第92話「素敵だ……やはり◯肉◯食は素晴らしい……」
土曜日なので第92話。
外に出たらおっかない姑に叱られる事が確定している織田家正室な私は、5日間も寝っぱなしだったのでとてもお腹が減っている。
とは言えさすがに起き抜けにガッツリしたものは食べられないよなぁ……
盛大にお腹を鳴らした私を鼻で笑ったおさき達が食事の準備に動き回るのを眺めてそんな事を思っていた。
が!
なんと!!
予想外に!!!
戦国時代ではお目にかかれないと思っていた霜降り和牛の焼肉が御膳に並んでいるではないか!!!!
「申し訳ありません姫様。新鮮な食材の備蓄が少なく、迷宮産の魔牛肉を焼いたものしかすぐにご用意できなく……」
申し訳なさそうな事を口では言うおさきさん。しかしその顔は「お前これ食いたかったんだろ」と言っている。
まさに!まさに!!
さすがは私の最側近で懐刀!今日のMVPはキミに決めた!!
「うひょほほほい!さすがおさきアンタ最高だよ!いただきまーーーーす!!」
さっそく焼肉を口に入れる!
うまい!!……と言いたいが毒見経由で冷めてて油が固まっててなんかちょっとボソボソするし、味付けも塩振っただけなので正直微妙ではある。
あ、でももし暖かかったらすごい美味いってのは食べててわかる!
これは良い肉だ!!
こりゃあ焼肉のタレを作らにゃならんな!
香辛料が足らないな。胡椒とか出ないかな。
あ、日本じゃ胡椒栽培は難しいんだったっけ。
ポルトガル人とか持ってこないかな。
あっちも魔物騒ぎで日本まで来る余裕ないかなぁ。
いやしかし冷めてても美味いなこのお肉。
迷宮産食材はとにかくおいしいものが多い。
ただドロップする量だけじゃ足らないので外で増やす必要がある。
植物なら植えたら増やせるんだけどなぁ。
お肉は畑に埋めても肥料になるだけで増えたりはしない。
うーんどうしたもんか。
それにしても美味しいなぁ。
やはり肉しか勝たん。日本人はもっとお肉を食べるべきだと思うの。
明治時代に欧米人みたいな肉やパンを食べる生活させた飛脚が走れなくなったとか聞くけど、だからどうしたってなもんである。
私は美味しいものが食べたいのでナーロッパを目指していると言っても過言ではない。
やはり肉食を広めるべきだろう。
うーんしかしこの時代の牛や豚を増やすのは……そもそも豚が日本にほとんどいないんだっけ。
ああそれにしても幸せ。体中がお肉の脂とお米のシンフォニーに歓喜しているのがわかる。
今から畜産を始めるには長年かけて牛や豚を品種改良しなきゃならないなぁ。
あ、お味噌汁も食べねば。あったかいお味噌汁がお口をリセットするのでさらに食が進む。
肉!米!味噌汁!たまにお漬物!肉!米!味噌汁!!
うひょおお幸せってこの事だ!
今私は至上最も幸福な女である!!
「……良い食いっぷりだな」
「姫様は起き抜けにご飯5杯はいけますので」
「健啖家の割にあんまりデカくならないんだよな。どこに行ってるんだあの飯は」
「むぐむぐ。わひゃひのいぶくりょはむぐむぐ、うちゅうでゃ!」
「わかったから食べながら喋るなはしたない」
全くそのとおりであるので、私は全力を出して食事に集中したのであった。
「はぁ、たいへん美味しゅうございました。ごちそうさまでした!」
至福の時は長くは続かないものである。
久々の黒毛和牛霜降り焼肉定食に感謝を捧げつつ完食した私は食後のお茶を楽しんでいる。実際は黒毛和牛じゃなくて魔牛のドロップしたお肉ではあるのだけれど。
細かいことは良いのだ。美味しければ正義、それで良い。
食休めが終わったらすぐ外に向かうので、侍女たちは準備で大忙しだ。
私は信長と向かい合ってほのぼのを満喫する。
私、姫なので。うへへ。これも役得というものだ。
「はぁ~幸せ……で、なんでここで魔牛のお肉だしたのノッブ?」
「美味かっただろ?食いたいって言ってたしな。すぐ用意できるのがそれだったってのも嘘じゃない」
「そだねえ。ありがとノッブ」
「んで、こないだも言ったが迷宮内ではなんだかんだでよく食ってるんだ。外じゃ大っぴらに食えねえからな。つまり……」
「どうにか外でも食べられるようにしようって訳だね!」
「そういう事だ。どうしたら良いと思う?」
「もともと仏教にハマった天皇陛下が殺生やめろって言ったのが始まりなんだよね。ただ、もう何百年もそのつもりで生きてるからなかなか難しいけど……」
「帝の権威を冒すというわけじゃねえが……」
「美味しいものを食べられるようになることは経済も回るんだよね。でも牛を飼育するのって広い土地がないと厳しいんだよね」
「それもそうか。魔牛が落とす肉じゃちと足らねえしな……」
「うーん、そうなんだよね。あんだけ大きい牛だから、うまいこと解体できたらものすごい量のお肉取れるし、骨で美味しい出汁も取れるんだけど……」
「殺したら死体は消えちまうし、迷宮の魔物は腕を飛ばしてもすぐ消えるからな。解体は無理だ」
「うう、生きたまま解体とか想像もしたくない。そんな事できなくて良かったよ」
「外の魔猪や魔牛を飼いならして増やすか……?」
「土地が無いから無理だよ。人も増えてるし、まずは田んぼを増やさないと……」
うーむ。どうしたものだろうね。
ドロップ品は絶対数が足りないし、飼育する土地もなければノウハウもない。
外の魔物はやたらと人間を殺しにかかろうとするので飼いならすのは至難の業だ。
飼いならしたという話自体聞いたことがない。
……ん、待てよ?
噴出した魔物は土着して数を増やしてる。
尾張はそれをぶっ殺して回ってる。
死体の処理がなかなか面倒で、兵の仕事の大部分は殺した魔物を埋める穴を掘ることだ、なんて愚痴を言ってるのを聞いたこともある。
つまり、魔物は外に出ると死体が残るんだった。
「ねえノッブ、魔牛を外に出してから殺したら解体できるんじゃない?」
「……できそうだな」
「もちろん危険があるから精鋭にやってもらわないといけないけどねえ。そのうち外で牧場やる事もできるんじゃないかな。飼いならす実験は必要だけど」
「まあ、まずは肉食を広めてからだな。
そもそも、肉食を広めたいのは俺が食いたいってのもあるが、兵糧の選択肢を広げておきたい。魔物追討使として他国へ遠征に出ることもあるだろうが、士気の維持にゃうまい飯が必要だ」
「土御門様の冷蔵箱もできたしね。前線でも新鮮で美味しい食事ができるっていうのは兵の気力を維持するのに重要だよ」
「そうだろ?レベルアップして長期に戦えるようにはなったが、あくまで人の範疇でしか無い。まずい飯で反乱でも起こされたらたまったもんじゃない。食材の選択肢が増えればそれも避けられるだろ。何か肉食忌避を解消する方法は無いか?」
「肉食忌避は宗教から始まったんだから、肉食の解禁も宗教に頼れば良いと思う」
使えるものは神でも使えってね。既存宗教の権威が揺らいでる今がチャンスだ。
それを聞いた信長はニヤリとして言う。
「イナリ教か」
まあ当然そういうことになるよね。信長なら気付かないはずがない。
ただ、問題は……
「正確にはイナリちゃんに言ってもらう感じかな?どうせあの子にも食べさせたんでしょ?なにか言ってた?」
「喜んで食ってたな。帰蝶が起きたら美味しいものを作らせてほしいってねだってたぞ」
美味しいもの大好きなポンコツ幼女神なのでそう言うとは思ってた。
彼女は仏教系の神様じゃないし、何より狐だ。こう言ったら何だけど、狐は雑食だからね。お肉は好物なはずだ。
「イナリちゃんに上手いこと言ってもらおうか?勘十郎さまあたりが盛大に広めてくれるよ。それで兵たちは迷宮の味を大っぴらに外でも食べて、一気に広まる、そんな流れになるんじゃないかと思ってる」
「帰蝶はいろいろ献立を知ってるよな?」
「もっちろん、任せて!熱田名物魔牛肉料理を仕立て上げちゃおう!
……あ、せっかくだから魔牛を外に出して解体の実験もしよう!ノッブ、お願い!」
「あぶねえから駄目だって言ってるだろ!外にいる連中がみんな魔牛退治できるわけじゃねえんだ」
「むう、そっかあ。いろいろ動物型の魔物いたから、試してみたいんだけどなぁ」
魔カワウソとかね。なんでカワウソなんだと思ったけど突っ込んでもしかたないんだろうね。
「こういうのはちゃんと準備してからやるもんなんだよ。慌ててやっても良いことにゃならん……さて、準備ができたな。外に出るぞ」
「はぁい。そのうち試してみようね」
そうしてのんびりと迷宮を歩いて、たまに出てくる子鬼を兵や侍女がしばき倒すのを見ながら外を目指す。
イナリちゃんの神域周辺は1層のまんまで、本当に拡大したのかよくわかんない。
見たことない通路が生えた先は拡大した未踏破領域なのはちょっと怖いけど、それほど大きく変わったようには見えない。
でも、この迷宮のせいで再び少なくない行方不明者が出たのは事実。
神様もよく知らないらしいけど、この迷宮を作った何かはとても性格が悪いんだろう。
もし出会えたら一発ぶん殴ってやろうと思う。
そんな事を思いながら、いつもと変わらぬ迷宮の出入り口を潜って外の広場に出た私の前には、異様な勢いで走る3mくらいの大きさの角が生えた馬……魔馬に引きずられて笑う慶次の姿だった。
「ねえノッブ、あれ何?」
「魔馬だな。慶次が引っ張られてる」
「魔物を外に出しちゃ駄目なんじゃ?」
「そう指示はしたんだがな。……何してんだアイツ」
「楽しそうだね……魔牛も連れてきて良い?」
「駄目だって言ってんだろ」
むう。慶次が良くてなんで私は駄目なんだろう。
異様な光景に現実逃避するしかない私たちであった。
焼肉定食が好きです。
でもおっさんなので帰蝶ちゃんのようには食えない今日このごろ。
というわけで今回はここまで。
また次回をお楽しみに。




