第101話「ほんとにあった国譲り状」
木曜日なので第101話。
涼風様と魔導冷蔵庫生産ラインについて相談しているうちに信長の出陣の刻限が迫ってきた。
私は話を中断し信長の見送りに行く。
鎧姿の信長を見るのは久しぶりだ。
動きを阻害する割にいまいち防御効果が薄いので鎧はあまり着たくないと言う信長だけど、総大将なので着けずにいるのも士気に関わるので、と言って立派なものを用意させている。
レベルが高すぎて革と鉄で出来た鎧より丈夫な皮膚とは一体。
これ、軍土たちにお願いしてすごい鎧も作ってもらったほうが良いのかもしれない。
そんなことを考えながら信長の私室に入る。
西日の差し込む室内のど真ん中に、黒塗りの鎧姿の信長。
派手好きな割に地味な兜を脇に置いて瞑目している。
「ノッブ、お見送りに来たよ」
声をかける。
「おう、来たか」
目を開き、普段と同じ調子で答える信長。
「何か食べる?」
「いや、さっき湯漬けを食った。お前が作った飯は冷蔵庫に入れて用意してあるし、向こうで食うよ」
「そっか」
やっぱり信長は出陣前に湯漬けを食べるのか。
フィクションの中だけだったと思ってたけど。
「ノッブ、無理だけはしないでね」
「多少は無理するが、なんてこたねえよ。待ってろよ、マムシ殿引きずってでも連れて来てやるからな」
「うん、お願いね、ノッブ——ご武運を、お祈り申し上げます」
「おう。行ってくる」
そう言うと、信長は私をひと撫でし、軽く抱きしめると出陣していった。
信長の友人たちで構成されている馬廻り衆(愚連隊とも言う)、300名を引き連れて。
というか、いつの間にかこいつらみんな魔馬に乗ってる。
「慶次が良いなら俺も」とみんなして信長に詰め寄って皆で試行錯誤しながら飼いならしているらしい。
曲者だらけなので魔馬と喧嘩しながらもうまいことやっているそうな。それで良いのか魔物なのに。
レベルアップしてれば魔物も言う事聞くのかもしれない。この件が終わったらどれくらいのレベルなのかきっちり調べよう。
魔牛や魔猪を外で飼いならして食肉文化推進するのだ。
ともかく、足のクソ早い魔馬に乗った信長たちはものすごい土煙を上げてあっという間に見えなくなってしまった。
あんなに速いなら、魔馬が牽ける荷車とか別に作ったりしたほうが良いかもしれない。
すごい量動かせそう。切実にゴムが欲しい。タイヤの作り方なんか知らんけど。
その後、夜遅くまで涼風様や土田御前と尾張女子大学寮生による魔導冷蔵庫製造ライン構築について相談した。
最近創設した陰陽術講座受講生による迷宮鉄への術式彫り実習を行い、製造のコア部分の増産を図り、ガワの箱は外注。
組み立ては簡単なのでイナリ教徒の子どもや迷宮に入らないお年寄りなどなど、生活の苦しい層を集めて行わせる方向で概ね決まった。
これが戦時増産になるのかはちょっと疑問だけど、他国への手伝い戦に近いものなのでこうしたお仕事で民心を掴むのはむしろやっておいたほうが良いのだ。
余ったら商人の物流に使わせても良いかもしれない。もちろん使用料をとるけど、武家が核心的な部分で商人の首根っこを掴むことにもなるはず。ぜひやりたい。
織田家の対魔物兵力が現在6千人近く。今回は少なくとも半数は美濃に送るそうなので、取り急ぎ大型魔導冷蔵庫の制作を急ぐことになった。
大型と言っても持ち運びの観点から前世で言う家庭用冷蔵庫ぐらいの大きさだ。
家族5人の1週間分の食料が入るくらいの大型。
これを6人隊に一つづつ配備したい。
現状は信長の馬廻りたちにすら行き渡っていないので増産は必須だ。
魔導冷蔵庫も家電製品の例に漏れず、大きい方が作りやすいのでまずはこれを作らせてノウハウと技術の習得にあてるのだ。
うふふん、これがうまく行けば他の魔導コンロとかも増産して尾張を工業地帯にしてしまおう。三河で作らせても良いかもしれない。
あっちは魔物の掃討が進んでるけど再建途上だし、新しい産業があれば伸びるはず。
未来の愛知県のポテンシャルは半端ないはずだ。
インフラ整備もやらにゃならんけど。
レベルアップさせて建設重機なみの力を発揮させればインフラもすごい速度で進められるはず。
夢が広がるなあ。
徳川家康率いる江戸幕府が250年かけて整備したインフラをずんどこ前倒ししてやる。
人類にレベルアップなんてもんを渡してよこしたら何をしでかすか、思い知らせてやるのだ。誰に?知らんけど。
——全ては、この変事を無事に生き残れたらの話だけどね。
戦時生産体制を相談している執務室では後詰めの差配でひっきりなしに人が出入りしている。
迷宮でのドロップ品増産はすでに信勝がイナリちゃん様のお言葉として信者たちに通達したらしい。
曰く、
「悪しき魔物から美濃という人類生存圏を守護するために立ち上がった英雄、織田信長を支援するために皆で迷宮に潜り物資を集め、魔物に抗する力を得るのだ!」
という盛大なプロパガンダだ。
ついでにイナリちゃん自身によるご加護の付与式も行う通達までされた。
どうせなら大盤振る舞いしようと言う話になり、こないだ宇迦之御魂神さまとお話する術を皆の前で使ってみてはと提案しておいた。
イナリちゃんの主様に映像(と言ってよいのかは知らんけど)出演してもらい、神の奇跡と加護があることをがっつり民に知らしめるのだ。
なんかものすごい宗教ができそうな気がするけどこうなりゃやれるだけのことはやってしまいたい。
イナリちゃんはあれ以来宇迦之御魂神さまと不定期に通信できているようなので、ほんとに出てもらえるかはイナリちゃんの交渉次第だ。
そういえば、出てもらえるならぜひ第一声は「CDTVをご覧の皆さんこんばんは」でお願いしたい。
VTR出演と聞くとこれを思い出してしまう世代だったのだから仕方ないのだ。
畜生この思いを共有できる人がいないのがつらたん。
ともかく、信長が出陣した後はとにかく忙しく差配し、寝る間もない私である。
眠気に負けつつあった私は、土田御前の指示でおさきに俵担ぎにされてオフトゥンに放り込まれた。
俵担ぎ されて分かるは 口惜しさ。
いつぞやはごめんよ柴田勝家。
オフトゥンに放り込まれたとたん、抗議する間もなく気絶するように眠りこけた私はコケッコッコウという鶏の声で目を覚ました。
後に知るのだけど、このクソうるさい鳴き声は魔ニワトリの鳴き声なんだとか。
なんだろう、魔物を好き勝手飼い慣らそうとする熱田の人々はどうかしている。
魔物の危険性とか気にしてるこっちがバカみたいじゃないか。
飼い慣らせるならそれでいいらしい。戦国時代人のキモの座り方半端ない。
まあそれは置いておいて、クソやかましい鳥の声で目が覚めた私は早朝にも関わらず飛び込んできた
「小見の方、熱田ご到着」
の報に身だしなみも忘れてパジャマ(夜着)のまんま飛び出した。
これはしょうがないと言わせてくれたまえ。
小見の方、すなわち母ちゃんが命からがら美濃から落ち延びてきたのだから。
「帰蝶……!!」
「お母様、よくぞご無事で……!!」
だから、熱田の路上で衆人環視の中どろどろの旅装の母ちゃんを抱きしめて、パジャマ姿の私がおいおい泣いてもなんの問題もないのだ。
しかし母ちゃんは私に抱きしめられながらも、埃のついた顔を拭いもせずにひそりと言った。
「帰蝶、織田三郎様に殿様から預かった書状をお渡ししなければなりません。繋ぎをとっていただけますか?」
「ぐすっ、えぐっぐおうおうおうずびびっ……え、お母様?」
「殿様は、美濃を織田様にお譲りする書状を私に託したのです……早急にお渡しし、救援を願わなければなりません」
「なんですと!?」
ガチの国譲り状があるらしい。びっくらこいた。
あれ、でも……
「あ、あの、お母様。三郎様なんですが」
「火急のお知らせなのです。早急な面会を願います」
「いや、あの。そのですね」
「どうしたのです帰蝶?」
「三郎様は既に稲葉山へ向けてご出陣されたのです。昨日の夕方のことです」
「えっ……出陣?」
「はい」
「あら、まぁ……」
そう言うと、母ちゃんの体から力が抜けた。
緊張の糸が切れて気を失ってしまったようだ。
というのは後からわかった話で、急に意識を飛ばした母ちゃんをびっくりしながら抱きとめた私は
「はわわっ!お母様?……しっかりして母ちゃん!目を開けて!衛生兵!衛生へーい!!」
と叫んでいた。
びっくりしたので姫ムーブが久々にどっか行ったのはしょうがないと思う。
姫ムーブ、まだ居たのかだって?やかましいわ。
おわかりいただけたであろうか……みたいな話。
というわけで今回はここまで。
また次回をお楽しみに。




