190話 「寮での話」
~ ミルシェラ視点 ~
秋の収穫祭が終わりました。
私は今、学園の寮の自室に戻り、夜の寝る前の日課である日記をつけています。……念の為、鍵付きの日記帳です。
スカイランタンを五千個も夜空に飛ばしたかいがあって、あの日のエルシードの秋祭りはかつてないほどの盛り上がりだったそうです。
本当に幻想的で綺麗な光景でした。
もっと昔のことは私は幼すぎて覚えてませんが、確かにあの日は大変賑わっていて、私も凄く楽しかった。
何しろリョウお父様がお母様に告白したりもして絆を深めてましたし、私も多少はほっとすることが出来ました。
それから実家からの手紙で知りましたが、リョウお父様がベルの為に滑り台をあちらから持ち込んだらしいです。
いいなぁ、私も滑りたい。
なんでもブランコまでついてるそうですし、お母様は量産して貴族達や富豪に売り出す予定のようです。
「次にエルシードに帰れるのは……冬休み」
そう呟いた後で不意にノックの音が響きました。
「こんばんは、ミルシェラ嬢、面会希望がありますよ!」
扉越しに寮母さんから声がかかりました。
今は寮の生徒の皆さんはおそらくはお風呂を済ませてマッタリタイム、この後は寝るだけってタイミングです。
「こんな寝る前にどなたでしょうか? 私は既に寝巻きなんですが」
「わたしよ!」
……扉越しに聞こえて来たのはアリサ、聖女の声でした。
「申し訳ありませんがもう、私は寝るところで寝巻きです! 人前に出れません!」
「そんなつれないこと言わないでよ、私は聖女なのよ! 寝巻きのままでかまわないわ! 」
聖女なら無礼を働いていいのかしら!?
「私はかまいますけど!?」
「なんならパジャマパーティーをしましょうよ! 秋の夜長ってやつよ!」
!!
それは仲良しの令嬢とならぜひやりたいことですが、別にこの無遠慮な聖女とやりたいとは思ってません。
また日本製のお菓子でも食べたいのでしょうか?
「品位の無いことをすれば両親に叱られてしまいますから!」
「聖女の私が言ってるのに!?」
まだ食い下がってきます。きっとスマホもインターネットもないこちらの世界は暇なんでしょうね。
こちらの娯楽といえば、食べるか旅行か挿絵の少ない小説などでしょうし。
「あの、私はもう下がりますねー」
これは寮母さんの声ですね。
「はい! お世話様です! おやすみなさい!」
「ねー! ミルシェラ! 部屋に入れてよ!」
これは聖女です。今の私はパジャマだって言ってるでしょう!
「聖女だからと礼を欠いてもいいとは思いません」
このままま扉越しに会話をします。開けませんからね! また 部屋の中を漁られるのは嫌なので!
「ねー、あなたの領地で秋祭りにランタンを沢山飛ばしたらしいじゃない!? 話を聞かせてよ」
「確かにあれはお父様が自粛中で社交もできないお母様を喜ばせる為に飛ばしましたけど!」
「なんでそんな派手な催しするのに招待してくれないのよ!」
「ですから夏から継続して自粛中だったので、友達は一切呼んでません! 家族と過ごしただけです。周りに領民や他所から来た旅人や見物客はいましたけど、私達が個別に招待したりはしてません!」
「ぶーっ!」
いや、ぶーっじゃなくてね。
「もう早く寝てください!」
「早く寝ろだなんて親かってーの! 全く眠くない!」
言葉使いに気をつけてくださいよ!
私はこれでも公爵令嬢なんですよ!
原作世界だと罪を犯して処刑される悪役令嬢だったからって完全になめられています!
「眠くなくてもベッドに入って目を閉じてください! 私もそうします!」
「ねー! ジェダイト様がこの私に全く靡かないのおかしくない!? あなたがイレギュラーな動きをしてるからじゃないの!?」
原作基準でそんなことを言われても!
知らんがな!!と、叫びたいところですが、
「存じませんよ」
令嬢らしく言葉を選びました。
「あなたに虐められたって言うわよ!」
はあ!?
「今から寝るところですから、面会を扉越しに断ってるだけなんですけど!?」
いいがかりが酷いです!!
「冷たーい!」
「私は普通です。 淑女らしくなさってください」
「淑女じゃなんてどうでもいいわ! 聖女なんですけどー!」
「聖女ならそれらしくなさってください!」
「どうしても扉を開けてくれないのー?」
「寝巻きなので!」
「ふーんだ!」
ふーんだ! という捨て台詞を残して聖女の足音が遠ざかって行きました。……行ったよね?
扉に耳を当てて確認したけど、静かになったので、やはり自室に戻ったようです。
今回はわざわざ寮母を使えば私が夜でも会うと思ったのかしら?
「はぁ……一気に疲れた」
日記にカギをかけて衣装箱に隠して、私はもう寝ます!




