第55話「桶狭間の戦い(後)」
火曜日な上にこどもの日なので第55話。
こどもの日スペシャル、という事で2話同時更新です。
「ゲホゲホゴホホゴッゴエッオエェッ!」
帰蝶です。
戦場の中心で愛を叫ぼうとしたらクソまずポーションを突っ込まれて盛大にむせてます。貴公、汚いとは言わないでくれたまえよ。
吹っ飛ばされて死んだと思ったけど、どうも信長に助けられて生きているらしい。
それにしたっていきなり口にポーションを突っ込まないでほしい。
振りかけても効くんだから是非ともそうしてもらいたかった。
涙目で睨み上げる私を無視して、信長は余所を見ている。
私もそちらを向くと、将鬼と信綱が戦っている。
動きが早すぎてよくわかんないけど、刀を正眼に構えた信綱は迫る方天戟を必死にはじき返し、隙を見つけては斬りつけるも方天戟に阻まれる、という前世にプレイした義手の忍者ゲームみたいな戦闘を繰り広げている。
思わず体幹ゲージを探したけど見えるはずもない。
「久助」
「はっ」
信長が声をかけると、短く返事を発した久助が何かを投げる。
目つぶしだ。
将鬼の顔に当たって白い粉が広がり、将鬼はたまらず顔を覆う。
「伊勢守、こっちだ!!」
信綱に声をかけた信長はその場を離れる。
久助も、信綱も一緒だ。
このまま逃げるのかな?義元はどうしよう?とか思ったら、少し離れた場所に私を下ろした。
「ここで待ってろ帰蝶。いまあのクソヤローをぶち殺してくる」
「詳しい話は後で、だね。わかったよノッブ」
「そう言う事だ。行くぞ久助、伊勢守!!」
そして、織田信長と将鬼の決戦が始まったのだ。
目つぶし粉をもろに受けたのに将鬼の復活は早かった。
多分一番の脅威と見做した信綱が消えたのでしばらくきょろきょろした後、私たちが固まっているのを見て走り出そうとし、すぐ信長らと向かってきたので待ち構える事にしたようだった。
信長は例の大鬼がドロップした大太刀を八双に構えてものすごい勢いで走り、その勢いのまま振りかぶって叩きつけた。
将鬼は方天戟で受け止める。
そこに信綱が将鬼の足元へもぐりこみ刀を振るう。
が、鎧に弾かれて傷をつけるに至らない。
久助は引き続き目つぶしを投げつつ、たまに苦無も目元に投げつける。
当たってるが、鎧じゃないのに刺さるに至らない。
ああ、迷宮鉄が足りなくて手裏剣とか苦無は不足気味って言ってた!
最高の装備を用意するって約束したのに兵を優先して、という言葉に甘えて後回しにするんじゃなかった!
それでも視界を遮る事は出来ているようで、続けて暴風のように大太刀をぶん回す信長と静かに的確に鎧の隙間を狙って刀を振るう信綱に、将鬼は防戦一方になっている。
初めて奴の顔に苛立ちの表情が浮かんだ。
苛立ちのまま方天戟を振りまわし、信長は横っ飛びに転がりながら避ける。
うわぁダーク〇ウルみたい♡
じゃない!危ない!!
目線を振ると義元が部下に指示を出している。
早く逃げろと言いたいけど、大鬼も迫ってるので今川兵に矢を射かけさせ足止めし、織田本隊の来援を待つよう激を飛ばしているのがここまで聞こえる。
さすが戦国武将、何かで声が通るのが良い武将の条件とか聞いたけどまさにそれだ。
これでなんとか立て直せるかな?
でも将鬼が倒せなければすべてご破算だ。
足りない。何かが足りない。
おそらく信長の一撃は奴にとっても受けたくないものだ。
信綱や久助の攻撃はあえて受けているふしがあるのに信長の攻撃は避けるか、武器で受けるかを必ずしてる。
後、でかすぎる。
将鬼を切り殺すには首を落とすとかが必要なんだろうけど、普通に立たせているといくら信長でも刃が届かない。
あと一手が足りない!
どうしよう、どうしたらいい?
慶次かおさきがいれば何とかなる?
でもさっき吹っ飛ばされてしまってあの二人は安否不明だ!
ああー!足りない足りない!何もかも足りない!
こんなことならもっと頑張ってナーロッパ化に力入れるんだった!
魔法とか!魔法とか!!
もうこうなったら神頼みだ!
私はイナリちゃんが寄こしてくれたお守りを握って神頼みを始めた。
なむなむ、神様仏様イナリちゃんさま!どうかあの忌々しい鬼をぶっ殺す知恵を授けたまえ―!授けてくれたら新しいスイーツをお供えします!
だからどうか!
信長を、みんなを助けて!!
「よいぞー」
イナリちゃんの声が聞こえた気がする。
ああ、ついに走馬灯が。
さっき死んだと思ったときは碌な事思わなかったのにこんな時には出るのね。
ああ無情。
「きちょー?聞こえておらぬのかきちょー?」
「えっイナリちゃん?」
「わらわである!」
姿は見えないのにイナリちゃんの声が聞こえる。
なんだろうこれ。
「お守りを通じてわらわと繋がったようじゃ。
さすがわらわのきちょーじゃ。なかなかない事なのじゃ」
「えっ、えっと、イナリちゃん?どこにいるの?」
「うん?天気が悪いのでおいちと積み木で遊んでおったのじゃ。
きちょーはどうしたのじゃ?」
「は、え?あ、ああもうどうでもいいや!助けてイナリちゃん!
かくかくしかじかで大ピンチなの!」
「かくかくしかじかではなんだかわからんが、きちょーの見ている事は見えておるので完全に理解したのじゃ!」
「おお!さすが神様!あのクソでかい鬼をやっつけたいの!なんかこう、イナリちゃんの術でババ―っとできない!?」
「きちょー、わらわは戦に手を出すことはできないのじゃ」
「ああ、ボンってなるとかいう……」
「じゃが、こんなこともあろーかときちょーには策を授けてあるのじゃ!お守りを開封するのじゃ!!」
「おお、さすが神様!やっぱり「こんなこともあろうかと枠」は必要だよね!」
「……たまたま入れたものが役に立ちそうで良かったのじゃ」
「た、たまたま?」
「気にしてはだめなのじゃ!早く開けてみよ!ノッブがやられてしまうのじゃ!」
絶対偶然だろこの幼女。
とにかくお守りを開けてみる。
ぐぎぎ、結構きつく縛ってあるねこのお守り。
ちょっともたつきながら開けると、なんかお札が入っている。
見たことあるような……
「涼風の術の符じゃ!それをはるひこの部屋でやったように発動させよ!よいか、気の流れはきにするな!ちょろちょろーではなくドバっと流すのじゃ!きちょーなら鬼を凍らせるくらいわけないはずなのじゃ!!」
「その加減がわかんないのよう!!」
「のじゃー?」
「ええいもういいヤケだ!それで行けるんならやってやろうじゃないの!」
「あっ、札は鬼にくっつけた方が良いぞよ。術は札を中心に発動するからの。では気を付けての。……あ、おいち!なんでそんな棒状で熱そうなものを!?」
「イナリちゃん!?イナリちゃん?お市ちゃんがどうしたの!?」
「やめよおいち!それはそんな……えっ!?えええっ!?」
「イナリちゃん!?どうしたの!?」
「あっなーんじゃ……ホッとしたのじゃー」
「いったい何があったのイナリちゃーん!?」
それっきりイナリちゃんの声は聞こえなくなった。
なにがあったんだあの幼女コンビ。
帰ったらくすぐりの刑にしてやる!
にしてもお札をあのクソデカ鬼にくっつけろったってどうすりゃいいのよ。
私なんか近づいたら方天戟で真っ二つにされてしまいそう。
次は受け止められる自信がない。
なんかにくっつけて投げつける?
いや私ソフトボール投げ苦手だったんだよね……
ニンジャ訓練で手裏剣投げてみてもちっとも飛ばないで鬼太郎にさんざん煽られた。
いかん私じゃ術発動はできても奴に届かない!
誰かいないの!?どうしようどうしよう!!
あわあわしていると、背後から知ってる声が。
「姫さま!ご無事ですか!?」
「おさき!!生きとったんかワレェ!!」
おさきなら!この脳筋なら奴に届かせられるはず!
手裏剣術の訓練で投げた手裏剣が的と一緒に粉々になったこの子なら!
……お札も一緒に粉々になったりしないよね。
とりあえず生きててくれてよかった、と喜ぶのは後にして、その辺に落ちてた矢を拾って符を括り付けおさきに渡す。
「おさき!もう細かいことはいいから、この矢を将鬼に向かって投げて!刺さればなお良し!!」
「は?姫様何を……」
「いいから!早く早く!神様のお告げとかそんな感じ!早く!ハリー!」
「は、はい!!将鬼に向かって……死ねえぇえっ!」
憎悪が籠った声で大きく振りかぶって矢を投げつけるおさき。
ストレスたまってたみたい。なんかすまん。
おさきの手から離れた矢はまるでレーザービームのようにまっすぐ、ものすごい速さで飛んでいき、将鬼の左肩に突き刺さった。
普通の弓で撃っても刺さんないのにどうなってんのこの子の肩。
メジャーでも通用する気がする。
ああいやそんな事言ってる場合じゃない!
私たちから攻撃を受けたと気付いた将鬼がこっちを向く。
信長を無視してこちらに向かおうとするようだ!
何なのコイツヘイト管理おかしくなってんじゃないの!?
いやいやいやまてまて呪文!涼風様の術のじゅもんんんんん!!
ええとなんだったっけ?
なんだっけ!?
ヤバい忘れたフレーフレーババァとかそんな感じだった気がするけど!?
助けてイナリちゃーん!!
「呼んだかのきちょー?」
「助けてイナリちゃん!呪文がわかんないの!!」
「わらわ幼女だから全然おぼえてないのじゃ」
「クソこのポンコツ神め!!帰ったら覚えてろ!おしっぽもふもふハフハフしてやる!」
「きちょー、わらわのおしっぽは「立派なおしっぽ」と言わないと嫌なのじゃ」
「うっさい!忙しいからまた後で!」
肝心な時に役に立たないなあの幼女!
ええいもういい!やけだ!
もうどうしようもないのでこちらに向かってくる将鬼を目前に、私は適当に気合を込めてそれっぽい呪文を唱えることにした。
「えーとえーと!凍れ鬼!フレーフレーババア!!!」
あれ、体に力が。
入らない、と思ったとき、嵐のものとは違う強風が将鬼に向かって吹き始めた。
「姫様!?」
崩れ落ちる私。おさきが慌てて支えてくれて倒れこむのは避けられた。
「私は大丈夫!将鬼は!?」
見ると、将鬼は見事に凍り付いていた。
「お、おおおおお!やった!成功だあああ!」
これ魔法だよね!私が使った魔法!
この土壇場でついに魔法少女帰蝶ちゃんが爆誕したのだ!
お市ちゃんに一時後れを取りましたが今こそ巻き返しの時です!!
将鬼はすっかり凍り付いて札幌雪祭りの雪像のようだ。
氷に閉じ込めるような感じである。
「やったか?……やった、やったあ!!
フハハハハ!将鬼おそるるにたらーず!」
テンションが上がって盛大にフラグを立てた事に気付かないまま高笑いを上げる私。
だから、将鬼を覆う氷にピシリとひびが入った事に気付かなかった。
「帰蝶!あぶねえ!」
信長の声がする。
えっ?と思った時と氷が割れて将鬼が動き出すのは同時だった。
「うそおおおおお!?」
憎々し気に私を睨む将鬼が方天戟を振り上げる。
おさきは私をかばうように前に立ちなぎなたを構えるが、間に合わない!?
激しい金属音がした。
恐る恐る目を開けると黒い鎧に派手な着物。茶筅髷と、広い背中。
信長が方天戟を受け止めていた。
「凍って力が抜けてるみてえだな。これならわけねえ。見事だぜ帰蝶。
……伊勢守!!」
追いついてきた信綱が鎧の無い膝裏に切りつける。
刃が光った気がした。
紫色の血が噴出し、膝をつく将鬼。
頭が、下がった。
「おおおおおおおおおおおおおお!!」
グッと溜めを作って構えていた信長は獰猛な雄たけびを上げながら飛び上がり。
将鬼の首を落とした。
読んでくださりありがとうございます。




