第60話「平安貴族も野蛮」
ちょっと間が空きましたが土曜日なので第60話。
不定期連載ですいません。
「え、えーと、土御門様?
と、とにかく、日取りの件を片付けて、それから熱田のことなどをお話ししましょう」
「おお、そうですな。我が術によると正月22日が織田家の発展に良いと出ましてなこの占い我が家に伝わる天のめぐりに合わせたものでしてな多くの事がわかる霊験あらたかなものであり本来朝廷の吉日を占う大変恐れ多いものでもあるのだだがこの国家存亡の時に今頼光殿の家督相続を言祝ぐ意味でも今回儀式を敢行したものであるとても不思議なことに「1」「2」「2」という数字が浮かんだのだがこれはまさに織田家の祖霊が吉日を啓示しているのであろうと思い正月22日としたのであるところで帰蝶殿先日「かすてら」なる大変美味な菓子を作り上げたとか残念ながら私は貧しいのでまだ食しておらぬがイナリ様のついででよいので私にも食させていただきたいああ、これは私が食べたいというわけではなく土御門の言い伝えで「美味い菓子を備えることで式神がよく働く」というものがありまして恥ずかしながら私はまだ式神を操ることかなわずいずれ式神を操る際によき働きをさせるために美味い菓子を知っておこうと思っておりまして」
「まってまってまって!!ほんとに待って!すいません土御門様!全然頭に入りませんもっとゆっくりお願いします!!」
立て板に水とはこのことか!?なんだこの人!
情報量が多すぎて全然、何一つ!理解できない!!
「はぁ~、ありのぶ。おぬしせーめーの書をすべて覚えておるとか言っておったの?
せーめーの日記の最初に「急いだ時ほど落ち着いて」と「お話はゆっくりしましょう」と書かれておらなんだか?」
心底あきれたように言うイナリちゃん。
というかなんだその小学校の黒板の上に張ってそうな標語は。
「ん?おお、確かにありましたな。
何を子供に言い聞かせるようなことを、誰かのいたずらかと思うておりましたがそれが一体?」
ほんとにあるんかい。
「わらわが書いたものじゃ!宇迦さまから賜ったありがたいお告げである!せーめーがあんまりうるさいんで宇迦さまにご相談したのじゃ!それをないがしろにするとは!
まったく!ありのぶはまったく!!」
宇迦之御魂神さまのお言葉なの!?
というかイナリちゃんへの言葉でもありそう。かーちゃんかよ。
んで、そんな話を聞いてしまった土御門様が興奮しないわけもなく……
「お?おおおお!あれはイナリ様の直筆の!?それは、なんとも私の不心得でございました!して、最後の「お友達のおひげをむしってはいけません」というのは一体どういう意味なのでしょう?いや言葉の意味が分からないというわけではなくどうしてそのような当然のことを書かれたのかと気になっておりまし」
「だからそれをやめよと言ってるのじゃ!見よ!きちょーが目を丸くしておる!」
えっここで私に振るのイナリちゃん!?
それとおひげをむしるなっての私も気になるんだけど!?
「えっと、一つずつ、ゆっくりお願いします。その、わたくしはあまり早口言葉になれておりませんので」
早口言葉に慣れてないってどういうことだよ。
ああまたやらかしたーと頭を抱えてると土御門様はふうと一息ついて居住まいを正した。
「ああ、すまぬ。私の悪い癖だ。興奮するとついこうなる。
そう、待ち人来ればこうなるのも道理であるが、いささか礼を失していたな。
改めて詫びよう」
「ああ、いえ。こちらこそなんだか話の腰を折ってしまって申し訳ございません」
「きちょー、ありのぶに謝ることないのじゃ。これはこやつが悪い」
とりあえず落ち着いて話ができる体制ができそうだ。
はぁ疲れる。ただでさえ初対面の偉い人に会うなんて疲れるのにこんなに濃い人だとは思わなかった。
「して、家督相続の日取りですな。先も申しましたが正月22日が吉日と出ておる。織田家の発展が約束された日であると」
「はぁ。22日ですか。松の内にできれば、と話しておりましたが……」
「朝廷では正月が丸ごと松の内であるゆえ、構うことはありますまい」
そういうものなのか。
まあ戦争してばっかりの武士が1か月松の内とかやっている余裕もないだろうし、短縮したってところなんだろうね。
そんなことを考えていると土御門様が不思議なことを言い出した。
「実際は「1」「2」「2」という3つの文字が浮かびましてな。
これほど明確に出ることは珍しいのです。
ですが家督相続という慶事でこれが出たならば、織田家の祖霊や祭神のお告げであろうかと」
「は?はぁ……?」
うーんなんだろうね。全然わかんないや。
なんだろね122て。警察への通報は110番だし。
イナリちゃんがなんかしたのかな?
イナリちゃんを見ると手土産のお団子をぱくついている。
ほんと自由だなこの子。
「もぐもぐわらわは何もしておらんぞよむぐむぐ」
食べながらしゃべるんじゃありません!
うーん、まあいいや。イナリちゃんも知らないのなら考えても仕方がない。
「わかりました。正月22日ですね。占っていただいて感謝いたします」
深々と頭を下げ感謝を示す。
その後土御門様は占いの結果を記した書状をさらさらと書き、渡してくれた。
私はそれをしっかりと受け取り改めてお礼を言う。
謝礼はどうすんのって?正式な依頼だからこんな場所で渡すものじゃないのよ。
信秀が後々いろいろ持ってくるはずだ。
ともかく、出だしがぶっ飛んでいたけど儀礼的な意味での土御門邸訪問はこれでおしまい。
ここからが私にとっての本題だ。
いろいろと知っているだろう土御門様との認識のすり合わせ。
魔導研究所の件を開示してよいかどうか、情報を収集する……んだけど、この人研究バカっぽいんだよなあ。
あまり聞き取れなかったしょっぱなの話の断片から、涼風様の動向は掴んでいるらしいことはうかがえる。
人の口に戸は立てられないとは言うけど、あまり成果も上がっておらず涼風様自身あちこちで吹聴するような人でもない。
どうも涼風様よりも優れた陰陽師っぽいし、何かの術かな?
だったら是非とも研究に加わってほしいところだ。
私自身としては、情報を開示しても良いような気がしているのだけれども。
「これで、帰蝶殿の用件はしまいですかな?」
いじわるそうに微笑み言う土御門様。
イケメンだとは思うけど私の好みではない。
ああ、「俺のターンはこれからだぜ!」って顔だ。
主導権を握らないと延々と話を聞かされるタイプだなこの人。
何とか主導権を握ろうと、策士っぽい顔を意識して笑顔を作り取り澄ます。
姫ムーブ策士帰蝶ちゃんモード!発動、承認!!
「表向きのお話は、そうですね。
さて土御門さま。わたくしがイナリch……イナリ様を伴ってお伺いした意味、ご理解いただいているものとお見受けしますが?」
ぬふふふふ!私だってできるんだよ!策士っぽい仕草!
あくまで仕草であって策士になれるとは言っていないよ、いいね?
ともかく、尾張女子大学寮での土田御前のしごきに耐えた私はそういうこともできるようになっていたことをさっき思い出したのだ。
桶狭間でもやればよかったのに?
うるさいな、桶狭間っていうパワーワードにパニックになってたんだから仕方ないでしょ!細かいこと言う人は嫌われるよ?
「ほほほほ、これはこれは、おかわいらしいことでおじゃるの」
むう、土御門様はお貴族様ムーブで来るか!
年若い小娘と侮るお公家様めぇ!
スーパー帰蝶ちゃんの姫ムーブ策士モードは伊達じゃない!
名前がさっきと違う?こまけえことはいいんだよ!
「あらまぁ、土御門様は意地悪を申しますのね。このような小娘に。うふふふふ」
うふふふほほほほと空虚な笑い声が響く。
おお、なんか知的な陰謀の現場っぽい。
これこれ、こういうのがこの帰蝶ちゃんが最も輝く現場だと思うの!
「ええい気色悪い!そなたらそれかっこよいと思ってやっとるのか?やめよやめよ!鳥肌が立ってかなわんのじゃ!!」
お団子のあんこをほっぺたにくっつけたこの場の最上位者が大声を出した。ピンと立ったとても立派なおしっぽのつやさらな毛が逆立っている。
おこなの?
「えー?ここからが良いところなのにー」
「きちょーはわらわのまえで取り繕ったことするなと言ったじゃろ!
……きちょーまで遠くに行ってしまったようで寂しくなるからやめてくりゃれと言ったはずじゃが……?」
しょんぼりとして上目遣いでいうイナリちゃん。
基準がよくわかんないけど。
むう、これはなんだか私が悪い気がしてきた。
「うー、ごめんなさいイナリちゃん。ここからが本番だって思ったらつい」
寂しい思いさせてごめんね。
そういや彼女のメンタリティは見た目とおりの幼女だ。たまに神々しいけど。
熱田神宮も無くなって、伏見稲荷に帰ることもできなくなって寂しい思いをしているんだ。あまりストレスを与えては良くない。神様だけど。
「ありのぶも、あまり取り繕った真似をするでない。
いろいろ言ったが、久々にせーめーと会えたようでわらわはうれしいのじゃ」
土御門様ははっとして、「ははーっ!」と平伏した。
ついでに私も。この場で最下位者は私だからね。
イナリちゃんの「しょうがないな」みたいなため息のあと、諭す声が頭の上から聞こえる。
「それに、魔物どもに対抗するために術を調べることが必要なのじゃろ?
そなたらは仲良くしたほうが良いとわらわは思うのじゃ」
おっしゃるとおりでございます!策士モードで遊んでる場合じゃなかったね。
反省反省。
「それとありのぶ!熱田の魔導研究所に行ってもはるひこのひげをむしってはならんぞ!
せーめーも気に入らん者のひげをよくむしっておったからの!日記に書いたのもそれが理由じゃ!」
安倍晴明、気に入らねえ奴の髭むしってたんかい。
さすが平安時代。鎌倉以上に野蛮だ。
あっ、安倍晴明だけになんかこう、式神とか使ってたのかな?
気になった私は思わず聞いていた。
「安倍晴明も髭むしってたの?どんな術なんだろ、気になる!」
「ん?せーめーはそういう時は術など使わんかったぞ。
直接赴いて手ずからむしっておった。結構血の気の多いやつでの」
そこは陰陽師なんだから術で行けよ。
なぜ物理?平安貴族って野蛮だな。
ていうか土御門様はなんだか感心してる。
やめろよ戦国時代とはいえ現代のお貴族様なんだから。
そして何かにハッとした土御門様は私に大きな声を上げる。
「魔導研究所!?帰蝶殿、熱田で研究しているのは陰陽術ではないのか!?」
あっイナリちゃんが言っちゃってたね。
今回は私のせいじゃないのでセーフ!!
いや、よくないけど。
そういえば言ってなかったんですが、この作品はフィクションなんですよ。
というわけで今回はここまで。
星とかいいねとかくれないと心が折れそうになる日もあるけどアタイ頑張る!
というわけでなんかリアクションくれると作者は大変喜ぶのでどうかよろしくお願いします。




