第99話「帰蝶、便利アイテムの制作はおあずけになりがち」
日曜日なので第99話。
信長の宣言で屋敷が一気に騒がしくなった。
ふすまがスパンと開いて小姓が集まり、各所への伝令を指示されている。
「2刻後に進発する!まずは俺と馬廻りだけでだ!間に合わなきゃ置いてくと言え!」
「ええっ!?さっき迷宮から戻ってきたばっかりなのに!?
……ええとノッブ?勢いでああは言ったけど、ちゃんと準備してから行かないと……」
「とりあえずマムシ殿を救わにゃならん。話はそれからだ」
「それはそうだけど!」
「心配するな。まずはマムシ殿を確保し、下がれるところまで下がって後詰を待つ。美濃のバケモンどもをぶち転がすのはそれからだ。
帰蝶、お前は平手のじいと相談して兵站の維持だ。兵の食う飯や武具の手配だ。できるな?」
むう、へいたん?良くわからないのだけれど。
重要だってのは知ってる。これがボロカスだったせいで大日本帝国軍は戦死するより餓死や病死の方が多かったって何かで読んだ。
その時は大日本帝国とか言ってもろくでもねえなオイ、と思ったけども、いざ自分でやれとか言われてもどうしたら良いのかわからない。
目を白黒させている私を見て、信長はヘらりと笑って頭を撫でた。
「難しく考えるな。イナリ教だ。あいつらを煽って迷宮から物資を集め続けろ。実際戦場に持ってくるのはじいが差配する。
……イナリの巫女さまの言だ。得意だろ?」
「と、得意じゃないですけど!?」
「嘘言え。大抵ノリノリで演説ぶち上げるだろお前」
それは誤解です!大抵テンパって適当なこと言ってるだけです!!
「何にせよ俺らの生命線は迷宮だ。あれから産出する物資やレベルアップする兵の力のおかげで戦える。忌々しいもんだが、使えるもんならなんでも使うしかねえからな——頼んだぜ、相棒?」
そう言い残して、話をしていた応接室から大広間へ向かう信長。
これから平手のじいやら熱田にいる諸将に指示を出すのだろう。
私も行こうかと腰を上げたが、「お前はイナリ教への指示を優先しろ。勘十郎を後でよこす」と言われたので私は部屋に戻る。
私の部屋には不安そうな顔の侍女たちが控えている。
「姫様、一体何が……?」
陣触れの声は聞いたのだろう、緊張した顔だ。
さて、なんて言おうか……特に美濃から来てる者には辛い話となる。
でも、言わねばならない。腹を括らにゃならんのは私だけではないのだから。
「大変な事になりました。これより織田家は戦時体制に入ります……」
そうして私は侍女たちにわかっている現状を伝える。
……泣き崩れ、私と同じく声を失う美濃出身の侍女たち。
熱田迷宮の噴出で蹂躙された尾張を知る尾張に来てからの侍女も顔色を悪くしている。
そんな中、おさきだけは顔色を変えずに私をまっすぐ見据える。
「状況は理解できました。お方様をお迎えする支度が必要ですね」
冷静な声。
そこでハッとする。そうだった新九郎兄様の討ち死にに衝撃を受けまくって一人残った父ちゃんの心配ばかりしてたけど母ちゃんがこっちに向かってるんだった。
さすがはおさき。見た目だけはクール系美人秘書なだけはある。中身は脳筋だけど。
おさきも権三郎殿や故郷が心配だろうに、本当に助かるよ。
「そうですね。美濃からの侍女衆はお母様の受け入れ準備を。他の皆は各所への文の準備をしてください」
せっかく指示したけど、すっと立ち上がったおさき以外の皆は動かない。
動けないのが本当だろう。
迷宮で戦闘訓練は積んでるけど、流石に故郷が魔物の被害を被っていると聞かされてショックが大きいのだろう。
でも駄目だ。それじゃあ駄目なんだよ。
女も戦う必要があるのだ。
だからね、みんな。
私は皆を見据えて大声を出す。
「つらい気持ちは皆同じ。ですが立ちなさい。私たちにはまだできる事が……やらなければならないことがあります。
というか……バケモンどもに故郷やられて黙ってられるような奴ここにいる?いねえよなぁ!?」
「ひ、姫様……!」
「あんな物の道理もわかんない、臭くてキモい魔物に舐められてたまるかってのよ!!女だからって後ろで縮こまってられるかっての!
いい!?前にはノッブが出た!なら私たち女は後ろを守るの!安心して美濃のバケモンどもをぶっ殺してもらうためにね!わかった?わかったなら立て!立って働けぇ!!」
思いの丈を言い切ると、気合が入った表情をみせたみんなは立ち上がってそれぞれの持ち場に動く。
私はこの後来る信勝に授ける巫女からの神託という名の業務命令を考えている。
さて、迷宮からの生産を維持しろと信長には言われたが、維持とは言っても現状拡大した迷宮の調査が進むまで新規の信者受け入れは停止している。
迷子になって捜索に当たるのは二度手間だからね。せめて地図ができてから、と思っていたけども。
でも今は戦時だ。戦時特例で気にせず新規受入解放しても良いんじゃないだろうか。
拡大領域や2層以降へは自己責任……ああそうだレベル鑑定の水晶玉があった。
あれで40以上あれば良いとかしてしまうか。
なんで40かって?私が38だからだ。
私でも単独ではともかくアシストがあれば大鬼は倒せる。おさきが転ばした大鬼にトドメを刺しただけなのだけども。
自慢じゃないが私はどんくさい。
その私ですら当たれば大鬼を殺せるのだから、それなりに経験を積んだ戦国時代人なら結構余裕で殺せるんじゃないだろうか。
本当は細々と調べてから基準値を決めたかったけど、もうそんな余裕は無い。
……魔物が稲葉山城で止まる保証なんか全然ないのだ。
稲葉山を蹂躙した後は尾張に向かってくる可能性がある。
三河童子は私が術を使おうとした時に一目散に向かってきた。
もしかしたら、魔物は魔力を見て襲ってくる習性があるのかも。
そういう意味で、高魔力者が揃っているのは、熱田だ。
もしそうだとしたら、魔物は熱田まで止まらない恐れがある。
だったら、復興が始まってる尾張国内よりも外の国で戦ったほうがマシなはずだ。
この場合それは我が故郷たる美濃だというのがモヤモヤするけど、それはしょうがない。
ああそうか、だからか。
だから信長は私にも美濃救援を決心させたのか。
言質を取ったんだ。
美濃斎藤家、斎藤道三の娘たる私(帰蝶)からの要請、とう形での介入なのだ、これは。
信長が朝廷にもらった官職、「魔物追討使」は魔物退治に関する大抵の権限を帝に与えられたものだと聞いた。
ただ、実務上は国司(朝廷が認める各地のトップのことね。今は幕府が任じた「守護」がそれにあたる)の要請や許可を得てから兵を出すのが無難だと信秀が言ってた。
美濃は守護が不在の地である。父ちゃんが追い出しちゃったからね。
なので実質国主である美濃斎藤家の要請という形が必要なのだ。
それに、新九郎兄様(義龍)が戦死した以上、父ちゃんまでおっ死んだら美濃の武士に命令を下す立場の者がいなくなってしまう。
史実でいう国譲り状でもあれば違うんだろうけど。
ちなみに国譲り状ってのは史実の斎藤道三が新九郎兄様と大喧嘩して結局殺されちゃうんだけど、その前に「尾張の娘婿(信長のことね)に美濃を譲る」という手紙を書いてたって後々織田家が主張してたアレである。
私は眉唾もんだと思ってる。
ともかく、緊急事態なので道三の娘である私に「故郷を救って」と言わせたかったんだろう。
なるほどやるじゃないか信長!帰蝶ちゃんそういう狡猾なイケメンも大好物だよ!
であるならば、私は全力で信長を支えるだけである。
もうやっちゃおう。イナリ教徒の迷宮への新規受け入れ。
やらずに織田軍が負けて泣いたり笑ったりできなくされてからでは遅いのだ。
そう決心したとき、タイミングを見計らったかのように信勝がやってきた。
なぜかイナリちゃんと土御門様が一緒である。
姫たる私の私室に男が入るのは……ああもう良いや、扉開け放ってりゃいいっしょ!
というか熱いから元から開けっ放しだけどね!
虫がめちゃくちゃ入ってくるから網戸作ろうと思ってたのにまた延期だよ!許さんぞ魔物ども!!
ちゃんと計画立てずに行き当たりばっかりだからそうなるんだよ帰蝶ちゃん。
というわけで今回はここまで。
また次回をお楽しみに。




