第73話「尾張生まれの江戸っ子」
木曜日なので第73話。
忙しくて間が空いてすいません。
大広間からちょっと離れた織田家の私室で、私は代替わりしたばかりの新旧当主の会談に立ち会っている。
大広間から論功行賞式への会場転換の喧騒が遠く聞こえてくる。
急に「魔物追討使」なる前例無視しまくった臨時官職に任命された信長はとても不機嫌そうだ。
あんなに立派に演説打ったけど、やっぱサプライズは気に入らなかったらしい。
対して信秀はまるで柳に風、ともばかりにひょうひょうとしたもんだ。
「んで、なんで黙ってたんだ親父」
「いやな、そのほうがおもしれえかなって思ってよ」
そこは打ち合わせしとこうよ信秀……
「それに、誰も聞いたことない臨時官職だぜ。おめえも一緒にびっくりして、それでもきちんと言葉を出せたら、口うるせえ野郎どももおめえに一目置くだろ、ってな。
ま、賭けだ賭け。知っての通り、俺は博打にゃめっぽう強いんだ」
「知らねえよ!頭真っ白で何言ったかなんて覚えてねえわ!」
「えっと、とっっってもかっこよかったよノッブ!」
「帰蝶ちゃんもそう思うかい?なら俺っちの博打は今日も大当たりだったわけよ!」
あんまり話したことなかったけど、こんな感じの人なんだ信秀。
なんでべらんめえ口調なんだろ。
信長もところどころべらんめえ口調になるんだけど、信秀の影響なのかな。
いや、ここ名古屋だよね?江戸じゃないはず。
あれ、私の認識間違ってる?実は尾張は江戸だった?
「はぁ……まあいいよ。んで、前から話してたとおりこっからは俺が仕切るでいいんだな?」
「あったぼうよ。てめぇのガキに家督譲ってからしゃしゃり出るような野暮な真似できるかってんだい」
「そうか。……お疲れ様でした、父上。尾張の事は、任せろ」
「おう。しっかり頼むぜ、三郎。いやーこれで肩の荷が降りるってもんだ!よかったよかった!」
心底嬉しそうに笑う信秀に顔をしかめた信長が苦言を呈する。
「楽隠居はさせねえぞ。レベルアップで体も治って元気だってのは知ってるぜ」
「おいおいおい、いい加減忙しく働いた親父を労ろうって気にはならんのかねえ。
この親不孝もんが!帰蝶ちゃんもなんか言ってやって!」
急に私に振らないでほしい。
いうてもまだ信秀は40歳。平均寿命の短い戦国時代でも老け込むような年じゃないよね。父ちゃん(マムシ)よりもずっと若い。
迷宮には入ってないけど、尾張の魔物平定である程度レベルアップしてるしとても元気そうだ。
「ええと、義父さまは、まだお若いのですから……未熟な私たちをご指導いただけると助かります……」
「そうかい?帰蝶ちゃんにそう言われちまっちゃあもうひと踏ん張りしなきゃなんねえのかねえ」
「老け込むような年でもねえだろ。また弟か妹ができたって聞いてるぞ」
「えっ」
「そりゃあおめえ、バケモン退治してたら元気になっちまったんだもの。いっちょやってやろうって気にもなるってもんだ」
史実でも子沢山な織田信秀はこっちでもそうらしい。
織田家多すぎ問題は大体この人のせいである。信長以外パッとしない奴が多いなとかはもう思ってないよ。ホントだよ。
「帰蝶ちゃんがもう少し大きくなるまで子作りはしねえんだろ。だったら俺が代わりに織田家を増やしとかにゃなんねえしな!硬いこと言うな!」
「ええと、それは。……なんかすいません義父さま」
「いやいや、そりゃ当然だ。13~4のガキがガキ産んでどうすんだって。
帰蝶ちゃんが言ってくれて助かったぜ。
おかしいってずっと言ってたんだけどな、誰も聞いちゃくれねえしよ」
「そういや親父の側室は結構年増ばっかりだな」
「年増じゃねえよ。妙齢って言え。俺ぁガキにゃ興味ねえっつってんのによ」
なんか変な人だなぁ。どうもこの時代の武将とは思えない考え方だ。
野蛮ではあるんだけど、どこか通ずるところがあるというか……
なんだか不思議な感じに首を傾げていると、姿勢を正した信秀が私に向かって言った。
「さて、帰蝶ちゃん。君のお陰で尾張はなんとかなった。
……魔物が現れて、にっちもさっちも行かなくなったこの日本をどうしたらいいか、俺にはどうしてもわからなかった。
これからも大変だと思うが、三郎と二人で頑張ってほしい」
……どうしてこの人はそんなに私に期待してくれてるんだろう。
思えば最初からそうだった。敵対してた美濃から輿入れしてきて、取り乱すわ酒のんで倒れるわ熱田で勝手を始めるわ……どう考えてもおかしな嫁なのに、なぜか信秀は私に好きにさせてくれた。
普通の武士ならありえないことだと思う。
信長のパパだから?とかも思ったけど……どうもおかしい。
まあ、考えてもわかんないのでさっさと聞いてしまえ!
「承りました。
……あの、義父さまはどうしてこれまでも私のような得体のしれない女に自由にさせてくれたんですか?
その、自分で言うのもなんですが前世があるとか、そうそう信じられることではないはずで……」
私の言葉を聞いた信秀は、「あー」と呟いて頬をかき、信長をみて「いいか?」と聞いた。
信長は頷く。
一体なんだろう。
「これぁ三郎にしか話してねえんだがな。
……俺も帰蝶ちゃんと同じなんだよ」
「えっ!?」
「多分帰蝶ちゃんが来た時より前から何だけどな。俺ぁ昭和32年に死んだと思ったらここに生まれてたんだ」
「昭和……!!?」
はあああああぁ!?
なにそれ信秀が転生者!?
昭和32年からってマジで!?
昭和32年て何があったっけ!?
……うーんわからん!昭和史に興味が無い系歴女だったんで!
「俺ぁ東京は浅草の建具職人でな。歴史なんざ尋常小学校で習ったっきりで、この時代のことなんざ豊臣秀吉が太閤になったとか、関ヶ原で徳川家康が勝って幕府開いたとか、そんくらいしか知らねえんだよな。
全くまいったもんだ」
「東京の、浅草……」
「それが戦国時代の御殿様だぜ。
意味がわからんが、戦はなんとかなった。陸軍で習ったことが役に立ったんだが……」
あ、そうか。いくつで亡くなったのかは知らないけど、結構いい年だったなら第二次世界大戦に従軍しててもおかしくない。
当時の陸軍の教育は戦国時代とかの戦史も研究した結果だったはず。そういう意味ではある意味最新の知見を持ってたんだろうか。
「え、ええと。義父さまは軍人さんだったんですか?自衛隊の方?」
「建具職人だって言っただろ。
兵隊に取られて兵学校で勉強させられたんだよ。
とにかく殴られまくったがまあ職人も似たようなもんだったからなぁ……
ああいやそれはまあいい。とにかく人間相手ならなんとかする自信がある。
だけども魔物どもはどうにもならん。ありゃあ俺の手にゃ負えねえ」
……私にもどうしようもないんですけど……
「ありゃあ駄目だ。陸軍で使った鉄砲やら戦車やらあってもなんとかできる気がしねえ。
いや、子鬼や大鬼は殺せるんだろうな。だが将鬼は駄目だ。あれは戦車でも殺せる気がしねえ。
そして今この時は火縄銃もねえと来たもんだ。どうすりゃいいんだよ」
あー……第二次世界大戦に従軍経験のある人でもそう思うんだ。
私の知ってる、自衛隊が使うような戦車ならなんとかなるような気はするけど。
日本軍が使ってた戦車はへっぽこだったらしいし、そういう考えになるのもわからんでもない。
私がちょっと納得している中、信秀は続ける。
「ともかく、意味わかんねえし見たこともないバケモンは現れるわ、そいつらぶっ殺しまくってた三郎はやたらと腕っぷし強くなりやがるわ、もうどうしたもんかと思ってるうちにお前さんが輿入れしてきた。
報告聞いてたらどうも三郎みてえなうつけ者かと思ったんだが……」
それは、その。なんかすいません。
「帰蝶ちゃん、君が口走った「最強無敵ロボ軍団」てのがな、とにかく引っかかった。
……こいつ、もしかして俺と同じか?ってな」
「あ、それは……」
輿入れの時信長に助けられたあと、そんな事口走った覚えがある。
いや、作れるわけ無いけどね!
「その後、三郎から聞いた帰蝶ちゃんの話を聞いて思った。
こいつぁ、俺より後の時代から来た、バケモンへの対抗手段をなんか思いつける奴だってな。
……だから、任せることにした。そして結果が出た。覚悟も見た。
じゃあ任せるしかねえわな!」
がっはっはっと笑う信秀。
私も信長も思わず苦笑い。
「親父な、帰蝶が親父や母さんに萎縮して意見言えなくなると困るってんでなるべく近づかないようにしてたんだとさ。
俺ももっともだと思ったから黙ってたけどよ」
ほええ、私の思いつきを自由に実行させてくれたのはそんな理由があったのかぁ。
うん?「最強無敵ロボ軍団」に反応って、従軍経験のある昭和32年没のおっさん(おっさんとは言っていない)が?
これはつまり……
「あの、義父さま、つかぬことをお聞きしますけど……」
「ん、なんでぇ帰蝶ちゃん?」
「義父さま、鉄腕ア◯ムとかご存知です?」
「おう!ありゃあおもしれえ劇画だな。孫が読んでたのを取り上げて読んでたもんさ!なんだ帰蝶ちゃん、あれ知ってんのか!?」
やっぱり!昭和のオタクみたいなもんじゃんこの人!
転生者だからって簡単に天下統一できたりはしません。
歴史知識がなければなおさら。
というわけで今回はここまで。
ポイントブクマ感想等々お待ちしてますのでシモポ先生にどしどし応援のお手紙を送ろう(昭和感)




