第91話「いつまでも舐められっぱなしでいると思うなよ」
木曜日なので第91話。
朝、というかイナリちゃんの神域のお社は迷宮と同じく常に明るいし時計もないので体感的に朝。
目覚めた私はオフトゥンの横に座っていたおさきに声をかける。
なんだろ喉が枯れて声が掠れてる。まさか睡眠時無呼吸症候群だったりするのか私。
転生してからはあの朝の喉のイガイガから解放されたと思ったのにぃ……
そんな私の掠れた声を聞いたおさきはハッとしてこちらを見て、素早く私に近づき泣き笑いの顔で手を握る。
「姫様……!ああ良かったやっとお目覚めですか!まったくもう!
誰か!誰か!姫様がお目覚めです!!」
あれ、何だこの反応?
……うん?昨日寝た時は戦国時代名物板間に着物敷いて寝てたはずなのにオフトゥンに寝てるぞう?着てるのもいつも着てるパジャマ……じゃなくて寝衣だ。
あれぇ?
なぜかおさきだけじゃなくておふゆとミソッカス三人娘までやってきた。
んんん?ここは迷宮の神域では?
渡された湯冷ましをごくごくと飲み干して、次いで出された白湯をちびちびやる私。これ飲んだら熱いのが出てくるんだろうな。
誰だ石田三成の三献茶の話教えた奴は。大変結構である。
「ふう、落ち着いた。……ところでなんでここにおふゆ達が?」
「姫様、無事目覚めてよかった」
いや質問に答え給えよおふゆさん。声は感極まった感じなのにジト目の無表情は怖いので何とかしたまえくノ一だろうキミは。
色々と関係各所に指示を出していたっぽいおさきがはぁとため息をついて言った。
「あの日から5日経っています。姫様はずっと眠っていたのですよ」
「はぁ、5日も。……5日!?なんで!?」
聞くと、すこんと寝た私があんまり起きないので大騒ぎになって、信長が単騎駆けで迷宮を出て医者を連れてくると暴れた一幕もあったそうだが、イナリちゃんと土御門様が魔力を使いすぎた反動であろうと診断したことで落ち着いたそうな。
イナリちゃん曰く、神域でなら魔力の回復に良いとのことなのでとりあえずここで寝かせていたのだとか。
さすが神様。久しぶりに心からの感謝を捧げようと思った公称イナリ様の巫女な私である。
ちなみに、大騒ぎの一幕があった後に信勝と土御門様が避難していた冒険者を引き連れて外に出て迷宮の中との連絡を回復。
斥候として鬼太郎が大活躍だったとか。いらんわそんな情報。
ともかく、脱出に成功した信勝たちが救援の兵やオフトゥンや着物などの物資を持ち込み、おふゆたち侍女もこのお社までやってきたそうだ。
そこまで聞いたところで、ドカドカと大きな足音を立てて信長がやってきて、声をかけようとした私を無視してぎゅうと抱きしめる。
「やっと起きたか帰蝶……あんまり心配させるなよこのうつけが」
オフトゥンの上の私を優しく抱きしめて、信長が頭を撫でてくれる。
ふわぁこれ料金発生するレベルじゃね!?奥から怖いお兄さんが出てきて高額料金請求されたりしないよね!?
しばらくそうしていた私たちだが、おさきの咳払いで離れて居住まいを正す。
人前で抱き合うとかは奥ゆかしい淑女的にアウトなのでしょうがない。
あとで二人きりの時にもっとじっくりしてもらおう。うひひ。
「え、ええとノッブ?状況がよく見えないんだけど、冒険者たちは無事外にでられたんだね。それは良かったけど、今どんな状況?」
そう聞くと、信長はニヤリとして語り始めた。
~信長の話~
まず最初に、あの時俺達が飛ばされたのと同じように、あの時迷宮内に居た者はみんな迷宮内の各地に飛ばされたようだ。
元の1層の別の場所に飛んだ者がすぐさま迷宮の外に出て入口の守備兵に知らせた。
外では地震は起こっておらず、そいつらが知らせるまで異変に気付かなかったそうだ。
そこから織田屋敷に連絡が行き、迷宮の異常を知った平手のじいがすぐさま母上と協議、すわ再度の噴出かと防衛のために迷宮前に兵を集めることを決定。
兵の集合が始まる頃、慶次と軍土達が道中拾った信者どもを引き連れて脱出してきた。
内部の様子がおかしい事が慶次から詳細に報告され、俺と帰蝶、イナリ達が戻らない事を聞いた慶次と犬千代は、仲間を募って捜索隊を編成、迷宮に突入しようとするのを止めるのは骨が折れたとじいに叱られたよ。
ともかく、急な話で兵の参集が整うまで時間がかかるゆえ、夜明けを待って決死隊が突入する段取りとなったところで俺等が保護した信者たちを連れた勘十郎たちが外に出て、俺と帰蝶、イナリは社で休息中だと伝わり、それを聞いたじいと母上はお前の侍女たちと物資を送る事を決めて、今に至る。
今は、兵とニンジャがこの社を拠点にして、拡大した迷宮の地図作成と生存者探索にあたってる。
~信長の話、おわり~
おおう、やっぱり大事になってるけど、この異常事態に的確な対処をしているように聞こえる。
さすがは魔物追討使を賜った織田家。脅威の組織力である。
それと、平手政秀が居たとは知らんかった。
現状尾張の中心になりつつある熱田に事務方の偉い人を置きたいって聞いてたけど、いつの間に。
「あの日の2日前に着いたばかりだったんだがな。若いのの指導してもらうつもりだったんだが、早速一大事が起こって忙しくさせちまった」
織田家は新しいことをいっぱい試しているけど、事務は変わらず大切なのでそれを指導できるベテランは大事。世話になった傅役に隠居前の花道をあげるつもりの筈が突発自体の緊急対応をさせることになっちまったと苦笑する信長。
でも老骨と侮られるのも業腹な政秀はいきいきと指揮を取っていたってんだから戦国時代人のパワーを改めて感じた。
「慶次や犬千代も俺や帰蝶の言うことくらいしか聞かないと思ったが、平手のじいの一喝で大人しくなったみたいだ。おかげで兵にもじいは一目置かれてるそうだ」
「はー、年の功しゅごい」
「ま、そういう訳で俺や帰蝶不在でも尾張は異常事態に耐えられる事が示せた気がする。どうだ帰蝶、織田家はなかなかよさげな「なーろっぱ」になってきてるんじゃねえか?」
たしかに!何が何やらわからない異変に右往左往せずに対応できるのは成熟したナーロッパっぽい!ダンジョンで異常が起きたら即応するのはよくある話だし!
「……だが、流石に被害無しってわけにも行かねえ。
あの日に入ってた人間のうち、半数以上が見つかって無い。
……もう5日たつ。生きてるとは思えん」
迷宮では入場者の数をしっかり把握しているわけでは無かった。
だからはっきりした数はわからないけど、あの日迷宮に入っていた兵や冒険者は私たちを含めても200名はくだらない数だそう。
そのうちきっちり生還が確認できたのは94名。
ポーションが足りなくて腕や足を失った者も多いのだとか。
生還できたのは、たまたま元の1層部分に飛んだ者と、拡大部分とは言え比較的元の1層に近い場所に飛ばされた慶次たちと軍土率いる飛騨山鍛冶衆、そして彼らに拾われて一緒に脱出できた人ら。
……そして、私の結界に収容されて一緒に社まで避難できた数十名だけなんだそうだ。
「2層以下に潜ってた兵士たちはまだ誰も戻ってない。
……2層以下はすっかり様変わりしててな。もう元の地図は役に立たねえ上に、魔物も種類が変わっていやがる」
なにそれひどい。
何のつもりかわからないけど即死トラップも良いところだ。
やっとこ慣れた所でこんな事が起こるなんて……
「だがな、俺らのなーろっぱはこんな所で止まるわけにゃ行かねえ。そうだろ帰蝶?」
「……そうだね!諦めたらそこで試合終了だって前世の名将も言ってた!被害は甚大、でもまだ終わったわけじゃないよ」
そうだ。残酷な現実に心折れている場合じゃない。
だって、まだ私たちは生きてるんだからね。
やれることはまだまだあるはずだ。
「あ」
そこで黙って見守ってたおふゆが声を上げる。
私のポジティブな決意表明に当てられて何か思い出したのかな?
「どしたのおふゆ?」
「今後の事と言えば、姫様は覚悟が必要かも」
「どういうこと?」
「……御前様すごく怒ってた。外に出たら多分すごく叱られる」
「……え“」
「心配もしてたけど」
「安心材料にならない……」
どうも土田御前が激おこらしい。激おこプンプン丸では無いことを祈るしか無い。
「……あー、まあ急に迷宮行こうとか言わなきゃ俺も帰蝶もこの事態に巻き込まれなかったと言えばそうだからな……かばいきれん。覚悟して叱られろ」
ひどいよ信長!
あっそうだ私ここに住む!そうすればお説教回避可能!
「母上も迷宮で鍛錬してんだから無駄だ。腹くくれ」
嫌だぁぁぁぁぁ!
突っ伏して泣こうとしたらお腹が盛大になったので、ご飯食べてから外に出る事になった。
5日も寝っぱなしでご飯食べてないからね!しょうがないよ冷たい目で見ないで諸君!
帰蝶の視界外では結構過酷な事が平気で起こってます。
というわけで今回はここまで。
また次回をお楽しみに。




