187話 「博多の屋台」
【️福岡・博多のビル街にダンジョンが発生した】
なので、俺とケーネストは最寄り空港へ車で急行。政府専用ジェットで福岡空港まで運んでくれるのだ。
「魔物退治の後、博多ラーメン……」
「ご安全にな」
日本で目覚めてからというもの、ケーネストはラーメンに夢中だ。異世界の貴族食とは比べ物にならない「濃厚で奥深い味のする熱い汁」と「コシのある麺」に、心底惚れ込んでいるらしい。
政府のハンター専用ジェットは、思ったより快適だった。
シートはビジネスクラス並みで、窓から見える雲海は淡い灰色に染まっている。
俺達は飛行機内でダンジョンの攻略プランを簡単に確認した。
ケーネストは攻撃魔法のスペシャリストだから、攻撃は任せていい。俺は治癒と防御でガーディアンとしてサポートをする。
福岡空港に着陸してすぐ、黒塗りのSUVが俺たちをビル街へ運んだ。
現場は博多駅から徒歩圏内の高層ビル。外壁に不気味な黒い裂け目が走り、中から魔物の咆哮が漏れている。
周囲はすでに避難完了。政府のハンター部隊が黄色いテープや赤い三角コーンと警備員で封鎖ラインを張っていた。
ここから、俺は頭に配信用カメラを装着した。
配信すれば映像で見れる分、細かい報告書の手間が省けるためだ。
呼び方もハンターとガーディアンで統一する。
「これから報告書の手間を省くためのダンジョン討伐配信をします」
俺がカメラマンなので、口火をきった。
【️キャーッ!! ダンジョン討伐生配信きちゃーーっ!!】
【️あれ? ガーディアンさんの黒髪が銀髪になって?!】
【️ほんとだ! かっこいい! 似合ってる!】
「染めるのめんどくさくて飽きたので」
【️染めてたんかい!】
【️銀髪めちゃくちゃしゅき♡】
【️ガーディアン、イケメソ(*´д`*)結婚してくれ(定期)】
【️ガーディアンさんは既婚!(定期)】
【️ハンター結婚してくれ】
【️だめだ、俺がする】
【️わたしがする】
【️戦闘、気をつけて!】
【️死ぬなよ】
「了解、命を大事に。ガーディアン、行くぞ」
「オッケー! ハンター」
俺達はビル内に足を踏み入れた。
エレベーターは使えず、非常階段を駆け上がる。十階のオフィスフロアがダンジョンの入り口になっていた。
中はビルの無機質な壁と床。
そんな中、蛍光灯がチカチカと明滅し、瘴気でも出てるかのように、空気は澱んでいる。
現れた魔物は——ゴブリン型の小型種が十数体と、1つ目で大型の「サイクロプス」一体。
『ファイア・バースト』
ケーネストの詠唱は短かったが赤い魔力が爆発し、ゴブリンどもを一瞬で炭化させる。
残ったサイクロプスが斧を振り上げて突進してきたが、俺が即座に展開したシールド魔法がそれを弾き返した。
「今だ!」
「よし」
ケーネストの投げた氷の槍がサイクロプスの胸を貫く。
巨体が崩れ落ち、ダンジョンのコアが輝きを失った。
「今のがダンジョンボスだったようだ」
「お疲れー」
攻略時間、わずか十七分。
【️討伐早すぎてわろた】
【️17分くらいでオワタ件】
【️強くて頼もしい】
【️ご無事で何よりです!】
【️お疲れ様でーす!】
「これにて今日の配信を終わりますが、明日の博多屋台満喫編をお楽しみに!」
【️やった!! 飯テロ回だ!!】
【️ラーメン編クルー!】
【️叡智なところには行かないんですか!? 美人が多いと言われてる福岡ですよね!?】
「叡智なところは行きません、行くのはグルメスポットです」
【️叡智な所行っても映せないだろw】
【️ラーメンまで待機】
「じゃあ、また」
俺は配信をきった。
「ダンジョン難易度E、討伐スピードSランク相当」とケーネストのところにハンター協会から通知が来て、そのメッセージを見せてくれた。
「難易度Eダンジョンでも討伐スピード早かったから評価高いな」
「ケーネストの魔法が優秀すぎるから」
俺たちは笑い合いながら、ビルを後にした。
政府からは「三日間の滞在許可と宿泊費全額支給」の連絡が入ってる。
「魔力の消耗を考慮して、ゆっくり休んでください」とのこと。ありがたい配慮だ。
翌日の夕方六時半。
俺たちは博多の屋台街へ向かった。 ネオンがチカチカと反射する川沿いの道。
俺はカメラで撮影しながら、街を歩いた。
屋台の提灯がゆらゆら揺れ、鉄板のジュージューという音と、客たちの笑い声が混じり合う。
ケーネストの目が、まるで子どものように輝いていた。
「ここだ……博多の屋台」
俺達は賑わっている老舗っぽい屋台の前に並び、俺は一旦撮影を止めた。後で生配信の動画とくっつけて出す用の撮影だった。
カウンターに座ると、店主のおじさんがニコッと笑う。
「いらっしゃい! 注文がお決まりでしたらおっしゃってくださいね!」
「あの、ここ撮影OKですか?」
俺はさっそく交渉に入った。
「どーぞどーぞ」
やった! 撮影オッケーな店だ!
「ありがとうございます!」
「私は特製とんこつラーメン、それとビール、そっちはどうする?」
と、ケーネストはいつの間にかラミネート加工されたメニューを手にしていて、さくっとオーダしてから俺にふってきた。
俺は慌てて撮影をまた開始しながら、
「俺は豚骨ラーメンと高菜チャーハン、あと餃子とビール。えー、先走ったハンターは豚骨ラーメンとビールをさっき注文しました」
「はいよ、配信中さんか、今時だねぇー」
「あはは、すみません」
俺は笑って流した。
【️飯テロキタ━(゜∀゜)━!】
【️ハンターのフライング注文ワロタ、どんだけ楽しみにしてたのw】
【️屋台いいなぁ】
【️腹減ってきた】
数分後、湯気を立てた丼が二つ並んだ。 白濁したとんこつスープが、丼の縁まで満ちている。
表面に浮かぶ背脂の黄金色が、提灯の光を反射してキラキラと輝く。
細めの麺と厚めのチャーシューが湯の中でさあ、食べろとばかりに主張してる。
チャーシューは厚切りで、箸で持った瞬間震えるほど柔らかい。
紅生姜とネギ、高菜が彩りを添え、別皿のキムチも香ばしい。 ケーネストがまずスープを一口。
「……っ!」
彼の目が一瞬で丸くなった。
スープを静かに飲む。ズズズーっと音を立ててすすらないのは流石に異世界からきた高貴なお方だ。
「ガーディアン……これが、いわゆる飛ぶぞ!ってやつではないか?」
「そんなに?」
俺も同じく一口。 熱い。
とんこつ特有の濃厚な乳化スープが、口の中いっぱいに広がる。
豚骨の旨味が凝縮され、背脂の甘みが絡みついてくる。
塩気と甘みのバランスが絶妙で、飲むほどにクセになる。
麺を啜ると、プリプリとしたコシが歯に心地よく跳ね返り、スープと一緒に喉を滑り落ちていく。
「替え玉を」
ケーネストが具を食べ終わると即座に替え玉を注文した。
その時、ちゃりーんという課金音が鳴った。通知を見れば視聴者から千円の投げ銭が入ったようだった。
【️替え玉代どぞ!!】
【️どけ! わたしが払う!】
【️いいや、おれが!】
更に千円や二千円の投げ銭が追加されてく。
「わあ! 皆ありがとう! でも無理せずに!」
【️少額ですが!】
更に五百円の投げ銭を複数の視聴者から飛んできた。
【️うっふーん! 討伐お疲れ様お駄賃よーん!】
うっふんさんから三万円の投げ銭もきた。
「あー! 赤い高額投げ銭まで! 皆さまありがとうございます! ほら、ハンターもお礼言って」
「そなた達に感謝を」
【️高貴!!】
【️納税の時間だ!】
次々と投げ銭が飛んできたので、これでお土産資金ができた。
そして高菜チャーハンと餃子もきたので俺は取り皿に分けた。
二杯目の麺が来たとき、ケーネストはもう完全に無言だった。
ただひたすら味に集中してるようだった。
しばらくして、
「こっちもどうぞ」
と、俺は取り皿に分けた餃子と高菜チャーハンをケーネストすすめた。
「ハンター、餃子はどう?」
「中に肉汁が詰まってて大変美味だった」
「高菜チャーハンは?」
「程よい辛さで美味しい」
「だそうです!」
俺が視聴者に向けてそう言うと、
【️シンプルすぎる食レポ!!】
【️顔がいいから許す】
【️表情で美味しそうなのは十分伝わりました!w】
【️お腹空いた!】
「博多のラーメン、本当に美味いな」
「ああ。また、来れるといいな。て、ことで、配信終わります!」
【️乙!】
【️あーん! もう終わりですかー?】
「ごめんなー、また次の配信で!」
俺はそう言って配信をきった。
ケーネストの満足気な横顔を見てると、異世界で彼の体を借りてしまってる罪悪感も多少は薄れる。
娘のミルシェラや妻のアレンシアの顔が一瞬浮かぶ。
でも今、ケーネストはここで幸せそうにラーメンを食べている。
俺が治癒魔法で体を治癒できたこと。
こうして一緒に冒険できること。
「……お土産何を買って行こうかな」
俺が呟くと、ハンターが箸を止めて笑った。
「そうだな。定番は菓子や明太子なのだろう?」
「うん」
屋台の提灯が、俺達を優しく照らしていた。
明日、もう一日福岡を満喫して、政府のジェットで帰ろう。
ケーネストの笑顔を見ながら、俺はそう思った。 博多の夜は、まだ始まったばかりだった。




