第77話「デウス・エクス・マキナもたまには便利かも」
火曜日なので第77話。
不定期連載でなんだかすいません。
あかんやらかした。
裏返った声で返事をした立ち上がろうとして盛大にすっ転んだ。
でっかい音が大広間に響いて家臣がざわつく。
ああもうどうしてこうなんだろ私ってば。
足がしびれてしまったのでしょうがないじゃないか、と声を大にして言いたいところだけど流石にこの場で言い募るわけにも行かない。
うう、正室として最初のお勤めなのに、なんでこうなっちゃうんだろう。
思えば前世でもそうだった。
前世の会社に突撃してきたヤクザに
「屋上へ行こうぜ……久しぶりにキレちまったよ……」
と言われてついて行ってボコして……違う違うこれはサラリーマン金◯郎の有名シーンだ。
そうではなくて、なんかやたらとうるさいクレーマーを私の塩対応スキルで撃退したので部署のみんなで飲みに行ったら盛大に酔っ払って、部長のかつらをむしり取って翌日始末書書く羽目になったり……。
いざという時についやらかしてしまう星の下に産まれてしまったのだろうか。
いや転生してまで同じ星のもとに産まれたとかなんかロマンチックだけど実態はやらかしの星だ。
どうせなら幸運の星が良かった。最強議論スレでも常連だったしねラッ◯ーマン。
そんなこんなで現実逃避をしつつ顔を上げられない私であった。
で、でもこういうときこそマイダーリン♡信長がなんかそれっぽいフォローをしてくれるはず……
いかん、信長がフォローに困っている空気を感じる。
こういう空気を読む能力だけはあるんだよね私。
ぐぬぬ信長を困らせるわけには……!でも足がしびれて動けない!
というかレベルアップしても足が痺れなくなったりしないのかな!?ほんと意味わかんないよこの世界!
ぬおおおお姫ムーブ特訓を思い出せ!あのつらい日々をこなしたのはこのときのため!
こういう時は何事もなかったかのように立ち上がって……!!
と気合いを入れようとしたら誰かが私の足をツンツンしやがる!
「あばばばば!つ、ツンツンしないでぇ!だ、誰ぇ!?」
「きちょーは面白いのじゃー」
イナリちゃんだった。
なんでここに神様が!?
「きちょーの足がしびれたらわらわがつつく。そういうものであろ?」
大変可愛らしくにっこりと言ってのけてくれるが、遺憾ながらそういう制度を制定した覚えは無い。
「ちょ、ちょっと待ってぇ!今大事な所だからぁ!」
「きちょーと遊ぶのがわらわにとっては大事なことなのじゃ」
「い、イナリちゃん周りを見て!いま大事な論功行賞式の途中だからぁ!」
「……むむ。そう言えばそうじゃったな。ノッブ、わらわときちょーは気にせず続けてよいのじゃぞ?」
「いや、今私の出番なのよぉ……」
とまぁ、厳粛な式の途中で突然コントみたいな真似を始めた私とイナリちゃんを見て
「無礼な!」
「美濃の山猿の娘など送り返せ!」
「あの面妖な小娘はなんだ!?魔物か?」
「濃姫様は魔物を飼っておられるのか?」
などと、家臣が騒ぎ始める。
主に今回報奨無しの人々だけど。
ちょっと顔を上げて見ると慶次とおさきが周囲の仲間に押さえつけられてるのが見える。
いや、ここで暴れたら余計にややこしくなるからそのまま抑えてて!
ついでに見ると、信勝は勝家に、土御門様は涼風様に抑えられてる。
君等もか。狂信者すぎん?
しかしイナリちゃんの存在を知らないとはモグリも良いところだ。
本願寺も来てるくらいイナリちゃんの存在は水面下で噂になってるのに。
政治的なポーズの可能性もあるけど……ここで公言するのは自分が無能だと宣言するようなものだろう。
……とはいえ、今やらかしてしまったのは私で……
うう、まさかこんな土壇場でこんなやらかしをしでかすとは。
イナリちゃんにしびれた足を突かれて悶絶しつつ、私は自己嫌悪に陥った……とその時、
「静まれぇい!」
信長の大喝が城中に響く。
うおお、多分これまた魔力が乗ってるよねこの声。
イナリちゃんも
「ほほぉ!さすがノッブじゃ!」
と何やら嬉しそう。
ともかく、信長の声で一気に静まり返る。
そして私の側に寄り、手を出してニッと笑った。
「帰蝶、立てるか?」
「は、はい……」
信長の手を取って立ち上がる。
イナリちゃんつつけなくなったからって不満そうにしないの!
と、信長はイナリちゃんへも手を差し伸べ、
「イナリ様も、こちらへ」
と招く。
キョトンとしつつイナリちゃんも近づいてきて、一段上がった上座には信長、私、イナリちゃんの3名が立ち上がっている状態になった。
「皆も知っておると思うが、これなるは京は伏見の稲荷大社より参られたイナリ様である!
イナリ様は宇迦之御魂神様のご眷属であらせられ、故あって熱田を訪れていた折、今回の騒動に巻き込まれた」
急に信長の説明が始まった。
あ、そうか。さっき話したイナリちゃん教をぶち上げるターンか!
ぽかんとしてた私は(聖女!私は聖女!)と自分に言い聞かせながらおすまし顔を作る。
「イナリ様は邪悪なる魔物の手によって熱田迷宮に囚われていたのだ。しかしその神通力である女子に助けを求めた。
……そう、それが帰蝶であった」
おお、とどよめきが起こる。
信勝がなんか泣いてる。正直気持ち悪い。
「そうなのかえ?」
イナリちゃんが私を見あげてつぶやくので
「ごめんイナリちゃんそういう事にしといて!」
と小声で伝える。楽しそうに頷いたのでわかってくれたんだろう。
「イナリ様の不思議な術でその声を聞いた帰蝶は、女だてらに迷宮に潜り、見事にこれを救出した。以後、帰蝶はイナリ様の巫女としてその知恵を授かり、この尾張に多くの恵みをもたらしている」
ほぉー、という声が響く。
庭にいる慶次はうんうんと頷いているし、おさきは白い目だ。
私が言ってるんじゃないから!文句なら信長に言ってほしい!
……土御門様がすごい悔しそうに歯ぎしりしてる。怖いんでやめてもらっていいですか。
「その恵みの一つが……尾張女子大学寮である。
これは、魔物の噴出という未知の脅威に対抗するため、後方におる女子もまた魔物に抗する力を手にせねばならぬというイナリ様のお告げによるものだ。
つまりは神意である!
そして、先の三河魔境の戦でも本陣を奇襲した三河童子一党に対して、女子の身でありながら一歩も引かず、最後まで戦い抜いた。
これを賞せぬのは、織田の当主としてありえぬことと俺は思うが、貴様らはどう思うか!」
「おう!」とか「そのとおり!」とかの声が響く。
今回報奨を受けた、迷宮でレベルアップした人たちだね。
……うーん、なんだか前世の国会中継見てるみたいな気分だ。
いや、壇上に立ってるのは私なんだけど。
「さらに!凍りついた三河童子の首と体を見た者もいよう。あれはな……」
えっ、それ今言っちゃうの?秘匿しとくんじゃ……?
あれ、魔導については広めることにしたからいいんだっけか?
お手紙対応ばっかりしてたものだから記憶があやふやだ。
「何を隠そう、帰蝶がイナリ様より授けられた加護による奇跡なのだ。
よいか、イナリ様のお力であのような人知を超えた事が起こる!
これこそまさに神のお力である!」
うおおお!となんだか高揚した声が上がる。
当然一番でかい声は信勝で、同じくらいでかい声を出してるのが土御門様。
土御門様は山科様の隣に座ってるけど、山科様がドン引きしてるのが見える。
なんかすいません。
「と、いうわけで今後の尾張はイナリ様のご加護と「魔物を討て」とのお告げに従い、魔物との戦いに突き進むこととする!
女子もまた、女子大学寮で魔物と戦うための鍛錬を行う。
我ら男もまた鍛錬を重ね、後顧の憂いなく魔物に立ち向かうのだ!よいな!」
ははっ!!と大きな声が上がり、多くの者が頭を下げる。
天皇陛下と神様がダブルで魔物を討てってんだからそりゃそうなるよね。
なんだか不満そうにきょろきょろした人もいるけど、信秀も頭を下げてるのを見て、慌てて下げる。
うつけな信長が言った適当なアドリブじゃなくて織田家としての統一見解として認識したってことだろうね。
いや、実際勢いでなんとかしたような気もするけど、これで予定してた論功行賞は終わりだね。
せっかくなんで最後にイナリちゃんからなにかありがたい訓示をもらえるかなぁ、幼女だから無理かなぁ、とか思ってイナリちゃんに声をかけようとした時、広間の外から「お待ちください!」「ええい離さぬか!仏罰が下るぞ!」とかいう喧騒が聞こえてきた。
なんだか嫌な予感がする。私はこういうの詳しいんだ。
いったい何願寺なんだ……?
というわけで今回はここまで。
また次回をお楽しみに。




