第50話「光〇つながりの罠(再)」
祝日の水曜日なので第50話です。
なんだかんだで50話まで来ました。
これも皆様のおかげでございます。
私が三河魔境の戦を決断したら信長が織田家当主になるらしい。
なんだそりゃ?
ぽかんとした顔の私を見て苦笑いする信長。
季節外れのホーホケキョとか鳥の鳴き声が聞こえてきそうな静寂だ。
遠くでお市ちゃんが泣いてる声が聞こえる。
また乳母にしかられたな?やんちゃなんだよねあの子。
こないだオフトゥン(試作型)に寝てた私を踏んずけて笑ってた恨みは忘れていないので今度ほっぺむにむにの刑にしてやる。
しばらくぼけっと見つめあったあと、信長は語りだした。
曰く。
信秀は魔境との戦になればもはや自分には指揮を執り切れない。
魔物と魔境についてすぐに意見が出てくる帰蝶の手綱を握れるのは信長だけなのだから、当然信長が当主になるべき。
そのための準備はしてきた。
あとは帰蝶の覚悟があるかどうか、それだけだ。
信秀はそう語ったらしい。
その上で信長は言った。
「親父はこう言ってる。
だが帰蝶、お前はまだ幼いし、大名の正室として立つのは荷が重い部分もあるだろうよ。だから、今回もお前じゃなくて俺が決断したことにしても良い。
どうする?」
私は今の生活が案外気に入っている。
尾張女子大学寮で女学生みたいなことをやって、青春よもう一度って感じだ。
いや今は14歳なんだから青春真っ盛りで良いんだけどね!
前世から通算しての話だからね!?
とにかく、気楽な身分でいられたらどんなに良いか。
でもダメだ。魔境は待ってくれない。
同級生やようやく復興して戻ってきた熱田の人々、おさきやイナリちゃん、お市ちゃん、慶次や犬千代君やら久助やら。
信秀や土田御前。美濃に残る家族たち。
そして、目の前で静かに私を見つめる信長。
転生してから知った人々の顔を思い起こす。
歴史上で知ってるような知らないような人もいる。
でもここに生きて触れ合ったり話したりして、彼らは歴史の本に書かれた名前なんかじゃなく、今ここに生きている人たちだ。
わけわかんない化け物に無残に殺されて良い人なんて、ただ一人としていない。
いや、戦国時代だからってわけわかんない理由で始まる戦で死んで良いわけでもないけどさ。
とにかく。
私は私が快適に暮らしたいだけだ。
そのために私の周りで意味わかんない理由で死ぬ人が出てほしくない。
だからナーロッパを作ろうと決めたんだ。
信長の隣で、一緒に。
だから。だから私は。
「見くびらないで!私を誰だと思っていやがりゅ!」
噛んだ。
「お前は帰蝶だが」
冷静にツッコまないでくだしゃい!
「ゲフンゲフン!美濃のマムシの娘たるこのわたくし、帰蝶が織田の正室になることに臆するもにょでしゅか!や、やってやりゅう!ど、どどどどんとこいなのでしゅ!」
言ってることは勇ましいがこの女、噛み噛みである。
なんか恥ずかしくて顔が熱いでござる。
だけど信長はフッと微笑み。
「そうか。帰蝶はそういうやつだもんなあ。
へっぽこの癖に勇ましい。
……お前は良い女だよ」
そういって私の頭をナデナデしてくれたのだ。
ううひへひひふひひひ!
久々の俺の嫁発言キタコレ!
帰蝶ちゃんがんばるよぉ!
そうしてしばらくナデナデフヒフヒしてイチャコラしていた私たちであった。
さんざっぱらイチャコラして信長成分を十分補給した私は信長と三河魔境攻略について話し合っている。
おさきが屋根裏のニンジャをとっつかまえてみたら女子大学寮のやたら絵心のある同級生だったので、彼女に三河の簡易図を書かせて車座に座った中心に置いてある。
いちいち屋根裏に忍ばれるのも気になるので、彼女はおさきに連行していってもらった。若干涙目だが気にしてはいけない。そのうちしれっと侍女になっているんじゃなかろうか。
侍女で実はくのいちとか萌えるよね。
少なくとも侍女で実は脳筋よりかはかっこいいと思う。誰とは言わないけど。
「とりあえず、今川に提案する戦略についてお話しするね。
ちなみにだけど私あんまり戦略とか詳しくないから、前世で読んだえーと、戦記物?に出てた戦略?戦術?をただ思いだしただけだからね。あんま期待されても困るよ?」
予防線は実際大事です。私は戦場になんか出たことないんだから。
こっちの戦略書、孫氏の兵法とか何言ってるかちんぷんかんぷんなんだもの。
日本語でお願いします!
「ああ、とりあえず聞くだけ聞いてみてから考えようぜ」
信長は優しい。こうやって私の話を聞いてくれるだけで相当頭が柔らかくて先進的な人なんだなってわかる。しゅき♡
いかんいかん。説明に集中せねば。
「ええと、ざっくりいうと、どっしり構えた本陣に敵を受け止めさせてる間に後ろから挟み撃ちにするって戦術なんだよね。
今回の場合、三河側からゆっくり進軍、むしろ動かない方がいいのかな?今川軍が魔物を受け止めてる間に、敵の背後、尾張側から責め立てるのが織田軍の主力、とこんな感じかな?」
「うーむ、今川に魔物を抑えられるか?大鬼に蹴散らされたんだぞ?」
「だから、大鬼に対処する部隊、6人隊をいくつか三河に送るの。今川には小鬼の抑えをしてもらう形かな?」
「ああなるほど、雑魚が散るのを防ぐのか。確かに俺たちじゃ小鬼にまで手が回らんな」
「そうなの。今川にはそこを担ってもらって、織田は大鬼や魔猪や魔狼の対処に集中する。そして尾張側から押し込んで魔物を殲滅する」
「魔王とやらは?」
「どんだけ強いかわかんないけど、ノッブに倒せなかったらもうどうしようもないよ。無理そうなら遠巻きにして周囲を削って、定期的に間引きする形にするしかないんじゃないかな」
「俺が鍛えてそのうち倒せるまで放置、ってことか」
「そうなっちゃうね。でもなあ、大丈夫な気がするなあ。根拠はないんだけど」
「なんでそう思うんだ?」
「うーん、久助が見た感じ、まだ社会構築に至ってないんだよね。ただ上下関係が厳しくなっただけっていうか」
「よくわからんな?それでなにがわかる?」
「まだ成長中、ってこと。魔王?も、魔物たちも。軍が完成したら出てくるんだろうけど、まだそこまで至ってないような気がするんだよね」
「うん?」
「えーとね、なんて言ったらいいんだろう。三河の岡崎から北側を広めに支配しつつある武家というかなんというか」
「ああ、国人か。ちょっと勢いがある」
「そうそう、そんな感じ!雑兵が小鬼、地侍が大鬼とすれば、魔王?言いにくいなあどんな奴なんだろ。これをその、国人と考えたらわかりやすくない?」
「なるほど、完全に掌握するには時間がかかるな。勢力を固めるのに時間がかかるのは魔物も同じと考えると……」
「行けそうな気がしない?そりゃ普通の人間には対処できない強さは持ってるんだろうけど、ノッブに当てはめると、ノッブは大鬼並みに鍛えた兵を軍団にして尾張を平定した大名じゃん。普通の人間じゃないよ。
あっごめん変な意味じゃなくてね?」
「わかってるわかってる。俺なら倒せそうな気がするな。本当は俺じゃなくても倒せねえといけないんだが」
「まあやってみないとわかんないからね。魔物の数にもよるから時間はかかるかもしれないけど、これならなんとか行けるんじゃないかな、と思って」
「そうか。前世で読んだ本に書いてあった戦略とか言ってたな?なんかわかりやすい名前とかねえのか?」
「えっと、なんだったかなぁ。金槌?ちがう、なんか鍛冶っぽい名前だったような……」
「……確かに鍛冶の鍛造に似てるな。金床に置いた敵を金槌で打つような……」
「あ、それそれ!思い出した、金床戦術って言うんだよ!
アレキサンダー大王?だったかな?彼が得意だったとか!何で読んだんだっけかなぁ」
「あれきさんだあ?どこの話だ?」
「古代ギリシャ……天竺よりもっと西の国のお話だったかな。古代ギリシャとは全然関係ないお話に彼が出てて、それで興味を持って調べた本に書いてあったんだよね。いやーFA〇Eのアレキサンダーはかっこよかった!マスターの少年がへっぽこの癖にまたかっこよくて……」
「おーい帰って来い帰蝶。お前の策はわかった。今川にはこれで行くぞ」
「えっこんなんでいいの?」
「共同でやるならどうせ挟撃になるんだ、主力が織田になるだけだ。
やっこさんが織田に助力を求めてきたんだ、文句は言わせねえよ」
ニヤリと笑った信長は滅茶苦茶かっこよかった。
2日後、太原雪斎が再び熱田屋敷にやってきた。
あの護衛っぽいイケメンも一緒だ。側近とかそういう人なのかもね。
紹介されないんなら、まあそういう立場の人なんだろう。
熱田屋敷の広間で信長と横に座って相対する。
相変わらず温和な笑みを浮かべた雪斎はしかし目の奥は笑っていないように見える。
「雪斎殿、誠にご苦労であるな。織田三郎信長である」
「今頼光様にございますか。駿河は臨在寺の雪斎にございまする」
てっきり那古野城で会ってるのかと思ったけど、初対面だったんだね。
今川の訪問は非公式なんで、当主(信秀)と嫡男が雁首揃えて迎えるようなことはしなかったんだろう。
よそよそしい挨拶の応酬があり、信長はさっそく本題に入る。
「三河魔境への対処の件だが、織田は今川と共同で当たる用意がある」
「おぉ、それはありがたい!この日ノ本の危機でございますからな」
喜色を浮かべて声を上げる雪斎。
それを遮るように信長が言う。
「ただし!条件がある」
場が凍る。
しかしさすがは太原雪斎。
穏やかな表情を崩さず、
「なんでしょうかな?」
と返答する。
まあ、条件を付けられるのは織り込み済みだよね。
信長もまた、表情を変えずに言い放つ。
「魔境の開放がなった暁には、三河から手を引け」
そう、これだ。
確かに魔境は厄介だけど、それと同様に厄介なのが今川のちょっかいだ。
魔境が無くなったとたん余計な調略や扇動が再開されてはたまったもんじゃない。
よって、三河から手を引かせ、緩衝地帯兼生産地として活用したい思惑がある。
誰が統治するのさって?
実は魔物に滅ぼされた松平の生き残りが尾張にいるんだ。
歴史に詳しい人なら知ってるだろう、松平竹千代くん。6歳のショタ。
そう、のちの徳川家康である。
もともと史実でも今川の人質になる前に尾張にかっさわれてんだよねあの人。
この世界ではかっさらわれて尾張についたとたんに魔物の噴出騒動が始まって、この一年那古野城の奥向きで放置状態だったそうな。
いや、いるのは知ってるしちゃんとお世話もされてるけど政治的に構ってる暇なかったようで。
竹千代くんを三河統治の旗頭として立てて、織田の影響下に置く考えである。
三河なら綿花があるとか聞いたことあるのでオフトゥンやザブトゥンが作れる!やったぜ帰蝶ちゃん!
という訳で三河を手放す約束をさせたい我々。
これが約束できないならこの話は無しだ。
今川は三河魔境を抑えつつ武田北条へ援軍……送れるのかなあ?わからんけども、どうにも厳しいことになる。
いや、私としてはそんな事言ってる場合じゃないでしょ、どんどん魔物ぶっ殺してからやりたきゃ人間同士争えばいいじゃん、と思わんでもないけどあんまり甘い顔したらがっつりむしり取るのが大名というものだそうで。
舐められないようできる要求は吹っ掛けるのが正しい戦国しぐさなんだとか。
もうヤダ戦国時代。倫理観が末法の世。
そりゃ一向衆も一揆起こすよ。
雪斎は迷っている。
そりゃ即決できないよね最側近とはいえお坊さんの立場では。
ここに今川の殿様、今川義元でもいれば話は別だけど。
どうも私の今川義元像が戦国〇双(初代)のせいで白塗りのポワポワお公家様で固定されてるのでマロと呼ぶ癖がある。まあそんなに会う機会もないので困らんでしょ。
そろそろ助け舟を出してあげようか。駿河と相談する時間が必要でしょ!
私は前回ビビらされた恨みを晴らすべく内心ほくそえみながら穏やかに声を発した。
「三郎さま、雪斎和尚もお困りです。駿河のま……義元公とご相談する時間も必要でしょうし、ここはまた後日とされては……」
やべえふつうにマロとか言いそうになった。
とっさの姫ムーブのおかげで助かった。
ありがとう母ちゃん、ありがとう土田御前!
姫ムーブ特訓のおかげでボロ出さずに済みました!
だがおさき、テメーはだめだ!
雪斎は逡巡しながら、「そうですな、それでは」とまで言いかけたところで今までずっと黙ってた従者のイケメンが
「その必要はない。今川はその条件を飲む」
と言い放った。
お、おう。どしたー?と思いながら彼を見ると、雪斎も心底驚いたように「殿!?」とかつぶやいてる。
との?
そして従者な彼は見事な礼をして
「忍びゆえ、黙っていたことを詫びよう。
今川治部大輔義元である。
以後良しなにな、今頼光殿、帰蝶殿」
とニッとほほ笑んだのだった。
そして私は
「えっマロ?なんでマロがこんなとこに!?」
と白目をむいて叫んでいたのだった。
パニックになると思わぬ事を口走る事って誰にでもあるんだから、私は悪くないと思う。
だから信長、(ノ∀`)アチャーって顔やめて。
それは心に来る。
マr……義元っていろんな創作物のせいで誤解が広まりすぎだと思うの。
という訳で今回はここまで。
ご意見ご感想ポイント等々いろいろお待ちしております。




