165話「朝の風景」
朝になって顔を洗って歯磨きも終え、俺はTシャツと下はスウェット姿のまま、台所に立ち、換気扇を回し、フライパンに少しの油を入れ、コンロのスイッチを押して、フライパンを熱する。
食パンをトースターに二枚入れ、ベーコンと卵二個を冷蔵庫から取り出す。
卵がシンクの上で滑って転がらないようにお椀に入れる。
トースターから香ばしい焼けたパンの香りが漂ってきた。
きつね色に焼けた食パンにバターを塗り、カリカリに焼いたベーコンを卵の上に落とし、ベーコンエッグにしたものをトーストにのせ、簡単な朝食にした。
サラダには朝採ったきゅうりとトマトとレタスに玉ねぎドレッシングをかけたもの。
デザートには小さくカットしたスイカを出した。
それらを食べつつも、ミルシェラは俺に問いかけた。
「まだ寝ているお父様には何を?」
「そこにあんぱんとー冷蔵庫に牛乳とカフェオレを置いてある」
「あんぱんと牛乳なんて、張り込み中のおまわりさんみたいですね、刑事ドラマあるある四コマ漫画で読みました」
「ああ、でも美味いよ」
ミルシェラは頷き、自分で冷蔵庫からオレンジジュースを選んでコップにそそぎ、それを飲んだ。
俺もミルシェラと同じベーコンエッグのせトーストを食べ、飲み物はペットボトルのレモンフレーバーの炭酸を飲んだ。
冷蔵庫でキンキンに冷えていたから美味い。
食事を終えたら公爵の服に着替え、お土産を確認し、娘と手を繋いで蔵の鏡に飛び込む。
◆ ◆ ◆
波で門が描かれた壁画の向こうには、いつも通り騎士達が待機してくれていた。
「おはよう。後日向こうの店に注文した品を取りに戻るが、せっかくミルシェラが休みに入ったのでひとまず戻って来た」
「ただいまー」
「お帰りなさいませ、閣下、ミルシェラお嬢様」
「今から書類の確認をする。その間に差し入れのあんぱんとカフェオレとミルクを渡しておくから食べてくれ。ミルクで腹が痛くなる人は温めてから飲むか、こちらのオレンジジュースを」
「ありがとうございます!」
「ついでにきゅうりも渡しておくか、そのまま齧れる」
「色々ありがとうございます!」
護衛達にも軽く朝食代わりのパンを食べさせる。
書類仕事をする。
「ミルシェラ、眼を通し終わった書類を渡すから判子を押してくれ」
暇そうなミルシェラに簡単な仕事を渡す。
「流れ作業ですか」
「ああ、ハンコが乾くまで紙は重ねられないから気をつけつけてな」
「はい」
本来公爵の大切な判子を子供に渡すものではないが、俺が隣で確認を終えた書類にのみさせるのでまぁ、特別にOKということにしておく。
「おっと、帰還の知らせの鳥を一応、邸宅へ飛ばしておくか」
「お母様は出迎えに来てくれるでしょうか?」
「さあ? まだ怒ってると出てこないかもな」
書類を数枚片付けた頃には騎士達も簡単な朝食を食べ終えた。
「じゃあ、公爵邸へ向かおう」
「「「はい!!」」」
「はーい、お父様」
娘と護衛達を引き連れてダンジョンを出て、公爵邸の本邸へ向かう。
洞窟から出たら、夏の陽射しが全身に降り注いだ。
──ああ、こちらも夏だなーー。
しかし、日本のような湿気はない。
ぬけるような青空の下を馬でかけるのは爽やかだろうけど、ミルシェラがいるから俺は一緒に馬車移動だ。
追走する騎士達は馬である。
せっかくなので馬車の窓の中から、夏空の下の青々とした草原を馬で駆ける騎士を撮影した。
めっちゃ映える。
◆ ◆ ◆
先触れの鳥を飛ばしていたので、使用人達は出迎えてくれた。
アレンシアの姿はまだなかったが、朝でまだ寝てる可能性もあるだろうし、気にしないようにしよう。
「今帰ったぞ」
「お帰りなさいませ、公爵様、お嬢様!」
「皆! ただいまー」
アレンシアの侍女の一人が挨拶に来てくれたので魔法の布から取り出したお土産の化粧品を紙袋ごと渡す。
「これをアレンシアに」
「かしこまりました」
「他にも注文している品があるが、まだとどいてないから後日またあちらに向かうが、ひとまず帰ってきた、ミルシェラも来てしまったからな」
「かしこまりました」
「あー、アレンシアは怒っているか?」
少し様子を伺ってみる俺氏。
「怒っているのとは……違うように思われます」
「そうか」
「お父様、そうですよ! お母様は怒ってる訳ではないと思います!」
ミルシェラがそう言って俺の手を引っぱった。
「まぁ、せっかく夏だし、領地内の水辺にでも行くか? 川とか湖? 一応アレンシアに声掛けておいてくれ」
「今季の社交は自粛するので時間はあるはずです!」
「お嬢様はまずはお着替えをされて下さい。出かけた時と同じ服ですよね」
侍女が出かけた時のミルシェラの服を覚えていたようだ。
「でも洗濯はされてるし、途中で違う服も着てたもん! 浴衣とか!」
「はい、でも夏用ドレスにお着替えをなさってくださいね」
「夏に重たいのは嫌だからお父様のお土産のワンピースがいい!」
珍しく駄々っ子のようになっているミルシェラ。
子どもらしくてこれはこれでまた良きかな。
本当はレディらしくしなさいと注意すべきところなんだろうが、夏用ドレスでもこっちのドレスは生地がしっかりしてる分、やはり暑いんだろうと思うので。
俺は公爵の礼服の下に接触冷感の肌着を着てるけど。
「パパー!」
「お、我が息子ベルナルディードよ、出迎えに来てくれたのか」
「ベル、おはよう」
乳母に抱っこされた息子が俺に向かって手を振りつつ、こちらに向かって来ていた。
「おねーたま! おあよ!」
ミルシェラはまだ舌っ足らずな幼い弟に駆け寄り、ベルの小さな手をにぎにぎした。
二人とも可愛いな。
「そうだ、お土産にポケット付きスタイ? よだれ掛けみたいなものを買ってきたぞ、食べこぼしを受け取ることができる立体的なポケットつきだ、布ではなくシリコンだから洗うのも簡単」
メイドに息子用のお土産のポケットつきのヨダレ掛けのようなものを渡した。
いい発明だと思う。
「まぁ! 変わったスタイですね!」
メイドが見本のために包装無しのものを手にして驚いている。
「あちらで検索するとシリコンビブって出てきましたよ」
「これ、シリコンビブビブって言うのか」
ミルシェラはこの商品の名前が気になったのか検索してたらしい。
「お父様、これ簡単に洗えるのに10個も買ってどうするんですか? 色などデザインは違いますが」
「うちのは三個だ。残りはアレンシアが小さい子のいる貴婦人にプレゼント出来るだろ、人気稼ぎにちょうどいい」
「確かに画期的な発明品なのでメイドも助かりですね」
ミルシェラがしたり顔で頷く。
「だろう?」
俺は乳母から息子を渡して貰って、抱っこしたままひとまずアレンシアの部屋へ向かった。




