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(第1部完結)信長公斬魔録~転生帰蝶ちゃんは急にダークファンタジー死にゲーみたいになった戦国日本をナーロッパにしたい~  作者: simopo
第2部 「ナーロッパってこうだったっけ」

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第69話「自称不忠者の慟哭」

土曜日なので第69話。



 那古屋城の台所のそばに4畳半ほどの板間がある。

 もともと料理人が休憩に使っていたものだったけど、今は私が試作料理の試食をしたり料理教室の際の控室として使っている。戸を開けると台所に出られるのでとても便利なのだ。

 こぢんまりとしたちゃぶ台と簡単な食器棚があるだけの簡素な部屋だ。

 今度私専用の料理屋敷を作ろうと信長ノッブが言ってるけど、そこまで大げさにしなくてもいいような気がする。

 なので余裕ができたらね、と言って止めている。


 その小部屋に勝家を放り込み、台所に食べ物を頼んだ。

 宴会料理の残りの賄いを食べてた料理人たちには悪いけどね。

 勝家はちゃぶ台の向こう側で大きな体を縮こまらせている。


 「柴田様、すぐお食事が来ますからね。お話はそれを食べてからです」


 「……しかし、某は……」


 「食べなさいね。私の自信作もありますので」


 「……濃姫様が手ずからお料理をなされたのですか」


 「私は作り方を教えただけです。聞いたことありません?帰蝶料理って」


 「噂程度には……」


 「私もこれほど早く広まるとは思わなかったのですけどね。皆様美味しいと言っていただけてありがたいことです……ああ、来ましたね。さ、お上がりなさい」


 「これは……」


 ぱぱっと作れるもの、ということで運ばれてきたのは味噌煮込みうどんであった。

 名古屋ならこれっしょ!小麦粉増産するならうどん作るしかない!ということで作り方を伝授したのだ。

 

 「これは、いったい?」


 「うどんといいます。小麦を練って麺にしたものですね。これをお味噌で煮込んだものです。柔らかくてあったまって、冷えた体には良いでしょう」


 「麺……切り麦でございますか。食すのは初めてです。…いただきます」


 ほほお、この時代の麺、切り麦を知ってるのかぁ。

 さすが柴田勝家。鬼柴田とか、かかれ柴田なんて言われてるので脳筋に思われがちだけど、思慮深い教養人でもあったとか言われてるのは正しかったようだ。

 そう、この時代麺類がほとんど知られてない。

 京や堺あたりの大都会で上流階級の中で密かに知られてる程度なんだよね。

 小麦粉とか作るための石臼がいまいち普及してないせいなんだけども。

 石臼にできる丈夫な石の産地が限られてるし、街道も整備されてなければ輸送も人力(良くて牛馬)なんで流通がゴミクズなのでしょうがないのだ。


 小部屋に勝家が静かに味噌煮込みうどんを食べる音が響く。

 さすが教養人だけあってその所作は実にきれいだ。上級武士だからね。

 その割にヒゲがむさ苦しいのはどうかと思うけど。

 ヒゲと堀の深い顔のせいで勘違いしてたけど、まだ結構若いね。

 30手前くらいだ。頑固親父とか言ってすまん。


 私とおさきは白湯をすすりながらそれを眺めている。

 ……眠くなってきたなぁ。めんどくさいしもう明日でもいいかな。

 とか思ってると大きな足音を立てて信長ノッブがやってきた。

 そういや犬千代くんに呼んでくれと頼んでたんだった。


 「どうした帰蝶?何かあったか?……権六?なぜここに」


 お酒飲んでたからか少し顔が赤い信長ノッブは静かにうどんを食べる勝家を見て眉をひそめる。

 信長ノッブは下戸、とか言われてるけど、私は信長ノッブが酔ってるのを見たことがない。

 以前は弱かったけど、最近は全然酔わないと言っていたので多分レベルアップの恩恵だ。実はこれ密かに問題なんだよね。熱田でのお酒の消費量が結構すごいことになってるらしい。

 レベルアップした兵はなかなか酔わずに量を飲めてしまうらしい。

 この時代の安酒ってあんまり度数が高くないから、強いお酒を開発しなきゃいけないかもしれない。

 ……いや、お酒の作り方は流石に知らないんだけど。どうしよう。

 前世でみた朝ドラでウイスキー作りに情熱燃やした日本人の話があったけど、こんなことならもっと真面目に見とくんだったな。

 朝ドラでウイスキーの作り方わかるわけ無いか。

 あ、そう言えば焼酎はもう作られてるはず。

 この時期の九州のお寺の建設に携わった職人が「施主が焼酎飲ませねえ」とか愚痴を書いてたはず。

 なるほどなるほど、焼酎があるならお酒問題はなんとかなるかもね。

 職人を集めないと!

 

 ……いかんいかん、すぐ余所事を考えるのは私の悪い癖だ。

 信長ノッブに状況を説明しないと。


 「……柴田様が朝からずっと庭で土下座してましたのを見つけまして、あまりに不憫でお食事を振る舞って温まってもらおうと」


 「そうか、すまん権六、忘れてた」


 「いえ、某が勝手をしていたまでのことでして」


 いつの間にか食べ終えていた勝家は正座して信長ノッブに相対している。

 でも忘れてたってストレートに言うのはどうかと思うの。

 いや弟が病気で寝込んで正月儀式も進行してる中で忘れちゃったのはしょうがないけども。


 「……しかし、宴にも出ずに庭で土下座するのもどうかと思うぜ」


 「勘十郎様の不調を見過ごし、失態を犯させてしまった某が宴になど。

 殿(信秀)にも合わす顔がございませぬ」


 「……そうか。権六の気持ちはわかった」


 「その、某などが聞いて良いものかもわかりませぬが、勘十郎様のご容態は……?」


 「心配するなぐっすり眠っている。あいつの身の振り方は今後話し合うが、今はとにかく休養が必要だ」


 「……勘十郎様は、魔物との戦が始まって以来、あまり眠れずにいたようでございました。

 しかし織田家の男子として強き武将となってもらいたい一心で、某は勘十郎様の苦心を軽視し……ときに厳しく叱責したこともございました。

 三郎様……某の不忠、如何様な罰も受ける所存でございまする」


 ううむ柴田勝家、この人脳筋じゃないね。

 メンタルケアの重要性を認識してるっぽい。

 ああ、だから史実で彼をあれだけ慕った者が多かったのだろう。

 名将ってのは戦術眼が優れていればなれるってものでもない。

 人身掌握に長けてないと人はついていかない。

 現代で体系化された技術は経験則の集大成が多いけど、戦場でのメンタルケアもまさにそれだ。

 色んな形があるけれど、普段から兵を使い捨てにする者が、重要局面で兵に死ねと言っても逆に殺されるのがオチだ。

 この人は経験則的に兵を大事にする事ができる人なんだろう。


 「権六、謝る必要はない。お前は間違ってないと思うぜ」


 「しかし三郎様、某は!」


 「まあ聞け。なんでそう思うのかって言われるとだな、多分俺も同じ事をしたからだ」


 「ノッブ……」


 「なあ帰蝶、前言ってたよな、「俺達は魔物や魔境のことを何も知らない」って」


 「うん……」


 「俺は今日の勘十郎を見て思った。「俺達は魔物と対峙する者の気持ちも知らないんじゃないか」ってな」


 「あ……!」


 そうだった。私の周りにいるのが速攻で適応して最前線で魔物をぶち殺して回る人ばっかりなせいで「普通の人」が魔物と対峙する恐怖への視点が抜けてたかもしれない。

 考えてみれば、最前線で戦う人々の恐怖や葛藤を私は自分事としてなかった気がする。

 これではいけない。

 付いてこれる人だけ付いてこい、では魔物との戦いは生き残れない。

 史実の戦国とは戦争の規模が違いすぎるからだ。

 せいぜい数万程度の軍勢がぶつかり合って、勝敗が決まればあとは偉い人が切腹して手打ちになるような「牧歌的な」戦争じゃない。

 例えるなら20世紀の世界大戦レベルの総力戦なのだ。

 講和の道がないだろうから、それよりひどいかもしれない。

 ……私たちは、生存をかけて戦争をするのだ。

 ならば、取りこぼしがあってはならない。


 「俺は勢いで突っ走って、今じゃ英雄扱いだ。それはいい。だが皆が皆俺と同じようにはなれないだろ。勘十郎を見るまでは、俺と同じようにやれば良いと思ってたが……それじゃだめだ。これじゃあ兵が付いてこねえ」


 「某は、三郎様と同じく勘十郎様に英雄になってほしかったのです……!」


 「俺もそう思ってた。弟だからな。並び立って支えてくれる事を期待していた。

 ……でも、どうやら勘十郎には荷が重いらしい」


 「そのようなことは!!勘十郎様が快癒なさればきっと、きっと!!」


 「落ち着け権六。俺は何も俺に並び立つことだけがあいつの役目だとは限らねえと思ってるんだよ」


 「そ、それは、どういう……?」


 「だから落ち着け。まずはあいつの体調を落ち着けて、じっくり話をしてからだ。事は織田家の今後のことだ。今しばらくは待て。いいな?」


 「は、ははあっ!」


 「今後もお前は勘十郎の配下だ。勝幡を守り、あいつの帰りを待て。腹を切ろうとか思うなよ?お前がいなきゃ勘十郎が困るし気に病むだろうが」


 「そ、某のような不忠者がお側に侍って良いものでしょうか……?」


 「お前が不忠者なものかよ!本来勘十郎の不調をいち早く伝えるのは林の役目だ。それを怠り、親父に追い出されておいてしれっと宴に混ざりやがるあいつこそ不忠者だ。

 ……新五郎(林秀貞)の弟でなけりゃ斬ってるところだ」


 マジかよ。林通具のやつ、宴に参加してたの?私はすぐ下がったし大人数だったから全然気づかなかった。

 勝家はすごく悔しそうに歯ぎしりしてる。思うところがありそうだ。


 「林様は、勘十郎様を傀儡にしようとしているとの噂がございました……!」


 「知っている。それをも御するのが勘十郎の役目とも思っていたが……ちと考えを改める必要があるな」


 「三郎様……!」


 「ま、心配すんな。悪いようにはしねえよ。いろんなやつがいるのは当然だ。

 ……それも全部飲み込んでこそのなあろっぱだ。そうだろ帰蝶?」


 「えっ、あっ、うん。そうだね!」


 いや、そんな伏魔殿みたいなナーロッパ嫌だけども。

 あ、でも陰謀劇もよくあるしそういうスパイスもあってしかるべきかもしれない。

 具体的には悪役令嬢とか!ざまぁとか!


 「な、なあろっぱとは、一体……!?」


 「ああ、気にするな。当主になったら説明すっから」


 「は、はぁ?」


 「とにかく今日はあったかくして寝ろ。風邪でも引いたらかなわんからな。もう遅いかもだが」


 「某は風邪を引いたことがないので大丈夫です!」


 なんとかは風邪ひかないとか言うけど、思慮深いのか何なのかわからんね勝家。


なお、台所の隣で結構騒がしい中の密談であるし屋根裏にはニンジャが潜んでいるもよう。


というわけで今回はここまで。

また次回をお楽しみに。





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