第48話「放置して良いことと悪いことがある」
日曜日なので第45話。
くそー!信秀めぇ!
情報あげるにしてもなんだってこんなヤバい相手に!
外交なんてできないよ!
「嫁(超絶かわいくてとても賢い美少女帰蝶ちゃん)に聞け、良い知恵を出すはずだ」
って何よそれ!
いや私は美少女だからしょうがないねそれはまあね。
違う違うそこじゃない!
我姫ぞ!そのうえ前世は小市民のオタク事務員ぞ!
軍事の事なんかわかるかぁ!!
姫ムーブをかなぐり捨て頭を抱えてうんうん唸る私を見て雪斎はニヤニヤしてる。
この爺さんも爺さんだよ!
いくら信秀に言われたからってホイホイ小娘に会いに来るか普通!?
しかも今川の状況もホイホイ語っちゃってさぁ!
私に何させようってのさ!
尾張平定は信長のお手柄で、私は実際何にもしてないよ!
ちょっとオタ知識から助言はしたけど、実際動いたのは信長なんだよぉ。
良い知恵?ねえよンなもん!!
それがこの爺さんてば、なんなのさ。
「帰蝶殿は大層お悩みの様子。いきなりこのような話を聞かされても良い知恵などでませんでしょう。我らは一度那古野に戻りまするゆえ、後日お考えをお聞かせくだされませ」
とか言うとさっさと帰っていきやがった!
護衛なのか弟子なのかよくわからんガタイの良いイケメンがこちらを無表情で一瞥して去っていったのがやたらと気になった。
どうせ
「うつけの嫁はしょせんうつけなのだなぁ」
とか思ってるんでしょ!
そういうのわかるんだよ。私は詳しいんだ(涙)。
どっと疲れた私は、部屋に戻ってふて寝することにした。
イナリちゃんとお市ちゃんが試作オフトゥンに寝転がる私を踏んづけに来てもふて寝を貫いた私は褒められて良いと思う。
そして変な時間にふて寝したままガチ昼寝に移行した私は夜になっても眠れないでいる。
くそう雪斎と信秀めぇ!
あのおっさんどもは一度ぶん殴ってやる!絶対にだ!!
明日は朝から迷宮実習なんだから早く寝ないと、と思えば思うほど眠れない。
しょうがない、眠くなるまでちょっと考える時間にしようかな。
おさきを呼んだ私は明かりをともしてもらって文机に頬杖を突きながら考える。
情報を容易くばらした信秀の事やなんか知ってるようで私をイジりに来たようにも思える雪斎の事は置いておくとして、三河魔境の開放は魅力的ではある。
あそこが無くなれば織田が直面する魔境は長島だけになる。
長島は本願寺系列の願正寺があるんだけど、尾張で噴出が起きた時に魔物に占拠されちゃったみたいなんだよね。
いくら死をも恐れぬ一向一揆とはいえ見たこともない魔物にはビビり散らかして取り返すには至っていない。
本願寺は長島の支配権を手放す気はないらしく、一向衆を張り付けて奪還に動こうとしてるけど全然うまくいってない。
織田家としては奪還して支配地にしても良いんじゃないかとか言う意見もあるけど本願寺が断るので放置だそうな。
あそこも一応尾張国内なんで手を出す理由はあるんだけどね。
長島の事はともかく、三河だ。
現状、被害は三河側に集中しているので織田家としては放置でも構わないんじゃないかな。
困ってるのは主に今川だし。
うちは鍛えた兵を張り付けとけばそれでよいんだよね実際。
そもそもこの状況で三河解放したらまた今川と地続きになっていろいろ邪魔されるんじゃないかなぁ?
迷宮でレベルアップした兵はまだそれほど多くない、確か三千くらいだったはず。
今川は史実の桶狭間でも3万だかで尾張に進攻したらしいし、
いくら被害を受けたって言っても万単位の兵力はあるんじゃないかな。
関東から逃げてきた難民もいるだろうし、今川義元と太原雪斎(あの爺さん)なら兵力の補充は何とかしてしまいそう。
いくらレベルアップした兵だからってそこまで大差の兵力に抗し切れるかは怪しい。
だからレベルアップ兵士を増やして対抗できるまでの緩衝地帯として魔境があってもいいんじゃないかな、それほど長い期間にはならないだろうし。
うん、そうだねお断りだ!
帰蝶ちゃんはNOと言える日本人を目指すのです。
信長と話したとおりここは内政一択ですな!
自分なりに結論が出た私は大きく伸びをして後ろに手を突く。
あー体が伸びて気持ちが良いでござるぅ。
体をほぐしているとおさきが声をかけてくる。
「姫様、はしたないですよ」
君ずっとそこにいたの!?
まあいいや、まだ眠くないしおさきとお話するか。
「固い事言わないでよおさき。自分の部屋なんだからさぁ」
「そうやって油断するから雪斎和尚にも鼻で笑われるのでは?」
「相変わらず辛辣だねおさきは。しょうがないじゃんあの太原雪斎がいきなり目の前に現れたらああもなるよぉ」
「はぁ、姫様はいつまでたっても姫むうぶが身に着きませんねぇ。
他家の大物とはいえ家臣筋の者に動揺してどうします!」
「あーあーキコエナーイ!」
「姫様!」
「お昼寝したけどストレスで疲れ果ててるんだから多めに見てよぉ」
「開き直るその態度が気に入らないのです」
「前世でこんな歌あったなぁ。
あ、そうだおさき。今日も慶次と迷宮行ったの?」
「ええ。姫様がお眠りになられましたので」
「へぇー、ほぉー?」
「なんですか姫様変な声を出して」
「おさきさ、慶次と仲良いよね?」
「は?はあ、まあ」
「で、そこんとこどうなんだねチミィ?」
帰蝶ちゃんはモテないオタクだったけど他人のコイバナは大好物なのですよ!
おさきが望むなら慶次とくっつけてやっても良いのだよ!
良い機会なのでおさきの意向を聞いてみることにした。
前世のセクハラ上司みたいな口調になったのは事故という事にしてほしい。
しかしおさきはきょとんとした顔をしている。
「どうとは?」
「いや、仲良いから、その、ぬへへ、えっとねぇ、こ、こ、こ、恋仲な、なのかにゃぁとか思ってだね、チミィ」
我ながらキモイ。
なんか恥ずかしくて愛だの恋だのを口に出すのが苦手なんだ。
よく考えたらあんまり友達いなかったのでまともにコイバナしたことなかったわ。人の話を聞いてニヤニヤするタイプのコミュ障オタクだった。
「姫様、気持ち悪いですよ」
「いやはっきり言うね君も!?もっとオブラートに包んで!私は繊細だから!赤ちゃんを扱うように!」
「姫様は赤子の頃からこんな感じでしたからねえ……」
「遠い目しないで!何それ私ってば生まれた時から変な子だったの!?」
「ええそれはもう。それと、慶次と恋仲、ですか?そんなことないですよ」
「いずれ赤ちゃんだったころの話も聞きたいけどそれもなんか怖いような……
って、それはそれとして。
おさきと慶次が仲良くしてるから、そういう気持ちがあるならノッブに言って話をまとめても良いかなぁ、と思ったんだけどさ」
家中の縁談をまとめるのも奥のお仕事の一つだ。
一番身近な侍女を信長の親衛隊と縁組するのは良いことだと思う。
慶次は私付になるのが決まったら前田家の家督を犬千代君に譲ってしまった。
いやキミ家督継ぐために養子になったんちゃうんかい、と言ったら
「生涯の忠誠を捧げる主を見つけたゆえ」
とか言って傾いていた。
かっこいいので今度真似しようと思った。
生涯の忠誠とか言う割に私の事を面白そうにニヤニヤ眺めてたりするのはどうなんだろうね。彼の忠誠とはあれでいいんだろうか。
ともかく、二人は結構一緒にいるし一緒に迷宮で大鬼しばきまわしてるのでそういう事なのかな、と思ったけども。
「それよりも姫様、今川が三河魔境への援軍を求めてきたとか。
魔境へ行かれるときはさきもご一緒しますよ。大鬼を殴り倒し姫様をお守りいたします」
「いや、おさきがついていてくれれば安心だけど、三河へ行くのはまた今度にしようかなぁと思ってて……」
「最近は三河魔境から大鬼が出てくることも増えたとか。腕がなるというものです!」
そうだったこの子脳筋だった!
でも魔境侵攻は攻めの戦だから、女子の出番はないと思ってる。
だから私もおさきも後方で防衛と訓練に……ん?
「待って。おさき、今なんて言った?」
「なんですか姫様。大鬼はおさきが殴り倒すのでご安心くださいと……」
「そのあとそのあと!三河魔境から大鬼が出てくることが増えたとかなんとか言ってたじゃない?」
「ああ、それですか。以前は小鬼を率いた大鬼が出てきていたのが、最近幾度か大鬼が群れて出てくるのだとか。6人隊であれば十分対処できますからね。良い鍛錬になると兵が言ってましたよ」
6人隊、とは迷宮に潜る時の最大6人パーティの部隊の事だ。
地下へ向かう階段の前にいる大鬼2匹をこの6人隊で倒せるのが対魔物兵が一人前と認められる条件だ。
6人で動き続けて中も深まるので、外での魔物警戒や尾張平定でも部隊の最小編成として動いている、と信長から聞いた。
そのうち役立たずを追放して実は実力者だったのでざまあされたりしそう。
いやいや6人隊もざまぁも今はどうでもよい。
大鬼が群れで出てくるようになった?
激しい違和感を感じる。
私は外での魔物退治に携わっているわけではないのでよく知らないが、基本大鬼は小鬼を率いてお山の大将のようにふるまっているのだそうな。
大鬼同士で喧嘩している姿もよく見られ、一緒にいるのは迷宮内でうろつく時くらい。
そう聞いていた。
それが、三河魔境から複数の群れで現れる?
話を聞くに、群れとは言っても2~3匹だそうだけども。
なんだろう。どういう変化だろうか。
1例だけなら偶然そういう事もあるのだろうけど、おさきが言うには複数回目撃されているのだとか。
基本目に付いたら殲滅しているそうなので、同じ個体とは考えられない。
三河魔境の中で、何かが起こっている?
前世の熊害も、山の個体が増えすぎてあぶれた熊が人里、時には都市部にまで入り込んだ事例が多々あった。
もし、それと同じことが三河魔境内部で起こっているとしたら?
いや、最悪、「大鬼以上の魔物」が現れて縄張り争いに負けたとかだったら?
大鬼が小鬼並みの数で尾張に出てきたら?
今の尾張では対抗しきれない。
さっき私は「今川との緩衝地帯に魔境があってもいい」と考えた。
だからお断りして先送りでもよいや、と。
だけどそれって、人間の都合で決めてないか?
魔物に人間の都合は関係ないと、私は輿入れの際の襲撃で思い知ったはずだ。
これは……調べる必要がある。
「おさき」
「どうかしましたか姫様?そろそろ夜も更けてまいりましたしそろそろ……」
「ううん、大至急久助を呼んで。明日の朝からでも動いてほしい用事ができた」
「は?その、明日では……」
「自分でも焦ってる自覚はあるの。ただ一刻を争う。だから久助を呼んで!早く!」
目を白黒させるおさきだったがキリっとして頷き、立ち上がろうとした時、屋根裏から声が聞こえた。
「濃姫様、侍女殿。既に頭領の呼び出しに向かっております。今しばらくお待ちを」
いやびっくりするじゃん!?
屋根裏に護衛のニンジャが潜んでるとは聞いてたけどさ!?
目を丸くする私におさきは
「気づけなかった、不覚……!」
と悔しがっている。負けず嫌いなんですよおさきさんは。
おさきさん、最初は一発キャラのつもりだったんですけどね。
今回も最後まで読んでくださりありがとうございます。
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