第89話「無自覚系魔法少女帰蝶ちゃん」
日曜日なので第89話。
勢いよく行きましょう。
『きちょー……ノッブ……たすけて……』
「イナリちゃん!落ち着いてイナリちゃん!」
『ん?お、おおきちょー!久しぶりに繋がったのじゃ!助けてたも!』
「助けたいけど私たちも自分がどこにいるのかわかんないの!どうなってるのイナリちゃん?!」
『迷宮が光ったらよくわからんところにいたのじゃ!そしたら信者たちが来ての!大鬼がいっぱいなのじゃ!かっつとありのぶが戦っておるのじゃが、数が多いのじゃ!』
「ええ!?」
『きちょー、わらわはどうしたら良い!?……危ないふせよ!……きちょー!助けてたも……わらわ、わらわ……』
イナリちゃんの涙声が聞こえる。どうしよう、どうしたらいい!?
「えーと、えーと!」
『あっ!鬼太郎!鬼太郎が来てくれたのじゃ!』
「おお、さすが糞ゴブリン!イナリちゃん、なんとか逃げられないの?!」
『無理じゃ!ふくろこーじで!ああ、かっつ!鬼太郎、かっつを助けよ!』
「イナリちゃん!?イナリちゃん!!あっ切れちゃったの!?クソっ!動けこのポンコツ!動けってんだよ!!」
そこまで聞こえて、ぷつんと通信が切れた。
私は半狂乱で頭を叩く。電化製品は叩けば治るからしょうがない。
ただこの場合電化製品ではなく自分の頭なのでとても痛い。
レベルアップ効果でとても硬い頭なのでまだマシだけども。
おさきが突然頭をたたき始めた私を慌てた様子で止める。
「姫様、おやめください!どうしたのですか突然!?」
「イナリちゃんが!イナリちゃんがピンチ!信者と信勝と土御門様と一緒だって!大鬼に囲まれて!」
パニックで自分でもよくわからないこと口走っている自覚はあるけど要点は伝えられているような気はする。
信長は難しそうな顔をして押し黙ったあと、パニック状態の私の方に手をおいて言い含めるように声を出す。
「落ち着け、帰蝶。……残念だが、現状で俺達にできることは無い。直ちに脱出して救援を送るしかない」
「そんな!イナリちゃんはどうなるの!信勝は!?土御門様も!大事な人たちなんだよ!?」
「……それでもだ。まずは俺達が生き残らなきゃどうにもならん」
淡々と言っているようで、信長の眼は悲しみや憤り……とにかく一言で言い表せないような何かを湛えている。
そうだ、優しい信長が平気なわけ無いじゃん。
……落ち着こう。
「わかった。道を探そうノッブ。……でもイナリちゃんを助ける策を考えていても良いでしょう?」
「……しょうがねえな。おさき、帰蝶をしっかり守ってくれ」
「もちろんです殿」
そうして信長を先頭に私たちは歩き始める。とりあえず魔牛が来た方向とは逆に。
なんにもわかんないので2層がそのまま1層と同じ高さにスライドしてきた可能性を考えたのだ。藁にもすがるような適当な考察だけども。
幸いと言うかなんというか、しばらく魔物が現れることは無かった。
その間、私はずっと考えている。
イナリちゃんをどうやって探すか。持ちこたえられるのか。
いや、何度も言うけどイナリちゃんはポンコツ幼女だけどすごい術が使える神様だ。自身の身を守る事は十分可能なはず。
メ◯ゾーマではない◯ラ……違う狐火の術で大鬼も一瞬で焼けるのだからそこはあまり心配していない。
問題は彼女に課された制約だ。
「人の戦に介入してはならない」
つまり、人が戦っている場所に直接介入してはならない、という神の掟らしい。
イナリちゃんは宇迦之御魂神さまとの対話の中でそれに対して「人を守る場合は力を行使して良いか」と聞いていた。
その質問に宇迦之御魂神さまは「まだ結論は出ていない」と言っている。
良いとも悪いとも言えない、とも。
……そんなら、やっちゃって既成事実にしてしまっても良いのでは?
いやいやそれでイナリちゃんの頭が「ボンッ」となっても困る。
ああもう、どうしたらいいの!?こんなわけわかんない状況になってるのにどうして神様は手をこまねいているんだろう!?
神が現世に力を及ぼす原資は信仰心だって言ってた。
それがだんだん薄れていると。
当然だよ、ガチの危機で助けてくれない神様なんて信仰できるはずがない。
それができるのは狂信者と呼ばれる人たちで、その数はあまりにも少ない。
神々の結論が出る頃にはもう現世に影響を及ぼすことができなくなる可能性すらある。
ならばとっとと人類に力を貸したほうが良いんじゃないの神様?
「神様仏様……今こそ私たちに力を貸すべき時じゃないの?」
「何か言ったか帰蝶?」
私のつぶやきにすぐさま反応する信長。大変優秀なフォロワーさんである。彼と相互フォローできて大変幸せである。
「宇迦さま言ってたよね。神が現世に力を示す原資は信仰で、それが薄まってるって」
「ああ。まあしょうがねえよな。人死もとんでもねえ数だし、助けてもくれねえ神を信じられる奴は少ない」
「だから!神々はいいから黙って私たちに投資すべきなのよ!!」
大きな声がでた。思った以上に感情が昂ぶっていたようだ。
「姫様……」
「神様仏様!!特に宇迦さま!見てるんでしょ!貴女の眷属のイナリちゃんが大ピンチです!信仰減っちゃいますよ!!だから助けて!道を示して!いや神様もわかんないって言ってたけど!とりあえず今この場を凌がなきゃ後も無いんです!」
天を仰いで盛大に叫ぶ。
あまりにも理不尽なこの世界に対する怒りを声に込める。
そしたら、何かがずわっと抜けるような感じがした。
思わず膝をつく。慌てたおさきが私を支え、信長が何事か言う。
でも私の耳には入らず――
私の眼には満身創痍で肩で息をしながら薄青色の幕の向こうで幕を叩くような素振りをしている大鬼を睨みつける信勝と土御門様の背が見えていた。
これは……イナリちゃんの見てるもの?イナリちゃんと繋がったのかな?
思わず声を出す。
『イナリちゃん!大丈夫なの!?』
うわっ、なんだかやたらとエコーが掛かったように聞こえる。何だこれ!?
「きちょー?きちょーかや!?なんと、そなたから繋げたのか!?ということは、これはきちょーの仕業なのじゃな!?」
『えっ、えっと?そう……なのかな?』
「そうじゃ!ようやったのじゃきちょー!これでここは安全なのじゃ!さすがわらわのきちょーじゃ!」
『え、いやあそれほどでも……とは言うけど一体何が何やら……』
「きちょーの魔力がぶわわぼぼぼーっとここまで届いたのじゃ!それにありのぶの持ってた結界の符が反応しての!見よ!きちょーの結界で大鬼どもは締め出されておる!」
『お、おう。よくわかんないけどそれはすごい』
「きちょーの魔力が届くならばそれほど離れているというわけではあるまい。きちょー、ぽーしょんが足らんのじゃ。急いでこられるかや?」
『そうは言っても、私たちも迷ってるわけでして……』
「きちょーの魔力を辿って鬼太郎を遣わすゆえ、早くきてくりゃれ!見よ、大怪我を負った者もいるのじゃ!もう向かわせておるゆえ、急いでたも!!」
イナリちゃんの視界が信者さんに向かう。10名ほどの信者達が身を寄せ合っており、何人かが血まみれで浅い呼吸を繰り返し横たわっている。同行者だろう、女性たちが泣きながら粗末な布切れで傷を押さえている。危険な状態だ。
『わかった。ねえイナリちゃん、慶次たちの居場所はわかる?』
「……ここからではわからぬ。じゃがきちょーがそばにいればなんとかなるかもしれんのじゃ」
『それってどういう……いやそれはいいか!わかったすぐ向かうから待っててね!鬼太郎(糞ゴブリン)に急ぐよう言って!』
「わかったのじゃ!きちょー、たのむ!」
『うん!すぐ行くからね!待ってて!』
そうして通信が途切れた。
よくわかんないけど、私は無意識で通信魔術を使ったらしい。
ついに魔法少女の仲間入りしたように思うけど、状況が状況なのでちっとも嬉しくない。
「何があった帰蝶?!急に押し黙って驚いたぞ?」
「ごめんノッブ!イナリちゃんと話してた!桶狭間と似た感じみたい!」
「いやわからん!なんにもわからん!詳しく話せ!!」
視界が現実に戻って、信長たちに現状を説明していると、鬼太郎が突然現れた。
いつも私を煽りまくっている生意気な糞ゴブリンは傷だらけだ。
「ギャッギャッ」
「うん、行こう鬼太郎!イナリちゃんたちを助けなきゃ!」
「ギャァッ!」
さすが我が弟子!頼りにしてるぞ小娘!ってなんだこの糞ゴブリン!いちいち私を貶めなきゃ気が済まんのかコイツ。
「よくわからんが、鬼太郎に付いていった先にイナリ達がいるんだな?……のんびり走ってる場合じゃねえな。帰蝶、おさき、俺に掴まれ」
「「えっ」」
ぽかんとする私たちを信長は苛立たしそうに俵担ぎにして。
「鬼太郎!全力で走れ!先駆けを許す!」
「ギャッ!!」
御意!と言って走り出した鬼太郎の後を猛然と走り出した。
早すぎて前が見えない。
「ひょわあああぁぁぁあぁぁあぁああ~~~!!」
新幹線より、ずっとはやい!
迷宮に私の間抜けな叫び声が響く。
よく考えたらいつもこんなもんだ。
変わらないものは、ここにあるんだなぁと思った。
宇迦さま「投資しようとしたら自力でなんとかしちゃったわあの子」
というわけで今回はここまで。
次回をお楽しみに。




