エピローグ
エピローグです。
エピローグ
~ミルシェラ視点 ~
よく考えてみれば、いじめられたって言うわよ!と、いじめられてるのは、私の方なのでは?
お菓子も勝手に食べられたりしましたし!
……流石に私は、親に心配させたくないとか言って、虐められた!と親に相談もせず泣き寝入りするような人間ではないので、さっそく報告いたします。
手紙ではなく、学園にある魔法の鏡通信を使います。
高位貴族はこんなお金の使い方ができるのが良いですね。
そして実家に連絡致しますと、邸宅にいたのはお母様でした。
気の優しいお父様よりきっちり報復、いえ、対策してくれそうなお母様なのでこれでよしです。
先日の成人来訪の経緯を説明しました。
「なんですって!? いじめてないのにいじめられたって言うわよと脅されたですって!?」
「はい」
「聖女とはいえあの平民風情がよくもこの公爵家をこけにしてくれたわね!」
鏡の向こうのお母様が烈火のごとく怒っています。貴族はメンツを大切にするので、そうもなりますよね。
「そもそもあの小娘は未だに聖女としての力、なにも見せてないのでしょう!?」
お母様は怒りのままに言葉を続けました。
「ええ、そのようですね」
「よろしい、この件は私に預けなさい」
「はい、お母様、お願いします。ところでお父様はどちらに?」
不在だったので、もしやと思って訊いてみます。
「あの人は貴族会議に行っていますよ」
「そうですか、また抜け駆けしてあちらに行ったのかと思いました」
「あの人もたまには仕事をしますよ」
たまには? いえいえ、でもやる時はやる男ですよね! リョウパパは!
「そうですよねーーっ!!」
数日後、神殿から神官が現れ、両腕を掴まれて捕獲された宇宙人のように連れて行かれるアリサの姿がありました。
「ちょっと! 離してよーーっ! 神殿で修行なんてしないってば! 私はこの学園に居なきゃならないのーーっ!!」
そうです、お母様は物理的に私から聖女を引き剥がし、距離を取らせる為に神殿に掛け合って、聖女を強制修行に行かせることにしました。
「さよならアリサさん……お元気で、修行頑張ってくださいね」
「あっ! ちよっと、そこの木の影から見てるミルシェラ! 見てないで助けてーーっ!!」
髪を振り乱して騒ぐ彼女に向かって、私はそっと手を振ります。
「修行頑張ってくださーい!」
「ふざけんなーーっ!!」
「聖女様! お静かに!」
「暴れないでください! はしたないですよ!」
アリサは神官に宥められつつ、遠ざかって行きました。
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
~ 主人公リョウ視点 ~
「しかし、アリサが神殿で修行して本当に聖女として覚醒すると、ますます発言権を得てしまうのでは?」
俺はサロンにてアレンシアに問いかけた。
今は午後のティータイム中だ。
「あそこのジェダイト様に相談して実は密かに探らせましたの」
アレンシアは長い睫毛をふせ、手にしていたティーカップをテーブルに置いた。
「なにを?」
「あの小娘に本当に神聖力、白の魔力があるのかを」
「ほう」
「そうしたら、あの小娘に神聖力はありませんでした」
どうなってるんだ? 原作とだいぶ違うな。
いやしかし、それならなぜ……
「じゃあなんで神殿はアリサを連れて行ったんだ?」
「神殿は聖女を探すのに異質な魂を探したそうなんですよ」
「ああ、異世界から来るからな」
「でも、ただ異質なだけで実は聖女ではなかったと公に公表すると神殿のメンツが立たないではないですか、聖女だと思ってたけど間違えましたなんて言えなくて。それで修行のていであの娘を隔離する事にしました」
「はー、するとまた神殿は新たな聖女を探すのか?」
「それはまた秘密裏にやることでしょうね、魔王や魔族対策に」
───そして、しばらくしたのち神殿の者が五人程エルシード公爵家に来た。神官二人と残り二人は聖騎士だった。
なので俺が当主としてサロンで対応した。
「本日はなにか?」
「私は大神官様からの使いの者でございます」
副神官かなにかかな?
「はい、それで?」
「聖女を再び探すことになりまして……」
「はい」
「それで、見つけました」
「ほう、それで何故当家に?」
「エルシード公爵、あなたです」
「えっ!?」
「あなたです」
神官はそう繰り返した。
「俺は、いえ、私は男です! 聖女のはずかない!」
「分かっています、あなたは聖女ではなく、聖者様です、この世界とは異質な魂をお持ちでしょう? 公爵様、あなた、異世界から来られましたよね!? しかもその異世界の記憶がありますね!?」
「!!」
「嘘をついてもバレますよ、我々にはこの真実の宝珠があります」
そう言って神官は懐から謎の水晶玉を出してきた。
それって嘘発見器か!? そんなチートアイテムが!?
嘘をついてもバレるんなら、もう……仕方ないな。
「……確かに、私には異世界の記憶があります」
「やはり、新しい神託の通り!」
また神託出てたのか……。
「では、ミラード神官、いつぞやは聖者の娘たる者が聖女と名乗ったということになりますね」
1番偉そうな神官服の男の横にいる神官が口を開いた。
はっ!! ミルシェラのことを言ってる!
「あ、あの子は私を助けようとしただけです!」
「聖者の子なのだし、ミルシェラ嬢は尊い行いをしました。聖者様を助けたのですから」
ん? 怒られる訳ではないらしい?
「あ、はい」
「しかし、エルシード公爵、あなたには聖者として魔王封印の為にその力を貸していただく事になります」
なにィ!?
「え? まさか俺、いえ私に魔王を倒せと?」
ぞわっと鳥肌がたった。怖すぎる。
「魔王復活を阻止する為の大結界を作りますので、その結界に魔力を月イチで注いでください」
「あ、物理的な攻撃ではなく、結界か、それなら何とかなるかな?」
「では、そのようにお願い致します」
神官達が去ってから、俺はソファの上でズルっと落ちて脱力した。
「はぁ、俺が聖者だなんて、どうなってるんだ……でも魔王討伐に旅立てって言われなかっただけマシか、そこは公爵の地位が守ってくれたのかもしれんな」
──時が過ぎ、冬を迎え、こうして俺は聖者として、国にも知られることとなり、城に行って国王にも改めて挨拶をした。
中身が庶民の俺は緊張する。
「思えばいつぞや、渇水の地で雨を呼んだのはそなたであったな、エルシード公爵」
「あれはただの偶然でしょうけど」
「ははは、謙遜せずともよい」
別に謙遜してない。
そして神殿の要請通り月イチのお勤めを務めることになった俺がいるから、偽聖女となったアリサは、もう表舞台に出てくる事はないだろう。
聞けば神殿修行七日後に俗世と隔絶された島の修道院に移されたというし。
更に俺が聖者であれば、第二王子がこの先何か悪さをしても、ミルシェラを守りきることができるだろう。
聖者は尊い者であるから発言権と権力があるのだ。
「ところで、ジェダイト様は恋愛されないのですか? どこぞの貴族令嬢と」
神殿に月イチのお勤めをしにきた時に訊いてみた。
「私は実は中身が女なので難しいですね……女性と恋をするのは」
さらりと爆弾発言投下である。
「私の勘だとミルシェラを最初から知ってたあなたは、原作者の神崎竜子先生では?」
ジェダイトは静かに頷いた。
やはりな。
「はい、物語の舞台装置としてミルシェラには悪役をさせてしまって申し訳なかったです」
「……神崎先生は作家ですからね、物語を作るのが仕事ですし」
「はい、まさか自分の書いた物語のヒーローとして転生するなんて私にも予想のつかないことでしたが」
「それは確かに」
「ジェダイト様は私が夢魔の夢の中に囚われた時は尽力してくださいましたね」
「せめてもの罪滅ぼしですよ。でもミルシェラはきっともう、大丈夫でしょう、聖者の娘ですし」
「ええ、よければこれをどうぞ」
俺は魔法の布から紙袋を取り出した。日本製のチョコレートと、彼女の出した漫画本を。
「日本のチョコレートと私の本!」
神崎先生は俺の手にある本を見て驚きに目を見開いた。
「ところで先生、悪役令嬢が幸せになるスピンオフの新作を書きませんか?」
「書いたところでこちらでは発行できませんよ」
「密かに続編を預かってた事にしましょうか、私は実は未だに日本と行き来できますから」
「!! 行き来!?」
「おっと、そこまではご存知ないか」
「私の作品の登場人物は異世界と日本を行き来できませんよ!?」
「やはり、作者とは別の神の存在があるようですね」
「確かにそうでないと説明つきませんね」
「ええ、それでどうします?」
「遺作を掘り起こした設定にするとして、売り上げはどうなるんです?」
「ご家族に入るのでは?」
よく分からんけど。
「それでは私の労力が増えるだけなので、公爵に入ることにしましょう、今からでも遺言を捏造します」
「え?」
「そして上手くいったらあちらのものを印税で私にも買って来てくださいませんか? 主に美味しい物を」
やっぱり日本人は美味しいものが食べたいよな。
分かる。
「ふむ。あちらのケーネストに相談してみます」
「え? あちらのケーネスト?」
ケーネストの魂があちらにまだいることを知らないだろうから、俺は今までの詳しい経緯を原作者に洗いざらい話した。
「魂入れ替わりの上にあちらにダンジョンまで発生しているとは……まさかの展開」
「ほんとにね、急にジャンル変わるじゃんて思いますよ」
「まぁ、ひとまずスピンオフを書きますよ。神官の仕事の合間にチマチマと」
「ではタブレットとペンと災害時にも使えるソーラーパワー充電器。もしくは原稿用紙、どちらをあなたに渡しましょうか?」
「タブレットで」
「ですよねー、電波がなくとも絵を描いたり文字はうてますからね!」
「今さら手描きはつらいのでー」
と、笑顔で原作者の神崎先生はそう言った。
今さらスピンオフを書いたところでこの世界のミルシェラがどうなる事もないだろうが、別の世界線で悪役令嬢が救済される未来が生まれるかもしれないし、何より、俺が先生の新作を読んでみたいので……。
なにはともあれ、こうして俺は原作者と密かに握手をして密約を交わし、家族と己の幸せの為に生きて行くこととなった。
相変わらず日本と行き来しながら、この世界と日本の安寧を神様に祈りながら────
三年後の春。日本。
桜が綺麗に咲いている。そんな中を花柄のワンピースを着て走るミルシェラ。歳を重ねた分、手足もスラリと伸びて前より少女らしくなった。
その天使のような愛らしさは母親譲りの美貌で、眩しい程だ。
「お父様、早く!」
「待ちなさい、ミルシェラ、そう慌てなくても映画の上映には間に合うから」
今日は悪役令嬢が幸せになるスピンオフ映画を娘と日本まで見に来たが、ケーネストはハンター協会に呼ばれて一緒には来れなかったので、二人きりである。
大福餅も食べてきたし、映画が二時間超えても膀胱問題は大丈夫だろう。
「早くしないと限定版パンフレットが売り切れるかもしれないでしょう!」
「やれやれ、すっかりオタクに……」
「うるさいですよ! なにか問題でも!?」
頬を膨らませてぷんぷんと怒る仕草は幼い頃のままの愛らしさだ。
「いいえなにも! 俺の可愛いお姫様!」
失恋して、心が砕けた後に命を、全てを失ったと思った。でも、大切な人達と出会えた、また生きなおすことが出来た。
愛してくれてありがとう。
君達がくれる花束のような愛を、俺も返していきたいと思う。
これからも、ずっと。
~完~
これにてこの物語は終わりです。ご愛読ありがとうございました。




