第56話「出口戦略は実際大事」
連休最終日な上に水曜日なので第56話。
本陣内の土がむき出しの地面に将鬼の首が落ちる。
ごとん、とかどすん、みたいな重い音がやけに大きく聞こえた。
残心を解いた信長が姿勢を正し、将鬼を斬った勢いで半ばからぽっきり折れてしまった大太刀を点に掲げて天に向かって咆哮する。
「三河魔境の主、将鬼!織田上総守信長が討ち取ったあああああ!!!!」
周辺の兵が「おおおおおおおお!」と声を上げる。
いや信長、「上総守」はダメだよ。
それって天皇陛下の子供だけが任命されるような官位で、史実でも義元が「上総介」を名乗ったのに対抗して一時期名乗ったけど、常識しらずとか言われたうつけエピソードなんだよ。
この時代、官位は勝手に名乗ることもザラだけど、さすがに武家が任命されるはずもないものを名乗るのはアホって感じなのだ。
テンション上がっちゃったのかな?
結構勢いで生きてるとこあるからね信長。
でもそういうところもしゅき♡
ちょっと苦笑いしながら眺め、ふと視線を今川方の方に向けると、義元も同じく苦笑している。
なんかすいません、うちの旦那様♡が。
しばらく苦笑していた義元は、気を取り直したのか改めてきりりとして大声を上げる。
「織田殿が将鬼を討ち取った!皆の者!勝鬨じゃああああああ!!」
本陣内に響く「えい、えい、おおおおおおおお!」の声。
これを聞いたのか将鬼の死に気付いたからか、逃げ始める残存の鬼たち。
義元は続けて
「残りは雑魚よ!追い打ちをかけよ!!」
と指示を出し、完全に勢いがついた兵たちが鬼たちを追い始める。
今川兵は石を投げたり進路に丸太を転がしたりして足止めをし、尾張の兵が追い付いては槍を突き刺してその命を奪っていく。
が、数が結構いるので逃がしちゃうかな、と思ったところで戦場の端に織田の旗が翻る。
それを見た信長がニヤリと笑ってつぶやく。
「やっと追いついたか。ま、俺についてこれるのは久助くらいだからな」
信長に置いて行かれていた織田本隊が本陣に到着したのだ。
彼らの手によって、残存の鬼たちは軒並み討ち取られていく。
完全な形勢逆転ってやつだね!
嵐はいつの間にか止み、しんしんと降る雪に変わっている。
もうすぐ12月だからね、しょうがないよね。
しかし寒い。
将鬼の体は術の影響か凍り付いており、周辺に霜が降り始めるほど。
すげえな魔法。これ私がやったんだよね。
鬼たちは軒並み討ち取られて今は負傷者や死者の救助、収容に移っている。
信長も義元もそれらの指揮に駆け回ってて忙しそうだ。
私?私は将鬼の死体が置かれた本陣の隅でぼんやりと座っているよ。
姫様だし、炊き出しの準備を指示したらあとは暇なんだ。
幸いおさきも慶次も無事で、彼女たちは同じ方向にぶっ飛ばされたもののかすり傷程度で済んだらしい。
が、そこで大鬼に襲われているミソッカス三人娘を発見したそうな。
既に3人とも虫の息で、大鬼は彼女らを泣いたり笑ったりできないようにしようとしていたらしい。
邪悪すぎん?
おさきを私の救援に向かわせ、慶次はその場の大鬼をぶっ殺すことにしたそうだ。
慶次は
「姫様ならそうするさ」
とニヤリと笑って大鬼を殲滅しに走り、おさきは私のところに向かって疾走した。
さすが慶次、傾いておる。
そこでみたのが大鬼の攻撃を受けて上空高く打ち上げられる私。
どうも私は車〇飛びよろしく真上に吹っ飛ばされたらしい。
それを横から飛んできて受け止めたのが信長だ。
安堵したおさきは行く手を阻む大鬼を殴り倒しながら進み、私の下にたどり着いたら将鬼に矢を投げつけろと言われてとても困惑したと言う。
ごめんて。
ちなみに慶次はあっさり大鬼どもをぶっ殺して、ミソッカス三人娘に手持ちのポーションをぶっかけたそうだ。
慶次ほど生命力がないからか、彼女らは今横になって回復を待っているらしい。
やっぱり最初の時慶次がすぐ動けてたのは慶次が異常だったんだね。
いやこれは前からそうなんじゃ、という報告は来てたけどさ。
女の子が重傷負う事は無かったし、改めてはっきりした。
お医者さんに彼女らの経過をよく観察するよう指示しておこう。
尾張女子大学寮生にも犠牲は出なかった。
幸い将鬼に当たったのは私とおさきぐらいで、他は大鬼や小鬼の相手で済んだそうな。
危うい場面もあったけどなんとかみんな生き残ってくれたし、大鬼を7匹、魔猪を2頭、魔狼を6頭仕留めたそうな。
やべえな戦国女子。
一番の重傷はあの三人だそうなんで、これは戦場に出る基準をはっきり決めた方が良いと思う。
帰ったら土田御前と相談しなきゃ。
うふふ、今回は帰蝶ちゃん大活躍だったし、さすがの土田御前も褒めてくれるんじゃないだろうか。
私は褒められて伸びるタイプなので、どんどん褒めていただきたいものである。
しかし寒い。
吐く息が白いし日中なのに霜が降りる範囲がどんどん広がってるように見える。
将鬼の死体は完全に凍ってるように見える。
……もしかして、魔法が止まってないんじゃないの?
いくら現代に比べて寒冷な戦国時代だからって、11月末の愛知県にこんなに雪が降るもんだろうか。
吹雪いてきてるような気もする。
ちょっと怖くなってきて、イナリちゃんに聞いてみることにした。
「イナリちゃんイナリちゃん、今いい?」
「おおきちょーか!ふむ、無事に鬼退治が済んだようじゃな!」
「あー、まあね。ありがとう、イナリちゃんのおかげだよ」
「そうじゃろうそうじゃろう!わらわをあがめてよいのじゃよ!
それときちょー。帰ってきたら新作のお菓子のお供え、待っておるのじゃ!」
「そういえばそうだった。ネタは温めてるから楽しみに待っててね!
それでねイナリちゃん、なんかここすっごい寒いんだけど、もしかして術って止まってない?」
「そうじゃな。ほっとくとその周辺が冬のままじゃ。綺麗な雪景色になるのじゃ」
「えぇっ!?それじゃ困るよ!どうやって止めるの!?」
「きちょーの目を通してみるに、けっこー気を流してあるのう。
完全に術が暴走しておる。
これはわらわが行って解除するしかないゆえ、誰か迎えによこしてたも」
「そうなの?!私には無理?」
「きちょーがやったら逆に酷いことになりそうなのじゃ。だからわらわが行く」
「そっかぁ……これ、私のせいだよね。ごめんねイナリちゃん」
「きちょーがやらなんだら皆死んでおったかもしれぬ。
だからきちょーは良いことをしたのじゃ。
胸を張るのじゃ」
「久しぶりにイナリちゃんが神様にみえるよ。ありがとうね」
「なんか引っかかる言い方じゃのう?まあよい。はよう迎えをよこしてたも!ひさしぶりのおでかけなのじゃ!」
「はいはい、すぐ送るから準備して待っててね!それじゃ!」
なんか電話してるみたいで実に便利だな。
なんとかみんな使えるようにしたいので研究を進めねば。
ともかく、この寒さは私のせいなんで信長に報告しなきゃ。
真冬並みに寒くなるならどっかに移動したほうが良い。
ポーションがあるにしたってけが人を動かすのはどうかと思うけど、この場合仕方ない。
私のせいだけど。
……うう、怒られるかなぁ。いやだなぁ。
あ、そうだイナリちゃんの迎えを寄こさなきゃ。
「おさき、イナリちゃんを迎えに行かなきゃならないんだけど、誰かいない?」
「は?イナリ様ですか?なぜです?」
「えっ……と、その、今すごく寒いでしょ」
「そうですね。この辺で雪が降るのは珍しいと兵が話していましたよ」
「それ、私のせいなの。えっと、投げてもらった矢に涼風様の符をつけてたのね。それを私が発動させて、将鬼は凍ったのね」
「は?あの矢はそういう……なるほど、あれが魔導ですか!」
「そうなのすごいでしょ!これで私魔法少女だよ!不思議だよね、あんなことできるなんて!これはもっと研究しなきゃ!!」
「察するに、止め方がわからない、とかそういう事で、イナリ様を連れて来いと、そういうことですね?」
「う“っ……そ、その通りです、はい……」
「はぁ……わかりました。誰かニンジャを、おふゆがよいでしょうか。すぐに走らせます。……姫様のやらかしはいつもの事ですが、今回は格別ですねぇ」
「ごめんね、このままだとこの辺真冬になっちゃうらしいから、急いでね?」
「いったいどこでそんな話を……それはまた後で聞かせてもらいますからね」
「うぅ、ごめんねおさき」
「何をおっしゃいます。将鬼を討伐できたのは姫様の魔導のおかげもあるのです。このさきめの命を救ってもらったも同然ですから、謝る必要はございませんよ。
……よく頑張りましたね、姫様」
「お、おさきぃ~~」
ぶわわと涙腺が崩壊して泣きつく私を抱きとめやさしく微笑むおさき。
……ありがとね、お姉ちゃん。
その後、ひょっこり顔を出した同級生ニンジャ、おふゆをとっつかまえたおさきは彼女を熱田に走らせ、イナリちゃんを連れて来る任務につけた。
疲れてるのになぁ、という顔をしながら走っていったおふゆには悪いとは思うが緊急事態なのでしょうがない。お賃金弾むから頑張ってくれたまえ。
優しく褒めてくれたおさきはどこへやら、こう寒くてはここにいるわけにも行かないのだからとっとと信長に報告しろ、とお尻を蹴飛ばされる勢いで叱られて、私は信長の前でしょんぼり座っている。
「どうした帰蝶?」
「えーと、えーとねノッブ、怒らないで聞いてね?」
そうして私はこの寒さの原因を説明して、多分この辺じゃ経験しないレベルの冬になりそうなんで、本陣はすぐ移動させた方が良いことを説明した。
怒られるかなあと思ったけど、信長は笑って
「お前がいなきゃ野郎の隙はつけなかったんだ。それをどうして責められる?
この戦の立役者はお前だ。
魔導を秘匿する以上、戦功1位とするわけにゃいかねえが、俺はそれに値すると思ってる。よくやったな、帰蝶」
と言って頭を撫でてくれた。
しゅきぃ♡
そんなわけで本陣はとっとと引き払い、すぐ近くにある大高城にみんな移動することになった。
思った以上に近いので、最初っからここにすればよかったじゃんと思ったけど、共同作戦中とはいえ最近まで敵対してた今川を城に入れるわけにも行かず、そもそも将鬼討伐の前線に本陣置きたいとか言い出したのは今川だしで、下手すると城から容易く攻撃されるような位置に本陣を置くと言って諦めさせようとしたら思いの外ノリノリで乗ってきやがった結果だそうな。
とりあえず将鬼は討伐したし織田の精強さも見せつけられたしそもそも非常事態なんで結局今川方も城に入れて本陣機能を置くことにしたのだとか。
それはそれとして、よろよろ歩く負傷者をみるとどうにも申し訳ない。
「私の魔力が強すぎて暴走してしまったのだ、すまない」
などと謝りつつドヤ顔をしながら馬に揺られる私はすっかり大魔導士になった気分で。
大変気持ちよく大高城に入ったのであった。
読んでいただきありがとうございます。




