115話「お父様の日記」
〜 ミルシェラ視点 〜
エルシードの領地から幼い弟が呼び寄せられ、眠り続けるお父様に呼びかけてもらいましたが、未だお父様はこんこんと眠り続けています。
まるでおとぎ話に出てくる眠り姫のようです………が、夢の中の世界がよほど楽しくて幸せなんでしょうか?
──不安が募ります。
まず、なによりお母様の食欲が失せて水分しかとっていません。 かくいう私もスープしか食べられてはいませんが、水しか飲まないお母様よりは多少栄養は摂れているはず……。
お母様まで倒れてしまわないか、本当に心配です。
私はまだ子供だし、せいぜい魔獣でもなく普通の蜂を叩き落とすくらいの戦闘力ですが、無い知恵を絞ってみます。
「弟の声を聞かせても未だ目が覚めないお父様への対策として、術だか呪いだかをかけた夢魔を討伐してはどうでしょうか?」
この私の提案は単純に元凶を叩けばよいのでは? という考えからです。
「ミルシェラ、簡単に言うけど次にあの同じ夢魔がどこに現れるかもわからないのよ」
「それは……確かに……そもそもリカータの地を魔獣達が目指していた理由も定かではありませんね」
「その件はあちらの領主が神官に調べさせているらしいわ。単純に魔族が魔獣に指令を出して、聖女と関わりのある途中を蹂躙したかっただけなのかしら……? かつて倒された先代魔王の敵的な意味で……」
「そういえば先日聖女降臨祈願祭をやったりしたから刺激したのでしょうか?」
「──さぁ? どのみちリカータの結界石も壊されたりしてスタンピードが起こってしまったらしいし、今再設置の為に新たな結界石を作っているところらしわ」
結界石……。魔族と通じた人間の誰かが内部から破壊したのか……時間の経過で劣化したのかはわからないけど、時間経過での破損なら、領主が事前に対策しておくべきところ。
「結界石の再設置はどなたがなさるのでしょうか?」
「それは神官でしょう」
「そこを狙われたりしないのでしょうか?
またあの夢魔が現れるのなら……倒す機会にもなりそうですが……」
お母様は私の言葉にハッとなった顔をされました。
「それは……あり得ない話ではないわね。新たな結界石設置のメンバーにうちの精鋭も送り込みましょう。となれば、至急リカータの領主に手紙を書きます」
さっと踵を返してお父様の寝室から出て行こうとするお母様に、私は慌てて声をかけます。
「お母様! その前に何か軽くでも召し上がってください」
「手紙の後に食べます!」
そう言って小走りで去って行かれました。
でも、お父様をまるで心配されないと、それはそれで愛情面で心配になるのし……当然の反応かもしれません。
私はお父様の部屋からメイドや執事も下がらせ、一人で机に座りました。
また引き出しの日記を取りだしました。
そして……深呼吸しました。
お父様は自分に何かあったら大切な誰かに読ませて欲しいとか、私にも読んでいいとおっしゃっておられた……。
つまり、今がその時かもしれない、まだ亡くなってはいないけど、意識がこのまま戻らないなら、食事もできなくて……栄養を摂らないと人間は死にます………。どう考えても緊急時。
コチラの世界には漫画で読んだような点滴なんてありませんし………。
日記を取りだし、そっと表紙をめくります。
「我が愛する娘、ミルシェラへ」
そう書かれたページがあります。
そのページに最初に書かれたものは、タブレット内にあるファイルを見るためのパスワードでした。
緊急の時には、このパスワードを入れてタブレットのファイル内の物語を読んでいい。
この状況で私に読ませたい物語とは?
緊張で冷や汗が出て来ました。
わけもわからず動悸もします。
私はタブレットに充電が残っていることを確認して緊急時用と書かれたファイルに人名らしいパスワードを入力し、ついにそれを開きました。
「……これは……漫画のデータファイル? 異世界転生したら聖女だった件! 〜執着してくるイケメン神官様が実は王子様!?〜」
どうやら異世界転生した聖女系の漫画らしいけど……?
ひとまず読んでみます。何かのヒントがあるのかもしれませんし……。




