第61話「信長、キレる」
火曜日なので第61話。
うーむあの安倍晴明までアグレッシブな野蛮系お貴族様だったとは。
この帰蝶ちゃんをしても見抜けなかった。
さすが、昔の倫理観は世紀末だね。
私の中で安倍晴明はモヒカンでなんかとげとげがついた肩パッドをしてる姿になってしまった。
さっきまでは前世の漫画で読んだお耽美なキレイ系イケメンだったのに。
それはそれとしてイナリちゃんが魔導研究所のことを口走ってしまったし土御門様もなにやら興味を持っている。
いやびっくりしてるというか。
うーんどうしよっかなぁ。
土御門様はどうも涼風様以上の陰陽術バカっぽいんでここまで来て教えないと、それはそれでまずいかもしれない。
身分を盾に強行突破されたら。
そう、とても。とても面倒だ。
よし、しょうがない。
「えーと、土御門様。魔導研究所についてお話しすることはやぶさかではありません」
「おお、陰陽術ではなく魔導とはいかに!?字面を考えるに何やら不穏な気配すら感じるが一体いかなる!?よもや悪しき呪術や儀式をも!?なるほどそれならば私も一家言なくもないぞそうあれは若狭にいたころ漁師が我が家に駆け込んできましてな妙な魚がうちあげられたとかそれを聞いた私は浜へ降りその魚をみたのですが手足の生えたしびでして不思議なことに喋れるのか何やらぶつぶつ言っておったたしかふんぐるいるるい」
「まってまって!それ以上いけない!いや聞き取れなかったけどそれはまずい気がする!」
「やめよありのぶ!それは口にしてはならぬ!」
何やら不穏な呪文が聞こえた気がするので私が声を上げたのとイナリちゃんが慌てた様子で叫んだのは同時だった。
いくら謎のファンタジー化した世界でも触れていいことといけないことはあると思うの。
幸い土御門様は「ああ、いかんいかん。続きを聞かせてくれ帰蝶殿」と照れ臭そうに頬をかいてるので私は不穏なエピソードをぶった切るつもりで話をつづけた。
「とにかく!お話しても良いんですが、その場合、土御門様を京に戻すことはできません。それだけの機密だとお思いください。
……それでもお聞きになりますか?」
涼風様にも話したけど、熱田で魔導研究をするのは織田家の最大の秘密だ。
迷宮の仕組みと同じくらい秘密。
土御門様が参加してくれたら研究は進むと思う。けどそれを広く知らされては困る。
尾張にとどまり、骨をうずめる覚悟をしてもらわなければならない。
……実はこれ、朝廷への裏切りをそそのかしてるに等しい。
こんな世でなければ絶対やらないことだけど、魔物に対抗するためには必要なことだ。
朝廷や世間には実績を持って許してもらうつもりだ。
魔法にあこがれる気持ちと、社会をぶっ壊すことへの罪悪感がないまぜになった気分で土御門様の返答を待つ私であったが……
「ああそんなことですか。構いません。それでなぜ「魔導」なのですか陰陽術だけではないということですねということは修験者や僧もいるのですか彼らの術もなかなか見るところがありまする故な僧と言えば叡山から逃げてきた生臭どもがおりましたな何の役にも立たんので奴らはいらんでしょうがそれより帰蝶殿桶狭間の戦で鬼を凍らせたとかそれをぜひお聞きしたいのですよむしろそのために今日があったのではなかったかいやあ待った甲斐があったささ帰蝶殿戦であなたが何をなさったのか話さ」
「ああもう話が進まない!ちょっと黙って土御門様!」
「ああここにきて半年も待ったのでもう少し待つくらい大丈夫ですよところで」
「だまりゃありのぶ!」
「むぐっ!?」
堪忍袋の緒が切れたっぽいイナリちゃんが指をくいくいっとして、土御門様の口に猿轡のような淡く光る光の縄が現れる。
「な、ナニコレなにしたのイナリちゃん!?」
「せーめーがあんまりやかましいときに使っておった術じゃ。久しぶりに使ったのじゃ」
「お、おぉー……ちなみに私にも使える?」
「簡単じゃよ?気をぷいっと集めてきゅっとするだけじゃ」
「アッハイ」
私には使えないってことね。
しっかし、イナリちゃんが狐火の術以外の術をつかうところ初めて見た気がする。
どうやるのかはわかんないけど、魔法でこういうことができるってのは良い発見だ。
まーそれはそれとして、未知の術を掛けられてたいそう興奮している土御門様をどうしよう。
傍目にはお貴族様に猿轡してる美少女と狐耳美幼女なので、誰かに見られたらとてもまずい。
幸い人払いしてくれてるんでしばらく誰か来ることもないだろうけど。
うーん。
「あの土御門様?京に戻らなくても構わないのですか?陰陽頭というお役目は……」
「んー!んー!」
こくこく頷いてる。何を言いたいかわかんないけどそれでもいいらしい。
「じゃあ、魔導研究所で働いてもらって、尾張に骨をうずめてもらいますけど」
「ん!」
さっきより強く頷く土御門様。
朝廷とかどうでもいいのかな。
「ねえイナリちゃん、このままじゃお話しできないから術といてあげられないかな?」
「んー!んー!」
ぶんぶん首を横に振る土御門様。
嫌なのかよ。何なんだこの人。
イナリちゃんは
「今解くとさっきの比じゃなくやかましくなるのじゃ。せーめーも似たようなもんじゃった。わらわの術をその身でくらって何とかものにしたいとか言っておったの。
おぬしもそうか、ありのぶ?」
「ん!ん!」
ものすごく力強く頷く土御門様。
あーもう無茶苦茶だよ。
あれだ、「朝廷?官位?知るかバカそんなことより陰陽術だ!」ってタイプの陰陽術バカだこの人。
涼風様よりはるかにタチが悪いぞこいつ。
「あー、えーと、どうしましょう。
……なんかめんどくさくなってきたな。帰ろうかイナリちゃん?」
「んーーーー!!」
顔をぶんぶん振って涙目で私に縋り付こうとする土御門様。ほんと何なのコイツ!!
いや優秀な人だとはわかるんだけど私の手におえない気がするよう!
「は、離してください!」
「ありのぶ!おぬしきちょーに何をするのじゃ!?」
「んー!んー!」
置いてかないで仲間に入れて、って言ってるように聞こえる。
いやそんなこと言っても私には扱いきれない!
「離して、離せー!」
袖をつかんで涙目で縋り付く猿轡した成人お公家様と蹴りつける勢いで振り払おうとする私。金色夜叉か。
というか力強いなこの人!私レベルアップしたはずなんだけど!!
と、どたばたとしてると
「帰蝶!無事か!」
「姫様!」
すぱーんと戸を開けて信長とおさきが現れた。
たしゅけてぇ!
そんなわけで猿轡したまま床に水たまりを作って土下座している土御門様を前に私と信長は困り果てている。
「あー、帰りが遅いってんで迎えに来たらなにやらお前が叫んでるので飛び込んできたが、一体どういう状況だ?」
「うーん、なんて言ったらいいんだろう?要は土御門様は安倍晴明と同じ陰陽術バカで、魔導研究所の話を聞いて暴走してるっていうか。あと安倍晴明は物理で髭をむしるらしいです」
「意味が分からん。その、土御門様はなぜ猿轡を?」
「わらわの術じゃ!ありのぶはやかましくてかなわんのじゃ!」
「お、おう。いや、ますますわからん」
「何がどうしてこんなことに。姫様、さすがにこれは問題では?」
「私は何もしてないよぉ。イナリちゃんがー」
「イナリ様のせいにしてはいけません!はぁ、私も最初からついてくるべきでした」
おさきには女子大学寮の生徒たちから戦場で何したかを聞き取ってもらっていた。
論功行賞のための下調べだ。
聞き取ったら年明けまで休暇にするとか。
年内に論功行賞の式典するのかと思ったけど、どうもそれは私の勘違いだったらしい。
なんか最近物忘れ激しいな。
どっか悪いのかもしれない。
頭がおかしい?そんなことはないはずだ。多分、きっと。
ともかく、今日は占いの依頼と顔つなぎのつもりだったのでおさきがついてこなくてもいいだろうと思ってたが、どうも失敗だったようだ。
とはいえ「こんな簡単なお使いもできないのかこの子は」みたいな目で見ないでくれたまえよおさきさんや。
今日は私は悪くないよ!土御門様が変人なのが悪いし情報をこぼしてしまったのはイナリちゃんです!
「えーと、どうしよノッブ、土御門様京に戻らなくてもいいから魔導研究所の話聞きたいって」
「いや、覚悟ができてるならいいけどよ。帰蝶に乱暴したのは許せん」
「ごめん、私がめんどくさくなって帰ろうとしたらこうなりました」
「ぜんぶありのぶが悪いのじゃ!ノッブ、ありのぶに慈悲をかけんでもよい!」
「んー!んー!」
「ええい一気にしゃべるな静まれええ!!」
ひい信長がキレた!
すいません土御門様が勝手しまくりまして。
というわけで今回はここまで。
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