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営業マンはついに旅に出る 後編



「……えっ?」


 私、受付嬢のリサはギルドのカウンターに来たタカヒトさんが言った事を、一瞬理解することができなかった。


「聞こえませんでした? 旅に出る為この街を発ちます。なので、契約している宿舎の家賃の納入とご挨拶を兼ねまして伺ったのですけど」


「え……? タカヒトさん、いなくなっちゃうんですか?」


「ええ、この街には色々とお世話になりましたけど、そろそろ本来の目的である旅の方に戻ろうかと」


「そ、そう……なんですね」


「??」



 いけない。

 明らかに気落ちしてる私を見て、タカヒトさんが不安げな表情をしてる。

 なにか言葉にしないと。



「どこか体調でも優れないのですか?」


「い、いえ。ただちょっと、突然の報告だったものですから驚いてしまって。そうですよね、冒険者なら旅はしたいですよね。あは、あはははは」


「……失礼、すこしおでこを触りますね」


「ふぇっ!?」



 言うが早いか、タカヒトさんは自分が付けている黒の手袋を取って、左手を私のおでこに当てる。

 え? ちょ、ちょっと何をしてるんですか!?

 こんな人目のあるところで。


 けど、タカヒトさん自身はふざけてやっている表情ではない。

 ああなんだ、熱があるかどうか確かめただけか……。


 突然の軽いスキンシップにすらアワアワして、なんだかバカみたいに思えてきた。



「熱は無いようですが、寝不足とか他の症状はありませんか? 体調を崩すと大変ですからね」


「本当に体は大丈夫なんです。お気になさらないで下さい」



 そう。

 ”体”は平気なんだ。

 大丈夫じゃないのは私の”心”。


 この間、私にストーカーが襲いかかってきた事件以来、私のタカヒトさんを見る目は大きく変化した。

 あの瞬間は同僚のルーナの言葉を聞いても自分の気持ちがはっきりしなかったけど、時間をかけて心を整理した私は自分の気持ちがわかってる。


 私は、この人 ( タカヒトさん) に恋しちゃったんだって。


 思えば初めてギルドであった時から、きっと私の心はタカヒトさんに目を奪われてたんだと思う。

 いわゆる一目惚れ見たいな形で気になって、それから幾度かお話とかやり取りをして、そしてあの日に私を助けてくれた事が止めになった。

 それ以来、私はどことなく恥ずかしさが出てしまって、タカヒトさんの目を見て話す事が難しくなってもいる。


 それだけの心の変化が起こった事、きっと私の目の前にいる人は気付いてないと思う。

 タカヒトさん自身の、私に対する振る舞いには変わりがない。

 きっとこれは、私から彼への一方通行の想い。


 ああ、そう思うだけで心が苦しくなってきた。

 涙が出ちゃいそう、早く対応を終わらせないと。



 でも、そんなタカヒトさんは、どうしてか人の心の機微にはとても敏感で。



「リサさん」


「なんですか……?」


「辛いことがあるなら私でよければ聞きます。なんというか、私から見ていてもとても苦しそうだと感じる。元々人の心の動きには割と敏感な方でしたが、今のリサさんは放っておいたら壊れてしまいそうな、そんな感じがするんです」



 だから、話せる内容だったら話してくれませんか?と。

 とても優しい笑顔を浮かべてそう言ってくれる。


 今この瞬間、私の想いをぶち撒けたらどんなに楽だろうかと思った。

 他ならぬ貴方のせいで、私の心はいまグチャグチャになってるのだって。


 でも、言えない。

 言ってしまったら、きっとこの人を束縛してしまう事になる。


 そもそも、彼と私には受付嬢と冒険者という間柄以外にはなんの関わりもない。

 強いて言えば、私がいる時には積極的に私のもとに来てくれるって事くらい。

 その理由も、私に対して何か想いがあるというのでもなんでもなく、ただ自分の事をある程度事情を知っているから話しやすいというだけ。


 特に深い関係でもない人に、これ以上心配かけちゃいけないから。



「本当になんでもないんです! その、すみません……。他の方もつかえてますので、今日はお引き取り下さい」


「……。では、お体の調子や怪我に気を付けて。これが今月分の家賃ですので、お納め下さい。それでは、失礼します」



 なおも私を心配する目を向けてくれるけど、踏み込むべきではないと思ったのかな。

 タカヒトさんは一度私の目をしっかり見た後、静かにギルドを後にした。

 なんで気持ちを言わなかったのか責める私と、これで良かったのだという私が心の中でぶつかり合う。


 本当、どうすれば良いのかな……。



----------



 ドム商店からギルドに、旅立ちの挨拶と諸々の所用で顔を出したところ、いつものように応対したリサさんの様子がどこかおかしかった。

 いや違う、俺が旅に出ると言った途端に様子が変わった。


 理由については正直心当たりが全くない。

 俺がいなくなる事を再度確認したり、言葉の歯切れが妙に悪くなったり。

 体調が悪いのかと思って、前置きを入れた上ででこを触ってみたが熱があるわけでもなし。


 目を見て話そうとしても、ここのところ彼女からは目を逸らされるばかり。

 何かあったのかもしれないと思い、相談に乗る旨を伝えてもみた。


 けれど彼女は、しばらく逡巡したのち俺に頼る事を拒否した。


 彼女の事は心配ではあったが、本人が助けの申し出を拒否したのならもはや俺に出来る事は無い。

 借りていた宿舎の家賃納入と知り合いに挨拶をするという目的も果たしたため、もやもやしたものを抱えながらも俺はギルドを後にする。



 ところが、ギルドを出たところで一人の女性に話しかけられた。



「最近、リサの様子が本格的におかしいってこと、あんたは気付いてる?」


「ルーナさん。ええ、最近は話すときにあまり目が合わなくなりました。しかし、それがどうなさったのです? まさか彼女はまた何か危険な目に?」


「私が知りうる限りは、そんなことに巻き込まれていないはずよ。ただ」


「ただ?」


「あの子にとって、あんたは大事な人間になったってことさ」


「大事な人間?」


「ここじゃなんだからさ、続きはお茶を楽しめる店でしよう。アタシは今日は非番だから、アタシの時間については気にしなくて良いからさ」


「は、はぁ」



 これから荷造りや食料の確保という目的があったのだが、それよりも悩み解決の役に立てるならそっちを優先しよう。

 リサさんも、俺がこの世界に来てからお世話になった恩人の一人だ。

 これを機会に、すこしでも返せればと思う。



 ルーナさんの案内で連れてこられた店は、小洒落た感じの喫茶店だった。

 なるほど、確かに二人で話すのなら色々と都合が良い。



「それで、リサさんの様子がおかしいこと。ルーナさんは何か理由をご存知のようですが、一体それは?」


「突然だけどさ、あんたはリサのことをどう思ってる?」


「は? それが何の関係が?」


「いいから答えな。話の根幹に関わる重要なところなんだ」


「それのどこが重要なところになると言うんです。まさかリサさんが俺に惚れてる訳でもあるまいし……」


「な、なんでわかったんだ」


「そりゃ、元々人の感情の機微には結構敏感な方ですからね。その位のことは…………いま、なんと?」


 聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ。

 ちょっとまて、どういうことだ?


「リサがあんたに惚れてるってのをこれから言おうとしたところに、いきなりあんたから先手を打たれたから思わず」


「……一応伺いますけど、それが冗談ってオチは絶対に無いですね?」


「そりゃ無いよ。自分の気持ちのありようが分からなくて、私に泣きついて来る位だったんだから」


「そうですか……」



 適当に冗談のつもりで口にした言葉。

 俺自身は間違っても『俺は格好いい』なんて思えるほど自惚れ屋じゃない。

 だからこそ、ルーナさんのリサさんをどう思っているかという質問の意図が読めず、思わず適当に『俺に惚れてる訳じゃないだろう』と口走ったのだ。

 だが、蓋を開けてみればそれが重要なポイントを突いていたと。


 これは一体何がどうしてそんな事になってるのか。

 彼女からそのような想いを向けられるような事をした覚えは……あれ、ないとも言い切れんぞ。



「もしかしなくても、ストーカーを撃退したのがきっかけになりました?」


「うんにゃ、きっかけはそこじゃない。とどめを差したのはその件だったらしいけど」


「じゃあいつから?」


「知らん。アタシはリサ本人じゃないからね。ただ言えるのは、リサは一人の女としてあんたに惚れちまってる。ほら、それだったらあの子の様子の変化も納得いくだろ?」



 確かにそうだ。

 原因が恋煩い、しかもその相手が俺とは流石に予想はできなかったが、確かに彼女の一連の変化は恋煩いが理由だというのなら全て辻褄が合う。

 いままでは話すときに目を合わせてくれていたのが、あるときを境に合わせてくれなくなった事が増えた。

 その時は特に意識をしていなかったが、いま考えるとそうなったのはストーカーを撃退した翌日からだった気がする。


 先ほど話す時に妙に歯切れが悪かったのも、俺に対して何か言いたい事があるのならそうなるのも無理はない。

 ましてや、好きな相手がどっかいなくなってしまうというのは相当ショックだろう。

 例えるなら、恋い焦がれた相手が突然引っ越してしまうというような。


 この世界は離れた場所とやりとりする技術はほぼ発達していないから、赤の他人同士が一度遠くに離れれば再会は絶望的だ。

 その環境も相まって、あからさまに気を落としてしまったということ、か。

 ただ、な。



「しかし、俺は特にリサさんに対して想いを抱いている訳ではありません。こればっかりは気遣いとかそういう類の話ではないですし、彼女の方から何かアクションを取らない限りは俺はこれ以上は関わりませんよ」


 そう、俺はリサさんを異性としては見ていない。

 お世話になった人で、恩を返したいという気持ちに嘘はない。

 でもそれとこれとは別問題だ。


「ああ、それで良いんだと思う。とりあえずあんたがあの子をどう思ってるのか、それだけが知りたかったんだ。さて、それじゃあ非番ではあるけども、多分今頃あの子は使い物にならなくなってるだろうから。早くいってヘルプに入らないとね」


「一応、当事者として迷惑をかけてすみません」


「いいんだ。あんたも、あの子のことを考えてくれたんだからね。旅立つ用意がある中付き合ってもらっちゃって悪かったね。そんじゃ、またいつか会おう」


「ええ。ルーナさんも、お体の調子や怪我にはお気をつけて」



 喫茶店を出たところでルーナさんと別れる。


 それにしても、俺に惚れてしまうとはな……。

 その事情を知らなかったとはいえ、さっきのような対応の仕方は少し不味かったかもしれない。

 素っ気なくさよならを言い渡されたものだからな。


 しかし、下手な同情はそれもまた相手を傷つけることになる。

 どちらにせよ、リサさんが時間をかけて整理するべき問題だな。

 これ以上は誰かが首をつっこむべきではないと思う。



 それから俺は街の市場などを回り、旅に必要な食料や道具を買い揃えたのち、この世界に来て初めての『宿屋』に部屋を取った。

 流石に管理している人間がいるのと立地も良いだけあって、ベッドから部屋の空気から、睡眠の質が段違いだった。

 最底辺を知ると最上辺を体験した時にエラく感動するってのは本当だな。

 おかげで、本当に久々に『不自由なく快適にグッスリ』眠ることができた。



----------



 翌朝、部屋を引き払い、キスト王国首都『シーゲート』に向かうべく東門に向かう。


 が、歩いていく内に門のところ、検問を待つ人だかりの中に見覚えのある二人が立っていた。

 ”彼女たち”は俺の姿を見つけると、途端に笑顔を浮かべて俺の元へ走り寄ってくる。

 え?

 どういうこと?


 二人とも見覚えのある服装ではなく、明らかに旅に出る格好をしている。

 荷袋に水筒、武器に旅用のブーツと。

 そりゃもう、ミシュリア様なんか顔見て言われなきゃ気付かないくらいに冒険者してる。


 ていうか、なんでここに???



「ミシュリア様にリサさん。一体どうされたのですか?」


「実はですね、お家の方から家名を汚しさえしなければ旅に出て良いと許可を頂きまして。ですので、魔法剣士としてはブランクがありすぎるものですから。タカヒトさんと旅をしつつカンを取り戻していこうかと。で、待ってたら彼女と会いまして。組もうと思ってる相手が一緒でしたから特に諍いもなく、お待ちしておりました」


「は、はぁ。それでリサさんは? 受付嬢の仕事はどうされるんです?」


「ギルドの方はギルドマスターとルーナさんの計らいで、旅をしながらギルドの運営状況をチェックする監査官扱いになりました。ギルド加盟の商店から吹っ掛けられた時も、正式なレートを知っている私がいれば足元見られる事もないでしょうし。それに」


「それに?」


「自分の気持ちを誤魔化すなんて出来ないです。ルーナから昨日の事は話を聞きました。今はまだただの知り合いだとしても、いつか必ず振り向かせてやりますから!」


「お、お手柔らかに……って違う。二人とも、俺の旅についてくるんですか?」


「「もちろんです」」


「……初っ端から計画の練り直しが発生するとはな。まぁ、いいか」


「ちなみに私の事はミシュリアと、それと丁寧語は無しにして下さい。命のやり取りに身分なんて関係ありませんから」


「でしたら、私もミシュリア様と同じように呼んでください。あと、私はヒーラーとしては結構優秀な方なので、戦いではお役に立てますよ?」


「じゃあ前衛が二人に回復役ってところね。リサ、これからよろしく!」


「こちらこそ、よろしくお願いします。ミシュリア様」


「様はいらないわよ」


「じゃ、じゃあ……ミシュリア」


「うん! よろしくね」


「はい!」



 俺の預かり知らぬところで勝手に同行者が二人も決まる。

 もうこの時点で色々と訳がわからない。

 だいたい、旅のお許しが出たのなら一人で行くかお供を連れれば良いだろうに。

 なんでド平民の俺をわざわざ待とうというのだ。

 そりゃ、確かにたいていの野獣は食われる前に狩り殺す自信はあるが。

 護衛としてはこれ以上ないというのも、自分で言うのもなんだが分かる。


 ところがリサさんの場合はだ。

 今はこちらを向かなくともいつかは振り向かせてみせると。

 そのためにわざわざ上司に訴えてまで、仕事を維持しつつ旅ができる身分に落ち着いた。


 地球にいた時からずっと、今回改めて思うが女は強いわ。

 こんな大事なことを1日で考えて結論を出せるとは。


 というかリサさんは理由が理由だから分かるにしても、ミシュリア様は俺が男だってことを考慮して、普通は同行しない決断をするもんだと思う。

 万が一俺が狼になった場合、容赦なく逸物をちょん切れるだけの剣の腕に自信があるということなのかもしれないが。



 なんにせよ、仲間がいるというのはどこでも心強いものだ。

 とりあえずはそこだけ考えて、ポジティブに旅に臨むとしよう。

ようやっと、タイトルの意味を回収したぞ!!

ここまで来るのに2週間...... Σ(゜д゜;)ドヒャー

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