第97話「たまに思い出すとこれだよ」
金曜日なので第97話。
第2部終章、始まります。
「姫様、お子様が産まれたときの名付けはぜひイナリ様にお願いいたしましょう!ほら、イナリ様なら宇迦之御魂神さまにも名付けを頼んでくださるかも知れませんし!神様が名付け親なんてすごいことです!」
食い気味に言ってくるおさき。そんなに駄目かクラウド丸。
「俺の名付けの方が良いよな軍土?」
「旦那も奥方ももうちっと名付けについて学ぶべきだな。せっかくの刀が泣くぞ」
私たちのネーミングセンスは最悪らしい。
「「いや私(俺)はノッブ(帰蝶)ほどではないと思うけど」」
私たちの完全にシンクロしたつぶやきを完全に無視した軍土は立派なお髭をしごきながら
「そうさの……旦那の名前もあんまりだが、多少格好つけて「無銘丸」でどうだ?試し打ちの代物だ。大げさな銘は必要ない」
と言った。スルー力が半端ない。
むむむ、試し打ちか……あっ!
「あっ、それなら「試製」ってつけよう!試作品にそうついてると何故か強く感じる法則!」
「なんだそりゃ」
「私にもノッブの愛刀の名付けに一枚噛ませてよう……クラウド丸が良いけど、それは駄目らしいし……」
「いや試作だから愛刀ってわけでもねえんだが……ま、可愛い嫁さんが付けてくれた名前なら守り刀にはなりそうだな。
んじゃ、こいつは「試製無銘丸」で決定!んじゃ、この後試し切りでも行くか?」
なんやかんやでこの物騒な鉄の塊の銘が決まった。
これで魔物をぶち転がしまくってくれれば嬉しいな。
素手で殴りつけるのもかっこいいけど、近すぎて心配だしね。
拳が効かない魔物が出たらおしまいだし。
こんだけ長い武器なら間合いも取りやすくて安全も増すはず。
ああそうだ、試し切りに行く前に……
「あっ、その前に……軍土、この水晶玉触ってみて?」
例のレベル鑑定魔道具(仮)な水晶玉を軍土に差し出す。
それを見た軍土は眉をピクリとさせて曰く。
「ほう、妙な声を出す水晶玉だな。奥方、こりゃあなんだ?」
「声?あーそう言えば鉄の声が聞こえるとか言ってたね。水晶玉の声も聞こえるの?」
「おう。鉄に限らず鉱物の声は聞こえる。こいつは声は出してるが、何言ってるかはわからん。聞いたこと無い言葉だ。……それで?こりゃあ一体?」
なるほどドワーフの不思議能力なのかな?聞いたこと無い言葉ってのも迷宮産魔道具?だからだろうか。どうにもこうにも判断できる材料に乏しい。
とりあえず、その不思議能力も解析して鉱物……無機物の声を聞く魔道具とか作ってみたい。
いやいやそれより今はこれの説明だ。
「迷宮の奥にいる魔物が落としたものなんだ。ノッブが拾ってきてくれたの。多分、レベルアップした回数?を表示する魔道具。軍土たちとっても強いから、いくつくらいなのかなって」
「ほう!摩訶不思議な道具なんだな。どれどれ……」
そうして水晶玉に触れる軍土。
水晶玉は私たちが触れた時と同じく淡く光って……「ᚷᚢᚢᛁᛁᛁ」と表示された。
「あん?こりゃあ、なんの模様だ?」
「帰蝶、読めるか?」
「えー?……何だろこの文字。読めない……」
なんだろこれ。全然わからん。X?N?III?ローマ数字に見えなくもないけど。
いや実際書かれてるのは全然違う文字に見える。
どういうことだろ。なんかどこかで見たことあるような無いような。
「なんかどこかで見たことある気がするんだけど……」
「儂も見たことあるな。……あの古文書に載ってた文字に似てるか?」
「古文書?」
「ああ、飛騨山鍛冶衆の里に伝わる書でな。御神体の大槌と共に祀られてるんだが誰も読めなくてな。……そういやこの水晶玉のようなもんも書いてあった気がするぞ」
お髭を撫でながら言う軍土。考え事する時にお髭を触る癖があるのだろうか。
ふむ、とても似合う。あんだけ立派なお髭だもの触りたくもなるよね。
「それはともかく、結局軍土のこの……文字?文字かこれ?何なんだこりゃ」
「えーと、なんだろ、どっかで見たことある気がするんだよねえ……ちょっと待って必死に思い出してみる!」
レベルアップしたら得意分野が伸びるというからにはうろ覚えのオタク知識を思い出しやすくなったりしないもんだろうか!つくづく意味のわからないレベルアップだよ全く。
さて、確かに既視感を感じる文字なんだよね。
どこで見たんだったか……漫画?ラノベ?ファンタジーだったような……
うーん……?
ああ、ダークファンタジ死にゲーだ!あれでちょくちょく出てきてどういう意味か調べたことがある!
「わかった!ルーン文字だ!!」
「るーんもじ?」
「えーと、すっごい北の方で使われてた……今でも使われてるのかな?そっちの文字……だったはず?ごめんすんごいふわっとしか知らないし読めないや」
「てことはその文字で数を表示してるのか?」
「それは良いが、なぜ儂が触るとそんな文字が出るんだ?北の方に縁は無いはずだが」
「わかんない……なんでだろうね?」
ドワーフだから?ドワーフって北欧神話と関係があるからそのせい?
いやでも軍土は日本ドワーフだし……?
「ま、古文書とやらが解読できりゃ何かわかるのかもな?いくつかはわからんが軍土をはじめ飛騨山鍛冶衆は強い。それで今は良いじゃねえか」
信長が上手いことまとめてくれた。
ほなそれで良いか、とはならないのがこの帰蝶ちゃんである。
「軍土!さっき言ってた古文書、読んでみたい!」
「誰も読めなかったぞ?まあいろいろ絵も載ってたから見るだけでも面白いかもしれんが……そもそも、里を出る時に置いてきてしまってな。飛騨まで取りに行くのも難儀な話だぞ」
「確か美濃に抜ける坑道を通ってきたって言ってたよね?そこは使えないの?」
「まあ行けなくもないが。美濃の道三殿に頼まにゃ……ああそうか、奥方は道三殿の姫だったな」
「そう!父ちゃんに頼めば顔パスです!良いよねノッブ!?」
久しぶりに美濃に里帰りしつつドワーフの里訪問なんてテンション上がる要素しかない!
興奮した私を見て苦笑しつつ信長は
「面白そうだし、そうだな、行くか!義父どのも帰蝶に会いたがっていたしな」
と言ってくれる。なるほど強面のくせに子煩悩な父ちゃんが私に会いたいと!会いたくて会いたくて震えていると!むふふしょうがない父ちゃんだなぁ!
「さっすがノッブ!話がわかるぅ!いつ行こうか?」
「まあ落ち着けって。美濃は逃げやしねえよ。きちんと準備を整えて土産も持っていかねえとな」
「あっ、そうだね!魔導冷蔵庫と魔導コンロ持っていっていい?日持ちするお菓子も作っていかなきゃ!父ちゃんてばマムシのくせに結構甘党なんだよね」
うへへ、尾張に来てからの成果を見せつけて「さすが我が娘。お前が男だったらと何度思ったことか」とか言わせてやるんだ!
「姫様、お作法の訓練の成果も……あるんでしょうか?
しかたありません、共にお方様に叱られましょうね?」
おさきが茶々を入れてくるけど、まあ彼女も久しぶりの里帰りだ。ちょっとテンション上がっているくらい寛大な私はゆるしてあげようじゃないか。
「では、軍土も準備を頼む。まずは美濃の義父どのに先触れを……」
信長がにこやかに言ったその時、突然久助が現れた。
おおうさすがニンジャ。どっから現れたのかさっぱりわからない。
迷宮の糞ゴブリン(鬼太郎)の技をものにしている。
……なんだかいつものニヤニヤが無いね。何かあったのだろうか。
「殿、火急の知らせにございます。……人払いを」
何かあったらしい。
「それほど急ぐことか?」
「……まずは殿のみに、と愚考いたしまする」
私をちらりと見て言う久助。
……なんだろう。すごく嫌な予感がする。
「そうか。では皆下が……」
「待って!私は正室です。火急の用ならば早く知って対処する必要があります!……聞かせて久助。何があったの?」
「……殿、よろしいので?」
「……聞かねば判断もできねえが……帰蝶が良いなら、良い。帰蝶以外は下がれ」
そうして私と信長、久助だけが室内に残る。
人払いされた室内はしんと静まるが、お屋敷の外からは復興が進む熱田の喧騒、子どもが笑いながら走る声や、物売りの口上、建築の作業音等々が混然として響いている。
そして、久助の話した事は、それらの音を遠く置き去りにする衝撃を私に与える。
「……姫様、心してお聞きください。
美濃による飛騨防衛線が崩壊。溢れた魔物の軍勢が稲葉山城に迫っております。
……国主、斎藤道三殿は奥方を始めとした女子供を尾張に逃がしました。
奥方様らはすでに慶次の部隊が保護し、熱田へ向かっております。一両日中には到着するかと」
◯「試製無銘丸」
飛騨山鍛冶衆、火腕の軍土の手による長大な直刀。
初代征魔大将軍、織田信長の初期の愛刀として知られる。
織田信長の規格外の膂力に耐え、多くの人外を屠ったこの刀は、禍々しい魔力を帯びていたという。
関東大魔境討伐の際失われたとされるが、川越迷宮深部にて同様の直刀がドロップする事が長らく迷宮七不思議の一つとされている。
というわけで今回はここまで。
また次回をお楽しみに。




