第83話「ドワーフさんゆうびん」
木曜日なので第83話。
童子切信長はもともと全長1.7mくらい、信長の身長と同じくらいのクソ長い大太刀だ。
まっすぐな刃はとても分厚い。
大太刀というか大ナタの方があってるんじゃないかな。
それが真ん中あたりでポッキリ折れて、鈍い鉄色の断面を晒している。
軍土はクソ重たいはずのそれを片手で持って、折れた断面やヒビの入った刀身を観察している。
「どうだ。鍛冶職人からみてその刀は?直せるか?」
「とんでもねえなまくらだ。直すのはわけない。だが……」
「だが?」
「……こいつは元に戻るだけじゃあ駄目だと言ってる」
「ちょっと何言ってるかわかんないです」
「わからんか」
わかるわけないでしょうよ。我姫ぞ?
軍土は肩をすくめて
「ま、そうさな。ワシら以外で鉄の声が聞こえるものは少ない」
などと言う。
鉄の声が聞こえるて。何そのファンタジー。
いやまてまてファンタジーの住人なドワーフ(たぶん)の言うことだ。
なにかそういう特殊能力があるのかもしれない。
「そなたには、鉄の声が聞こえるのか?」
「まあな」
「……では、何と言っているのだ」
信長が質問を投げると、ニヤリとした軍土は
「こいつはまだ斬りたい。もっと斬りたい。自分はそうなれるし、そうなりたい。だから良い刀にしろって言ってる」
……本当だったら妖刀とかそういう類のものなのでは?
そんな物騒なものはしまっておいたほうが良い気がする。
「ワシとしてもぜひそうしたい。このなまくらに使われてる鉄は旦那の刀と同じもの……いや、もう少し純度が高いのか?
ともかく、これで良い刀を作るのは鍛冶職人としての使命だと思う」
「そうか、ならば頼む」
「ノッブ、いいの?」
「現実に鍛冶職人は足りてねえ。職人が増える事は大歓迎だ」
それもそうか。じゃあ軍土の作業場も確保しなきゃね。
鍛冶師の集まる一角があるからそこの長屋を一部屋……
「あー待て帰蝶。一部屋じゃ足りん」
「はい?」
「飛騨山鍛冶衆、火腕の軍土以下、50名。しばらく世話になる」
……軍土の工房員とその家族合わせて50名が一緒に来てるらしい。
いくら復興で土地あまりがちな熱田だからっていきなりそんな大所帯を収容できないよ。町割り担当奉行の胃が破壊される予感がする。
「えーと、いきなりそんな大所帯は無理かな、と」
「ワシらは丈夫だから別にそのへんにゴザ敷いても寝られる。あまり気にするな奥方」
気にするよ!せっかく来た技能集団にそんな待遇与えてたら今後来てくれる人減るじゃないのよ!
「そんなことよりな、童子切の修復に必要な鉄なんだが」
「いや住環境は大事ですよ軍土」
「いやいやワシにとっちゃこの仕事のほうが大事なんだ!」
「それはいいですけど、なんで私!?」
武器のことなんかわかんないって!
「美濃で旦那にあった時、背負ってる刀を見せてもらった。ワシらならもっと良い刀にできると思ったが、使われてる鉄におどろいたのよ。聞けば、かの今頼光、織田三郎殿と言うじゃないか。
ならば童子切信長も見せてほしいと頼み込んで着いてきたのさ」
「はぁ」
まあ、信長が今使ってる刀は迷宮鉄で作った数打ちではあるけども。
いや、それでなんで私も同席させられてるのかがわかんないんですけど。
正室だから客人のオ・モ・テ・ナ・シはお仕事ではあるけど。
「この鉄を見つけたのは奥方らしいな。もろもろの使い道も奥方が考えているとか。
……奥方。イナリ様の巫女たる貴女なら、この鉄がなんなのか、わかっているはずだ」
「いえ、全然知りません。迷宮で魔物やっつけたら落とすものだとしか」
迷宮鉄はなんだか不思議な性質があるらしいけど、鉄は鉄だ。
私には無機物の声が聞こえたりはしないし、どういうものかなんてこっちが知りたいくらいだよ。
「知らんのか。イナリ様は教えてくださらぬのか?」
「イナリちゃ……イナリ様は幼子です。野蛮な武器になど興味はありません」
彼女はたまに深い事言うけど幼女なのだ。
何が言いたいのこのヒゲモジャ?
「そうか……ではワシから伝えよう。この鉄はな、ヒヒイロカネと言われるものだ」
「ヒヒイロカネ……?ヒヒイロカネ!?」
マジですか。オリハルコンやミスリルに並ぶ和ファンタジー界隈で大人気(?)の不思議鉱物じゃないか!色んな作品で伝説の武器の素材になったりする例のアレ!
一部界隈では3種の神器の一つ、草薙の剣の素材がヒヒイロカネだと囁かれているとか。
ちなみに一部界隈とはなんかピラミッドに目がついたシンボルマークで有名な雑誌である。つまりは眉唾ものだ。
でも、そんなすごい金属なら物凄いものが作れるのかも!
「やはり帰蝶はなにか知ってるんだな?刀の修復はともかく、この鉄の話を聞いてほしくてな。俺にゃなんのことかさっぱりわからん」
「すごい金属だよ!錆びず曲がらず不思議な力を持った武器が作れたりするの!」
「うーん。しかし迷宮鉄の刀もそれほどのものじゃないぜ。童子切信長も折れたしな」
「そりゃそうだ。これは純度が低い上になまくらで鍛え方も甘い。こんなもんで鬼を切ったらそりゃ折れもする」
「えーと?」
「鉄とヒヒイロカネの混ざりもんだ。うまく混ざってはいるが、ごく少ない。
この刀は、もっとヒヒイロカネを食わせろと言ってる。そして斬らせろ、とな」
物騒な上に大喰らいらしい。やっぱり仕舞っておくべきな気がする。
「俺としちゃあ、刀なんざ何でもいい。要は殺せるか否かだ。軍土が鍛えてそれがやりやすくなるなら願ったりではある。だが貴重な迷宮鉄を浪費するわけにゃいかねえ」
「というわけで、奥方。ワシら飛騨山鍛冶衆はイナリ様に帰依し、迷宮に入る。そして迷宮鉄を集めて童子切信長を草那芸之大刀に比肩する剣にする。よろしくな」
「え、ええと。話が見えないんですけども。イナリ教に入信されるのはまあ、はい。歓迎します?」
「其の上で、イナリ様の巫女たる奥方に伏してお願い申し上げる。イナリ様に拝謁の機会をいただきたい」
ヒゲモジャドワーフが頭を下げる。
私はもう混乱しっぱなしである。巫女なのは方便だし別に私に許可取る必要もないくらいイナリちゃんはそこらをほっつき歩くのだから。
「えーと、私の許可を得る必要はないかと思うのですが」
「われらが祭神、天目一箇神からのお告げでな。宇迦之御魂神様と天照大伸様からの伝言もある故、帰蝶とイナリを同席させよと言われた」
「は?」
武器の話をしてたと思ったら神様案件だった。
ほんともうヤダこの世界。
日本ドワーフはやっぱり鍛冶の神を崇めています。
というわけで今回はここまで。
オモシロイと思ったら下の☆マークを押したらいいと思うよ。




