第87話「予知なんてできない」
木曜日なので第87話
今回は地震の描写があります。
「おいちを大事に育てよと宇迦さまも言ってたのじゃ。だからそろそろ迷宮で修行もよいかと思っての」
いやいやお市ちゃんはキミと同カテゴリーの存在だけど、それは「幼女」というカテゴリーであって、イナリちゃんは神様で、お市ちゃんは人間だからね?
イナリちゃんがいきなり突拍子もない事言うのはいつものことだけど、聞けることと聞けないことがある。今回は後者だ。
「うむう……獅子は我が子をせんじんのたに?に叩き落すとか言うのじゃし」
「お前は狐だろうに。それと市はイナリの子でもないぞ?」
もっと言ってやって信長!
「ぐぬぬ……ノッブときちょーがそこまで言うならしかたがないのじゃ。おいち、今日のところはお留守番なのじゃ」
「えー?いちもめいきゅうにいきたいのになぁ」
「もうすこし大きくなって、女子大学寮に入るまでは駄目です!」
「はぁい……」
せめて犬千代くんと同じくらいの年齢(8才くらい)にならないと迷宮にはいれられない。
そりゃお市ちゃんがレベルアップしてくれれば術もどんどこ使えるようになって防衛戦力はすごいことになるかもだけれど……それは違うと思う。
実際、子どもがレベルアップして健康に影響が出ないかどうかなんて全然わかってないんだ。意味もなくリスクを冒す必要はない。
私だって前世なら子供の年齢だけど、言い出しっぺだし、実質的に人体実験してるようなもんなのだ。今のところはすこぶる健康になっただけだけども。
兎も角。しょんぼりとするお市ちゃんを乳母に預けて、私たちは迷宮に移動した。
軍土は飛騨で魔物と交戦経験があるそうだけど、慣れない環境であろうから信長の部下から案内役を付けることになった。
軍土は長柄の大斧……要はまさかりを持って迷宮入口前で仁王立ち。
彼の周りには似たような背格好のひげもじゃたち。
あれが飛騨山鍛冶衆か。絶対ドワーフだろアイツら。
「ここでヒヒイロカネを集めて神刀を打つぞ!」
「応!!」
みたいな感じで盛り上がっている。案内役いらなさそう。
前世の漫画だと薩摩示現流とか言う頭おかしい剣術に近い戦い方をしてたけど、彼らもそうなのかしら。
信綱が見たら興味持つかもしれんけど、急な話なので今日は彼はいない。
さて、迷宮入り口前には多くの人が居て、入場待ちの列ができている。
私たちはVIP待遇なので列を無視しても良いっちゃ良いけど、一応イナリ教の教えで「並んだ列を乱してはいけません」というのがあるので律儀に守ることにしている。
小学生かと思うけど、こういった小さなことから道徳は磨かれるものなのだ。
強権はここぞというときに使う形にしないと軽くなる。
そう進言したら信長もなるほど、と言ってくれたので皆列を乱さないようにしてくれている。
公平を心がけたおかげで信長の人気はさらに上がっている。
甘さと見て舐めてくるならそこは戦国の作法でぶっ殺せばいいだけだしね。
さて、動き出したばっかりの冒険者ギルドではあるけども、盛況で何より……ではあるのだが。
「ずいぶん混んでるねぇ」
「迷宮も多くが出入りするようになってちと手狭だと言う声も聞くな。兵士の指導で大鬼退治も難なくできる者も増えてきたし……そろそろ2層を解放する頃合いかもしれん」
「うーん、兵士が2層に降りられるのは大鬼退治を六人隊でできる事が条件だったよね」
「ああ。帰蝶にゃ黙ってたが、2層には魔猪や魔牛が居てな。倒すと肉や乳を出すんだ」
「えっなんで教えてくれなかったの!?新しい料理やお菓子ができるじゃん!」
迷宮産食品とか絶対美味しいよ!魔牛ですと!絶対に黒毛和牛に違いない!知らないけどきっとそう!
「いやー、肉食は駄目だって言われてんだろ。親父は食いたがってたが……
ともかく、魔猪や魔牛、魔狼は大鬼ほど固くはねえがすばしっこいし大鬼と大差ないくらい力が強い。だから大鬼を倒せるぐらいじゃねえと無理だ……そもそも2層に行く階段の前にゃ大鬼がいつも陣取ってやがるからな」
「現実的に大鬼しばき倒せないと行けないよね」
「それに、帰りにもまた大鬼退治だ。なんとか倒せる程度じゃ危なっかしいんだよ」
「四半時でどこからともなく復活するんだっけ。ホント不思議だよね迷宮って」
「まったくだ。だがなんとか使い倒さにゃならん……お、俺らの番だな。行くぞお前ら!」
「「「はっ!」」」
護衛に着いているのは慶次と犬千代くん、そしておさき。
イナリちゃんには信勝と土御門様がくっついている。
イナリちゃんの場合、迷宮に入るといつの間にか鬼太郎が現れて護衛に立っているので護衛の心配はいらないんだけど、心酔している狂信者と陰陽術バカは嬉々としてついて行っている。
いや土御門様は冷凍庫づくりを頑張ってくださいよ。涼風様一人で研究とか可哀想でしょ。
すぐ後ろでイナリちゃんを褒め称える声を背中に、迷宮に足を踏み入れる。
何度も入った迷宮は勝手知ったるなんとやら。
相変わらず薄ぼんやりした迷宮内は、しかし芋洗い状態だ。手狭だと言う声には全く同意せざるを得ない。
人が多すぎて、昔のMMORPGみたい。現れる子鬼は見敵必殺で即狩られている有様。
そこかしこで打撃音と子鬼のうめき声が響いて、なんかダンジョン的な怖さと言うよりも、人の業を感じてしまう。
人類おっかない。
ごった返す迷宮内を私たちは奥に進む。2層に進む広場前は大鬼がたむろしているので危ないため、人が少ない。
大鬼自体はごくたまに大太刀を落とすくらいで、落とすものはだいたい小鬼と一緒なのでそれほど旨味が少ないからね。
大太刀は同重量の迷宮鉄と同じ価格で取引されるので一攫千金ではあるのだけど、ドロップ率が渋すぎて狙って手に入るものではない。
これまでは月に一本くらいのペースで出るくらい。ちなみに全て織田兵の鍛錬時に出ているので全部織田家のものである。一応金一封くらいのボーナスは渡しているらしいけど。
たまたま見かけた子鬼をしばき倒しながらも、2層階段前広場についた。やっぱり大鬼が二匹たむろしていて、薄ぼんやりとこっちを見ている。
ある程度近づかないと動かないので余裕を持って観察できるのだ。
さて、ここまでまさかりで子鬼を一刀両断にしていた軍土たちドワーフ……飛騨山鍛冶衆は、大鬼の持つ大太刀を見て色めき立つ。
「おお!あの武器は!」
「童子切と同型か!沢山のヒヒイロカネが取れそうだ!」
今にも突撃しようとしているのをなんとか引き止める案内役。
なんかすまん。
「あれ落とすかは運ですよー……駄目だ聞いてない」
一応注意を呼びかけるが全く聞き耳を持ってもらえず、「ヒャア我慢できねえ!」とか叫んで軍土を先頭に大鬼に突っ込んでいってしまった。
「あっ!ちょ!困ります!ここで突っ込んじゃ駄目ですよ!止まって!止まれぇ!!」
引き留めようと服を掴んでいた案内役が一緒に引きずられていく。
なんなんだろうあのパワーは。結構レベル高いんじゃない?
やはりドワーフか……
怪我したらアレなので信長と慶次がすぐ突っ込めるように身構えたけど、ドワーフたちは突進した勢いのまま大上段に構えたまさかりで大鬼たちを両断してしまった。
うわドワーフ強い。
唖然としている私たちの前に「ちっ、何も落としやがらねえな。しけてやがる」とか言いながら戻ってくる飛騨山鍛冶衆の面々。
山賊かな?
いやドワーフか。
「え、ええと。あまり落とさないものなんで、気を落とさないでくださいね?」
「ま、事前に聞いたとおりだな。んで、旦那。儂らは下に行っていいのかね?」
「ああ。おめえらの力は見せてもらった。今日のところはもう遅い。明日から入ったらどうだ?」
「お気遣いなく。儂らはむしろこういった洞窟の方が落ち着くんだ。できればこのまま行きたい。いいか?」
ドワーフなので洞窟みたいな迷宮のほうが落ち着くというのは理解できる。できるけど、今日熱田に着いたばかりでいきなり迷宮暮らしというのもなんだかなぁ。
「あの、一応歓迎の宴を用意させてますんで、今日のところは帰りませんか?」
「おお、酒はあるのか奥方?」
「は?はあまあ」
「そりゃあいい!よし野郎ども、ヒヒイロカネ掘りは明日からだ!今日は旦那の奢りで飲むぞ!」
ウヒャホイ!と声を上げるドワーフども。
……客人なのでそりゃ饗応はするけどさ。イメージ通りの大酒飲みだったらどうしよう。
私も子鬼をしばき回したり鬼太郎にひっくり返されたりして体を動かして程よく疲れたし、そろそろ帰ろう。
「今日のところは帰ろっかノッブ。宇迦さまはああ言ってたけど、今のところは特に問題なさそうだし」
「ああ、そうだな。落ち着いたか帰蝶?」
「うん、ばっち……り!?」
ゴゴゴゴゴゴ……
その時、迷宮内に地鳴りのような音がして。
突き上げるような振動が私たちを襲った。
「あわわわわ!じ、地震!?」
「ひ、姫様!!」
「ひょわー!じ、地揺れなのじゃー!」
まさか迷宮の中で地震が起こるなんて!?
うわわわ立ってられない!
ほ、崩落したりしないよね!?
見ると揺れに合わせて石組みの壁に隙間が空いたり閉じたりしてる。
あかんこれ崩落するかも!生き埋めだけは嫌でござる!!
「うわあああんもう駄目だぁ!!おしまいだぁああああ!!」
「全員その場で伏せろ!落ち着けええええ!!」
迷宮内に入っている人々の悲鳴が聞こえてくる。
私は頭を抱えて目を閉じ、その場にうずくまることしかできなかった。
おさきが私を抱きしめてくれている。信長はそんな私たちに覆いかぶさって周囲の状況を確認して声をかけているようだ。
「な、なんだ!?景色が!?」
「む、むう!?これは!!気が!」
盛大に続く揺れの中、ひどく狼狽した信長とイナリちゃんの声が聞こえてきたが、恐ろしい地震の揺れの中で私はそれに気を向けることはできなかった。
「こ、こりゃあ……どういうことだ……!?」
やっと揺れが収まった時、信長の困惑した声が聞こえる。
私も恐る恐る目を開けると……
私たちは何故か、長い通路の途中にでうずくまっていたのであった。
熊本地震で被害を受けた方にお見舞い申し上げます。
震災直後なので書くか迷いましたが、構想どおり書くことにしました。
ご不快に感じられましたら申し訳ございません。
というわけで今回はここまで。
次回をお楽しみに。




