第86話「頭からっぽにするには運動が一番」
日曜日なので第86話。
ざっくり言うと「止まるんじゃねえぞ」みたいな事を言って消えていった宇迦之御魂神さま。
その神々しいバブみに溢れたお姿の余韻が消えた空を眺めながら私は突っ立っている。
端から見たらアホくさいちゃっちい3D眼鏡はかけたままだけど、戦国時代に3Dで飛び出す映画館なんてあるわけもないので誰も知らない。
だから恥ずかしくは無い。無いったら無い。
ともかく、私はこの美少女フェイス(自称)の内に隠された灰色の脳細胞をフル回転させている。
何故かって?
いきなりぶっ込まれた新情報に愕然としてるからだよコノヤロー!!
とんでもない勘違いをしていたのかもしれない……なんかこんなのばっかりだな。
私はこの事態はなんやかんやで神様がやらかしたとかワケ解んない理由で始めた試練とか黙示録的な何かとかじゃないかと漠然と考えていた。
それに対応するためにナーロッパを作るつもりだった。
――まさか神様も想定外で対処できてない事態だなんて。
イナリちゃんの話の端々から、彼女は知らされてないだけなのかと思っていた。
幼女だし肉体がある修行中の神だという話だし。見習い神様みたいなもんなんだと。
それが、宇迦之御魂神という日本神話における大御所級、主神クラスの神からはっきりと「我々も想定外」という言葉が出るなんて。
しかも神々は私と信長のナーロッパづくりに注目してるらしい。
――つまり、どうしたらいいのか神々もわかっていない、ということだ。
ここで重要なのは
「神々とは、日本の神々だけではない」
ということだ。
なぜそう思うかって?
宇迦之御魂神さまは最後に天照大神さまからの伝言として
「外つ国の神々が信徒の派遣を検討中」
と言った。
天照大神さまは言わずとしれた日本神話の主神。正確に言うと創世神に当たる神様もいらっしゃるけども、天皇家の祖として日本神話のトップに立ち続けた太陽神だ。
そんな日本の主神が「外つ国」と言った場合、それは海外の事を指すだろう。
その海外の神々が、注目されてる私と信長のナーロッパ、つまり日本の尾張に信徒を派遣しようとしてる。
この事が示すのは何か。
魔物が発生して、急にファンタジー化したのは日本だけではなく、地球規模である。
これだ。
おそらく、海外の国……この時代の覇権国はポルトガルとかスペインのはず。大航海時代が始まって無限の欲と武力で後世に残る禍根の種をばら撒いてる途中だ。
そしておそらく、彼らはこの事態に対処できていない。
そうでなければ彼らの神が極東の辺鄙な島国に信徒を派遣しようとは思わないはずだ。
これはヤバい。どこがどうなってるか全然わかんないけどアメリカとか建国されないんじゃないだろうか。
神もどうしたらよいかわからない事態で右往左往する中でこんな前世喪女事務員だった私のふわっとしたナーロッパが神々も注目する「人類最後の砦」と見做されてんの?
……いや、ちょっとこれは自意識過剰だと信仰したい。
まさかそんな事あるわけねえよ。たまたまちょっとうまく行ってるから視察したいとかそういうことだよきっとそうだおそらくメイビー……
ああもう頭がぐちゃぐちゃだ!
こんな時は信長と語り合うに限る!
できればナデナデしてくれたり、あの、ふふ、下品なんですが、その……抱っこ、されたり……♡うひひ。
とまあそんな感じで信長に「ちょっと部屋で話そうぜ」みたいな事言おうとしたら、オフトゥンの中であった。
解せぬ。
いや、夢オチとかそういうことでは無く、私は宇迦之御魂神さまが消えた後しばらくぼーっと突っ立っていたかと思うとそのまま卒倒したそうな。
ひっくり返ったときに頭を石にぶつけたらしいが石のほうが砕けたらしい。
レベルアップの効果だろうが、我ながら意味がわからなくて変な声が出た。
ともかく、私がひっくり返ってからそれほど時間は立っていない。
ちょうど昼時なのでお昼ごはんを食べているところで、私もどうかと言われたが重大情報で頭がパニックなのでご飯が喉を通るか怪しい。
結局ご飯3杯しか食べられなかったので私は相当病んでいるのだ。
なんだいおさき。「そんだけ食べられれば十分元気です」って顔だね。
大変心外である。普段の元気な私はこんなもんじゃないって一番知っているのはキミだろうに。
食後のお茶を飲みながらうんうん唸っていると、信長がやってきた。
私がぶっ倒れて泣きそうになっていたというイナリちゃんとお市ちゃんも一緒である。
うへへ、愛されてますね私ってば。
「おお帰蝶。大丈夫か?急に倒れたから肝が冷えたぜ」
「義姉さま、もうだいじょうぶなのですか?」
「おおきちょー!急に倒れるとは情けないのじゃ!」
三者三様に私を案ずる言葉を出す。
イナリちゃん。お前は小銭渡して送り出した鉄砲玉が殺られて帰って来たときに辛辣な事言う王様か。
私ならもう少したくさんお金渡すぞ。はがねのつるぎくらい渡してやれよ。
いやそれは関係ないわ。どこで覚えたんだそんな事。
それはともかく、私は気丈に応じることにした。
「ああノッブ。情報量が多すぎて頭がパンクしそうになってねぇ。心配かけてごめんね?
あ、そうだむしゃくしゃするから迷宮行ってきていい?
あのクソゴブリンしばきに行こうと思うの」
「落ち着け。何だ急に?それといつもそう言って鬼太郎に突っかかっちゃ泣かされてるだろお前」
「んー。今日は行けると思うの!最近お手紙書いてばっかりで体なまってるし、宇迦之御魂神さまの話でわかったことはあるけど、ぶっちゃけヤバすぎて頭の整理がしたいの。
なのでストレス解消も兼ねて迷宮で鍛錬したいなあと」
「姫様、ついに……!」
感動したような声を上げるおさき。いや脳筋鍛錬に目覚めたわけではないから勘違いはよしてくれたまえ。
「それに、天照さまも迷宮がおかしいとかなんとか言ってたじゃない?何かわかるかもしれないし、ちょっと覗いておこうかなって」
「ふむ……それもそうだな。迷宮はうまいこと使ってるが本来何が起こるかわからねえ場所だ。警戒も必要か。……久しぶりに奥も見てみるか?」
「奥って、2層に連れてってくれるの?」
私は相変わらず迷宮の2層に入らせてくれない。もうおさきを始めとした尾張女子大学寮の上位6人組も入っているのに。
なぎなたなら大鬼もしばき倒せるようになったんだけどな。
「お前は興奮して先走りそうだからなぁ……」
「そんな人を猪武者みたいに言わないでよぉ」
「義姉さまはいのししさん?」
「ある種猪よりタチが悪いんだよ帰蝶は」
ひでぇ。ただ、信長なりに私を過保護に扱おうとしてるんだろうとは思うけども。
ま、いいや。とりあえず迷宮で軽く運動したい気分なんだ。
そんで体を使ってさっぱりした頭で神様の話を反芻したい。
「ま、まあ、じゃあ2層は今度でいいよ。迷宮行こ?」
と殊勝に提案すると、お市ちゃんが「市もいく!」とか言い出す。
いやいや、お市ちゃんはまだ4歳の幼女なのでお部屋で待ってなさい。
といつものやり取りで宥めていると、何やら考えていたイナリちゃんが
「おいちはわらわが守るゆえ、迷宮に入れてやってはだめかの?」
とか言い出した。
いや駄目だろ……常識的に考えて……
突拍子もないことを言うのも神様の常、みたいな話。
というわけで今回はここまで。
また次回をお楽しみに。




