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The salesman defeats fucking Great-Evil. Chapter6(訳:営業マンはクソったれな巨悪をぶっ倒す 第6幕)

事故ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!

まさかの予約投稿を解除したつもりが、そのまま投稿してしまってたなんて!!!

ということで書き直したものを再アップロードです。

お騒がせいたしました......。

Salesman(営業マンは) defeats(クソったれ ) fucking(な巨悪を ) Great-Evil(ぶっ倒す)Chapter6(第6幕)


「あんだぁ? 兄ちゃん、ちょっと調子に乗ってんじゃねえのぉ?」


「そのセリフ、てめえにそっくりそのまま返すぞ。あと俺は兄ちゃんと呼ばれる歳じゃねえ」



 もう何度目かになるかも分からない相手の対応に、つい思わずツッコミを入れてしまう。だがそんなことは、今この時においては至極どうでも良いことだと思い直す。

 突きつけていた鎌を手元に戻し、ウォームアップがてらぶん回しながら俺は大男を見据える。



「……さっきここに入った途端聞こえたんだが、可愛こちゃんを美味しく頂くとか云々っての、ふざけてんのか?」


「何言ってやがんだよ。強者が弱者を甚振いたぶるのは当然の権利だろ? この世は弱肉強食なんだ。強い奴は何をやったって許されるのがこの世界だ」


「なら、『今ここで俺がお前の首を落としても』全くもって問題ないわけだ」



 俺は強い怒りを感じた。

 先とは違って酷く冷たい眼を、そして再び鎌の刃先を男に向けて突きつけて。



「へっへっへっへっへ……。オメエは誰に手を出してるのか、分かってねえみてえだな。へっへっへっへっへ……」


「あいにく俺はこの国の常識に疎いんでね。それなりに名が売れてらっしゃるわけ?」


「『爆走』と言やぁ、誰もが恐れる冒険者の異名だぜぇ?」


「知らねえな……。ただ、そんな異名だの二つ名なんてもん、どうだって良い」


「あぁん??」



 俺は突きつけてた鎌をまた引っ込め、今度は戦闘用の構えを取る。

 そんな俺の姿を見た大男・・・もとい『爆走』は醜悪な笑みを浮かべ、斧を構える。

 よく見れば片目が焼き爛れている、しかも数日とかの話じゃなくつい先ほどだろう。


 きっと、ミシュリアと戦っている最中に彼女が何か一計を講じた結果があの火傷だ。

 そんなハンデを追いながらもミシュリアを傷付けた、自分で言う通りそれ相応の実力者であるのは間違いないだろう。


(もっとも、そんなの関係なしに全力で叩き潰すだけだがな)


 結局俺がやることは変わらない。

 王国の”闇”を取り払うべく、邪魔となる障害は真正面から叩き潰すだけだ。


 敵であるこの大男がリサ達回復役の詰める所まで来ているということは、商会本部を攻める第一隊か第二隊のどちらかが壊滅的な打撃を受けたかしたという事。

 ここまでこちらの戦力が削られている以上、もはや一刻の猶予もありはしない。


(手を抜いてられる状況じゃない、全力で掛からにゃいけないな……)



 Bランクのグレード1冒険者を撃退する程の実力を持った、『爆走』と名乗るこの大男。こちらも本気で掛からなければ、もしかすると自分が死んでしまうかもしれない。

 そうなった時に後ろに控える彼女達に待ち受けるのは、生きてる事に絶望するような悲惨な末路だろう。この男がさっきからチラチラと俺の後ろに向ける、リサ達に対する下衆な視線がその事を語っている。


 加賀貴仁、覚悟を決めろ。

 罪の無い人を”闇”から救うには、目の前の敵を討ち払わなければならないんだ。

 最悪、『殺す』事も視野に入れて戦うんだ。



「行くぞゴラァ!!!!」



『爆走』は突如、俺に向かって飛びかかってきた。

 目の前にいきなり現れたと思った途端、得物のデカイ斧を振り下ろす。



「チィッ!」


「ヘハハハハハ!!! まずは逃げたか!」



 咄嗟に横に避けたが、チラリと斧が振り下ろされた床を見て冷や汗を流す。

 斧の切れ味はもちろんの事ながら、明らかに斧を振り下ろしただけじゃ説明できない様な小さなクレーターが出来ている。


(魔法でも織り交ぜてんのか? あんなもん直撃したら、一瞬でミンチになるじゃねえか!)


 タネや仕組みは詳しく分からないが、多分これは斧だからといって近接戦闘を避けてれば良いってもんでも無さそうだ。もしかしたら風でも斧に纏わせてるのか?それを利用して風のハンマーみたいなのを作って、俺に向かって叩き下ろしたと考えればクレーターも説明は付くが……。


(ゴチャゴチャ考えても仕方ねえ。向こうがその気なら、こっちもやる事やってやる)



 リサのストーカー事件以来久方ぶりに、『鎌使い』スキルの力で刃に魔力を纏わせる。

 構えている鎌全体から赤いオーラが、まるで煙が揺らめく様に立つ。

 同時に『鷹の目』スキルも発動し、自身の思考速度も上昇させておく。



「へぇ? 兄ちゃん、テメエも魔力を武器に宿らせられるのか」


「テメエ”も”ってことは、アンタも武器に魔力を宿せるってわけだ。さっきの穴があくほどのパワー、風の魔法でも組み込んだか?」


「ほぉ。常識に疎いとか言っておきながら、意外と観察力のある野郎だなァ? だからといってこの俺に、勝てるわけがねえんだよォォォォォッッ!!!」


「寝言は寝て言え! このデカブツ!!」



 真正面からトップスピードでお互いに突っ込む。片方は斧を、片方は鎌を持って、本気で相手にぶつけに行く。

 だが、原因不明の凶悪改造を受けたこの俺の身体能力を受けきる事が出来る奴は、少なくともこの世界で俺は会った事はない。

 半分想定通りで、半分呆気ない出来事というか。

 男は俺の本気の突進に耐えられる訳もなく、大きく仰け反ってバランスを崩した。



「うぉっ!?」


「ぅおらぁ!!」



 その隙を突いて、鎌をぶん回して回転による力を加えながら斧に打ち付けてゆく。

 斧に打ち当たる度にカンカンと小気味良い金属音が響くが、音色に対して俺が斧に加えてる力は結構な本気のそれだ。

 加えて、魔力を宿したことで剣をカチ割る程の強度も持ち合わせているわけで、何回も何回も人外級の力を連撃されていたら持ち手の腕の方が耐えられまい。


 俺の思っていた通り、度重なる強い衝撃に『爆走』は腕が痺れたようで。



「ぐあぁっ」


「……」



 遂に斧を取りこぼす。

 そこに俺は麻痺毒のピンを投げ飛ばし、奴の体に差し入れる。

 すぐに毒が回った大男はすぐに倒れ伏す。仮にも『極』の字が付いた『毒使い』スキルの能力である。

 俺が想像もできないような大物でもない限り、この毒に抗うなんてことはそうそう出来ないはずだ。


 瞬く間に気を失った男の体を猿轡と縄で雁字搦めにしばり、身動きが満足に取れないように拘束する。

『暗殺者』スキルの毒性の強さを調節する能力により、こいつは丸一日目覚めない様に効力を調整してあるので一安心か。


 というか、殺しの覚悟も決めたはずなんだが、どうにもやはり自分の強さが規格外すぎるようである。

 あんだけ大見得切っていた男がこんな弱くなるなんてまずあり得ないし、現実にAランク一歩手前の実力者を撃退してるんだから実力は確かな域にあるはず。それをこうしていとも簡単に撃退できてしまう俺の体。


(いよいよ、”化け物”と思われても仕方ねえぞコレ……)


 と、そんな事はどうでも良い。

 ミシュリアの容態を調べなくては。



「ミシュリア、聞こえるか?」


「う、うん……、聞こえてるよ、タカヒト……」


「意識はあるな……。リサ! 出来る限りで良い、彼女の治療も任せて良いか? 敵の男がここまで来てるという事は、いまは相当まずい状況なんだろうから。出来れば早いところここでの戦闘に片を付けたい」



 今までの戦闘を後方で見ていたリサが、俺の声にハッとした様に慌ててミシュリアの元に来る。

 だが、ここまで来ると同時に彼女は顔を俯かせて肩を震わし始めた。



「ミシュリアを治療するのは構いませんけど、タカヒトさんは仲間を……一緒に旅した仲間を見捨てるんですか!」



 仲間を見捨てるのかという彼女の問い。

 これは、死にそうになっている自分の旅仲間を見捨てて戦いに行くのかという、彼女の想いから来たものだ。

 仲間ならピンチの時には寄り添う、それは確かに大切な事だと思う。

 俺も非常時じゃなかったらこんな事を言ったりしない。だがな。



「リサ。では何のためにミシュリアは傷付いた? 俺たちは何のために此処にいる?」


「それは! でも!」


「今俺たちがやるべき事は、”闇”を構成する勢力の一つを制圧する事だ。

 今此処で立ち止まって、その結果拠点の制圧に失敗すれば、ミシュリアが体に傷を負ってまで戦ったその想いが報われなくなる事を意味する。

 俺は大抵の相手ならなんとか出来るだけの力を持ってる、だったらこの力を以って助けのいる所に行って使わなきゃいけない。ここでミシュリアに寄り添っていれば、前線で戦ってる人たちの怪我や犠牲がさらに増える。

 目的を見失ってはいけない。薄情だと思っても構わない、恨んでも構わない、それでも今俺たちがやるべき事は、なんとしてでも果たさなければならないんだ。……すまない、リサ、ミシュリア」


「……平気、さ。私は、実力派の、冒険者の、一人だ、よ? こんなんじゃ、死なない、って」


「……約束は絶対守れよ。おっさんより先に死ぬなんて、絶対に許さないからな」


「うん、行ってきて、王国の、未来……」



 ミシュリアはここで俺を見上げる。

 顔を上げるのも億劫そうな辛そうな表情なのに、それでも精一杯のニカっとした涙混じりの笑顔を浮かべてこう言った。



タカヒト() に、任せたから、ね! ……」



 ミシュリアはそう言って、瞳を閉じた。

 まさかとは思って首の脈を調べたが、弱々しいながらも規則正しく拍動している。

 でもそれも血がある内の話。


 急いで治療をしなければ不味い状況に変わりはない。



「リサ。……ミシュリアを頼む。一緒に傍にいられなくとも、一緒に戦ってるから」


「……はい! タカヒトさんも、どうかご無事でっ!!」


「行ってくる……!」



 さあ、目標が逃げ果せる前にケリを付けないとな。



----------



 侵入するなら裏口からと思い、本部の裏に回ってみると。

 そこには凄惨な状態で倒れる第二隊のメンバーがいた。


 体に刻まれたものすごく大きな切り口から見て、これをやった犯人はまず『爆走』と名乗ったあの大男で間違いない。

 本当にかろうじてその者だと認識できるくらいに痛めつけられており、あの男の言う『弱肉強食』の理屈がこんな所で反映されたと思うと、誤魔化しようの無い猛烈な怒りが湧き上がる。


(……こんなグロテスクな現場を見ても、なお平然と冷静に思考できている。俺の心も、地球にいた時とは懸け離れたものになったのか?)


 地球で出会っていれば卒倒すること間違い無いくらい、目の前の現場は悲惨だ。にもかかわらず冷静に対処できている俺の心。どうしたっていうんだ。


(いや、こんな下らない事を考えてる場合じゃない。とにかく、彼らのギルドカードを回収しておかないと)



 冒険者にとって、ギルドカードはいわばドックタグの代わりとしても扱われる。

 冒険者は登録の際に水晶に手を触れてからギルドカードを受け取るが、その水晶を介して実はギルドカードと本人の間に一種の魔術的な繋がりが生じる。

 要は持ち主が死ねばその繋がりも絶たれるために、生死を確認する事が出来るというわけだ。


 あとは、このように表に出てこない裏組織を相手にしていると、相手が証拠隠滅などのために持ち去ってしまう可能性も捨てきれない。

 生死の情報すら闇に葬られるよりかは、確実に死んだのだという情報くらいはせめて持ち帰ってやらないと。

 国の”闇”を討ち払う為に殉じた冒険者たちも浮かばれないだろう。



 すべての冒険者からギルドカードを回収し、自分の影に収納する。

 俺はそれと同時に『暗殺者』の気配遮断と『鷹の目』スキルの二つを発動し、こちらが捕らえる目標のナーベラ会長以下数名の幹部達を探し出すべく中に入る。

 会長も幹部達も全員、事前の下見の際に顔を確認しマーク済みだ。


 まだ建物の中にいる事は分かっているが、既にここでの戦闘開始からかなり経っている為、いつ奴らが動き出してもおかしくない。

 俺は鎌をしまって『影』の兜を被り、暗器のナイフを持って中に忍び込んだ。



 内部はいたって普通の建物というか、特に変わった点は一見すると見当たらない。


(普段はいろんな商人が出入りする大企業、見た目は普通の商会なのは当たり前か……)


 

『鷹の目』スキルで明らかになっている目標の元へと急ぐべく、建物の中を駆けて行く。

 全速力で走る中で途中すれ違う防衛戦力は、真正面から蹴飛ばしていく。

 運動はそこまで得意というほどではなかったが、この体のおかげで頭でイメージした動きの大半は再現できる。

 俺はハードル飛びの要領で足を真正面に突き出し、ぶつかった相手を片っぱしからぶっ倒してるのだ。


 急ぎの事態だし、いちいちナイフ片手に白兵戦をしている余裕はないのだ。

 これが現代のような銃火器メインの時代だったらあっという間に蜂の巣だけど、遠距離武器はせいぜいが弓程度、しかも屋内で弓は取り回しが効きにくいから使う奴はいない。ここに詰めているのはもっぱら、さっきの『爆走』みたいな斧だったり剣だったり槍だったりだ。


 といっても、槍も屋内では取り回しに少々難のある武器なのでそれは少数派。

 リーチの比較的短い武器を使う者が多いのなら、こちらが極限まで接近して飛び蹴りをお見舞いしても反撃を受けるリスクは減る。

 なにしろこっちは『気付けばもうすぐ近くにいる!』というようなスピードで走っているのだから。



 階段を何度も登ったところ、本部の最上階にたどり着く。

 どうやら間に合ったようで、マークしていた奴らは全員逃げていないようである。


 部屋数が少なくて広々とした最上階、幾つかある扉のうち最も大きな扉の前に立つ。

 この扉の奥に、目標とする者達の反応がある。

 扉には結構頑丈な鍵が掛かっているんだろうが、ふぅ。


(生憎と、待ってやれる義理は持ってねえんだ)


 再び影から鎌を取り出して、構えを取り精神を集中させる。居合切りのようなものだ。



 無心の状態から、一気に鎌を全力で扉に向かって振り抜く。



 鎌は分厚そうな木製の扉など全く役に立たない藁の壁と言わんばかりに、その鋭すぎる切れ味をもって扉を横一文字に真っ二つにする。

 ちょっと扉の下半分を押し込んでやればすぐに倒れ、支えを失った上半分もバタンと大きな音を立てて倒れる。


 そこには、俺を怯えた表情で見つめる肥え太った男達がいた。

 半べそをかいてる者もおり、なんだか滑稽な芝居のようにも見えてしまう。大の男が半べそをかくなんて、余程の事じゃなきゃまずあり得ないんだから。


 だが、ここまで来て今更奴らに容赦をするつもりはサラサラ無い。

 この男達にはきちんと罪を償わせる、そのために俺はここに来たんだ。



「初めましてだな。さっそくだが、あんた達を捕らえさせてもらう。容疑は”闇”へ関わった事だ」


「ふ、ふざけるな! この私、ナーベラを捕らえれば! この国の良心たる素晴らしきお方、ランザム男爵様が黙ってはおらんぞ!!」


「知らんそんなもの。俺は流浪人、国のしがらみなんざは関係無い。とりあえず浮かんでる容疑をかるーくざっと述べてくぞ。どれもあんたら全員の内、かならず一人は覚えのある内容だろう」



 そう言って俺は、事前に下調べをしたナーベラ商会が関わった”闇”が進める裏事業を次々に述べていった。

 奴隷の取引、盗まれた宝石類の密輸、危険な薬物取引(麻薬類だ)に罪人の秘密裏の釈放。

 俺が片っぱしからこれらを述べて行くと男達の表情に驚愕の思いが現れ、やがて諦めの籠ったものへと変わってゆく。


 秘密裏にわざわざ私兵を雇い、しかもその私兵も腕効きの者達ばかりで並の人間じゃ打ち破れない、それだけの強さの密偵を駆使して暗躍してきたというのに。

 それがこの時をもって完全に破綻しかけているということを、彼らは認識したのだった。



 俺は万一にも抵抗されないように、思考を加速して一気に男達に飛びかかる。

 突然の相手からすれば瞬間移動にも見えるそれを受けて驚いた男達だが、そんな感情が反射的に男達の体を防衛本能で動かす前に首に酒盗を落として気絶させる。

 影から縄を取り出して、こいつらを全員が全員の足を引っ張り合って解けないように縛ってゆく。

 もちろん猿轡も咬まし、隠し持っているナイフなどの刃物類は没収だ。



「さて、あとは残った書類の後始末だな」



 男達から『鑑定眼』で記憶を読み出し、商会が”闇”に関わった確かな証拠となる書類を部屋の棚から次々に漁り、そしてそれらを以前と同じように転写をしてゆく。蝋印も含めて、『道具使い』のスキルで上手く誤魔化しながら。


 本当にこのスキルは便利なもので、結構な量があった書類も(物理的にどんな理屈かは不明)10分足らずで片を付けてしまった。



 さて、目標は果たしたが。

 まだ下での冒険者陣営と商会側の戦いが終わったわけではない。



『鷹の目』で、俺を含む”味方に敵意を向ける”存在に対してマークをかける。

 すると、戦いでだいぶ少なくなっているとはいえまだ戦える敵はいるようだ。


 鎌を仕舞った俺は、残った敵の始末のために再び商会内部を走り抜けた。



----------



 目の前に立ちはだかる”敵意を向ける”敵をすべて例によって蹴飛ばして撃沈させたのち、俺たちは冒険者陣営を商会内部へと引き入れた。

 そして最上階にいる商会トップの男達を、殺さないよう痛めつけないよう念を押した上で、ミシュリアの元へと急ぐ。



 拠点に戻った時ミシュリアは、大量の汗をかきながら必死に魔法を行使しているリサの治療の最中だった。

 つまるところ、患部を直すために上半身を露出させていたのに気付き、俺は背を向ける。

 だがそれはあくまで本人の感情に配慮したものだ。彼女の傷はかなり酷くてとても痛々しい。

 単純に異性に性的象徴を見せることへの羞恥もあるだろうが、大きく傷が付いた自分の体を必要以上に他人に見て欲しくはないだろう。



「すまない、故意にやった訳ではないんだ」


「へへへ、気に、してないよ……それで、証拠は、抑えられたの?」



 声を出すのも辛そうな感じで、それでも彼女は自分ここまで戦った戦いの結果を訊く。

 俺は、努めて冷静に彼女への問いに答える。

 彼女が死ぬんじゃないか、そう思う俺の不安が伝わらないことを思いながら。



「ああ。なんとか証拠を抑えて、商会トップの男達も縄でグルグル巻きにしたよ」


「そっか、良かった……」



 結果を聞くと、ミシュリアは心から安心した声色でそう言った。

 しかし彼女はすぐにどこか不安そうな声で、俺を呼ぶ。



「ねえ、タカヒト……」


「どうした?」


「リサは、頑張ってる最中で、手持ち無沙汰だから、さ……。手、握って……」


「……ああ、そのくらいおやすい御用さ」



 ミシュリアの左手を優しく握る。

 まるで血が通ってないかの如く冷たい手の感触に、思わず俺は握った手を見てしまう。

 死体のような青白い手で、彼女の血が圧倒的に足りていない事を悟る。



「ミシュリア」


「なに、かな……?」


「よく頑張ったよ、本当に。こんなになるまでみんなを守って、ありがとう」


「へへへ、仮にも、わたしは貴族、さまだからね……。苦しむ民を、救うのは、義務なんだよ」


「ああ。その役目を、見事に全うしてくれてるよ。だから、俺にできる事があればなんでも言ってくれ」


「だったら、そのまま、強く手を、握ってて……」



 そう言うとミシュリアは目を閉じる。

 まさかと思ったが、直後俺と握った手に柔らかな光が溢れてきた。

 光がしばらくして消えると、ミシュリアはうっすらと目を開けて、微笑む。



「私の、魔力譲渡の、能力を、タカヒトに、伝授したんだ……。リサ、もうかなり、限界だから、さ……。リサに、タカヒトの魔力、分けてあげて……」


「ああ分かった! 分かったから、お前は絶対に諦めるんじゃないぞ! 諦めたら絶対許さないからな!」


「もち……ろん、当たり前、だね……」



 俺が本部に向かう時と同じような、弱々しいニカっとした笑顔を浮かべ答えるミシュリア。

 彼女が俺に魔力譲渡の能力を託した、そしてリサが限界が近いという言葉。

 俺のあり余る魔力が人を助ける事に役立つのなら、いくらでも供給してやるさ。


 絶対に死なせたりはしない。

 俺よりも若い奴に先に逝かせてたまるか。



「リサ! 俺の魔力を!」


「はい!」



 ミシュリアから託された唯一の命綱。

 リサは戦いが始まってからずっと回復魔法を行使し続けて、もう限界を超えて無理してるような状況なのは彼女の汗の量から一目見て分かった。

 つまり、魔力切れが近い状態で無理してるのに、回復魔法の効果が良く効くわけはない。


 でも俺の魔力を渡して、少しでも魔力に余裕が出てくれば。

 リサの回復魔法の効果が高まり、ミシュリアは助けられるかもしれない。



 俺とリサは互いに手を握り、魔力を譲受する用意を整える。

 スキルの不思議仕様により、どうすれば魔力を受け渡せるかは頭に勝手に思い浮かぶ。

 そのやり方に沿って、俺はリサに少しづつ魔力を受け渡してゆく。



「っ! これなら、いけるかもしれない……!!」



 リサの表情が快方に向かったのを見て、俺も確かな手応えを得る。

 彼女の負担にならないようにペースを考えながら、少しづつ魔力を受け渡す。

 すると、ミシュリアの傷にかざされたリサの手の淡いエメラルドの光が、だんだんと明るみを帯びて強い光へと変わってゆく。



「う、うぅ……」


「ミシュリア?」


「大丈夫ですタカヒトさん。回復魔法は効果が強力だと、治療が高速で進んでゆくので呻く人が多いんです。あんまり強い魔法はやりすぎると良くないんですけど、今は四の五の言ってられませんから!」


「……頼む、リサ」


「絶対に、死なせないんですから!! だから頑張って! ミシュリア!!」



 回復魔法の効果は強力に効いたようで、ミシュリアの胸の傷の止血と縫い合わせを瞬く間に終わらせてしまった。

 彼女はその反動が強かったのか、傷の治療が終わると同時に気を失って安らかな寝息を立てる。

 俺もリサも気が抜けてその場で俯く。



「リサ、さっきはすまなかった。あんな事を言って、でも本当にお疲れ様。リサがいなかったらきっとミシュリアは……」


「いいえ……、タカヒトさんがいなかったら。私たちは今頃『爆走』の慰み者になってたかもしれないんです。こちらこそ、あんなこと言ってしまってごめんなさい」


「いいんだ。犠牲者が何人か出てしまったが、無事なものがこれだけいれば大したもんだよ」


「……そうですね」



 リサと会話を重ねる。ようやっと第二段階が終わったかと、ほっと息を吐くとともにミシュリアを見やる。

 だが、ふと目に入ったミシュリアの患部を見て、俺はとてつもない罪悪感と申し訳なさを感じる事になる。



「……すまないな、俺はミシュリアに詫びなければならない事が出来た」



 本人には聞こえていないだろうが、それでもそう呟かずにはいられなかった。




































 なぜなら、ミシュリアの胸には大きく、袈裟懸けに刻まれた”傷跡”が残ってしまったのだから。

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