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(第1部完結)信長公斬魔録~転生帰蝶ちゃんは急にダークファンタジー死にゲーみたいになった戦国日本をナーロッパにしたい~  作者: simopo
第2部 「ナーロッパってこうだったっけ」

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73/90

第70話「弱ったときの神頼みとは言うけれど」

月曜日なので第70話。



 なんかうまいこと言いくるめたような気もしない密談を経て、担いでみたいと言い出した犬千代君の手で勝家を客間に放り込ませてその日はとっとと寝た。

 女のおさきや子供の犬千代君に軽々運ばれた勝家はもう何が何やらという顔をしてたけど、これがレベルアップの効果だと言ったら呆然としてたのでまあなんとか折り合いをつけてもらいたい。

 

 翌朝、早朝に起きた私は相変わらず土御門様のお手紙や追加で届いた商家などの手紙の処理をしながら、五月雨式に現れる正月の挨拶の対応を続けていた。

 三河魔境討伐の話が各地に広まっているからか、「今頼光」である信長ノッブの庇護を受けて熱田に出店したいとか言う手紙が増えているのだ。

 私は美濃出身なので主に美濃方面の商家が多い。

 大体が父ちゃん(マムシ)の知り合いだ。

 父ちゃん(マムシ)の父ちゃん(要は爺さん)はどっかで油売りしてたらしいので案外商家の知り合いは多い。

 この時代は縁故社会なので伝手やコネはフル活用するものなのだ。

 とはいえクソ忙しいので今じゃ無くても良いと思う。


 せっかく姫様になってもブラック労働から逃げられないなんて、なんだろう、私は何か大罪でも犯したんだろうか。前前前世とかで。

 よく考えたら前世もブラック臭強めの職場だったけど、さすがに正月は休んでた気がする。

 今の方がブラックってどういうことよ。我姫ぞ?


 半泣きになりながらお仕事していると、信勝カッツが目覚めたと知らせが来た。

 お腹空いてるだろうし消化に良い味噌煮込みうどんを用意させて、彼の寝かされてる部屋へお見舞いに向かう。


 また味噌煮込みうどんかって?しょうがないじゃんお出汁の材料が少ないんだから。

 転生チート名物椎茸栽培は実験中だし、そもそも山は魔物がたまにうろついてて危ないんだよ。

 そのへんの農民に山中で探させるわけにも行かないんだよね。

 生き残った農民は集団で山に入ることでなんとかしてる状況だ。

 こう言ったらアレだけど、人口減ったおかげでこんなもんでも回ってる状況だ。

 ダンジョンから干し椎茸とか出ないかな。お出汁のもとが手に入りにくすぎてお料理の幅がなかなか広がらないんだよね。


 そんな事考えながら信勝カッツの部屋に付くと、体を起こした信勝カッツ信長ノッブと話しているところだった。

 信勝カッツは私に気づくと


 「ああ、義姉上。此度は大変お世話になりました」


 と儚げに微笑む。

 まだあの世へのヒッチハイク継続中みたいな顔だけど、心なしか顔色は改善しているようだった。

 やはりよく眠るに限る。彼はまだ若いので回復力も高いはずだし。

 ……なんか私がずいぶん年上のような言い草だけど、私と同年代だよ!

 前世も含めりゃ孫みたいな年だと?

 いいだろう買おうじゃないかその喧嘩!

 

 脳内議会で乱闘が起こっている中(この間0.5秒)、信長ノッブも言う。


 「おお、帰蝶か。勘十郎は昨日に比べりゃましみてえだ。まあ座れよ。ちと話そう」


 「ええ。勘十郎さま、お加減が良さそうで結構なことですわ」


 「ああ。やはりよく眠れたのが良いんだろう。イナリさまさまだな」


 腕組みした信長ノッブがうんうんと頷く。

 イナリちゃんの術はほんとよく眠れるからね。

 頼りすぎたら後でえらい目に会うかもだけど。

 とりあえずよく眠れる術は土御門様に再現してもらいたい術の上位ではある。

 メンタルケアや、もっというと麻酔の代わりになるかもしれないし。

 再び余所事を考えながら信勝カッツの顔を見ると、なんだか小刻みに震えて顔色が悪くなっている。


 「あの、勘十郎様?大丈夫ですか?」


 「い、イナリというと、昨日現れたおぞましい尻尾と獣の耳を持った魔物……でございますか?」


 「お、おう。大丈夫か勘十郎?」


 「お、落ち着いてくださいまし勘十郎様。ここは安全ですよ?」


 「兄上も、義姉上も、な、なぜ、なぜ平気なのです?あ、あの、あのようなおぞましき……僕は、僕は恐ろしくて、恐ろしくて……」


 こりゃいかん。どうもイナリちゃんを魔物と勘違いしたままのようだ。それがトラウマを刺激してプルプル震えている。

 このままではイナリちゃんセラピー(よく眠れる術で睡眠確保)が成立しなくなってしまう。

 イナリちゃんなら姿隠して眠らせたりもできるんだろうけど、根本的な解決にはならない。なんとか納得させなきゃ。

 私と信長ノッブは視線を合わせて頷く。

 うん!これは夫婦として通じ合った証拠だ。

 信長ノッブがイナリちゃんのことを説明して納得させる流れだ。

 私たちくらいの信頼関係ならばアイコンタクトくらい朝飯前なのだ。

 

 「か、勘十郎!それは置いといて飯にしよう!帰蝶の料理はうまいぞ!」


 違う、そうじゃない!

 いやご飯食べて落ち着くのは大事ではあるけども!!

 それより今イナリちゃん来たらまたパニックになっちゃうでしょ!

 私は信長ノッブの肩をペシペシ叩いて囁く。


 「違うよノッブ!イナリちゃんの誤解を解かなきゃ!」


 「うん?あ、ああそうだな?だが何ていや良いんだ?」


 ああそうだ、信長ノッブは優しいけどあんまり口が回る方でもない!

 しゃあない、ここは私が!


 「ええと、勘十郎さま?あの方はイナリ様と言いまして、神様なのです」


 「か、紙?」


 なんかイントネーションが違うけどまあ良いや押し通れ!


 「そう、神です!とても良い神で、京から来ているのを織田にとどまってもらって、様々な助言をいただいているのです」


 「きょ、京から……?」


 「えーと、京は伏見の稲荷大社の祭神、宇迦之御魂神さまのご眷属で、たまたま熱田におられたのをお引き止めして、魔物の脅威に対抗する知恵を授けてもらっているのです」


 「伏見の稲荷大社……宇迦之御魂神様……なるほど……?」


 信勝カッツはキョトンとしてるけど震えは止まりつつある。予想もしなかった話なので飲み込むのに時間がかかっているのだろうか。

 ここは畳み掛けるべきだ!くらえ!


 「勘十郎さま。この世はなぜか悪しき魔物がはびこる巷と化してしまいましたが、私たちを守ってきた神威もまた其のお姿を現されているのです。

 ……あまり恐れる必要は、ないのかもしれませんよ?」


 「神威……」


 「特にイナリちゃ、イナリ様はとても平和で穏やかなお方。きっと貴方も助けてくれます」


 「まさか、昨日僕がよく眠れたのは……」


 「その、イナリ様の神通力でお眠りいただきました。私の侍女も先日の戦で傷を負い、眠れぬ日々を過ごしていましたので……」


 「神通力……あの心地よき眠りは、神の恩寵……?

 幼き頃、母に抱かれて眠っていたような、いや、それ以上の……」


 なんかうつむいてブツブツ言ってるけど、なんだか元気になってきたようで何より。

 

 「そういうわけで、今後しばらくはイナリ様に術をかけていただいてよく眠り、療養に努めてください。それで良いんだよね、ノッブ?」


 「ああ。今はすべて忘れて休め。そして体を癒して、俺を助けてくれよ、勘十郎」


 おお、うまく締めてくれたねノッブ。

 唐突な頼れるお兄ちゃんムーブで私はノックアウト寸前である。しゅきぃ♡

 しかし、うつむいたままの信勝カッツはうつむいて何やらブツブツ言っているだけだ。

 まだ早かったのかな?

 いやでも安心して療養にあたってもらえるよう伝えるのは早い方が良いだろうし……?

 

 「そういうわけで、よく休んでくださいね、勘十郎さま……勘十郎さま?」


 声かけたら返事しなさいよ。

 昨日の勝家もそうだったな。

 主従はよく似るとか言うし、そういうもんなのかな。

 しかしせっかくの知的イケメンなのであのむさ苦しいヒゲは似ないでほしい。

 いやいやそんなことよりなんか様子がおかしいぞ?と思ったら、信勝カッツは急に立ち上がり


 「僕は天啓を得た!」


 と叫んだ。とてもうるさい。


 「か、勘十郎?急にどうした?」


 「兄上!昨日僕は出家したいと言いましたね!あれは嘘です!」


 「お、おう」


 「僕はイナリ様にお仕えするために産まれてきたのです!」


 「はぁ?」


 「なので、僕はイナリ様にお仕えします!」


 いきなりなんか言い出したぞこいつ!?

 目を丸くして眺めていると、信勝カッツはイナリちゃんを称える言葉をつぶやきながら膝立ちになって両手を天井に掲げている。

 俗に言うプラ◯ーンのポーズである。

 恍惚とした顔で涙を流しながらイナリちゃんを称え、感謝の言葉をまるで呪文か何かのように吐き続けている。

 多少寝たとはいえ青白い顔の病人なのでたいそう気持ち悪い。


 「お、おい勘十郎?落ち着けよ、いきなりどうしたんだ。何だイナリに仕えるって確かにあいつは女神だがただの子供で……」


 信長ノッブが言うと、ぐりんと顔を向けて


 「兄上!いくら兄上でも聞き流せませんよ!イナリ様は苦しむ哀れな我等人の子を憐れんでご降臨された慈悲深き女神です!それをなんですか子供だなどと!」


 とか言い出す。目がぐるぐるしてて怖い!

 やばいよ!何かに目覚めてしまったっぽい!

 心が弱ったところに神とか言って心のスキマを埋めてしまったのだろうか!?

 アカン、新興宗教の勧誘みたいな真似をしてしまった!!

 

 「ど、どうしよノッブ、良かれと思って伝えたイナリちゃんの神情報が変なところに入っちゃったみたい!」


 「な、なんとかなんねえのか帰蝶!」


 「義姉上!イナリ様をご紹介していただき感謝しかありません!僕は、僕は今猛烈に感動しています!ああ、魔物との戦に苦しんだ日々はイナリ様と出会うための修業の日々であったのですね!ああ、ああ!そうですとも!すべての民がイナリ様に帰依すれば世は平和に!!こうしてはいられません今すぐイナリ様にふさわしい社の建立を進めなくては!」


 「ええい落ち着け勘十郎!」


 「勘十郎さま!あなた疲れてるのよ!……いかん寝かせなきゃ!誰か!誰かイナリちゃん呼んでぇ!」


 「おお義姉上、イナリ様を呼びつけるなど不敬でございますぞ!この織田勘十郎信勝!今すぐイナリ様の下へ馳せ参じますぞぉ!!」


 必要な情報を伝えたつもりなのに狂信者を誕生させてしまった!

 これ私が悪いの!?こんなの予想できるわけ無いじゃん!


 だから私は悪くない、と思う!



信勝、覚醒の巻。


というわけで今回はここまで。

また次回をお楽しみに。


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