第52話「なんか旗たってるんですけど」
日曜日なので第52話です。
連休って素敵ですよね。
陣振れ。
要は戦場に出よ、という命令が下ったってことだ。
尾張女子大学寮の生徒たちに。つまり私も。
生徒筆頭だからね。行かないわけにもいかない。
女性も戦に出すとは決めたが、それはあくまで防衛面に関してで、今回は出番はないはず、と高をくくっていた。
でも考えてみれば、戦力が限られている状況で魔物に対抗できる者がいるなら出さないなんて選択肢は無い。
特に今は戦国時代だ。
実は戦国時代の兵士には女性も結構いたりする。たいていは傭兵らしいけども。
女が奥向きだけの存在になるのは江戸時代になってからだ。
いや、正確には明治後、国民皆兵になって男がみんな兵士になった時、全員が家庭をもって帰属意識を強く持つ必要に迫られてからだ。
正直、私自身が姫様なせいでこのことは結構認識の外にあった。
報告を受けるだけで今回は終わるのだと、安易に考えていた。
腹をくくらなければならない。
どういう訳か迷宮内と違ってやたらと臭かったり感情が見える鬼をぶっ殺す。
やってやろうじゃにゃいか!!
いや、心の声でまで噛んでどうする。
ともかく、詳しいことを聞くためもふもふしていたイナリちゃんのとても立派なおしっぽ(こういわないとイナリちゃんが怒るのだ。とてもかわいい)をお市ちゃんに渡し、控えている久助に向き直る。
とても立派なおしっぽを渡されたお市ちゃんはキャッキャと喜んでいるが、空気を読んだ乳母に抱えられて部屋を出ていった。
最初から乳母さんにお市ちゃんを退席させてとか言うところだったかな?
帰蝶ちゃんまた間違えちゃったのかもしれない。
イナリちゃんはなんだか難しい顔をして、もふもふされていた姿勢のまんま固まっている。
神様は戦に関わってはいけないらしいんだけど、話を聞くくらいは良いのかな?
まあ動かないんなら別に良いんだろう。
正直ドキドキしてるのでそばにいてくれるのは心強い。
おさきもいるんだけど、お澄まし顔しつつ何だかそわそわワクワクしてる様子なので頼りにならなさそうだ。
脳筋はこれだから!
「陣触れはわかったよ。どうしてそうなったのか教えてもらえる?
女子大学寮は出陣予定はなかったはずだけど」
久助は顔色一つ変えずに説明を始めた。
曰く。
聞いていたように、三河魔境侵攻作戦は予想以上にうまく行っているそうだ。
今川が小鬼を抑え、大鬼などの脅威レベルの高い魔物は尾張兵で倒す。
ごく単純に突っ込んでくるだけの魔物を前に非常にうまく回った。
尾張側は目に付いた大鬼たちをずんどこ討伐していき、小鬼たちは今川の方へ追い散らして処理を委ねる。
むしろ、うまく回りすぎた。
作戦の進行と同時に行われたニンジャによる指揮個体、もしくは魔王の捜索の結果、おそらくそれと思われる魔物を発見。
従来発見されていた大鬼よりもはるかに巨大なそれは「将鬼」と名付けられ、とりあえずこれの討伐をもって三河魔境侵攻作戦の完了とすることが織田・今川両家で合意された。
しかし、この将鬼討伐戦に今川諸将も参加させよと言い出した。
将鬼の実力は未知数で、熱田迷宮で最深層まで潜った信長も見たことがない魔物であるため非常に危険。
しかし今回の作戦が非常に順調だった事に気が大きくなったのか、将鬼討伐戦の本陣に詰めさせよとか言ったのだ。
義元と雪斎はこれを今後の対魔物戦で今川の武威を示し士気を維持するためにも必要な措置であると判断したらしい。
実際、前線に出ても役に立たないだろうから兵糧の輸送と本陣の防衛くらいしかできないが、何とか頼むと信長に裏で頼んでいたらしい。
という訳で、将鬼が潜伏すると思しき刈谷付近に織田・今川連合軍の本陣および兵糧集積拠点をおくことになった。
が、織田家の戦力は払底しつつあり、同時進行で進む脅威度の高い魔物の討伐にてんてこ舞い。
突然構築する羽目になった前線近くの本陣の防衛戦力が足りない。
そんなこんなで本陣とはいえ後方ではあるし、尾張女子大学寮の生徒を動員することになったのだった。
ちなみに、久助が言うにはこれは信秀の策でもあるのだそうな。
尾張女子大学寮の女子生徒が戦場に出ることで女子の戦力化やその教育効果を尾張内外に見せつける意図もあるのだとか。
そういうのは文化祭とか発表会みたいなのでやってほしいと思う。
いきなり戦場に出すのはどうかと思うよ。
「なるほど、経緯はわかりました。それで、私たちはどこへ行けばよいのです?」
ぐだぐだ言っても仕方ない。私は生徒筆頭なのでみんなを無事連れて帰る義務がある。
おうちに帰るまでが遠足です!
行くのは遠足じゃなくて戦争だけどな!
はははは、乾いた笑いしか出ないよ。
「は。熱田へ慶次と信綱さまの一隊が迎えに参りますので、彼らとともに本陣のある刈谷近くの桶狭間と地元の衆に言われている高台に詰めてもらいまする」
は?
「え、と。久助?私の聞き間違いかな?どこだって?おけはざま、とか聞こえたけど」
「聞き間違いではございませぬよ。地元の衆が桶狭間とか呼ぶ、丘陵地でしてな。何もないところですが、見通しも悪くなく移動もしやすいところです」
おけはざま。
マジで。
なんで?
なんでわざわざ桶狭間なのさ。
……桶狭間は、史実の信長が尾張に攻め寄せた今川義元を奇襲で討ち取った場所だ。
教科書にも載ってるくらい有名な話だ。
そこに本陣?
今川義元も詰める?
いやこれ絶対フラグだろ!まずいまずいまずい!
「駄目、絶対ダメ!桶狭間はだめ!桶狭間だけはやめて!!お願い久助ノッブにつなぎを!ヤバいフラグが立ってるとしか思えない!!」
「ひ、姫様?」
なかばパニックになって叫ぶ私に、困惑した声を上げるしかない久助。
ごめんてば!でもヤバいのまずいの!絶対なんかそういうフラグだってこれ!!
私は詳しいんだ!!
おさきとイナリちゃんが私の傍に寄って何とかなだめようとしている。
ちょっと落ち着いた私は皆に桶狭間が前世の史実でどういう場所なのかを説明した。
でも……
「ふむ。前世の史実で義元公が討ち取られた場所、ですか。
確かに縁起はよろしくありませんな」
と、久助。
「しかし、その史実と現在の状況は似ても似つかないものなのでは?」
と、おさき。
「わらわ幼女だからぜんぜんわかんないのじゃ」
と、イナリちゃん。
誰も彼も本気に取ってくれない!
特にイナリちゃん、キミ神様なんだからそれっぽい事いう場面じゃない!?
ああああこの場に信長がいないのが悔やまれる!
信長なら真面目に聞いてくれるのに!!
とりあえず、私のそういう話があって、できれば場所を変えた方が良い、という進言があった事は信長に伝える、という事で私たちは出陣の準備に取り掛かることになった。
そうして5日後、尾張女子大学寮の学舎の前で出陣式が行われ、私を含めた女子大学寮1期生30名は戦場へ向かう事になったのだ。
私は馬に揺られている。
一応この一隊の大将格なので騎乗することになったのだ。
私たちはこんなこともあろうかと作っておいたおそろいの鎧をつけている。
レベルアップして身体能力が上がったので鎧つけても余裕なのだ。
塗料の準備が間に合わなかったので色はまちまち。
そのうち白とかで揃えて白蝶隊とか名乗りたい。
ダジャレじゃないよ。白い帰蝶の隊、みたいな。かっこいいよね!
鎧は胸当て、兜代わりの鉢がね、小手、脛あて、前垂れ等々。なんとも戦国っぽいものだ。
パッと見て女の子の部隊だとはわかりづらい。
別に着飾る必要もないんだけどさ。
私としては例のゲームの看板セイバーさんみたいなドレスアーマーを作りたかったけど、よく考えなくてもスカートは邪魔なので普通に却下された。
あー良い天気。こんな邪魔くさい鎧つけてなけりゃ楽しいピクニックなのになぁ。
何度目かもわからないため息をついて首から下げたきんちゃく袋を撫でる。
これは出陣の時イナリちゃんがくれたお守りだ。
「きちょー、戦場へ行くのはとても恐ろしい事じゃ。
わらわが気を込めたお守りを授けるゆえ、きっと無事に帰ってくるのじゃよ」
と言っていたので何かガチ目に霊験あらたかなものかもしれない。
いざとなったら代わりに壊れて命を救ってくれるようなものだと嬉しいのだけれど。
涼風様も神妙に頷いていて、お守りを作るのを手伝ったとか言っていた。
あなたにはもっと魔導研究に力を入れてほしいんだけど!と言いそうになったが目の下のくまがすごくて顔色も悪かったのでさすがに言えなかった。
どう考えても、絶対何かフラグが立ってる気がする。
憂鬱だわあ、と周囲を眺めると
「腕がなるわ!ついに外で鬼を斬ることができる!」
「後方とはいえ、戦場に出たというのは拍が付くわ。良い縁談が舞い込む好機!」
「今川様に見初められてしまったりして!キャー!」
「私は三郎さまが良いわ!」
だのと、なんともかしましいし意気軒高である。
大丈夫かな。この子たちが泣いたり笑ったりできなくなったりしないかな。
大抵の子は大鬼を殴り倒したりできちゃうんでそう簡単にはやられないだろうけど。
心配だなぁ。
おさきなんか歩きながらなぎなたをブンブン振ってる。
危ないからしまっときなさいよキミ。
あと信長は私のだ!側室になりたいならこの私を通してくれたまえよ、チミィ!
そんな生徒たちの様子にドン引きしながら行軍し、小休止の時間に話しかけてくる子たちがいた。
生徒の中でも私と同じくミソッカス扱いの子たちだ。
誰もかれもが迷宮でレベルアップしたからって嬉々として戦えるわけじゃない。
当然ビビり散らかしておっかなびっくり付いてきた子もいるんだ。
らんとみきとすずの3人組で、この子たちは確か津島の商家の娘さんだったか。
この時代、商家と武士の違いがあいまいなので武家社会での成り上がりを目論んだ親に大学寮に入れられたんだ。
商家という事で武芸の訓練経験がなかったため相当苦労していたのを覚えている。
その分計算や所作は綺麗で、家政では活躍していたんだけども。
武家の娘の比率が高い上に武芸の稽古の比率が高い女子大学寮内では一段下に見られがちだったけど、その才は今後の尾張に必要だから励みなさい、と土田御前が優しく話していたのをよく覚えている。
私にもやさしくしてほしい。
「濃姫様、あの、正直私たち怖くて……帰っていいですか?」
私は激しく同意しつつ、士気にかかわるので声を潜めて言う。
「怖いよねえ。そっかぁどうしよう。実は私も帰りたいくらいなんだよねー」
驚く三人娘。
「そんな、濃姫様は他の皆様と同じく嬉々として向かわれているとばかり……!」
「ええ、今宵もなぎなたが血を欲しておるとかよく仰ってましたし……!」
君らね、私を何だと思ってんのさ。
「濃姫様は三郎さまや慶次さまにも臆せずモノを言うし、鬼太郎殿にも、おさきおねえさまにもどんどん掛かっていくからなんて勇ましい方なのだろうと思っておりました」
いかん。彼女らの中の私のイメージがなんか思ってたのと違う。
ここは強い意志で弁明し軌道修正を図らねば!
「君たち、それは誤解だよ。
そうしないといけないからそうしていただけなのだよ。
この帰蝶ちゃんは温厚でおしとやかな淑女であるわけだよ。
それをあのような扱いをする糞ゴブリンや脳筋侍女が悪いのであって帰蝶ちゃんはちっとも悪くないのです。
あ、信長との間には愛があるのでお話をするのは全然よいのですよ♡
いやあまいっちゃいますねえ愛されててすまん!
あ、それとなぎなたが血を欲しているとか口走っていたことはこの場の秘密だよ?
私は14歳なので中二病にかかってもしょうがないんだ。いいね?」
と、早口で話していたらいつの間にかいなくなっていた。
おかしいな?
今までスポットの当たってなかったキャラに唐突にスポットを当てる鬼畜ムーブ。
今回も最後まで見ていただいてありがとうございます。
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