でドライヤー作れるかも」
「あん?なんか思いついたのか?」
「あー、後で涼風様にお手紙書くよ。髪を乾かすのに良い道具を思いついたの」
「そうか。風呂は良いが髪を乾かすのが大変だからな。今は良いが冬場は風邪をひいちまう。良いのができたら教えてくれ。試したい」
信長は何かできたらまず自分に試させろと言う。
俺が一番丈夫だから実験台にはちょうどいいんだ、と笑ってたけど多分新しもの好きなだけだと思う。
「とにかく無事で良かった。迷宮どうだった?奥まで行けた?」
「あー、駄目だ。中が広すぎる。15層まで潜ったが時間切れで帰らざるを得なかった」
「15層!?」
「広すぎて4層からは地図づくりも諦めてとにかく下に行くことにしたんだ。階段を見つけたらすぐ降りてな」
「魔物は?」
「お前に言って突撃しねえか心配なんだが……いや、知らせといたほうが良いか」
「そんなヤバいのがいたの?」
「15層は、将鬼が普通にうろついてた。流石に武器が無くてな。倒すのは諦めて脱出してきたんだ」
「え“」
「だがそこまでの道中の魔物は大したことなかったな。火を吹く大蛇や訳わからんぶよぶよは殴り殺すのはちと苦労したが、その程度だ。武器がありゃなんてことねえ」
「それはノッブだからだよ……ドロップ品は?」
「それがな、落とすもんは1層と大して変わらねえんだ。ヘビは鱗や牙、勿論肉も落としたがヘビ肉は流石に食う気になれなかった。
ああそうだ、お前の作ったコンロ、煮炊きに重宝したぜ。ところどころ小川や泉もあってな。そのまま飲む気にゃならなかったが、沸かしちまえば平気だった」
コンロは何故かレベルアップした人はあっさり使える事がわかってる。
鉄板に指を当てて「火よ」と言うだけでイメージした大きさの火が起こるのだ。消したくなったら「消えろ」と言えば良い。
魔力が枯渇すると昏倒するのであまりレベルアップしていないと危ないんだけど。
ちなみに私が使うと高さ3mの火柱が上がるので私は触らせてもらえない。
料理に使おうとしてお屋敷を火事にするところだった。イナリちゃんが側に居てよかった。要するに便利な魔道具を作ったのに私は使わせてもらえてない。
大変不本意である。
「長丁場の探検で役立って良かったよ。今回は急いで回ってたからドロップ品についてはもっと調査が必要だね。
考えてみればポーションもレアドロップ枠だし……大鬼の大太刀なんか超レア品だからね」
「そうだな。もう少し長く留まりゃまた妙なモンが出るだろ。
ああそうだ、12層でデカいブヨブヨが居てな。そいつがきれいな水晶玉を落としたんだ。触っても妙な字が出るだけでな。読めねえし意味もわかんねえから帰蝶に見てもらおうと思ってな」
「水晶玉?」
信長は懐から水晶玉を取り出した。
信長の手を広げて掴めるサイズの結構大きな水晶玉だ。
……なんか微妙に光ってる?
そんで、よく見ると、水晶玉の中に「124」という数字がぼんやりと浮かんでいる。
「124」……アラビア数字で表示されている。
「ひゃくにじゅう……よん?」
私が久々に見るアラビア数字を読み上げると、信長はキョトンとした顔をする。
「読めるのか帰蝶?」
「え?あーうん。前世の世界で良く使われてた数字だよ。ひゃくにじゅうよんって書いてある。何だろこの数字?」
「持つ奴が変わると中の文字も変わるんだ。面白いけどそんだけの訳わかんないもんだ。なにかわかるか?」
「えー?ちょっと私も持ってみるね」
私が持つと、水晶玉は相変わらずうっすらと光ったままで、ただ中に書かれた数字が「38」に変わった。
「さんじゅうはち?」
「何の数字だこれ。久助は「68」で、犬千代は「59」、軍土は「48」だった。何かわかるか?」
直ぐ側の私の文机で、うろ覚えのアラビア数字を書く信長。あ、字が綺麗。
なんやかんやで教養人なのよね信長ってば。
それはともかく、数字を読み上げる私。
「久助はろくじゅうはち、犬千代くんはごじゅうきゅう、軍土はよんじゅうはち……うーん……?おさき、おさきー!ちょっと来て―!」
おさきを呼んで、訝しがられながら水晶玉を握らせる。
中の数字は「57」になっていた。
「これって、もしかして……!!」
「なにかわかったのか帰蝶?」
「もしかしたら、これ……「レベル鑑定魔道具」かも……!!」
「「は?」」
信長とおさきの声が揃う。仲いいね君たち。
「レベル鑑定魔道具だとしたら……」
信長の足音で一時ぐずったけどそのまま寝入ってるお市ちゃんの額に水晶玉をくっつける。
あばば、勢い余ってごちんとぶつけてしまった。
「姫様!」
盛大に泣き出すお市ちゃん。おさきに叱られながらも私は水晶玉に表示された「1」を見て、これがそういうものだと確信した。
まあソウルレベルみたいなもんだと思ってくれれば。
というわけで今回はここまで。
また次回をお楽しみに。




