第80話「混ぜるな危険は大きく書いておこう」
水曜日なので第80話。
帰蝶ちゃん、ツッコミがおいつかない。みたいな話。
そんなわけで「イナリ教について頼みたいことがある」と信勝を呼び出したら案の定土御門様もついてきた。
土御門様とは手紙でやり取りするお約束をしたはずだけど、勝手についてきたものを追い返すわけにもいかない。
変人だけど官位持ちのお貴族様だし。
なんだろう、このままなし崩しにお約束が消滅するような予感がする。
「えーと、勘十郎さま?土御門様もご一緒だとは思いませんでした」
「イナリ様のおられる熱田に僕が参るのは当然のことです。それは同志たる土御門様も同じ事」
答えになっているようないないような事をいう信勝。
あと同志って言うな。
「私はイナリ教の名誉顧問ですから当然です本来同志勘十郎に誘われずとも参りたく思ってずっと準備していましたがなかなかお声がかからず本当に待ち望んでいたしなかなかあの愚物どもも来ないし涼風のヒゲをむしる練習をしていました」
相変わらずちょっと何言ってるかわかんない土御門様。
涼風様のヒゲをむしるなってイナリちゃんに言われてたろ練習するな。
あと、いい年した男が「ねー?」とばかりにお互いを見て頷くな気持ち悪い!
「はあ。まあわかりました。それでですね、頼みたいというのは迷宮のことなのです」
「「おお!迷宮!」」
ハモるな!仲いいなお前ら!
……いちいち反応するのも疲れるので無視して話を続けることにした。
結果として、イナリ教徒の迷宮投入については快諾してくれた。
レベルアップで魔物の脅威に立ち向かう力を得るのは教義に叶うものなので、ぜひやらせてくれと鼻息が荒い。
ドロップ品についてはイナリ教が買取所を設けて換金できる体制を整える。
勿論原資は織田家が出して、事実上織田家の買取所でもある。
……まさにヤクザのフロント企業だ。嫌だけどこの際使えるもんは何でも使う。
権威がポンコツ幼女神に集中してるので意味わからんテロ団体みたいにはならないと信じたい。
ともかく、民を迷宮に入れてレベルアップして魔物に備える道はできたと思う。
やたらと強い冒険者をどうするかはそういうのが出てから考えよう。
思ったよりあっさり話ができたので安堵していると、土御門様が「そうそう」となにかを思い出したように言った。
「濃姫殿、涼風の術を封じた箱が完成しましたぞ」
「えっ!?」
なんですと!?
いきなりの報告に虚を突かれた私は土御門様を止めるのを忘れてしまった。
「風を吹くというよりも冷気を込めた箱になりましてな込める気、ああ魔力でしたかとにかくそれを籠める事で中に霜が降り水も凍りつく箱となりましたまさに三河童子討伐で濃姫殿が使った術のような強力な冷気が込められた箱ですただ込める気の加減がなかなか難しくこれは涼風が加減を調べているところです迷宮鉄に呪文を刻むことで非常に気の通りが良くなりましてイナリ教徒が迷宮鉄を取らせれば数多の箱を作ることも可能でしょうあああの迷宮鉄とはなんと素晴らしいものか!おそらく晴明公もあのようなものを独自に探して多くの呪物を作ったに違いない気の通りが良いものが他にもあろうということで迷宮は不思議なものですな私もイチイナリ教徒として迷宮に潜り鍛錬をしたいとおもっ」
「まってまってまって!一気に喋らないで土御門様!」
イナリちゃんにそれやめろって言われたじゃん!
ああもう直接話す時はゆっくり喋ってって言うよう気を付けてたのに!
そんな重要な事思い出したように言わないでよ!
「お、おおそうでしたな。イナリさまにも注意されたのでした。
いやしかしまたあの猿轡の術を受けてみたい」
「なんと!同志土御門様はイナリ様のあの術をその身で受けたことが!?なんと羨ましい!」
「同志勘十郎はイナリ様の眠りの術をその身で受けたとか。そちらも羨望せざるを得ませんな」
「「そうだ!イナリ様に頼んで術をかけてもらおう!」」
「待った待った!止めておさき!」
こうしちゃいられねえとばかりに立ち上がって去ろうとする二人の裾をおさきが掴んだ。
そしてレベルアップした腕力で無理やり座らせて、大きなため息を付く。
グッジョブ脳筋娘。
帰蝶ちゃん今この時ほどレベルアップしてよかったと思ったことないよ。
「土御門様!魔導研究所の成果をお話しくださいまし!!」
「むう。濃姫殿が言うなら仕方あるまいか」
「義姉上、僕は行っても良いでしょう?」
「イナリちゃんはお昼寝中なので駄目です!」
「むう。それならばしょうがないか……」
はああ、ほんと疲れる!狂信者と変人陰陽師が合わさるとこんなに面倒な事になるとは!
「……それで、涼風の術を使える箱ができたとか?」
「それよ。木の箱の内側に呪文を刻んだ迷宮鉄を貼りましてな。冷やすだけであれば強風を起こす必要はありませんので、冷気を発し周辺の魔力を集める事で一度動かせばずっと冷えますぞ」
「……ずっと?水も凍る?」
「うむ。イナリ様からも晴明公が作った氷を作る箱の教えを受けましてな。晴明公のものと遜色ないものになったと自負しています」
「すごいすごい!さすが土御門様!」
餅は餅屋とはこのことだ!まさかこんなに早く作れるなんて!
……イナリちゃんから教えを受けたってところでギリリと嫉妬の表情を見せた信勝の事は無視しよう。
興奮しつつ、量産も可能か検討してほしいと伝えると、そう簡単ではないと言う。
各地にいる陰陽師が来てくれないとなかなか大量生産とは行かないようだ。
ただ文字を書けば良いってもんでもないらしいのだ。
「ですから、早いところ各地の術者を拉致してきてほしいのです。私は他の術も研究したいのでね。イナリ様の術とか」
拉致とか人聞きの悪いこと言わないでほしい。
……でも、この発明は兵站を変える。
悪名を被ってでもそれをする価値はあるかもしれない。
考え込んでいると、信勝が疑問の声を上げた。
「同志土御門様、陰陽師が喜ぶ褒美など、これというものはありますか?」
「うん?……私なら陰陽術の研究をできる事が一番であるが……そうさな、多くの者は金と名誉であろうな。嘆かわしいことではあるが」
「……義姉上、尾張女子大学寮に魔導研究所の講義を作っては?各地の陰陽師を講師として遇し、研究と並行させるのです」
冴えてるじゃん信勝!そっかそれなら!
「なるほど。今や尾張女子大学寮は山科殿も講師として務めるほどの名門。そこで講師となれば名誉と金が得られるな」
「……ただ研究のためというよりもよっぽど来やすいですね!流石です勘十郎殿!」
ただの変態狂信者だと思っててゴメン!さすがは信長の弟!
「尾張にまで来てイナリ様の神威を見ればイナリ教への入信はまず間違いないです。そうなれば魔導の研究もさらに捗りましょう。
……さすれば魔物の脅威もさらに退けられ、イナリ様への信心も高まるというもの」
ぐるぐる目で語る信勝。
有能だけど全てイナリ教の拡大のために見えて怖い。
織田家のためだと思っていいんだよね?
「素晴らしい!さすがは同志勘十郎!」
「いや、全てはイナリ様のため!」
「然り!然り!イナリ様の神威を知らしめるためですな!」
……織田家のためだと思っていいんだよね。不安になってきた。
大丈夫。謀反を起こしたりはしない。
というわけで今回はここまで。
また次回をお楽しみに。




