116話「ミルシェラの決意」
〜 ミルシェラ視点 〜
パスワードを入れて開いたファイル内の物語では、私は悪役令嬢だった……。
あまりのことに体が震える……。 私は……物語の中の登場人物だった。そんな物語も確かにいくつか読んだ。
しかも第二王子に誑かされて第一王子たる王太子殿下を毒殺し、その罪を全て背負わされて、処刑された。
第二王子は私をそそのかしたのに、かばうどころか、私と侍女だけを悪者にした。
そしてお父様は本来既に亡くなっていて、お母様も私の王太子殺害により、連座で処刑された……。
私が……愚かだったせいで……家門は終わり、一族も連座で処刑……。
ああ……お父様があんなに第二王子を目の敵にするのも、私と王族との婚姻をあんなに嫌がるのも、全部これで説明がついた。
全部、お父様の行動は全部私や家族を守る為のものだった……。
あの口煩いまでの自分を守ってくれる誠実で強い男性を選びなさいというのも……食べられる野草の知識なんかも……逃亡生活になった場合を想定してなんて、おかしな事を言うものだと思ったけど……公爵令嬢に求めるにはおかしい知識の詰め込みも……全て、お父様からの愛ゆえの行動でしかなかった。
私達を守る為の……。
私は漫画を読み終えた後、また日記を開いた。
お父様は恋人に裏切られ、お酒を飲みすぎて階段から転落。
そして異世界からこちらの世界に魂だけ飛んできて神の慈悲なのか、なんなのかよく分からないまま憑依転生した。
本来の肉体は別の世界で寝たきりの意識不明。
本来もっと前に死ぬはずだったお父様が生き延びたのも、そんなお父様の魂だけがこちらの本来のケーネストお父様の肉体に入ってしまったからだと推測される。
本来のお父様は攻撃魔法の方が得意だった。あの死の間際から復帰後のあちらから来たお父様は、結界などの、守護系の力を発現されていた。
中身が違うのだから当然とも言える。
本来のお父様の魂は一旦どこに……あの世なのか、あちらの意識不明の肉体に宿っているのか、分からない………。
「そして今、私ができることは……」
あの、片目メカクレの神官少年が、この物語のヒーローにちがいない。
何故私の名前を知っていたのかは不明だけど、あの人も異世界からの転生者の可能性はある。
敵意は感じられなかった。
今思えば……彼からはむしろ私を哀れむ、もしくはいたわるような眼差しだった気がする。
「会いに行こう。ヒーローなら聖女と結託して第二王子を廃して結局王座に着いたのだから、強い運命の力を持っているはず……お父様を……どちらかでも助けてくださるかもしれない……」
本当はどちらもお父様も救いたい。
でも、どちらか選べと言われたら……私は選べるのだろうか……。
私はお母様の元へ行った。
すっかり憔悴していたけど、虚ろな目で弟を抱き抱えたまま、子守唄を歌ってる。
お父様の枕元で……。弟は母の腕の中で眠っている。
お母様が扉を開けて入ってきた私をゆっくりと振り返る。
「ミルシェラ……あなた泣かないのね、意外だわ」
「大変な時に泣くだけの女になるなって学んだので……」
「だれから?」
「お父様が読ませてくださった数多くの物語……です」
「そう……物語……」
「……お母様、私は今から神殿に行って来ますね」
「御祈りでもするの? そうよね……もう祈るくらいしか出来ないものね、護衛騎士はちゃんと連れて行くのよ」
「はい……お母様、ところで……お母様は、昔のお父様と今のお父様、どちらが好きですか?」
「今とか昔とか、何を言っているの……でも、最近は確かに昔より優しくなった気はするから……だいぶ良かった……のにね……やたら食にこだわるようになったのはおかしな感じがするけど」
◆◆◆
私は原作の神官ヒーローに会いに行くと決めた。
未だ聖女も現れてないなら、頼るなら彼だ。
嫌われてないなら、なんとか力になってくださるかもしれない……お父様が目覚めるように……。
何しろ神官見習いだし、彼には特別な力があるのかもしれない。




