第68話「どこでも土下座すりゃいいってもんでもない」
水曜日なので第68話。
有名武将が登場しますよ。
とりあえずまだ挨拶に来る人達がいるので信勝のことは気になりまくってるけど、お正月の儀式は継続することとなった。
ご挨拶した人は一旦控室的なところで休んでもらって、夕方から宴会が始まる。
こういう宴会は男性だけが参加するものなんだけども、旦那さんに着いてきた奥様方も集まって社交という名の宴会をするのだ。
今のところトップは土田御前ではあるけども、次代の正室たる私も参加せざるを得ない。
しかも今日の土田御前は信勝の看病で欠席なので、もう私がやるしかない。
社交とか苦手なんだけどなぁ。
姫ムーブで当たり障りなくお話をしつつ、女子大学寮についていろいろと話したり開発したお菓子や料理を振る舞ったり。
やっぱり私は長年戦ってきた美濃の出身なのでいろいろチクチク言葉をかけられたり……は特にしないんだなこれが。
どうも土田御前がいろいろと事前に根回ししてくれてたみたいで、奥様方は割と好意的だ。
実は、土田御前と一緒に熱田で鍛錬していた侍女が出産を行い、ずいぶんと安産だった事を奥様方に話していたようだ。
今のところ「適度な運動が良いのかしら」みたいな話で収まっているけど、娘を女子大学寮に入れたいと話す奥様方が結構いる。
女だてらに戦に出た私やおさきも色々聞かれてとにかく疲れた。
疲れたし、土御門様のお手紙処理をする必要があるので、奥様社交の会は早期終了し、とっとと部屋に戻ることにした。
那古屋城は土塁と板塀に囲まれたクソデカい平屋で、奥様の宴会場から離れたところにある。
途中、庭に面した廊下を通る必要があるのだけど、かがり火に照らされた庭に何やらうずくまっている人がいるのが見える。
こんな時代の宴会なので衛生もへったくれもなく、そこらで吐いてるおっさんが多くてうんざりしてたのでまた其の類かと思ったんだけど、どうも様子がおかしい。
正装した大男が土下座してる。
正月なので寒空の下なんだけど、どうしたんだろう。
なんかやらかして反省してるんだろうか。
気になったのでおさきに聞いてみた。
「ねえおさき、あそこに土下座してる人がいるけど」
「ああ、あれは……柴田様ですね」
「えっ?」
「勝幡城の柴田勝家様です。勘十郎様の配下ですね」
「いやいやそれは知ってるよ。え、朝からずっとあそこにいるの?」
「暗くなるまで放っておけと殿様(信秀)がおっしゃってたじゃないですか」
それはそうだけども。
もうとっくに暗いしクソ寒いんですけども。
なに?将来北陸行きだからその練習でもしてんの?
いやいやこの世界でそうなるとも限らない。
ってことはマジでずっとあそこで反省してるってこと?
「えーと、すごい反省の意思を感じるではあるんだけど、あのまま置いといたら死んじゃわない?柴田様」
「どうでしょう?気合が入ってれば大丈夫だと思いますけど」
「おさきさんや、なんでもかんでも気合と根性でなんとかなるもんじゃないんですよ?」
「柴田様は勇猛果敢な方だとお聞きしてますし……」
「勇猛果敢でも寒いもんは寒いに決まってんでしょうが!いくよおさき!あんなとこに置いといて凍死でもされたら織田家の面目に関わる!お部屋に入ってあったまってもらわなきゃ!」
「男性の意地に女子が口を挟むのもどうかと思いますが……」
ああもう、ホント戦国時代の常識が自分の常識と違いすぎてもやもやするよ!
反省は良いけど死んだら意味ないでしょうが!
しかも正月の庭で土下座して凍死って。
将来おもしろ死因エピソードとしてしょうもない歴史読み物の1ページを飾ることになりそうですごく嫌!
というわけで、引き留めようとするおさきを振り払って私は柴田勝家の側に向かって声をかける。
「柴田様、そのようなところで何をされているのですか?」
「……」
「もう日も暮れ、冷えてきました。お部屋に上がって温まってはいかがです」
「……」
だんまりだ。ああ疲れてるのにイライラさせてくれるなあ!
なので、冷たい声が飛び出る。
「……なにか言ったらどうです?」
「濃姫様。某はここで主たる勘十郎様の快癒を願っておるのです。邪魔をしないでいただきたい」
こちらを見もせずに言う。無礼ではあるけども、気持ちはわからんでもない。
でも、そんな事で治るような病気じゃないよ。
「あなたがそこでそうしていても治るものではありませんよ」
「そうだとしても、某にはこれしかできませぬ」
「はぁ……私が何を言っても動く気はないと?」
「はっ。濃姫様には申し訳ございませぬが、お捨て置きくだされば」
ああめんどくせえ。ほんとに放置してやろうかこの野郎。
でも貴重な有能武将でもあるし、何より人的資源がとにかく大事なこの世界で、意味もなく凍死させるわけにはいかない。
だがめんどくさい。
私は早く部屋に戻ってあの膨大な手紙を裁く仕事をせねば……もう明日でいいかな。
しょうがないこの頑固オヤジを何とかするか!
「おさき!」
「はい?」
「柴田様運んで。私が許す!」
「は?はあ……それでは柴田様、失礼いたします」
一瞬ぽかんとしたおさきは土下座している勝家の脇を持ち、ひょいと俵のように担ぎ上げた。
「な、何をする!?うおっ?!こ、これは!濃姫様、こ、これは一体!?」
ジタバタする勝家。うるせえよ黙って運ばれろ!
「こんなところで冷え土下座したからって勘十郎様が治るわけ無いでしょう。行くよおさき」
「はい、姫様」
「だからといって、このような!うおお!?なんなのだこのおなごは!?」
「原田さきと申します。帰蝶さまの侍女です」
「あんまり暴れると舌をかみますよ。大人しくなさい」
「そうは言ってもこれは……!!うおおっ!?某は荷物ではござらぬぞ!?無礼であろう!?」
「あんなところで凍死されたらそっちのほうが無礼です。良いから黙って運ばれなさい!」
とりあえず朝から何も食べてないだろうし、あったかい何かを食べさせて落ち着かせよう。
めんどくさいけど、この人が変なことになったら信勝が余計気に病むでしょうが。
そもそもなんで一人で土下座してんのよ。筆頭は林通具じゃなかった?あいつも一緒に土下座するもんじゃないのかな。
史実通り信勝そそのかして当主にして甘い汁吸おうって感じの輩なのかしら。なんか腹立つな。
そんな事を思いながら、料理教室するときいつも使ってる台所側の部屋に向かう。
あそこなら温かい飲み物も食べ物も手に入るからね。
途中、向かいからなにやら空き皿の乗ったお盆を抱えたショタが歩いてきた。
「あっ姫様!何してんの?」
「あら犬千代くんじゃない。お片付け?」
「うん!これ片付けたらもう寝ろって三郎様が。
……って、なんでさき姉ちゃん権六様担いでんの?」
「庭で凍えてたから拾ってきたの」
「まじで。なんか楽しそう」
「楽しくないんだけどね。犬千代くん、台所の隣に行くからノッブ呼んできてくれる?」
「うんわかった。後でおれにも権六様担がせてくれよな!」
「それは自分で頼みなさいね」
じゃーなーと走っていった犬千代くんを見送って歩を進める。
ちなみにこの間勝家は恥ずかしいのか顔を覆っている。
小声で「もう自分で歩きますから下ろしてくだされ……」とか言ってるが疲れた私に無礼を働いた罰だと思い給え。
帰蝶ちゃんは怒ると怖いのだ。
有名武将がかっこよく登場するとは言っていない。
というわけで今回はここまで。
また次回をお楽しみに。




