第84話「飛び出す女神さま」
月曜日なので第84話。
いくらいやだいやだと喚いても今生きてるのはこの世界なのでそこはもう諦めて、イナリちゃんを呼びに行くことにした。
この時間だとお市ちゃんとおままごとでもしてるかなと思い私室に向かうと、縁側でお市ちゃんと仲良くお団子を食べているところであった。
「むぐむぐ。おぉきちょー!ノッブは帰ってきたのかや?」
呑気なものである。
ちなみに部屋の中では光る縄で縛られた信勝と土御門様が打ち捨てられている。涙を流して喜んでいるので放置することにした。
「帰蝶ねえさま。いちもかんじゅうろうあにうえをしばれたんですよ!」
「おいちはすごいのじゃ。わらわの術をどんどん修得しておるのじゃ」
ドヤ顔でえっへんと言うお市ちゃん。お市ちゃんはイナリちゃんの術を見様見真似で使っちゃう魔法幼女なのだ。私はもう諦めることにしている。
最近はイナリちゃんの指導でいろんな技を使いまくっている。
魔力が少ないからかあんまり強力でもないしすぐ寝ちゃうんだけどね。
お市ちゃんが大きくなってレベル上げたら一体どうなるんだろう。
お姉さんはちょっと心配しています。
「イナリちゃん。イナリちゃんに会いたいってお客さんが飛騨から来てるんだ。それ食べたら一緒に来てもらえる?」
「ほほう。わらわに客とな?」
「そうなの。なんだか神様からお告げを受けて伝言を預かってるとかなんとか」
「むっ?それはまことかきちょー!こうしてはいられん。すぐにいかねば!」
そう言うとイナリちゃんは慌てた様子で残りのお団子を2本を掴む。
それ一気に食うつもりか。流石に喉に詰まっちゃうよ。
行儀が悪いし危ないしお市ちゃんが真似したらどうする。
危なっかしいので「そんな慌てなくてもお客さんは逃げたりしないよ」となだめると「それもそうじゃな」と言ってのんびり食べ始める。
たいへんマイペースな狐耳幼女である。
しかし後ろの狂信者と陰陽術バカがバッタンバッタンうるさい。
なにか言いたいことがあるなら言い給えよ。猿轡されてて無理なんだろうけども。
どうせ「僕を通さずにイナリ様に拝謁を賜わろうなど不届きである」だの「お市さまに術の秘訣を聞きたい!」だの、大したことは言ってないはずだ。
なので私はそちらに視線を向けないことにした。
空にはぴーひょろろーと鳶が鳴いている。
大変平和である。あちこちで魔物が暴れてるなんてとても思えないけども。
面倒な神様案件なんてほっぽって引きこもりたい。
しかしそんな私の現実逃避は長くは続かないのだ。
「むぐむぐ。さ、行くぞきちょー!」
イナリちゃんが立ち上がる。
お市ちゃんもお団子のお皿を手に立ち上がった。
縛られてる変態二人はそのままである。
そうして私たちは信長と軍土が待つ応接間へ向かったのだ。
「お、やっと来たか。うん?お市も一緒か?」
「えっ、あっホントだ。お市ちゃん、着いてきちゃ駄目じゃない?」
ごく自然に着いてきたので普通に見逃していた。
お市ちゃんは信長の横にちょこんと座ると「仲間はずれはいやなのです!」とドヤ顔。そしてお皿に乗ったお団子をもぐもぐしだした。
「わらわの客じゃ。弟子のおいちが同席してもかまわぬであろ?」
と言うイナリちゃん。目がお団子に行ってるぞ。自分の分はさっき食べたでしょ。
注意しようとしたら、平伏していた軍土が声を上げる。
「イナリ様。飛騨山鍛冶衆、火腕の軍土でございます」
「そなたが客人か。遠いところをごくろうじゃったの。面をあげよ」
とドヤ顔のイナリちゃん。神様だけど幼女なせいで伏見でも熱田でもマスコット枠のような扱いで敬意の対象ではなかったとちょっと不服そうに語っていた彼女は、頭を下げて敬意を示されるのが結構好きだ。
ただ、最近の混迷する世の中のせいで自身の神性に皆にすがられる状況はちょっと不本意ではあるらしい。
複雑な神様心というものであろう。
非常時だからこそ重宝されてる私もそれはわからないでもない。
早いところイナリちゃんが隅っこでお団子食べてるだけで良い世の中になってほしいものだ。
「んむ!?そなた……!!」
おっ?頭を上げた軍土を見てイナリちゃんが目を丸くする。
案外神様関係の知り合いの多い彼女ならドワーフについてなにか知ってるのかも!
重要な世界設定の片鱗がついに明かされるのか……!?
「そなた、すごいひげもじゃだのう。立派なおひげなのじゃ」
特にそんな事はなかった。
おヒゲを褒められて満足げな軍土に「まあわらわのとても立派なおしっぽには負けるがのう」とか言って張り合っている。
そこは張り合うところなのだろうか。
私には神様の知り合いが少ないのでいまいち良くわからない。
「ともあれ、飛騨から無事逃げおおせたことは良きことじゃ。神からの伝言があると聞いたのじゃが?」
「はっ。我が祭神、天目一箇神様よりお告げがございまして、イナリ様と帰蝶様に必ずお伝えするように、と。合わせて、宇迦之御魂神様、並びに天照大神様からのご伝言も預かっておりまする!これがありまして恐れ多くも御前に罷り越しましてございまする!」
私らの前では無骨な職人みたいだった軍土がやたらと畏まってご挨拶する。
やっぱり神様は別格なんだろうね。
そしてイナリちゃんは驚愕に目を見開いてワナワナと……どちらかというとプルプルとしている。
「ま、誠に宇迦さまと熱田さまのご伝言を預かっておるのかや?」
「はっ!ただ一言、「南の空を見、気を打ち上げよ」とのことでございまする!」
「えっ」
偉い神様二柱からの伝言がそんだけ?どういうことだろう?
さっぱり理解できず首を傾げる私と信長。お市ちゃんはニコニコしながらお団子を食べている。目が軍土のおヒゲに釘付けだ。後で引っ張ろうとかそんな事考えてるなアレは。でもまあお行儀良くおすわりできててえらい。
……ってそうじゃなかった。今はイナリちゃんだ。
イナリちゃんも首を傾げていたが、なにか思いついたのか南側の障子を開けて庭に飛び出ていった。
「イナリちゃん!」
「きちょーもこっちに来い!宇迦さまにご挨拶するのじゃ!」
何が何やら?という顔でイナリちゃんの後を追う私たち。
お市ちゃんはお団子をモグモグしながら信長肩車されている。
いいなあ私も信長に肩車……はまあいいか。お姫様抱っこがいい。
ともかくそうしてバタバタと庭に出ると、イナリちゃんが何やらぶつぶつと呪文のようなものを唱えながら鳶がぐるぐる回る空に向かって両手を上げているところであった。
UFOでも呼んでるんだろうか?
と思っていると、呪文を中断したイナリちゃんが
「きちょーもノッブもおいちも手を天に掲げよ。さすれば宇迦さまに拝謁できるはずじゃ」
とか言うので私たちは良くわからないまま両手を掲げる。
軍土も上げようとしたが、
「そなたは駄目じゃ。天目一箇神様に叱られてしまうのじゃ」
と言われて控えている。
一体何が起こるんだ。
オラに元気を分けてくれとか言ったほうがいいんだろうか。
そうこうしてると、呪文を唱え終わったイナリちゃんが
「ハーッ!」
と気合がこもった声を上げ、彼女の全身から金色の光が天に登って行った。
あれ見たことあるぞ。土御門様が使った魔力を見る術を使った時のあれだ。
つまりあの光は魔力?
そして……
「イナリ……イナリや……」
と荘厳でかつ慈愛に溢れた女性の声が響き渡る。
「ああ……あああっ!宇迦さま!宇迦さまぁ!!」
とイナリちゃんが天に向かってぶわわと涙を流して跪く。
「こ、これは……!?」
「うわぁ、きれいな女の人です!」
信長とお市ちゃんが空を見上げてつぶやく。
私も空を見るが、とんびがぴーひょろろ、と飛んでいる青空しか見えない。
……なんだろう、これ。
「イナリや、無事で私も安心しましたよ。そして帰蝶、信長や。イナリを保護してくれてありがとう。彼女のあるじとして感謝いたします」
「も、もったいなき御言葉……!!」
「イナリさまのあるじさま?うかさま?」
信長もお市ちゃんを降ろして跪いた。
え、えーと。なんだろう。私も跪いたほうが良い?
「の、ノッブ?イナリちゃん?何がどうなってるの?宇迦之御魂神さまがいるの?」
「えっ……見えんのかやきちょー?」
「アッハイ」
素直に頷く私を見てぎょっとするイナリちゃん。
すると天からも何か焦ったような声が聞こえた。
「え、見えないの?どうして?……ふんふん。えっわかんない?原因は調査中?いやいやそんな、ここ大事なとこでしょ私の神ムーブで帰蝶ちゃんも感動してイナリちゃんとさらに絆が深まるみたいな……えっ?えぇ~…ああ、まあはい。そうね。そうするしかないわよね。えっ?あーいや、締まらないなぁって思って……あーゴホン」
なんかスタッフとやり取りするような声が聞こえてくる。
トラブル起きた生放送のラジオみたいだ。
ともかく、なにやらむこうで話がついたらしく、気を取り直したのかやたらと威厳と慈愛に満ちた神様ボイスな宇迦さまの声が響く。
「えーと、何やら気の状況が悪いようで、帰蝶には私の姿が見えないようです」
そんな、電波の悪い中継じゃあるまいし……
「しょうがないので、イナリや。これを下賜しますので帰蝶に渡してあげてください」
そう言うと、何やらキラキラした光がイナリちゃんの手元に降り注ぎ。
光が消えた時、その手には左右のレンズが青と赤のセロハンなメガネ型の厚紙……要は3Dメガネにしか見えない何かが乗っていたのである。
「う、宇迦さま、これは!?」
「それをつければ帰蝶にも私の姿が見えるはずです」
えっあれかけるの?私一人だけ?
「いいから付けて!話が進まないし気がもったいないから!」
やたらと急かす宇迦さま。従量課金制だったりするのだろうか。
渋々かけると、空に光り輝く輪があり、その中にとてもきれいな女神様がいらっしゃった。3Dメガネのせいかやたらと立体的に見える。
某ドラマの勇者と同じ目にあってる私ではあるのだが。
少なくとも向こうより女神のビジュアルがいいのは救いか。
我姫ぞ?
宇迦さま「ヨ◯ヒコ。ヨシ◯コ~」みたいな話。
この作品はこんな感じで私が好き放題する物語です。
というわけで今回はここまで。
気に入ったのなら下の☆を押したらいいんじゃないかと思うわけで……




