第65話「彼方からの手紙」
月曜日なので第65話。
ラブレターではないよ。
そういうわけで土御門様へは尾張における魔導研究所の立ち位置や、秘匿しようと思ってたけどそれじゃあ魔物の脅威への対応に間に合わないので広く人材を集めたい、推薦があるなら教えて、みたいな手紙を書いて送った。
いや、那古屋城からは近くだけど面と向かって相手をするのはとにかく疲れるからね。
手紙でやり取りできればこれ以上のことはない。
それから私は三河の戦で戦った女子大学寮生への聞き取りをしたりお菓子を作ったりして過ごしている。
大学寮生は織田家の家臣や有力商家の娘さん、つまりはいいとこのお嬢さんばっかりなので、戦での行動の聞き取りが終わったら論功行賞が行われる年明け1月まで実家に帰って休暇とした。気持ち長めの冬休みだね。
実際、ポーションを使うまでもない軽傷を負った子もいるのでしっかり養生してほしい。
ただ、らん、みき、すずのミソッカス三人娘については女性でポーションで完治したものの初の重傷者で、心の傷もあるのか夜眠れないそうなんで、私の側で経過観察することとなった。
というのも、憔悴した三人娘から「眠れなくて困っています」と相談を受けていた場に同席していたイナリちゃんが
「よく眠れる術ならわらわがつかえるのじゃ」
とか言い出したからだ。
そうなのイナリちゃん?と聞く間もなく、いつものごとく指をくいくいっとしたら部屋にいた私もおさきも三人娘もスコンと寝てしまった。
起きたら翌日の朝だった。大変楽しい夢を見たような気がするがちっとも覚えてない。
「加減を間違えたのじゃ、すまぬきちょー」
と立派なおしっぽを丸めて謝るイナリちゃん。
さすがに土田御前に絞られたらしい。
すげえなあの女傑。神様にも臆せずお説教できるのか。
ともかく「しばらくぶりによく眠れた、」という三人娘がなんだか不憫で、自然に眠れるようになるまで私の側で侍女見習いみたいなことをしつつ、イナリちゃんの魔法セラピー的な何かを継続することにしたのだ。
ついでにいうと、屋根裏に潜んでいたニンジャのおふゆもぐっすり眠らされたらしい。
久助にたっぷり絞られましたと涙目で言ってきたけど知らんがな。
おふゆについては、この事件の後「いつも屋根裏に潜まれるのもなんだか落ち着かない」と久助に言ったら私付きの侍女として仕える事になった。
呼んだらすぐ出てくるけどたまにクモの巣が頭についててばっちいからね。
侍女でニンジャ、この場合くのいちかな?
とにかく「くのいちおふゆ」が仲間になったのは大変喜ばしいことだ。
おさきは強いし気遣いもできるけど脳筋なので、情報収集はあまり得意じゃない。
おふゆはさすがのくのいちなので、そういうのは得意そうだ。屋根裏に忍び込む技術は実証済みだしね。
ニンジャの取りまとめ役をしている久助とは手紙でやり取りしたけども、やっぱりおふゆは偽名で、本名は「滝川あやめ」という彼の妹なのだとか。
ただ、本名を大っぴらにするのはニンジャの掟に反するので、偽名としておふゆを名乗ることをお許しください、とのことだった。
なるほど、コードネームか!
そういうことならこの帰蝶ちゃんも許すよ!
んじゃー、帰蝶ちゃんのことは「スネーク」と呼んで!と書いたらお返事でそのことには言及されてなかったしおふゆも呼んでくれない。
完全にスルーされている。
ニンジャでスパイで工作員ならスネークでしょ!と思ったけど誰もわかってくれないので私は沈黙を選んだのだった。
あっ、「大佐」のほうが良かったのかな?
私は司令塔みたいなものだもんね!
今度は「大佐」を提案しようそうしよう!
そんなこんなで日中はみんなで武芸鍛錬したり所作の自主練をしたり、たまに来る来客と姫ムーブで当たり障りなく社交したり、年末のご挨拶として届いた家臣の奥さんからの手紙を読んだり返事を書いたり、それなりに充実しつつも穏やかな12月を過ごした。
その過程で、3人娘の親が熱田に店を構えることにしたらしく、きれいな反物やべっ甲などの小物が手紙とともに送られてきた。
この時代は心付けを渡すのは普通なのでありがたくいただく。
手紙には娘たちを侍女に取り立てていただいて大変感謝いたします、みたいなことが書かれてた。
戦で負傷した不詳の娘ですがよろしく、みたいな感じ。
まあ上位者の私向けの手紙だからしょうがないよね、と思って3人に聞いたら、3人宛の手紙も負傷して嫁の貰い手がなくなったらどうするつもりだ、みたいな叱責と侍女に取り立てられたのは天晴、よくよく実家を助けるように、みたいな内容だったそうで。
いや戦国人のメンタルおっかねえなと改めて思った一件だった。
せめて私信では労って上げなさいよと思ったけど案外こんなもんなのかもしれない。
こういった殺伐感をなんとかしたいと江戸時代初期の幕府が苦心した理由の一片が見えた気がする。
と、なんだかいろいろお手紙でやり取りすることが増えていた。
いちいち人を頼んで届けてもらって、というのがやたらと煩わしい。
「うーん、郵便制度作ろうかな?」
もう年末でだいぶ寒いので簡易オフトゥンを利用したこたつに入りながら私はふと思った。
こたつと言っても別に火鉢を入れたりしない、熱源は人肌なのでしばらく入ってないとあったかくならないものだ。
掘りごたつとかで火鉢おいたりしてもいいけどね、大規模な改築も必要になるのでしばらく我慢だ。
熱田のお屋敷には作ってるんだけども、那古屋城は式典の準備で忙しいので後回しだ。
イナリちゃんもお市ちゃんもこたつに入っていて、横になってよだれを垂らして寝てる。風邪ひくからこたつで寝たらだめだよ、と言ってるのになぁ。
イナリちゃんは「神だから風邪ひかないのじゃ」とか言ってたので大丈夫だろうけど、お市ちゃんはちょっと魔法が使えるだけの普通の幼女だ。
普通の幼女の定義が行方不明になってる気がする。
ともかく、お昼寝タイムに入ったお市ちゃんをちゃんとしたオフトゥンで寝かせてあげて、私は物思いにふける。
そもそも、郵便制度ができたのは日本では明治時代。
江戸時代から飛脚とかはあったけど、それを誰でも安価で一律料金でできるようにしたのが始まりだったはず。
んで、情報通信のやり取りが活発になって明治の文明開化の下支えになったとか、なんかそういうのを前世の修学旅行で行った博物館で見たような気がする。
んで、そのお手本にした欧州ではどうだったか。
もともと王侯貴族や軍で使うための伝令通信の仕組みはあったように思う。
今は大航海時代真っ只中なはずで、商業通信の仕組みはやってそうだ。
考えてみればインドやアジア方面へ植民地獲得に動いてるから、本国との連絡手段がないとおかしいもんね。
近代郵便制度を始めたのはどこだったかな。覚えてないけど多分イギリスだったような気がする。
あかん、前世知識が曖昧すぎてなんの参考にもならない。
でもなあ、郵便で定期的に通信できれば領内含め情報収集にはもってこいだ。
とりあえず熱田と那古屋城との間で定期便を始めるところからかな。
できれば津島や美濃国境、三河とも連絡網を構築したい。
津島のそばには魔物に占拠された長島がある。
一向宗が信者を動員して包囲してるけど、三河魔境みたいになったらとても抑えられるものじゃないだろう。
いざとなったら織田家で積極的に討伐しなければならない。
その様子を探るためにも、自然に津島へ行き来する郵便配達員はとても有効だ。
つまり最初はニンジャが従事すべきだろうと思う。
あっ、忍軍の表向きの姿の一つとして郵便配達員はどうだろう?
昼はしがない郵便配達員、しかしてその実態は敏腕のニンジャ!
手紙を配達しながら市井の悪を探り、密かに悪を討伐するんだ!!
うおおかっこよくない!?
かっこいいよね!
「おふゆ!おふゆー!」
「は、どうされましたか濃姫様」
「うおっびっくりした。そんなとこにいたのおふゆ」
「最近は陰形の技の訓練に嵌ってまして」
テンションが上がった私がおふゆを呼んだら背後からぬっと現れた。
この子はいつもこうで、私をからかって喜んでるフシがある。
いつも眠そうな顔をしてる割に口元は兄の久助と同じニヨニヨした笑みを浮かべてる。
低身長でちょっとくせ毛なショートカット。猫っぽい印象のこれまた美少女だ。
美少女たる私のもとには美少女が集まるもんだからね、しょうがないね。
ちなみに陰形の技とは視線誘導とかで姿を隠す技のことだ。理屈はようわからんけど、熱田のニンジャ訓練のとき久助がそう言ってたのでそういうものらしい。
その話を隣で聞いてたイナリちゃんは
「わらわ、姿隠しの術が使えるぞよ」
とドヤ顔をしてたけど相変わらず意味不明な擬音での説明だったのでスルーすることにした。なんだよしゃあ!しゃあ!しゃあ!って。
ビーム輝くフラッシュバックか。余計に意味わからん。
まあ、自慢したかっただけだと思おう。幼女だしね。
ともかく術を使えばニンジャの技の幅も広がると言うものだ。
改めて魔導研究は重要だと思った一幕だったなぁ。
などということをわずか0.05秒で思い出してあまりに一瞬のことで見逃した者のために改めてスロー再生することまで終えた私は、良いことを思いついたテンションをおふゆに伝えることにした。
「おふゆ、ニンジャの隠れ宿が郵便局って新しいと思わない!?」
見事に言い放った私を眠そうな顔で見ていたおふゆはニヤリとして
「……お代は如何ほどいただけるんで?」
すべてを察したと言わんばかりに右手で輪っかを作って言った。
そしてすぐいつもの顔に戻る。
「濃姫様、こういう使い方でいいんですか?」
「そうそう!さすがおふゆ、良い感じだったよ!」
なんかニヨニヨ飄々とした久助とおふゆ兄妹にはかっこよく散っていった殺し屋キャラの決め台詞がよく似合うと思って指導していたのだ。
いやあ実に良い感じだ!
ほんとに散ってもらったら困るけどね。こういうお遊びは大事なんだよ、たぶん、きっと、おそらく。
「ふたりとも何を訳のわからないことを。姫様、また思いつきですか?思いつきを適当に喋るクセはおやめくださいと何度も言ってますでしょう!」
いつの間にか現れていたおさきが最近板についてきたツッコミを入れてくる。
そういや君もニンジャの技訓練してたね。
私はちっともものにできなかったのに。
むう。
「おふゆも!姫様の遊びに付き合っていては身が持ちませんよ!程々になさいませ!」
「姫様は人使い荒いけど金払いは良いから好き。でもさきパイセンがそう言うなら気をつける」
「パイセンではなく先輩と言いなさい!もう、姫様に影響されて意味のわからない言葉を使って!」
うんうん、侍女が仲良しなようで何より。
でもおふゆが叱られてるのは可哀想なんで助け舟を出そう。
「おさき、それくらいで。良いこと思いついたから聞いてくれる?」
「姫様、思いつきの前にお手紙が届いてます」
「えーまたあ?まあしょうがないか。じゃあ見せて」
「ええ、では執務室に」
「寒いからここで読むよ。持ってきて?」
「全く姫様は!こたつを作ってから部屋に籠りがちで!
……まあそうおっしゃると思って持ってきています」
そうして部屋の外に声をかけたおさき。三人娘がえっちらおっちらと運んできたのはイナリちゃんが入りそうな大きさのつづらだった。
「うん?おさき、これ誰から?」
「土御門様です」
「おお、やっとお返事か。何か贈り物でも一緒にくれるのかな?そんな気を使わなくてもいいのに」
変な人だけどお貴族様だからね。そういった心遣いは忘れないところは流石だね。
でもおさきから帰ってきた言葉に私は目を白黒とさせることになる。
「いえ、お手紙です」
「えっ」
「つづらの中身はすべてお手紙です。
……紙の束があれほど重いなど、さきは初めて知りました」
「えっ」
「さあ姫様、早く読んでお返事を書かねばなりませんよ」
……なにそれ怖い。
知らなかったのか?
「土御門様からは逃げられない」
みたいな話。
というわけで今回はここまで。
ご意見ご感想お待ちしています。
もう6月ですね。ジメジメしてますがカビにも気をつけましょう。




