第49話「ポンコツ姫様の決断」
かろうじてまだ火曜日なんで第49話。
その後、現れた久助に私は三河魔境への潜入を命じた。
調査内容は大鬼の群れがいるかどうか。
そして、見たことのない魔物がいるかどうか。
この2点。
3日欲しいという久助に私は頷き、さらに続けた。
やむを得ないときを除いて交戦は許可しない。死して屍拾うものなし。
そう言うと久助は「御意」という言葉を残して消えた。
なんか最近ますます創作のニンジャじみてきている。
久助はかたくなに自分がニンジャとは認めないけどなんでだろうね。
どうにも授業に身が入らないまま3日が過ぎた。
当たっていてほしくないんだけどなぁ。こういう時の悪い予感は当たりがちなんだよね。
昨日の夕方、信長が熱田に戻ってきた。
どうも信秀が雪斎を私にけしかけたことを聞いたらしく、なんかプリプリしながらだ。
「まったく親父は勝手だな。帰蝶も迷惑だったろ。すまねえな」
とナデナデしてくれたのでじぇんぶゆるしちゃいましゅううう♡
上の空なせいでおさきにしばかれたりしたけど全部ふっとんだ!
やっぱりイケメンのナデナデでしか接種できない栄養素はありまぁす♡
というわけで、久助の報告を信長と一緒に聞くことになったのだった。
「滝川久助、ただいま戻りましてございます」
さすがに突然現れたりせずに普通に部屋に入ってきた久助を迎える。
特に怪我もないみたいだし疲れも見えない。
でもその表情はなんだか緊張しているようだ。
いつも浮かべてたによによした笑みが見られない。
「ご苦労だったな久助。話は帰蝶から聞いている。で、どうだった?」
「簡潔に申せば、姫様のご懸念は当たっておりました」
「……そうなんだ。やっぱり……」
沈んだ声が出てるって自分でもわかる。当たってほしくないことほど当たるんだよなぁ。
「大鬼の群れを確かに複数確認。小鬼を従えているわけでもなく、最大で10匹の群れを見つけました。また、大鬼の群れ同士行き会っても以前のように争う様子も見せず……」
「見た事ねえな、そんな大鬼は」
「は。尾張国内の各地に散った鬼どもとは明らかに違いまする」
「……」
「どうした帰蝶?」
「……多分だけど、小鬼と大鬼、他の魔物もいたよね?」
「は……魔猪と、魔狼を確認しました。これらは嗅覚が鋭いため遠目に確認したのみです。群れているとは思いますが……」
「魔猪、魔狼?ええと……」
「でけえ猪と、狼だな。それ以上のものではない。熱田の2層あたりに出るのと同じか?」
「そうですな。対処も迷宮と同じく可能ではあります」
「迷宮にいるの!?なんで教えてくれなかったのさ!?」
「教えたら見に行くだろお前」
「そりゃあもう!何ドロップするか気になるじゃん!」
「あいつら結構すごい勢いで突っ込んでくるんだよ。女が止められるかわからんからな。今は精鋭兵は下層に降りる許可を出して経験を積ませてる。大鬼たおせりゃ行けるはずだがな」
「じゃあ女の子だって!」
「まだ早い。今んところ無いが、追い立てられて1層についてこられたら敵わんだろ」
「うー、確かに……そのうち行きたい!」
「そりゃもっと降りられる兵が増えたら開放するさ。
おさきは慶次と降りてるから、護衛も大丈夫だとは思うが。帰蝶のなぎなたで大鬼一人で倒せるようになったら考えてもいい」
私はまだ一人で大鬼討伐はできない。レベルは上がったような気はするけど最近走り幅跳びが伸び悩んでる。
もうちょっとわかりやすいレベルの目安を開発せねばならないかな。
私ですらもう30m飛べるんだよ。どうかしてるよまったく。
「あ、話途中だったねごめんね久助、他に気付いたことはあった?」
「そうですね、これは私の推測になるのですが……どうも、鬼どもの動きに統率のようなものが見て取れまして」
「統率だと?なぜそう思った?」
「大鬼もそうですが、小鬼の集団も行き会っても争わないのですよ。大鬼にぺこぺこしているような様子も観察できました。以前より組織だった動きを見せているような印象を受けたのです。まるで百姓と武士のような……」
それは。
「魔物どもに、身分があるとでも言うのか?」
まずい。まずいまずいまずい!!
「ノッブ。これ、三河放置できないや」
「……どういうことだ帰蝶?」
「私、今川との間に魔境があってもいいんじゃないかな、と思ってた。だから雪斎和尚にはお断りします!って言おうかなって思ってた」
「そうだな。今は尾張を固める時だって話したしな」
「でも違う。それじゃ駄目なんだ。それって私たち人間の都合でしかない。魔物に人間の都合なんか関係ないんだよ」
「そりゃそうだ。だが押さえておけば問題ないだろ?」
「ううん。そうできたらよかったけどそうじゃなかった。ねえノッブ。今三河魔境で起こってることだけどね、最悪「魔王」が現れたのかもしれない」
「ま、魔王?」
「うん。今はえーと、第六天魔王とかが有名なのかな。仏さまに敵対する悪魔だね。でも、私がいってるのはちょっと違うかな。
魔王ってのは、魔物を統べて人類に敵対する強大な魔物の事を言うの。
そういうのが現れて人に敵対して滅ぼそうとするのを食い止める、って物語がとっても流行ってたんだ」
「その魔王が、あの三河魔境に現れたってのか?」
「わかんない。でもその可能性はあると思う。これまで好き勝手に動いてた魔物たちがまとまって動き始めた。魔王じゃなくても、大名みたいに指揮を執る個体が現れたのかも」
「それは……まずいな。武士のように動く大鬼が大挙して現れたら手に負えねえ」
「うん。でも今はそうなってない。まだ戦力が整ってないんだと思う。逆に言えば、それを判断できる個体がいるのかも。それが魔王だったら」
「敵の戦力が整うのを待ってやる理由はねえな」
「そのとおり!も一つ懸念はあるけど」
「この際だ、言ってみな」
「……うーん、全部想像だけど、いい?」
「想像でもいいんだよ。俺たちにゃその想像すらできねえんだから」
「そっかぁ。じゃあ言います!例えば「魔王」みたいな強い魔物が現れたとするじゃない。これってどこから来たの?」
「あ?」
「私ね、これ最初からいたわけじゃないと思うんだ。つまりね、魔物もレベルアップするのかもしれないってこと。そしてレベルが上がった魔物は、姿かたちも変わるんじゃないかなって」
「まて、ちょっと待て。お前の言う事で混乱するのはいつもの事だけどよ。今回はとびきりだなおい」
「人はレベルアップして強くなるよね。これ魔物がそうじゃないって誰が決めたのって話」
「言われてみりゃそうだな。てことはだ帰蝶、魔境は……」
「放置すると魔物がどんどん強くなる可能性が高いってこと。もし当たってたら尾張固めて満足してる場合じゃないよこれ」
「そう考えると、俺が熱田にたどり着けたのは……」
「噴出が始まったばっかりで魔物も弱っちかったからだと思う……」
「そうか。となると、あの戦いは、あいつらはそのために……いや、それはいい。
で、どうするんだ帰蝶?」
「うん、叩くなら今しかない。
過去は振り返っても仕方ないから、今この時が魔境が一番弱いって考えなきゃならない」
やだなあ。こんなこと言いたくない。
私はただの帰蝶に転生しただけの一般事務員なんですけど。
それがさあ。
戦争しましょなんて提案しなきゃならないなんて。
「だからノッブ。今川と共同で三河魔境へ侵攻することを提言します」
信長の目をまっすぐ見据えて、背筋を伸ばして言った。
今やるしかないんだ。
ほっとくと魔物は強くなる可能性が高い。
統率個体も現れたかもしれない。
それが手に負えない存在だったら。
今はそうでなくてもやがてそうなってしまったら。
だから今。
早急に。
三河魔境を撃滅しなければならない。
そしてしばらく私を見つめた信長は一言
「それでいいんだな、帰蝶」
と言った。
覚悟が決まっている私は確かに頷く。
それを見た信長は黙って控える久助を見据えて
「織田家当主として命じる。久助、織田忍軍を率いて魔境へ再度潜れ。どんな些細な事も見逃すな。いるかどうかわからんが、魔物どもの指揮を執っているモノを探せ」
「はっ。知立のあたりが魔物の影が濃く、潜入を避けておりました。いるならばあそこでしょう。念入りに探してみます、殿。それでは」
そういうと久助はふっと消える。
もうニンジャとしか言えない。
というか、信長?
今、織田家当主としてって?
「ああ、言ってなかったな。
三河魔境の件、帰蝶が戦を決断したなら、その時から俺が織田の当主だって親父がな」
「えっ」
なにそれこわい。
帰蝶、あえて火中の栗を拾いに行くの巻。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
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