第81話「太陽に吠えるしかないときもある」
土曜日なんで第81話。
説明回ですねぇ。
と、いうわけでイナリ教の信徒を迷宮に入れて資源集めを解禁し、2ヶ月がたった。
完全な新興宗教だから少数から始まるかと考えていたら思った以上に信徒が多かったのは誤算だった。
イナリちゃんは結構熱田の街をほっつき歩くので存在は知られているらしく、私の知らないところでちょくちょく術で人助けをしたりしていたので彼女を崇める者は多かったのだ。
そこに経済的な利点まで追加されたのでイナリ教は爆発的に信者を増やしている。
迷宮入口、つまりは旧熱田神宮跡地周辺を囲う土塀が完成し、その中に「イナリ教熱田社」という建物が急造され、そこでは各種素材を買取を行っている。
当日の買取価格が板書きされていてまるで株式市場のようだ。
現状、迷宮は1層目だけが信徒には解放されていて、2層目以降は兵だけが入れる。
それでも食い詰めた避難民や主家が滅んで逃げてきてそこで織田家に士官するほど心の整理が付いていない浪人者などには良い稼ぎ口なようだ。
その隣には織田家の迷宮前詰め所もあり、安定した就職先である兵の募集も常時行っている。
本業が無い人にはぜひ兵になってほしいものだ。
最初から迷宮に慣れててある程度レベルが上がった人材は即戦力なのだ。
ちなみに、レベルアップについては公表していない。
迷宮で活動するうちにだんだん強くなるので経験則的にはわかるだろうけど、織田家も知らない仕組みであるという体でいることで戦略資源である迷宮の存在を隠す意図がある。
当然他国者、特に今川の侵入には気を使っており、イナリ教の入信窓口にはニンジャが付いている。
人の良さそうなおっちゃんやおばちゃんだけど実はニンジャで、入信者の背景をかなりの精度で洗っているとか。
他国の間者は迷宮で行方不明になるのだ。すごく怖い。
比較的弱い魔物しか出ない迷宮とは言え、当然死者ゼロというわけにはいかないからね……
迷宮内で死ぬと、死体が魔物と同じくふっと消えてしまうのだ。
これは兵を入れたあたりでわかってたことなんだけどね。
噴出直後、信長が迷宮内で殿を務めた幼馴染たちの遺体を探すために迷宮に潜ってもその遺体が見つからなかったのはこれが原因だ。
あの話を聞いた時そうなんじゃないかなと思ったけど言えなかった。
改めてこの事実が発覚した時、信長は
「そうか」
とだけ言って、私に背を向けて空を眺めていた。
そして翌日。迷宮の隣に「友へ」と刻まれた大岩がいつのまにやら置かれていた。
もう少し落ち着いたら、ちゃんとした石碑と祠を建ててあげようと、そう思っている。
そんなこんなで迷宮は今日も大賑わいで、熱田神宮跡地は往時の賑わいをほぼ取り戻しつつある。
板塀内に入れるのは織田家関係者とイナリ教信者の迷宮進入許可をもらったものだけだけど、当然その周辺は彼らの稼ぎを当てにした商売が広がっている。
露店だらけでカオスなのでいっちょ区画整理して一定区画の販売権を売り出そうと信長と相談している。
迷宮で稼いだお金が市井に巡り、土地の使用権という形でまた織田家に戻ってくる。
無限ループって怖いしもうウハウハだ。
……まあ、お金があっても私が欲しいものはあんまりないんだけど。
私は着飾ることにはあんまり興味がないし。
まあ、私の欲しいものを作らせるための資金にさせてもらうとしよう。
「姫様、手が止まっていますよ」
おさきが咎める。
いいじゃないかちょっと物思いにふけったって!
「本日中に10通は書いてもらいませんと」
うわあああやめろやめろやめろ!
思い出させないでぇ!
頭を抱えてジタバタする私を白い目で見るおさき。
……何してるんだって?
手紙書いてるんだよぉ!!
土御門様がスカウトした各地の術者は全然来てくれない。
当然だよね、いきなり在所を捨てて尾張に来いって言われても来る人は居ない。
ほとんどはお断りのお返事で、良くて条件交渉のお返事が戻ってきただけだった。
なので尾張女子大学寮とかで講師をしてくれという就職の斡旋や給金などの条件面を明示したお手紙を新たに書いているのだ!
土御門様に書かせると権威を盾に上から目線の内容だし、私が条件面の補足をするハメに陥っている。
ニンジャの皆には郵便屋の真似をさせてすまんとしか言えない。
下っ端の訓練になるので良い経験だと久助は言ってくれているけども。
これはやっぱり郵便制度を確立すべきだと思う。
そんなことを考えながらひんひん泣いて手紙を書くのだ。
当然女子大学寮の授業も受けながらだ。
余暇がない!
迷宮で冒険者したい!
戦国時代に転生してファンタジーになったのにぃ!
こんな世の中に誰がしたぁ!
その日の夕方、なんとかお手紙を書き上げてグロッキー状態の私は、明日美濃に行っていた信長が久しぶりに熱田に帰ってくるという先触れを受けた。
うほほ、久しぶりに信長に会える!
イケメン成分が欠乏していたところでこの知らせは私を大いに奮い立たせた。
なんか美味しいものを作ってあげよう!
そうして信長を出迎えたら、信長は隣に信長の腰くらいの身長しか無いくせに筋骨隆々でヒゲモジャの、分厚くてところどころ綻んだ作務衣を着た小さいおっさんを伴っていた。
……どうしよう。ここってガチ目の異世界なんだろうか。
「お、おかえりノッブ。その、そちらは?」
「ああ、美濃に行ったときに出会ってな。飛騨山鍛冶衆の軍土だ」
「奥方殿か。飛騨山鍛冶衆、火腕の軍土だ」
「は、はあ」
……ドワーフがいる。
「三河童子を斬った刀を見せろと押しかけてきてな。折れた刀持ってるわけねえだろって言ったらじゃあついていくから見せろってな。
マムシ殿もほとほと困ってたらしくて押し付けられた」
……飛騨山鍛冶衆って。飛騨から避難してたんだろうか。あそこは魔境で魔物の巣窟なはず。
「奥方、三河童子を斬った刀はどこに?」
……やっぱりドワーフって武器に興味あるんだぁ。
「帰蝶?どうかしたか?」
「うわああああんもうやだこの世界!どうなってんのよぉおおおおお!?」
私は天に向かって吠えるしかなかったのであった。
ちょっと短め。
まあ、世界がファンタジーになったらドワーフぐらい湧いて出るわけですよ。
というわけで今回はここまで。
次回をお楽しみに。




